第67話 大会前夜
「イラン・リーバルブの情報が無い……」
学校の普通図書館に詳しい情報は載っていない。
彼は八剣士の序列一位なのに、どれだけ探しても情報が無い、なんてことはあるのだろうか。
奥の方も探してみよう。
「次はこっちの本で──」
「──ブライア、何やってるんだ?」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、シュヴァルツが後ろに立っていた。
何でここにいるか分からないが、とりあえず答えておこう。
「イラン・リーバルブの情報が無いか探しているんだ。今日予選終わった後、いきなり忠告してきたからな」
「イラン・リーバルブ……見かけたことはあるな」
「え、どこで?」
「俺は冒険者なんてどうでもいいから資格だけ取って旅してんだけどさ……」
「冒険者ちゃんとやれよ」
「大会終わったらやるつもりだ」
やっぱりシュヴァルツはシュヴァルツだったか。
大会が終わってもどうせやらないんだろうな。
まあ今はイランについての話を聞くのが先だ。
「それは戦闘を見たってことか?」
「いや、どこかで見かけたんだ……どこだったかな……?」
やはりこいつは頼りにならない。
まあ頼んだ側の俺がそんな言葉を言えたもんじゃないのだが。
今は情報をかき集めないといけないのだ。
「あ、そうそうブライア、お前を呼びに来たんだ」
「何だ?戦いなら断るぞ」
「大会前に誘う訳がないだろ……俺たち六人のレインボードラゴンが全員予選を突破したから、パーティーを開くんだけど……来るか?」
「んーそうだな……ちなみに何時から?」
「お前の返答次第。他の皆は参加するって俺の部屋に全員集まってる。後はお前だけだ」
断りづらい雰囲気だ……。
昔でも用事があった時はこんな感じだったな。
まあ皆がいるなら俺も、って着いていってたし……って、明日は大会本番なんだ。
パーティーなんかして情報が集められないなんてことになったら……とんでもないことになる。
でも断るにしてもどうやって断ろうか。
《明日の大会のイラン・リーバルブの情報収集なら任せて下さい》
《この聖龍だっているのだから、安心しなさい。いざとなれば技でもなんでも貸してあげるわ》
《我が体毛を完全にに斬断したのはお前だけだ、そのような剣士など、我が体毛を貸せばどうということは無いだろう》
……と、頼りになる三人組が中から返答してきた。
オニシエントは『全知全能』で、ホーリーさんは『聖龍』という種族でありながら古い時代を生きてきて、ヘルスは俺と本気の死闘を繰り広げた相手だ。
俺は信用するしかない。
いや、この三人を信用するしかなかった。
俺がどれだけ調べてもイラン・リーバルブについては何も分からなかった、これが事実なのだ。
三人寄れば文殊の知恵、とも言うし、任せよう。
「分かった、皆がいるなら俺も参加するよ。今から向かう」
「じゃあ行くぞー!」
久しぶりのパーティーだ、思い切り楽しもう。
──スティア王城にて
「クライア、緊張しているのか?」
「……いや、違う。どれだけの強者と戦えるのかが楽しみなんだ。いわゆる武者震いってやつか?」
「そうか……確かに今大会は強者が揃っている。お前の息子もな」
「あいつは俺が思う以上に異常だからさ……」
クライアとユーザルトはそんな言葉を交わしながら、ワインを飲む。
窓から差し込む月光が二人を輝かせ、神秘的な雰囲気を漂わせる。
幼い頃から仲が良かった二人だが、こうして二人で語り合うというのは久しぶりだ。
「『無天無双』を使うのか?」
「使わざるを得ない状況になったら、な。使うとしても、ブライアかあの聖剣野郎だけだ」
「それなら、本気の『無天無双』は使うのか?」
「……状況次第だ。今まで敗北必至の状態をひっくり返してきたのはこの『無天無双』だけ、今回もそんな状況が出来たら使うだろうな」
『無天無双』について心配し、語るのも久しぶりになるだろう。
クライアの所持している『無天無双』はこの世界の異次元な存在だ。
有り得ぬ程の窮地を救い、クライアを強者たらしめる要因の一つでもある。
完全に解放すれば、どんな能力も、特異体質も、加護も、恩恵も上回るこの世で最強の異能となってしまうのだ。
壮絶な人生を死せず乗り越えたのも、『無天無双』のお陰なのである。
