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第64話 大会前日

1年ぶりくらいにスティア王国に帰ってきた。

特訓を重ねて、世界最強になる為に帰ってきたのだ。

大会は明日から開催だ、今日は体を休めよう。

──と思ったのだが……。


「なあなあブライア、少し、少しだけでいいから戦おうぜ!」


シュヴァルツがしつこく戦闘に誘ってくるのだ。

こいつの少し、は3時間くらい付き合わされる。

こいつを相手に戦いをする方がバカだ。


「はぁ……あのなシュヴァルツ、明日は大会なんだぞ?お前は敵で、お前からすれば俺も敵だ。情報を簡単に吐くというようなものだぞ」

「お前には俺が何をしようが筒抜けだろ!分かったらさっさと戦え!」


こいつ、俺の『神魔眼』を感覚で理解しているのか?

事実、俺は戦闘をしなくても『分析・解析眼』がある為、能力や特異体質等の本人が所持している異能は見極められる。

現在のシュヴァルツも、やろうと思えばいくらでも出来る。

だが、それでは大会の面白さが減ってしまう。

シュヴァルツと対戦するのを楽しみにしているのに、こんなにしつこく誘われているのだ。

ま、俺はシュヴァルツの情報を簡単に見抜けるが、シュヴァルツにはそんな便利な能力を持っていない。

俺の情報をこいつに渡したくない、という理由もある。


「分かったブライア、こうしよう!」

「……何だ、俺は全部断るが──」

「──俺達の同期のレインボードラゴン、全員呼んでやる!それなら戦う気になるだろ!」


何と馬鹿な提案なのだろう。

俺達の同期……ガルはいないから、六人になってしまったのか。

俺とシュヴァルツを除いて残り四人。

そう簡単に来る筈がないだろう……。

それに、今は学校の寮の俺の部屋。

他の学校の奴らは実家に帰ったらしいし、アイツらもきっと──


「──うるさいわね、何?」


部屋で騒いでいたら誰かが扉を開けた。

──ノラス・イエロードラゴンである。

まさかいるとは思っていなく、驚きの顔が表情に出てしまっただろう。


「いいところに来た、ノラス!こいつを戦いに誘ってくれ!」

「馬鹿なこといってんじゃないわよ、阿呆。その間抜け面を見せないでくれるかしら」


中々厳しいことを言ったな……。

シュヴァルツはダメージが大きかったようで、部屋の隅でしゃがんでいる。

まあ、うるさかったのは事実だし、このまま静かにしてくれていたらいい。


「ありがとう、ノラス。お陰で助かったよ」

「助けたつもりなんてないわ。馬鹿がうるさかったから黙らせただけよ」

「そ、そうか……」


酷い言われようだ。

まあノラスは戦う気なんて無いようだし、安心だ。


「で、何で騒いでいたの?」

「あ、えっと……こいつが俺と戦うって……」

「ふーん……そりゃ馬鹿でも騒ぐわね」

「だろ!?そうだろ!?」

「喚くな脳無し。まあ確かにそうかもしれないわね」


何故ノラスもそちら側なのか分からない。

俺も戦いを好む側だとは自覚していたが、コイツらを見るとまだまだだと思ってしまう。

まあ別に戦いが嫌いという訳では無いが、俺はコイツらのようにはなりたくない。

俺なら四六時中戦うなんて疲れるだろうし、飽きてしまうだろう。


