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第56話 邪龍と聖龍と魔龍

「邪法……一体、それは……」

「それを語るには、まずは魔法の歴史を語る必要がある」


グロウさんがソファに座るように進めた。

俺は近くにあるソファに座り、グロウさんは近くの箪笥のような家具にもたれ、レジェンドは帝机に、イビルさんはグロウさんの真反対の壁にもたれている。


「魔法の歴史を知っているか?」

「確か、魔物が使っていたのを人間が真似た、と聞いています」

「その通りだ。だが、魔物が魔法を生み出した訳ではない」


そ、そうだったのか。

魔法歴史の授業……というより、そもそも授業自体をちゃんと聞いていなかったから知らなかった。

これからはちゃんと聞くようにしておこう。


「魔法を生み出したのは、魔龍と呼ばれる龍だ。ちなみに……」

「俺のお兄さんだ!」


……は?

……どういうことだ?

魔龍が……イビルさんの兄?

ってことはイビルさんは、龍ってことなのか……!?


「俺の種族は邪龍だ、世界でたった一体なんだぞ!」

「……じゃ、邪龍……そうだったんですか……」


情報が多すぎて頭が痛くなる。

でもやっぱり、この人はただの人間じゃなかった。

通りでおかしいと思った訳だ。


「話が逸れたな。一般的には魔龍の存在は知られていない」

「え、なら何故魔法がこの世界に浸透しているのですか?」

「魔龍……奴が魔王を創り出した張本人であり、魔法の全てを授けたからだ」


……思考が止まりそうな程に情報が多い。

だが今一番気になるのは、魔王は敵だとしても、魔龍は敵なのかどうか。


「魔龍は、敵なんですか……?」

「……イビル、どうなんだ?俺も魔龍についてはよく分からない」

「そうだなー、魔龍兄さんとはあまり関係は良くなかったからな……姉さんが来てくれれば──」

「──呼んだかしら?」


突如としてイビルさんの後ろに、女性が現れた。

綺麗な長い純白の髪を揺らし、イビルさんの肩に触れる。

イビルさんの顔が蒼白となり、カタカタと震えながら後ろを振り返った。

純白の髪の美女は、笑顔でイビルさんに話しかけた。


「呼んだから、お姉ちゃんが来たわよ?」

「えっ、あっ、あ……じゃ、じゃあ俺は帰ることに──」

「──帰らせる訳ないでしょう?」


開いている窓の方へ向いたイビルさんの頭を、純白の髪の美女は鷲掴みにした。

既視感を覚える光景だが、脳裏で響く声を無視する。

グロウさんはため息をついて、俺に言った。


「この人はホーリー、イビルの姉だ」

「ってことは、この人も龍……ですよね?」

「あら、可愛い子もいるじゃない。グロウくんが紹介した通り、私はホーリー。種族は聖龍よ」


ホーリーって名前で、聖龍……。

……何となく、魔龍の名前も分かる気がする。


「ホーリーさん、魔龍の名前ってデビルって言いませんか?」

「あら、よく分かったわね。そうよ、魔龍兄さんはデビルって名前よ」


俺が分かった理由は、全て英語なのだ。

イビルは邪、ホーリーは聖を意味する。

ならば必然的に、魔はデビルとなる。

デビルではなく、デーモンであったりの可能性もあったが。

まあ今は名前のことについては関係ない、掴んでいる頭を離してもらわないと、話が進まない。


「あの……頭を離してくれませんか?じゃないと話が進まないので……」

「……まあ、そうね。魔龍兄さんとの関係だったかしら、それについて話すわ」


そう言ってホーリーさんはイビルさんの頭を離し、近くにあるソファに座らせる。

ホーリーさんはイビルさんの隣に保護者のように座った。

俺やレジェンド、グロウさんはさっきと変わらず同じ位置だ。

やがてホーリーさんが優しい口調で話し始めた。


「魔龍兄さんはね、中々……というより、重度の変態野郎でね……魔王を生み出したのも、実験の一つと言っていたわね。そのせいで多くの人間が亡くなったのだけど、研究が成功するならどうでもいいって言っていたわ」

「それは……かなり酷いですね……」

「そうよ、私は人間を愛しているから何もしていないけど、魔龍兄さんやこのイビルはかなり自由なことをしていてね。人間なんてどうでもいいって何千年前は言っていたかしら」

「ね、姉さん……その話はもういいじゃないか……」

「はいはい、その話はまた今度ね。敵かどうかだけど、魔龍兄さんは研究を邪魔されてしまえば敵になるわ」


成程、魔龍は研究が一番に思っているのか。

恐ろしく危険な奴だ、仲間になるとは思えない。

研究……魔王を完全に滅ぼしたら、敵になってしまうのか?

