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第71話 一回戦第七試合・第八試合

『それでは一回戦第七試合が始まりますので、選手は入場して下さい!』


「相手は八剣士の序列二位……頑張るぞ!」


先に入場したアルプは、試合場の真ん中で堂々と口にする。

彼女はこの相手に勝てるとは思っていない。

ただ、自身の力を試す為に今ここにいる。

強者相手にどれ程自分が通じるか、それだけにこの大会の価値を感じているのだ。


「来たね……謎に包まれた仮面の剣士──ミステリアス・シャイン」


ミステリアス・シャインについては何も探ることができない。

確実に分かるのは──仮面を着用していること、そして光を扱うこと。

剣術の腕は八剣士序列二位という地位がある限り確かであるのだが、その肝心な剣術を見た者があまりにも少なすぎる。

情報もまともに集められず、対策しようにもどのように光を扱うのかが分かっていない。

アルプは初見の相手にどう対応できるかの力が試されるのだ。


『それでは一回戦第七試合、試合開始!』


「『紫龍砲初撃』──ッ!」


アルプはまず様子見として、紫龍を扱い砲撃を行う。

アルプの紫龍砲撃は砲撃を行うごとに威力が上昇するのだが、初撃の威力も最大まで魔力をつぎ込めば、兵団一つを簡単に吹き飛ばせる程の威力がある。

対軍団用魔法を簡易化し、対人用魔法に変えたのだ。

これは約三年前にガルが用いた『武破氷雪』の範囲を狭めたことからアイデアを得て、自分のモノにした。

紛れもないアルプの才能であり、とてつもない努力の積み重ねをしたのだろう。

ただ──仮面の男には届かなかった。


「『光移動』」


砲撃を全て躱され、接近される。

超近距離魔法も持ち合わせているのだが、仮面の男の速度は尋常ではない。

アルプの魔法発動速度よりも、仮面の男の斬撃が速いのは必然であり、当然であったのだ。


「『光流剣術・小手胴』」


右手に持った刀を抜刀し、一瞬で両手を斬り落とす。

そして光を帯びた左手刀でアルプの腰を狙い、斬る。

まさに神技、これが仮面の男の剣術。

だが、アルプは引き分けを狙い、死に物狂いで意識を繋ぎ、魔法を仮面の男目掛けて撃つ。

最初の砲撃に紛れて、アルプは観客席結界に魔力砲撃陣を敷き、仮面の男をいつでも撃ち抜けるようにしていた。


「『砲撃陣形成・紫滅の閃雷』」


結界に設置されたアルプの魔法が牙を剥く。

ありとあらゆる方向から紫色の雷が仮面の男を狙い、その命を絶たんとする。

黒に輝く美しい刀が白い光を放ち、雷に近づく。

仮面の男はまず手足を使った。

白光する刀を鞘にしまい、自身の四肢を光と変え、雷を撃ち落としていく。

だがアルプの全魔力を投入したのもあり、尋常ではない数が仮面の男を襲い続ける。

仮面の男は一瞬止まり、白光刀を鞘から抜き出す。

そして紫雷を一気に全弾撃ち落とそうと、刀を振るう。


「『光流剣術奥義・雷光白滅』」


会場が白く染まり、いつの間にか紫雷が全て消滅しており、その場には白い鞘だけが光を放っていた。

仮面の男はアルプを一瞥し、そのまま会場を去ろうとする。


『一回戦第七試合勝者、ミステリアス・シャイン選手!』


入退場門の長い廊下は暗く、不安を煽る。

だが今は白い光が希望をもたらしており、コツコツと仮面の男が足音を鳴らす。

そして、光を使い移動しようとした瞬間──目の前に、緑色の髪をした男が現れる。


「──よお、シャイン」

「……何か用が?」

「用、か……お前はやっぱり変わらない。な、光?」

「ブライア・グリーンドラゴン……何故?」

「あの剣を見たら分かる、俺がお前の太刀を見間違えると思っているのか?」


緑髪の男──ブライアは問う。

いや、確定させた。

名前の時点で怪しいと思っていたが、やはりだった。

ミステリアス・シャインは前世の友人、剣光(つるぎひかる)だと。

親友の五人の特徴を見間違える筈が無い、光もその内の一人なのだ。


「そうだぞ光、さっさと仮面取れよ」

「時雨……何故お前も?」