「まあ戦うのは止めなさい。今ブライアと戦うと、大会で当たった時の面白さが無くなってしまうわよ」

「それはダメだ!絶対ダメだ!ブライア、今の話は無かったことに!」

「俺は戦うなんて一言も言ってないぞ……」


ノラスが何とか説得してくれた。

俺の意思もしっかり汲み取ってくれていたようで、やはりノラスは気配りのできる人のようだ。

口には出さないだけで、実際はそうなのだろう。


「あなた達、予選の発表は見に行ったの?」

「……もう発表されているのか?」

「多くの大会は当日に発表されるのだけど、世界的な大会なのだから前日に発表されるのよ」


成程、そうだったのか。

なら今から見に行こう、シュヴァルツも見ていないようだし。


「シュヴァルツは行ってないようだけど、ノラスは行ったのか?」

「まだよ、今起きて行こうとしたら、うるさい声が聞こえてきたからここに来たの」

「なら一緒に行かないか?」

「別にいいわよ、行くところは一緒なのだし、知り合いといる方が楽しいだろうから」

「そうと決まれば出発だー!」


シュヴァルツが俺の後ろで飛び跳ね、ルンルンと俺の部屋を出ていった。

俺とノラスもシュヴァルツに着いていく。

予選の発表、楽しみだ。



──大会会場大広間にて

「着いたぞ!俺はどこなんだろうなー?」


シュヴァルツが真っ先に予選発表の看板に行き、その後ろで俺とノラスが看板を覗く。

看板はそれぞれ六十四個あり、それぞれの看板に千人ずつ名前が書かれている。

普通に探すのは大変だろうが、俺たちの苗字は特徴的だ、すぐ見つかるだろう。

シュヴァルツが一つ目の看板に名前が無いことに気づくと、すぐに次の看板を見に行く。

その光景に苦笑いするしかないが、俺も看板に名前があるか見ていく。

すると、後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、トーナとアルプがいた。

その後ろでは、いつの間にか俺の横から消えていたノラスと一人で来たであろうサイシュが話していた。


「ブライア君の名前、向こうにあったよ!」

「本当か?ありがとう!」


アルプが指を指した看板へ向かう。

その看板は予選五十八ブロックの看板であり、自分の名前を探す。

グリーンドラゴンの文字が見えた、俺だろう──と思ったが、俺じゃない。


「……エルナ・グリーンドラゴン……母さん?」


その四つ下には俺の名前があった。

俺は母さんと同じ予選のブロックなのだ。

かなり驚いたが、すぐに他の選手の名前を見る。

他の選手で注目する選手はいない、つまり俺の相手は母さんただ一人だ。

母さんと戦ったことは片手で数える程しかない。

そしてその戦いも主に魔法の特訓だ。

ちゃんと戦うのはこれが初めて、という訳になる。

思えば帝国の危機にも母さんはいなかったようだが、どうしたのだろうか。

今から母さんの所に行ってみよう。


「今からちょっと家に帰るから、シュヴァルツのことを頼む」

「分かったわ、馬鹿のお守りは任せなさい」


ノラスが快く引き受けてくれた。

ノラスなら安心出来るし、他のレインボードラゴンもいることだし、より安心だ。

母さんは俺と同じ予選で戦うということを知っているのだろうか。

少し帰ってみよう──転移!



