第6話 恐怖の音
ふわぁ……あ、今日から夏休みだったな。
もう入学から二ヶ月も経ったのか。
意外と早かったな。
さて、宿題だけど……面倒な読書感想文から終わらせるか。
まさか読書感想文がこの世界にもあるなんてな……
ハッキリ言って、一番面倒な宿題なんだよな。
んじゃ、大図書館にも行くか。
──大図書館にて
よし、着いたな。
さて、何の読書感想文書こうかな……
まあ無難に物語とかか?
よし、とりあえず探しに行くか。
──数十分後
えー、面白そうなのないな。
ん?何か真っ黒な本が……
こんな本見たことないな。
ちょっと気になるし取ってみるか。
これって内容どんなのなんだろうか。
あれ、取り出しにくいな。
昔からある本なのか?
引っ付いてそうだけど……おっ、取れた取れた。
さて、開けるのか?中も引っ付いてそうだけど……
案外すんなり開けたけど……何にも書いてないな。
閉じ……れないぞ?あれ、なんでだ?
まさか、これ魔本か?
確か、最初から魔力が込められてる本なんだっけ?
でも、それくらいしか可能性がないもんな。
あ、閉じれた。
って、何か光って──
「うわぁぁぁ!」
──???にて
あれ?
ここどこだ?
精神世界じゃないっぽいし……
「おい、どこだ!ブライア!」
「え?シャ、シャイフォンか!?ここだ!」
「ああ、良かった。お前、ここどこか知ってるか?」
「いや、俺も分からない。精神世界じゃなさそうなんだけど……」
本当にどこだよここ。
あれ、何か声が聞こえる……
「おい、声が聞こえるぞ」
「ああ、俺も聞こえた。行くぞ」
多分こっちの方向なんだけど。
あっ、何かいるぞ。
あれ、暗くて何も見えないな。
とりあえず声をかけるか。
「お前か?さっきの声は」
「……あなたですか、救世主様は」
は?何言ってんだ?
そんな訳ないだろ?
とりあえず明るくして欲しいんだけど……
「説明しましょうか、気高き龍と救世主様。ここは『本の世界』。私の世界のようなものです。真っ暗なのは事件を解決していないからです」
「事件?」
「ええ、この本の題名は『事件の魔本』。この二十個の事件を解決することによって本来の力を解き放ちます。今、救世主様には『事件』という能力が手に入っているはずです。これは今こそは一つも能力内容はありませんが、事件を解決するごとに能力内容が増えていきます。最大で二十個になります。ついでに、解決するごとにここに呼ばれ、この世界が段々明るくなってきます。最終的には私の顔が見えるようになります。では、ここで聞きます。事件を解決して頂けますか?」
うーん、何か胡散臭いんだよな。
まあ言ってる内容が間違ってる訳でも無さそうだな。
だけど、言ってない内容で引っ掛けられそうだな。
こういうのってよくあるんだけどな。騙されるの。
じゃ、俺に利益でもあるのか聞くか。
「それは、俺に利益はあるのか?」
「ええ、もちろんです。利益としては、世界平和でございます」
んー、世界平和か。
あれ、シャイフォンがピリついているな。
これに関しては触れないでおこうか。
まあ、世界平和ならやる価値はあるけど……
「お前、俺を嵌めようとしてる訳じゃないよな?こう、事件を解決することでお前の力が解放されて俺が殺されるとか」
「無いと断言しておきましょう。では、どうしますか?」
「そうだな……よし、やろう!」
「では、かしこまりました。元いた場所に戻しましょう。では、第一の事件の解決を頑張って下さい。それでは」
え?今なんて言った?
今から第1の事件!?
おい!何も準備して……な、い……ぞ──
──大図書館にて
「ふわぁ、っはぁ、っはぁ、っはぁ。な、何を俺は見ていたんだ?そ、そうだ、確か第1の事件が……」
あれ?何か音鳴ってるな。
何の音なんだろうか……
『ギリ、ギリリリリリリリリリリリ!!!』
おぶ、ぶぉ、やべ、なんだこの音!?
「ぶ、ぶごぇぁ、おおうぇ、ゴブッ」
やべ、この状態で倒れるのはヤバい……
周りが血と嘔吐で……あれ、床溶けてる?
これ、何かの能力、か?特異体質か?
やべ、死ぬ。
む、無効眼使わないと……
『無効眼・能力無効』
よし、とりあえず治ったな。
能力で合っていたのか。
おえ、まだ気持ち悪いな。
辺りが地獄絵図だな。
てか、どこから音鳴ってるんだ?
「おい、ここもだ!急いで救助だ!」
あれ、誰か来たな。
もしかして、上級生か?
急いで向かわないと。
「はあっ、はあっ、すいません、今どうなってるんですか?」
「おっ、良かった生きてる人がいた!今は放送がおかしくなっているんだ。十中八九、他者からの干渉だろうね。それより、早く寮に戻りなさい!」
なんだ、放送室か?
