第73話 一回戦第十一試合・第十二試合
──魔女とは、忌み嫌われし存在だ。
だからこそ警戒し、捕縛する必要がある。
現在はスティア王国、レジェンダ帝国、ソロミア皇国、カルト法国の四国に魔女が捕らえられているのだ。
彼女はそのうちのカルト法国に捕らえられている魔女──呪いの魔女、カース・マジック。
『それでは一回戦第十一試合を行います、選手は入場して下さい!』
黒いドレスを纏った女が入場してくる。
彼女の顔にはいくつもの古傷があり、痛めつけられた過去があるのだろう。
当然だ、魔女なのだから。
差別されて当然の種族であり、人として認められていない。
だから彼女達は──人間を憎む。
『それでは一回戦第十一試合、試合開始!』
「『電閃爆光』──ッ!」
魔女相手には一切の妥協をしてはならない。
だからこそエレクト・ブラウンは自身の持つ最大火力を一瞬で放った。
だからこそ、敗北の道を歩んでしまう。
彼女の『呪い』を侮ってしまうことが、彼女との戦いで一番してはいけないことだ。
「『呪縛』」
カース・マジックは悪魔だ。
正確に言えば、元々は人間の見た目をしながら、悪魔の性質を持ち合わせていた人魔という種族だった。
悪魔にはそれぞれ『種族特権』があり、人魔も生まれながらにして所持している。
エレクト・ブラウンはカースの持つ『種族特権』に引っかかってしまった。
彼女の『種族特権』は──
「──ガハッ!?」
「拘束⋯⋯させてもらう」
彼女の『種族特権』は『呪縛』だ。
自身の持つ魔力を『種族特権』に流し込み、この戦いにおいて禁止行為をした者を縛りあげる。
その禁止行為が最大火力を放つこと。
エレクト・ブラウンは試合開始早々に禁止行為を犯したのだ。
「『呪魔』──『転呪転々』」
エレクトの体に極小の呪玉を放つ。
その呪玉がエレクトに触れた瞬間、縛りから逃れようともがいていたエレクトの体が硬直する。
その瞬間──エレクトの四肢が、曲がってはならない方向に曲がってしまった。
グシャ、という音と共に四肢が崩れ落ちる。
呪玉がエレクトの体中に引っ付いており、段々とエレクトの体が腐っていく。
会場にいる人間の殆どが、その光景に目を背けた。
「ぅ、ぁ⋯⋯!?」
「腐食⋯⋯あの魔導剣士より、高性能⋯⋯」
魔導剣士──エルナ・グリーンドラゴンの『腐食』よりも高い火力と効果を誇る。
カースはエルナと面識がある訳ではないが、知識として知っているのみ。
「緑髪に陽陰模様の眼に金銀空の眼⋯⋯彼を呪いたい⋯⋯」
彼女は独り言を呟く。
戦いの途中であるというのに、他人を呪おうとする姿勢は、まさに狂気に犯されているのだろう。
「ぁ⋯⋯ご、ブッ⋯⋯」
「もう終わり⋯⋯呪いも、腐りも、あなたから去った⋯⋯だからもう一度、殺す」
完全に絶命しているエレクトに向けて、手をかざす。
不死場ごと破壊し、エレクトの蘇生を阻止しようとしているのだ。
だが、魔女にそんな行為が許される筈もなく──
「『断罪』」
白金の剣が、魔女の胸を貫いた。
手に溜めていた魔力が爆散し、試合場に黒い魔力雨が降る。
カースは振り向き、その男の名を呼んだ。
「コルト・ピカード⋯⋯乱入が許されるのか?」
「『対魔女特権』だゴミクズ、その行為の方が許されねぇよ」
「人間なら何をしても許されるのか?」
「そうだ。そして魔女は何をしても許されない」
カルト法国は神を崇め、魔を見下す国だ。
魔女や魔物を虐げる国としても有名であり、とにかく魔を嫌い人や神を好む。
正義と悪を決めつけ、『断罪』の名の元に悪を処罰する。
そして今の悪はカース・マジック。
『断罪』を行うコルトはまさに、神秘的と表現する他ないだろう。
「一旦死んどけ屑、次の試合までな」
白金の剣が光を放ち、内側から魔女の汚染された魔力を浄化していく。
魔女は呻き、叫び、発狂した。
あまりにも悽惨な様子に、一般人も叫び出す。
このような行いを平然と行えるコルトが酷いのか、それとも簡単に人の命を脅かせることが可能なカースの行為が酷いのか。
人によってその意見が別れるだろうが⋯⋯結局、どちらも酷いことをしているのは違いない。
だがそれが正義だと決めつける法国も、悪いと理解すらしない魔女も、気づくことは無いだろう。
「この魔女の次の試合が始まるまで封印しておけ、この魔女は確かに使える」
四国が魔女達の大会参戦を許可した理由は一つ。
その国の武器となりえるかどうか。
スティア王国は反対し、レジェンダ帝国は警戒し、ソロミア皇国は無理矢理にでも参戦計画を進め、カルト法国は何も思わない。
四国様々な反応をし、結局は参戦を許可してしまった。
そして各国の代表者が大会に出場し、『対魔女特権』を獲得している。
スティア王国はクライアが、レジェンダ帝国はグラウフワン・サンウィンドとノーター・ワンドライブが、ソロミア皇国はアーシル・リーバルブが、カルト法国はコルト・ピカードが選出されている。
レジェンダ帝国から二人が選出されているのは、認知されている魔女の中で最も危険だからだ。
「カース・マジックの勝ちでいい、エレクト・ブラウンは完全に絶命している」
『は、はい⋯⋯一回戦第十一試合勝者、カース・マジック選手です。第十二試合選手は入場して下さい』