「『無天無双』の使い過ぎには注意しろよ」
「昔みたいなことはしないさ……俺も大人だ、子供が成長するまでは生きるつもりだ」
「なら、ソロミア皇国との戦争は絶対回避だな」
「当たり前だ、真面目にやり合っても五分五分なのだからな」
ソロミア皇国は世界一恐ろしい国だ。
レジェンダ帝国のような治安の悪さもあり、それでいて戦争ばかりをする。
スティア王国を滅ぼす為だけに、だ。
「御先祖様の喧嘩を持ち越しするなよな……」
「本当に何故この国がまだあるのかと思うぞ……」
お互い、初代国王にはあまり良い感情を抱いていない。
それどころか、面倒事を押し付けるなと叫びたい程だ。
「……ユーザルト、俺は優勝する」
「いきなりどうした?決意表明か?」
「そんなところだ。だからユーザルト、見ていてくれ。お前が一番近い所で俺を見ていてくれた。だからその恩返しみたいなもんだ」
「……そうか、唐突に言われると照れるな」
「お前が照れても需要無いだろ」
「もう一度言ってみろ、クライア」
「需要無し、文句があれば俺に勝って証明しろよ」
「さっきの発言は何だったのだ……!」
子供のように喚きながらも、二人の間には確かに笑顔があり、絆があり、友情があった。
──大会の出店の近くの高台にて
「ほら、買ってきましたよ、先輩」
「ああ、助かる。すまなかったな、ついでで頼んでしまって」
「さっき会ったんですからいいんですよ、一応貴族ということで勝手に割り引きされましたし……」
「そ、そうだったのか……」
ネルがファルドにかき氷のようなものを渡す。
世界中の人々が集まるということで、夜も賑わっているのだ。
「明日の一回戦、当たりますね」
「そうだな……俺は楽しみだ」
「奇遇ですね、私も楽しみですよ。ファルド先輩がどれだけ強くなったのか、戦って感じたいです」
明日の一回戦、この二人は戦いをすることになる。
だが不思議とピリピリした雰囲気ではなく、柔らかい雰囲気となっているのだ。
お互いが強者であり、認め合っている故だろう。
「……厄災を使うんですか?」
「いいや、今回は俺だけの力で戦う。アイツにはもう頼ってはいられない、自立していかないといけない」
「ファルド先輩が良いのなら私は何も言いませんが……」
「何だ、アーガイルの力を使って欲しかったのか?」
「いえ、私相手に本気になれないのかな、と思いまして……ただの私情です、気にしないで下さい」
ネルはファルドに憧れている。
厄災という世間からは非難されるような爆弾を抱えながらも、必死に戦っている姿がファルドの良い所なのだと、自分でも認めているのだ。
ファルドは全てを見透かしたように、ネルに笑う。
「そんなことないさ。元々の俺の本気をぶつけてお前と戦うのだからな」
「それならいいのです、私はそれが聞けたのなら満足です」
かき氷を食べ終わったネルは高台から降りようとする。
祭りに似合うような浴衣では無く、動きやすい黄色の戦闘衣の袖を揺らしながら、階段の方へ歩いていく。
その後ろからファルドが声をかける。
「明日、お前と本気で戦えること、楽しみにしているぞ!」
「さっき言ったじゃないですか……私もですよ!」
ネルは振り返ってボソッとそう言いながら、階段を駆け下りていく。
ファルドはネルの姿が見えなくなった後、地面に座り、今打ち上がった花火を見上げるのだった。
──大会の本戦に出る者は皆、何かしらの思惑はある。
戦いを楽しむ者、自身の実力を試す者、情報を集める者……どんな思惑であれ、否定なんてできない。
強者こそが全てであり、絶対だ。
誰がどのような感情を抱いていようと、それを否定しようと肯定しようと、敗北をしてしまえば何も出来ぬまま。
故に彼等彼女等は戦い続ける。
過去最大の激闘と歴史がこの大会で、生まれるのだ。
──翌日、一回戦第一試合前
『さあさあ昨日の予選を終え、今日、もしくは長引いてしまったのなら明日、新たな王者が決定致します!新たな歴史の1ページを刻むこととなるでしょう!』
実況の大きな声が会場全体に響き渡る。
観客席はザワザワと声がある中、堂々と選手が入場する。
『一回戦第一試合、バーグル・レッドドラゴン選手VSセイ・シンガート選手です!それでは、試合開始──ッ!』