よし、行こう!俺なら出来るはずだ!
最悪シャイフォンに頼む事もできるし!
でも場所が分かんないんだよな。
「ええ、分かりました。寮に戻ります。質問してもいいですか?」
「いいよ、手短にね!」
「放送室ってどこなんですか?」
「ここから真反対の場所!でも、絶対にいかないでね!君がどんなに強くてもね!」
これは行けって言っているようなもんだよな。
よし、行かないといけないな。
皆を守らないと!
とりあえず足でまといにはならないようにしないと。
──放送室の前にて
よし、この辺か?
な、何か血の匂いがする……
「うお、なんだこれ、倒れてる……?」
いや、待て待て、胸から血が……
──まだ間に合う!
『超速治癒』!
これ、いっぱいいるぞ……
これは違う技じゃないと!
『範囲超速治癒』!
これで何とかなるはず……魔力は……大丈夫だな。
あれが、放送室……行くしか、ないな。
ここまできたんだ、戦ってやるさ!
それは俺じゃないと解決出来ないんだからな!
「踏まないように……ここか」
やっぱり、中から戦ってる音がするな。
臨戦態勢で向かうか。
グーニャと、特異体質即発動の用意だな。
よし、開けるぞ!
「グブォ、ガフ、アブァ!」
──は?
「誰が来た?誰でも関係なく殺すが。ほう?生徒か。だが……あいつらじゃないか。よし、こいつをダシにしてあいつらをおびき出そう。それだ、そうだ、それでいいのだ!」
中には、男が一人、突っ立っていた。
それと……数え切れない程の倒れた人。
多分、コイツらはもう……
いや、コイツらのために戦うんだ。
名も知らない奴らだけど、仇討ちはしてやるからな。
「おい、お前は何している?何故ここで人を殺す?」
「我を恐れぬか、良かろう。伝達係として生かしてやろう。ファルドとネルを呼べ、今すぐにだ!」
ネルは確か生徒会長で、ファルドって誰だ?
「ネル先輩は知ってるが、ファルドって誰のことだ?」
「……知らぬか。ならお前には用はない。死ね」
「簡単に死んでたまるかよ!」
戦いが始まった。
相手は強大、勝てるか分からない。
とりあえず生き残ることだけ考えれば応援寄越してくれるか。
なら、本気でやる。
「音魔法『音剣』」
きた!あれ、何も見えな──ぐふっ!
あぶね、掠っただけか。
とりあえず『無効眼・魔法無効』っと。
「音魔法『音剣』」
「さっきは遅れをとったが、もう食らわねえよ!」
よし、本当に食らわなかったな。
無効眼様々って感じだな。
「──能力『音』……『音切羅貫』」
能力攻撃かよ、なら『無効眼・能力無効』!
よし、これも無効化っと。
「どうした、大したこと無いんだな」
煽れば乗ってくるか?
乗ってきたら勝てるんだが。
「チビ助が、調子に乗るなよ。手加減してやったまでだ、次は本気で殺す」
はい乗ってきたね。
案外見た目とは裏腹に引っかかりやすいんだな。
人は見かけに寄らないっていうしな。
まあ、こんなことを考える余裕があるなら戦闘に集中しろって話なんだけどな。
「戦慄しろ!我が恐怖の音が舞う!今こそ全てを恐怖で埋めつくせ!そして腐に落ち、怨念となりて終わりを向かえよ!覚悟しろ、今からここを地獄に変えてやる!『音恐腐食怨幻』!!」
──あっやばいと思う暇もなく俺は吹っ飛ばされた。
建物を破壊して、屋外まで吹っ飛んだ。
逆になんで生きているかが不思議なくらいだ。
頭と腕と足からだくだく血が流れている。
治癒は──出来ない!?
まさか、腐食している!?
さっきの魔法のせいで治癒魔法出来ないのか!
しかも気持ち悪い音がずっと流れてる……
能力無効使ってなかったらもっと悲惨なことになっていたな……
これは物理、能力、魔法の三つの複合攻撃か。
うち一つを無効化したから実質二つの複合になるのか。
でも能力はあまり入ってなさそうだったし、俺としては魔法の方が無効化しといたらよかったな。
てかこれ、やばい。
普通に死ぬ、出血多量で。
とりあえず止血だな。
『治癒魔法・出血停止』
よし、とりあえずは何とかなった。
目に血が入って視界が赤いな。
……!もう来やがった!