「お前、忘れているのか?ブライアが俺の隠れ家(みせ)に来た時、お前は俺のところに来ただろ」

「……ハッ、やはりお前らは面白い」


そう言うと仮面の男──剣光は仮面を取り外す。

左目に二本の縦線、右目に二本の縦線、右眉の上に二本の横線、右頬に四つ、左頬に二つの切り傷がある。

剣光の特徴を確実に捉えてある、間違いない。


「……十五年ぶりだな、光」

「お前が死んでからもう十五年……いや、俺は違う。俺の時間では大体二百年だ」

「どういうことだ?」

「他の奴らは知らないが、俺だけ違う時間に飛ばされた。今から約二百年前にな」

「時間転移遡行……俺でもできない芸当だ」

「俺は転生、時雨は俺と同じ時間に転移、光は時間を越えて転移……残りの三人も、来る方法は別だったりするのか?」

「それは分からないが……今は俺の記憶を探るのが先じゃないのか?」

「そうだな……時雨、『時間』で見てくれないか?」

「はいよ、じゃあ光君はこっちに来て膝枕されてね」

「斬るぞ、お前」

「──っと、次の選手が来るみたいだし、別の場所でやるぞ。光、時雨、喧嘩を止めてさっさと行くぞ」

「「ここで決着を着けてからだ!」」

「お前らの関係本当に面倒だ……他人の迷惑を考えろアホ共」

「「邪魔をするな!」」

「うるせえ!移動するぞ!」


ブライアは光と時雨を引き連れ、別の場所で光の記憶を探るのだった。



『それでは一回戦第八試合が始まります!選手は入場して下さい!』


「さっきの人達……何してたんだろ?この感じを共有したいなぁ……」

「共有の魔導士……相手にとって不足無し、ね」


『それでは、試合開始!』


「えっと……八魔導士、だっけ?私に勝てるの?」

「当たり前よ──『愛と魅惑の大宴祭』」


ハートリア・フェストルの魔法は至って単純。

愛と宴を司る。

精神攻撃や人体干渉を得意としており、この魔法にかけられてしまえば最後、楽しい宴から逃げられなくなってしまい、精神衰弱を引き起こしてしまう。

そしてショコラミアは──わざと引っかかった。

何故か?それは──


「──『精神感覚共有』『肉体感覚共有』」


ショコラミアは『共有』の魔導士だ。

『共有』自体は弱く、使い所も限られている。

だがシガレット一族が使えばどうなるか?

──『共有』は超強力な魔法となる。


「な、ガァッ──!?」

「どう……肉体を滅茶苦茶に傷つけられた感覚は?」


ショコラミアが戦う時の常套手段は傷つけられた肉体の感覚を共有させ、想像を絶する程の苦痛によって降参を強制させる。

ショコラミア自身にも他人を殺害させる力は無いが、ショコラミアは他のシガレット一族の者とは違う特異体質を所持しているのだ。


「『自傷死不可』と『自傷感覚無効』……私にはこれがあるから私は自傷を躊躇いなくできる……」

「グァ──ッ!痛い──ッ!?」


『自傷感覚無効』はショコラミア自身にしか作用しないが、『自傷死無効』は魔女の呪いによって『共有』相手にも作用してしまう。

このせいでショコラミアの性格が歪んでしまったのに加えて、本人に歪んだ性格の自覚が無いのもタチが悪い。


「さっさと降参しなよ……永遠に苦しむよ?」

「『愛……を抱き、し……宴は今、ここにある……人々は今、恋の知識を……得る!』──詠唱完成『恋と愛の大宴』──広がれ、禁忌の愛!」


ハートリア・フェストルはこの世で最も恋愛の知識がある。

どのような人物と人物が結び付くか、赤い糸で結ばれた運命の人はいつ現れるのか、恋愛に関してはどんな占い師よりも的中させる能力を持った魔導士だ。

それ故に、恋愛を知りすぎてしまったのである。

初恋の味も、愛し合う関係も、見えすぎてしまっている為、興味と面白味が欠けてしまった。

だから彼女は禁忌に手を出した。

禁じられし者共が愛し合う関係に、彼女は興味を持ってしまった。

そして彼女は──決まった運命に抗える魔法を手にした。


「『私は決まりし運命に抗う天女、恋を実らせ愛を知る魔女なり』──超簡易詠唱認証。禁忌解放準備成功──魔女化準備成功──新たなる魔本の展開成功──運命設定完了。天魔法取得準備──」

