第65話 予選【前編】
今日この日、世界大会の予選だ。
予選はそれぞれ、三十二の会場で前半後半に別れて行われる。
三十二もの会場があるのかと少し驚いたが、世界一大きな国のスティア王国で開催されているのだ、納得した。
俺は後半だから時間がまだある。
中にいる奴らと喋っておくか。
(起きてるか?)
《勿論です、ブライア様。今日は頑張って下さい》
《我が能力も存分に振るってくれて構わない。少年が勝利さえすれば良い》
《今までの特訓の成果を出す時よ、ブライア》
三者三様の答えが返ってきた。
──ん?今、誰か増えていなかったか?
《どうしたの、ブライア?》
この声は──ホーリーさん!?
どうして俺の中に……?
《あら、あなたが中に入ったら、と言ったのよ?》
……あれ、俺そんなこと言っていたか?
オニシエント、ヘルス、俺本当に言ったのか?
《言っていましたよ》
《……言っていたが》
そ、それならいいんだけど……。
本当に俺が言ったのか……?
まあこの二人が言うなら間違ってはいないんだろうけど……俺の記憶が一切無いんだよな。
っと、そろそろ時間だ、会場に向かおう。
──予選二十六ブロック兼五十八ブロック会場にて
本選会場よりも小さいが、普通の大会なら戦うにしては十分な広さの会場だ。
控え室は会場の外にあり、十人で使う部屋が百室用意されている。
俺は来る時間がかなり遅かったから部屋に行っても誰もいなかったが、本当なら六、七人はいる筈だった。
まあ試合前のピリピリした空気感は苦手だから、誰もいない方が過ごしやすい。
今かなりの人数は会場にいるだろうし、俺もそろそろ向かおう。
「──あらブライア、まだ行ってなかったの」
「あれ、母さんもまだだったんですか?」
「少しのんびりしたくてね、すぐそこまで行きましょうか」
母さんの戦闘服は見たことがなかったが、緑龍家の正装とあまり変わらない。
変わるのはマントは片方の肩ではなく、両方の肩にマントがかけられている。
ちなみに、俺は学校の制服で大会に出ることにした。
やはりこれが一番着慣れているし、動きやすい。
戦闘では着飾るよりも、性能を重視した方が勝つのだ。
「もうそろそろね、ブライア」
「この試合は僕が勝ちますよ、覚悟をしておいて下さい」
「言うようになったじゃない。なら、見せてもらうわ」
母さんが先に会場に入る。
マントを揺らし、会場に入ると、大きな歓声が湧き上がった。
流石は世界でも有名な魔導士だ、俺も親父じゃなくて母さんみたいになりたい。
っと、そろそろ会場に入らないと。
『──五十八ブロックの選手が全員揃いました、一分後、試合を開始します』
一分、これは試合の準備をする時間だ。
俺が準備するのは、九つの属性玉。
本戦が控えている為、予選で本気を出す訳にはいかない。
かといって予選で負ける訳にはいかないのだが。
そして相手は母さん、魔導士だ。
魔導士相手に属性で挑むのは中々無謀な挑戦だが、俺は勝利してみせる。
──そろそろ一分経つ頃だろう。
『──それでは、試合開始──ッ!』
開始の合図が出た瞬間、一斉に武器を振り上げる。
だがその瞬間、時が止まる──いや、全員がとんでもない気配に凍りついた。
動けるのは俺だけだろう。
「──『風獄・嵐風砂塵』」
大きな嵐が巻き起こり、俺以外の全ての出場者が空へ舞い上がった。
俺はすぐさま『風天玉』を使用し、嵐に対抗する。
こんな芸当が出来るのは──母さんだけだ。
「あなただけは耐えたのね、ブライア」
「最初から飛ばすじゃないですか、魔力は持つんですか?」
「魔導士の私が魔力切れなんて起こす訳ないでしょう──あなたが使っているのは属性玉、ね」
「……よく分かりましたね」
「当然よ、その程度のことが分からないと魔導士失格よ」
母さんには全てお見通しだったようだ。
まあ隠す必要性も無かったし、後からバレるだろうと思ってはいたが。
母さんが初めから飛ばすなら、俺もそれに答えなければならないだろう。
さっき使った風天以外の属性玉全てを使用し、魔力を必要とせずに属性術を完全に使用可能とする。
「僕も答えましょうか──『炎雷腕』」
右腕に炎を、左腕に雷を宿す。
ふぅ、と少し息を吐き、足に力を込める。
「──『光氷脚』」
母さんに向かって、物凄い速度で距離を詰める。
母さんの頬に拳を入れようとした瞬間、風の壁が母さんと俺の間に出現した。
俺が目を見開く中、母さんは無詠唱で魔法を放つ。
「『風魔降刃』」
頭上から風の刃が降りかかってくる。
命中する寸前、更に魔法を俺に向けて放った。
「『魔導神秘・風雷槍』」
上から降りかかる風の刃と共に、真正面から無数に出現した雷と風の槍が俺を襲う。
避けるのは簡単だが、ここで避けるのは面白くない。
俺の選択肢はただ一つ、全て打ち砕く。
「──『雷炎轟砲』『光華烈雪』──ッ!」
右手の炎と左手の雷を集結させ、真上に放つ。
巨大な光線は風の刃全てを燃やし尽くし、空に赤と黄金を散らした。
真正面から迫りくる槍は光り輝く華で防御し、その後ろから勢いよく放たれた猛吹雪で全てを凍てつかせる。
自分でも驚く程迅速な行動だったが、母さんは対して驚いていない。
むしろ、これくらい出来て当たり前という表情をしている。
すると母さんは杖を構え、少し踏み込んだ。
いきなり俺の横に出現し、杖を俺の頭目掛けて振るう。
まさかの杖の扱いに少し判断が遅れたが、速度でカバーする。
直接殴りかかってくるとは思いもしなかったが、次は反応できる筈だ。
「──やるじゃない、と言いたいところだけど、今判断が遅れたわね」
見事に見抜かれ、素晴らしいと言わざるを得ない。
だが、魔導士が杖で殴りかかってくるなんて思わないだろう。
と、心の中で言い訳をするが、声には出さない。
俺は母さんを見つめ、腰を低くする。
『聖白陽光武』はまだ出す訳にはいかない、なら俺が出せるのは何だ?