分からないが、そうなるだろうと考えていた方が良さそうだ。


「魔龍兄さんについてはこのくらいかしら、私もあまり喋らない方だし、イビルは仲が悪かったようだしね」

「兄さんは邪法がどーたらこーたら言っていたような気がするけど、忘れちゃった」

「魔法は邪法と相性が悪いって言っていなかったかしら?私の聖法は邪法と相性が良いけど、あなたの邪法は魔法に有利なそうよ」


魔法や聖法、邪法に相性なんてあったのか。

魔法は聖法に、聖法は邪法に、邪法は魔法に有利になるってことであっているのかな。


「でもこの子、邪法の才能だけじゃないわ。聖法まで使えるみたいよ」

「……俺ってそんなに凄いのか?」

「正直、私が今まで見た人間の中で上位に入るほど強いわね。潜在能力全てを引き出せば、一番強くなれるわ」


一番……強くなれる……。

魔龍や事件と立ち向かうのであれば、力が欲しい。

ガルや影踏月葉のこともある、強くならないと俺はこれから周りの足を引っ張ってしまう。

是非とも邪法と聖法を教えてもらいたい。


「……邪法と聖法を教えてください、俺は強くならないといけないんです」

「あら、あなたはその気なの?いいわ、教えてあげるわ」


ホーリーさんが立ち上がる。

俺も立ち上がろうとすると、レジェンドに話しかけられた。


「ブライア、もうすぐ総合大会があるだろう?事件は俺やグロウに任せて、特訓に専念すればいい」

「え、いいのか……?」

「もちろんだ、お前が強くならなければ、俺たちは始まらないからな」


確かに、この中で一番弱いのは俺だ。

俺は『事件』の能力を持った中心なのに、弱ければ話にならない。

邪法や聖法、他の戦闘技術も覚え、使っていかないといけないだろう。

それに俺の力の主体となる『望力』が完全無欠な訳でもない。

先に行動されてしまえば無力になってしまう。

先手を取れるようにならなければ、俺はすぐに負けてしまうだろう。


「事件ね……いいわ、面白そうだし私も付き合ってあげる」

「姉さんにしては珍しいじゃないか」

「事件という面白いことがあれば話は別よ」


この人達は『事件』のとこをなんだと思っているんだ。

今回の事件はあわや世界が滅びる危機だったというのに、楽観的な思考だな。

楽観的な思考の方が何も考えなくて済むのだろうか。



「特訓場はどこにあるかしら?」

「五階に戦いの間がある、それを使えばいい」

「分かったわ、なら行きましょう」


ホーリーさんとイビルさんが部屋を出る。

俺もそれに続いて部屋を出ようとするが、ふと気付く。


「グロウさんは来ないのですか?」

「ん、ああ、後で行く。レジェンドと少し話をする」

「分かりました」


不思議に思いつつも、俺は部屋を出てホーリーさんとイビルさんを追いかけた。



──ブライアが去った後、帝室にて

「レジェンド、お前は事件が何回起きるか知っているのか?」

「ブライアから聞いた、二回だ」

「二回……お前は何が起きると思う?」

「あの如月や長月とやらが関係しているのだろう」


レジェンドは当然かのように言った。

帝机にいたレジェンドは席を立ち、帝机の後ろにある窓の前に立つ。

レジェンドの目の前に広がる光景は、人々が目を覚ましていく様子が映し出されていた。

グロウは家具にもたれていた姿勢をきちんと直した。


「お前も気づいているだろう、レジェンド」

「……ブライアのことか?」

「それ以外に誰がいる」


グロウはレジェンドに近づき、帝机を叩く。

低い声で、威圧するようにレジェンドに話す。


「あいつは何者だ?俺の遺伝子が覚醒したとはいえ、あれは普通じゃない」

「俺にも分からん。十四歳であの強さは、俺にも信じられない」


グロウはレジェンドが答えられないことを察すると、帝机に置いた手をどけた。

レジェンドに背を向け、ブライア達の方へ向かう。

グロウは去り際に、言葉を残す。


「俺の遺伝が覚醒したのは確実だ。覚醒したその分『破壊衝動』の威力は凄まじい。絶対にブライアの『破壊衝動』を目覚めさせるな」


そう言うとグロウは、帝室を出た。

一人残されたレジェンドは、窓の外をぼーっと見る。

現在、帝国民の殆どが目を覚ました。

レジェンドは外を見ながら、これからのことを考える。


(『破壊衝動』が目覚めるきっかけがあるとすれば、皇国との戦争……なんとかして阻止しなければならないな……)


現在最も恐れられている危険な戦争、それがスティア王国とソロミア皇国の戦争である。

両国とも大国であり、世界の国々を根本から変えることの出来る程の武力を持つ国だ。

下手をすれば、世界そのものが滅んでしまう可能性もある戦争とも言われている。

スティア王国は戦争を回避しようとしているが、ソロミア皇国は戦争を強引に押し進めているのだ。

ソロミア皇国の女皇はスティア王国を完全に滅ぼそうと動いている、というのをレジェンドは風の噂で聞いている。

阻止しなければ、ブライアは暴走し、ソロミア皇国もスティア王国も全て消滅するだろうとレジェンドは考えているのだ。

険しい表情をしながら、レジェンドも帝室を出る。

向かうのは戦いの間ではなく、ユーザルトのいる部屋だ。

最も恐ろしい戦争を回避すべく、レジェンドは動くのだ──。

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