「…………あれ、ヤバくない?『共有』でも止められないじゃん……」


ハートリア・フェストルは世界の根本に干渉し始めた。

禁忌に興味を持ったが最後、世界の一つになることが決まってしまう。

だが、彼女は運命に抗う天女に成ろうとしている。

それと同時に、魔女にもなろうとしている。

天使と悪魔を同時に取り込んだような容姿に進化していくハートリアを目にして、危機を感じるショコラミア。

だが既に、動き始めている者がいる。


「『時間停止』」


時が止まった。

世界を超越しようとしたハートリアも、『時間停止』の運命に抗うには時間がかかる。

いや、意識を保てているだけ良い方だ。

彼の『時間停止』は、涼岡時雨(・・・・)よりも優れているのだから。


「──死ね」


ジジジ、と音を立てながら性別不明の者が現れる。

そのまま覚醒寸前のハートリアに触れ──絶命させようとする瞬間。

爪が、『時間停止』の元凶を襲った。


『貴様──何をしている?』

「何……お前こそ、何故動けている?」

『貴様はこの世の全てを知っているのだろう?なら、それこそ分かるだろう』

「『輪廻』──ヘルス、今ここにいるお前は実体では無いな?」

『仮想体だ……もう一度問う、何をしようとした──レジェンド・オーブ──ッ!!』


暗黒のフードを取り、顔を見せる。

そこには金髪金眼──いや、左目が真っ黒に染まったレジェンド・オーブがいた。


『何故その女を殺す?』

「世界の為と、兄上との約定を守る為に」

「お前はいつも兄上兄上と、あのクソ野郎に何の執着がある?」


ヘルスとレジェンドの会話に割って入った桃髪の女が唐突に現れた。

ヘルスは驚愕し、レジェンドはやっぱりな、と納得した。


「やはりお前も動けるか──ソロミア」

「まずはそのうるさい獣をどうにかしろ。話はそれからだ」

『うるさいのは貴方でしょう、女皇ソロミア』

『そうね、一旦黙ったらどうかしら?』


ヘルスと同じく、実体の無い──仮想体の女性二人が新たに出現した。

その女性はヘルスと同じく、一人の男の中から荒業を使って『時間停止』に対抗したのである。

その者の名は──


「──聖龍ホーリーに……お前は誰だ?」

『全知全能オニシエント、オニシエント様とでも呼んだらどうかしら?』

「全知全能?あのクソ龍神が黙ってないのじゃないかしら、ホーリー?」

『知らないわよ、この子は異次元で測定不可能の子なの。それよりも、あなたは何故『邪剣』と『邪眼』を解放したのかしら?』

「ここの全員纏めて潰す為よ、何か文句が?」

「うるさいぞソロミア、俺は世界の根本に干渉した女を殺す、話はそれからだ」

『そうはさせないと言っているだろう、レジェンド!』


会話が一切成立しない。

ここに少しでも纏める役がいれば話は変わっていたのだが──そんな便利な者がいる訳もなく、必然的に武力行使となってしまう。

そうなると不利なのは、仮想体のヘルスとホーリー、オニシエントだ。

無理矢理実体を持ってくることもできるが、あまり無茶苦茶してしまうとブライアの体が持たない。

今も止まったままのブライアの肉体と精神を無理に使用して実体を持ってくるのは、かなり危険なのだ。

だが──代わりに、彼が動いた。


「『無天無双』──ッ!」


彼が神より授かった力を行使する。

全員が回避に徹したが、仮想体は半身を飛ばされ、レジェンドとソロミアは行動不可の大怪我を負ってしまった。

彼が本気であったのならば、全員が有無を言わさず死んでいただろう。

だが今は時を動かさないといけない。

彼はそれを理解して、わざと手加減したのだ。

手加減してもこの威力なのは、『無天無双』があまりにも優れているからだろう。


「『無天無双』の名において命ずる──レジェンド・オーブは禁忌の処理を、後の者は今すぐ治療をして元の位置に戻れ。さもなくば、命が無いと思え。肉体や精神は勿論、魂ごと永遠の地獄に堕ちることをここに約束してやる」


彼がブライアの前で決して見せない面を、今解放させた。

絶対強制──どんな事象であろうと、どんな運命であろうと、どんな終焉であろうと、彼に『無天無双』が存在する限り、その全てを覆す。

この世の天の頂きに達するのは一人のみ、その上で無双を繰り返す──それが『無天無双』の真実。

彼以外の頂点を認めない、それが無天。

彼以外の勝利を許さない、それが無双。

この場にいた者達は一言も発すること無く、自身のやるべきことをやり遂げてからこの場を去った。


「禁忌よ……二度と手を出そうとするな」


彼は愛の魔女のなりかけに、権威を振るってから時を動かさせた。

魔女のなりかけは──突如として血を吐き、倒れ伏した。

禁忌の代償、当然の帰結。

手にする力が大きければ、払わなければならない代償も当然大きい。

彼女は禁忌に手を出した代償として──死を持ってして償ったのであった。


『な、え……あ、と、一体どういうことなのでしょうか!?ハートリア・フェストル選手が突如血を吐きながら倒れました!これは一体──!?』


「…………まさか、死んだ?何で、どうして?」


ショコラミアは目の前で人が死んだ光景を見て、体を動かせなくなっていた。

別室に移動したブライア達も、ネルの介護をしていたファルドも、控え室にいた選手も、試合を見ていた観客も、来賓として呼ばれた各国のトップも、真実を知る者以外全てが目を点にした。

この瞬間──不死場でありながら死亡を達成した魔導士の存在が、歴史に名を残すこととなったのである。

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