何かする、という構えだけしているが、実際には何も考えていない。
属性だけで戦おうにも、これだとかなり長い試合になる。
ならここで勝負を決めにいくしかない。
「『断罪』──発動」
俺から神々しい粒子が溢れ出す。
『断罪』は他の能力とは違い、発動状態というのがある。
オニシエント曰く、『隠し能力』というらしい。
オニシエントにしか感知出来ず、使用するには存在を認知していなければならないようだ。
「来い──『裁きを下す神なる剣』」
空間が開き、そこから純白に輝く剣が出現する。
『断罪』を発動している時にしか手に出来ない、というのは発動状態に至らなければならなかったようだ。
オニシエントがいなかったらこの剣の姿を拝むことはなかっただろう。
「……中々面白いことをするじゃない」
「余裕を保てるのも今だけですよ──『断切裁牙』」
一瞬で接近し、右手に持った剣を振りかぶる。
母さんは迎え撃とうとしているが、この時点で攻撃は決まっているのだ。
「──がハッ!?」
母さんが両腕から血を流す。
完全に切断したつもりだったのだが、攻撃が少し逸れたようだ。
次は無い、ここで勝負を終わらせる。
でなければ、この剣を保つことが出来なくなり、暴走してしまう。
「……もう終わらせます──『断切裁牙』」
さっきとは比にならない速度で攻撃を仕掛ける。
今度は下から上に斬撃を放つ。
──が、何か違和感がした。
何かあってはいけないと思いすぐその場から飛び退く。
「……やるようになったじゃない」
母さんは、『剣』を持っていた。
杖は、と思い辺りを見ると、母さんの足元で切断されて落ちている。
俺は杖を斬った感覚なんてしなかった。
一体、どういうことだ……?
「……剣は嫌いです。でもあなたに勝つ為なら──何だって受け入れましょう」
そう言うと、母さんの剣が禍々しい魔力によって染められていく。
困惑が止まらない。
母さんは八魔導士の一人だった筈だ。
なのに、剣を扱う?
この人が一体何なのか分からない。
剣が嫌い……元々は剣術を扱っていたのか?
「──『腐食剣・腐快閃』」
明らかに食らったらいけない斬撃が飛び交う。
地面に当たるとジュワッ、と音がしてその場所がブクブクと緑と茶が混じったような泡が出現した。
今も斬撃は俺の周りを飛び交っている。
今のを見なくてもどう考えても食らったらいけない斬撃の筈が、今のを見たせいで俺に余計な警戒心を与えた。
「私は全てを勝ち取ります。例えその後がどれだけ醜くても、どれだけ惨めでも、勝たなければいけないのです。勝つことが、私の全てです」
母さんはそう言うと、剣を振るい、俺の周りを飛ぶ斬撃が追加された。
剣が当たると消滅は出来るだろうが、腐食されてしまうだろう。
俺に影響を及ぼす可能性もある、安易にこの腐食された斬撃に触れることはできない。
だが、突破をするにはこの斬撃を消滅させなければならない。
突破口を見つけないと……!
──一方、観客席では
「エルナ・グリーンドラゴンは八魔導士の第四位筈だろう……!?どうして剣を扱っている!」
「一体、どういうことなんだ!?」
ザワザワと驚きと困惑が観客席を覆い尽くす。
ただ一人、エルナを見つめ、目を細める男がいた。
すると、一人の女がその男に近づく。
「……ベルか」
「あら、前みたいにベルちゃんって呼んでくれないの?」
「一度も呼んだことないぞ……」
ベル・デフレーション。
八魔導士の第一位であり、民間人の間では現代魔法使いの中で最強とされている。
実際、世に出ていない魔法の使い手──それこそクリーナ達を除いては、この世で最強になるだろう。
「予選が終わったからって、すぐにこっちに来たの?私も呼んでくださればよかったのに」
「……そういえば、お前も予選前半だったな」
「やけに不機嫌ですね、先程の発言を怒ってらっしゃる?」
「いや、別に……ただ、この予選に集中しているだけだ」
「ああ、あなたの息子と妻がいるのでしたっけ、それは気になるのも納得です」
彼──クライアの横に座り、足を組む。
ベルはクライアと同じく目を細め、二人を見定める。
「八魔導士の第四位が強いのは当然として……彼、かなりの強者と見込んだわ。あの子があなたの息子ね」
クライアは沈黙を保つ。
その沈黙を肯定と取り、ダークブルーの色をした目を水色に変える。
彼女の持つ特異体質──『分析眼』だ。
ただ、彼女はソロミア皇国出身の為、『分析眼』では無く『分析の加護』と呼んでいる。
ブライアが今使っている能力を『断罪』と知り、少し目を見開くが、すぐにエルナの方に視線を飛ばす。
魔導士だが剣を使っていることに違和感を覚え、徹底分析をする。
「……彼女、何かあったのかしら?」
「…………昔、な」
「あなたの口から話してくれれば嬉しいのだけど……どう?」
「……どうせ『分析の加護』を使うのだろう?」
「当たり前じゃない、でもあなたの口から話して欲しいの」
「……分かった、話そう」