救護班がエレクト・ブラウンの四肢を拾い、胴体を担架に乗せて運ぶ。
コルトが胸に穴の空いたカースを引き摺り、救護班に投げる。
ここまで乱雑な扱い方をするのは強者たるコルトの特権だろうか、それとも法国に生まれたからか。
コルトが暗い廊下を歩いていると、黒いドレスを纏った女がコルトの前に現れる。
「お前だけは殺す」
「やってみろ屑」
お互い一言、それだけを交わして去っていく。
魔女達に仲間意識なんてない。
だが、コルトの魔を見下すその姿勢が気に入らないだけ。
彼女──ホーン・マジックは、コルト・ピカードを殺す為だけに存在している。
『一回戦第第十二試合、試合開始!』
「『棘の道』」
「『華やかなる彩拳』」
銀一色の棘がチェーンキーを襲うが、その全てを破壊する。
彩やかで長い紐を拳に纏わせ、バキバキと棘を砕く。
ホーンは自身の背後に無数の棘を浮かばせ、チェーンキーに指を向けた。
「棘に刺されて死ね」
その言葉が合図となり、無数の棘があらゆる方向に飛び交った。
やがてチェーンキーを包囲するような陣形に変化し、ホーンの指示で一斉発射される状況。
チェーンキーは──ホーンに向かって一直線に走った。
そのまま長い紐を投擲するが、棘に弾かれる。
ホーンはあまりにも無理矢理な突破策にため息をついた──瞬間、目を開き、チェーンキーに向かって堂々と手を広げた。
「『刺殺銀棘』」
全棘がチェーンキーに向かって放たれた。
頭上から、横から、そして地の中から。
360度あらゆる方向から棘が接近してくる。
チェーンキーは──紐を纏った。
銀の棘が貫通しないような、硬い紐を纏ったのだ。
「──ッ!?」
「その棘、私に届かないようだけど?」
「舐めるなよ小娘──『刺殺貫通棘』」
長い紐を纏ったチェーンキーに一本の棘を放った。
──チェーンキーは二つの武器を扱う。
その一つが紐、もう一つが──
「『鎖錠の守護』」
鎖である。
彼女は武闘士でありながら、長物を好むのだ。
だが、勿論投擲するだけではない。
拳や足に纏わせ、攻撃力を上げる。
更に自由自在に操作することができ、思い通りに曲げたり防御や攻撃ができるのだ。
「『鎖紐』──『鎖縛紐切』」
ホーンを縛るように鎖を放ち、鉄のように硬い紐でホーンを切断しようとする。
だが仮にもホーンは魔女、その程度の攻撃では動じることはない。
「『針山刺激』」
ホーンの周りに針山を造り上げ、攻撃を阻止する。
そして攻撃を受けた瞬間、針山の針が一斉射出され、チェーンキーに襲いかかっていく。
両手が塞がれているチェーンキーは絶体絶命だ。
数えるのが途方もない程の量の針が襲ってきているのだ、無傷で足だけで抑えるなんて不可能だろう。
「こん⋯⋯のォ!!」
チェーンキーは全力で跳躍し、針を回避する。
立ち向かわず逃げる選択をするのはチェーンキーにしては珍しく、ホーンは驚く。
針山を越える程の跳躍を見せ、ホーンははっきりとチェーンキーを視認できた。
そう、はっきりと視認されてしまったのだ。
ホーンの特殊魔力として、目標がはっきりと見えなくなる。
だから大量の魔力を使って棘を沢山生み出しているのだ。
この特殊魔力はデメリットだけではない。
目標のピントが合った瞬間、身体に電流が走ったような衝撃を受け、覚醒する。
ホーンは邪悪に嗤い、人差し指を向けた。
「──死ね!!」
チェーンキーの動きが固まる。
終わった、と感じた。
彼女が嗤ったからだ。
彼女が叫んだからだ。
そしてチェーンキーは──空中で鈍い音を鳴らす。
体の関節全てが折れ曲がり、虚ろな目をしている。
すると、落下中に体から無数の針が飛び出した。
グシャリ、という音と共にチェーンキーの内臓が飛び散る。
「終わりよ、チェーンキー・リボンシール──死ね」
その瞬間、チェーンキーの体が浮き上がり──地面から突如現れた針山に貫かれる。
針山の頂点には全ての関節が折れ、体内が殆ど空の状態で、針に突き刺さり惨い姿となってしまったチェーンキー・リボンシールがいた。
これが人間に対する魔女の戦い方。
これが人間を憎む魔女の怒り。
人間達はこの瞬間、気づいた。
自分達は、怒らせてはならない物を怒らせてしまったと。
虐げていた側が、虐げられる側になってしまうと、人間の直感と本能がそう叫んだ。
絶対的な恐怖、暴力、魔法。
だが、どの魔女も最終的な目的は一つ。
最初の魔女を殺すこと。
この魔女のせいで虐げられてきたのだから、当然の目的だ。
ホーンが最後の最後にチェーンキーに棘を刺そうとすると──
「止まれ魔女、それ以上は許さない」
魔女の首に手刀を添えていたクライアがいた。
ホーンはスティア王国で捕らえられており、その監視役はレインボードラゴンの当主達、今大会はクライアが担当することとなったのだ。
「⋯⋯お前には勝てなさそうだ」
「当然だ、俺がこの世界で一番強い」
魔女とクライアが視線を交差させる。
やがて魔女は諦めたように、入退場門に向かって歩き出した。
クライアは実況に視線を送ってから、ホーンを追いかける。
『い、一回戦第十二試合勝者、ホーン・マジック選手!』
──魔女達の怒りはまだ、収まらない。