「まだ生きてるのか、しつこいな」
「お前はなんでここを攻撃した?」
「……俺の攻撃を耐えたから、言ってやろう。他の有象無象共には興味無いが、ネルとファルドへの復讐だ。奴らは、俺を辱めに陥れた。その復讐だ」
「ファルド先輩はともかく、ネル先輩がそんなことをするはずがありません。一体、何をしたんですか?」
そうだ、ネル先輩はそんなことをするはずがない。
こいつが勝手に勘違いしてるだけなはずだ。
まあ、ファルドって人に関しては知らんが。
「これ以上はもう聞くな、喋るな。そして、邪魔をするなら死ね。『音剣』」
おい、一方的に会話打ち切ってきたな。
あれか?ネル先輩のことを褒めたからか。
まあいい、俺の仲間を傷付けるなら許さない。
俺も全力で立ち向かう。
「『分解眼・波長分解』」
「何っ!?」
「もう原理は理解している!お前の音は波長で出来ていることをな!なら、それを全て分解すれば問題ない!」
もう対策は出来てある。
腐食されているからできるだけ無理のない戦いをしたいから特異体質を惜しみなく使うしかない。
まあ、他の人にバレても俺さえ死ななければ証拠隠滅なんていくらでも出来るからな。
「お前まで……お前までもが!私の才能を侮辱するのか!才能に恵まれ!弱い奴をいたぶり!全てを壊すのか!?ふざけるな!私がどれだけ努力したものを才能ある奴は踏みにじる!?そういう傲慢さが、腹が立つのだ!ふざけるなふざけるなふざけるな!いい加減にしろ!どれだけ努力しても私は恵まれない!おかしいだろ!この世の条理!?気持ち悪い、本当に気持ち悪い!私が研鑽した技さえも、お前は分解してみせた!私の才能と努力を踏みにじるやつは、全員死ね!死ね死ね死ねぇ!」
は?
お前がふざけるなって話だろ。
俺達の仲間に才能を踏みにじる奴なんて1人もいない。
そんな奴がいるなら制裁してやるさ。
だが、俺の仲間さえも殺すのは違う話だろ。
「お前がふざけるな!お前のことなんて微塵も知らない!だけど、今までの話で俺達の仲間を殺そうとする理由があるのか!?だれが、才能を踏みにじった!?お前だけは絶対に許さない!」
と、怒りを明らかにした。
そして、俺はとんでもない失敗をした。
敵を目の前にして、理性を失い、怒りの渦中に飲み込まれたのだ。
──瞬間、音の刃が俺の腹を貫き、吐血した。
そう、見えなかった。
攻撃モーションが全く見えなかった。
奴は、俺と違い、怒りながらも冷静だった。
ただ単純に怒っていた俺とは違ったのだ。
そして、勝ち誇った顔で俺を見下す。
「才能ある奴は、自身の強さに溺れる。その隙を突けば、誰だって殺せる。お前は、結局傲慢だったんだ。じゃあな、これでお前とは会うことはない」
と、俺を嘲笑い、一瞬校舎に目を向ける。
だが、直ぐに俺に目を向けた。
とんでもない悪役の笑みで、俺を見ながらこう言った。
「そうだな、少し時間があるし、お前はムカつくからいたぶってやろう。」
と、余裕をかましているとでも言わんようなセリフで、俺の顔を蹴った。
「お前の端麗な顔も、今は血だらけじゃないか、いい気分だ、唆るじゃないか」
クソ、ムカつく野郎だ。
今すぐにでも殺してやりたいけど……体が動かない。
「ん?その髪──グリーンドラゴンか!?ハハッ、いい気分じゃないか!最上級貴族であるテメェが、こんなに無様な姿晒してんだからなぁ!」
クソッ、動けよ、動けよ俺の体!
絶対にこいつだけは許さない!
「自信過剰だったな、雑魚。このレベルじゃあ、一年生程度か。才能で馬鹿にしてきたツケが回ってきたんだ……よ!」
「アガッ!」
やばい、目の前が真っ暗に……
死ぬ、また死ぬ。
こいつを、道連れに──
《俺が殺ろう、死んでは困る》
シャ、シャイフォン……!
じゃ、じゃあ……後は、任せ、た……
《ゆっくり休め。後は任せろ》
「精神交代っ……」
気づかれないように、極小の声で、そう言った。
そして、俺の役目はもう終わりだ。
お前は、俺より強い奴に殺られるんだ。
どうせなら、俺がやりたかったけどな──
これがシャイフォンに託す前の、最後の思考となった。
「チッ、もう終わりか?さて、ネルとファルドを探しに──」
「待て」
「──は?な、なんでお前は立てる?」
混乱するのも無理はない。
なぜなら、今のブライアの体は血だらけで腹に穴が空いている状態なのだ。
なんで生きているんだとなっても不思議じゃない。
むしろ、それが正解なのだろう。
「そうだな……あいつが、俺に託したからだな」
「あ、あいつ?託した?一体、何を言って──」
シャイフォンは、笑みを浮かべてこう言った。
「さあ、第二ラウンド開始だ。」
戦闘?激戦?虐殺?蹂躙?
とんでもない。
──これは、一撃で終わる戦いになる。