──グリーンドラゴン当主邸にて

玄関の前に転移した。

いきなり中に入ると驚くだろうし、ここは礼儀正しくしないとな。

近くにある鐘を鳴らし、玄関の扉が開く。


「お帰りなさいませ、ブライア様。どうぞ中へ」


専属の執事であるフォンゲルさんが玄関を開け、中に入れてくれる。

フォンゲルさんと会うのは久しぶりだ、元気そうで良かった。


「母さんはいますか?」

「自室にいらっしゃいます、案内致しましょう」


フォンゲルさんが母さんの部屋まで案内してくれるそうだ。

でも母さんが自室にいるなんて、珍しいな。

母さんは基本的に専用の研究室にこもっているのだが、自室で何かしているのだろうか。


「フォンゲルさん、母さんは何故自室に?」

「そうですね……着いてみれば分かることでしょう。それからブライア様、昔のように呼び捨てで構いませんよ」

「いや、あれは小さかったから出来たことで……今はキチンとさんを付けますよ」

「そうでございますか……ブライア様が良いのでしたなら、私としては構いません」


昔は偉そうにフォンゲル、と呼び捨てで呼んでいたのを思い出すと、恥ずかしくて面を向けない。

まあフォンゲルは気にしていないようだし、俺もこれ以上気にしては駄目だ。


「……ブライア様」

「どうしました?」

「成長、されましたね……専属執事の私としては、嬉しい所存でございます」


フォンゲルがいきなりそう言ってきた。

突然言われたから足が固まり、恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを感じる。

今フォンゲルに後ろを見られてはならないと思い、何とか足を動かす。

後ろで束ねたフォンゲルの白髪を見ながら、今までの自分を振り返った。

確かに戦闘でも、人間としても成長したのだろう。

だがこの人にはまだまだ届かない。

戦闘は分からないが、人間としての素晴らしさはフォンゲルさんの方が上だ。

こんな人になってみたい……そう密かに憧れを抱いたのだった。


「着きましたよ、ブライア様」

「ありがとうございます、フォンゲルさん」


そう礼を言い、母さんの自室の扉の前に立つ。

何をしているかは分からないが、覚悟を決め、扉をノックする。

すると扉が開き、母さんの専属メイドさんが中へどうぞと促してくれた。

母さんの部屋に入り、母さんを探していると──


「──か、母さん…………え?」


母さんが、小さな子供を抱えていた。

シャルナやミルナじゃない、男の子だ。

現実が認識出来ない。

ただ一つ、可能性があるとすれば──


「──お、弟…………?」

「あらブライア、おかえりなさい」


母さんは俺を見て呑気にそう言った。

驚きが止まらない。

すると、母さんは俺の驚いている顔を見て笑った。

メイドさんもクスクスと笑い、フォンゲルは目を閉じていた。


「そうよブライア、弟よ」

「いやそんな急に!?」


やっとちゃんと言葉が出た。

困惑と驚きがまだ止まらない。

確かに弟が出来たのは嬉しいし、可愛がってやりたいけど……そんな急に!?


「兄様、おかえりー!」


後ろから誰かに突撃された。

恐らく、というか絶対にシャルナかミルナのどちらかだろう。


「……ミルナ、私達はもう貴族学校の一年生なのよ?」

「別にいいじゃーん、お姉ちゃんのばーか」

「もう一度その言葉を訓練場で言ってみなさい?」


今二人は十歳、ようやく学校に通い始めた時期か。

俺にもあんな時代があったと思うと、少し懐かしく感じる。

背丈も段々俺に近づいてきている、成長したんだな。


「シャルナ、ミルナ、久しぶり」


そう言うと、言い合いをしていた二人は静まり、シャルナは一礼を、ミルナは飛び跳ねた。

シャルナもミルナもどちらも可愛らしい、双子だから言い合いも多少あるのだろうが、仲良くしているのなら何よりだ。


「兄様も久しぶりだね!弟ができて嬉しい!?」

「うん、嬉しいよ。シャルナとミルナは?」

「勿論嬉しいですよ、可愛がってあげたいです」

「私はすーっごい嬉しい!抱っことかいっぱいしたい!」


シャルナは大人しく、ミルナははしゃぐ子に成長したのだろう。

まあ性格はどうであれ、どちらも俺の可愛い妹だ。

──椿は今頃、どうしているんだろうな。

天才の予備(スペア)である影踏月葉がいるのならこの世界に来てはいそうだが、アイツは特別な天才だったからな……。

天才は六人なのに、何故か予備(スペア)は七人いたのは不思議だったが、この世界に椿が来てくれていたら嬉しい。


「それはそうとブライア、今日はどうしてここに?父さんは今はいないわよ?」

「あ、いえ、母さんは予選発表を見たのかと……」

「見たわよ、あなたと同じだったわね」


母さんも俺と一緒ということを確認していたようだ。

子供が産まれたばかりなのだろうが、五年に一度の大会を母さんは見逃さなかったみたいだ。


「母さん……負けませんよ」

「こっちこそ、私だって負けないわ」


俺がそう言うと、母さんは笑ってそう答えた。

明日は予選、明後日は本戦。

この世界大会という大舞台で戦えるのが楽しみだ。



──俺は明日、母さんに絶対負けない。

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