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第50話 激闘〜その七〜

初投稿から約五ヶ月、ようやく50話を突破しました。

投稿ペースは私の忙しさによって変動しますが、これからも『男子高校生の異世界転生』を宜しくお願い致します!

アルフィストが目覚めた頃──


「──うっ……ここは……?」


長月が目を覚ます。

彼女の肉体は解放され、自分の意識が完全に戻った。

だが、長月は何も知らない。

何の違和感も無く目覚め、その時の記憶を全て失っているからだ。

長月程の実力者をこうして操って手玉にとることが出来るのは、この世界でも超希少である。


「真っ暗ね……誰かいるのかしら?」


周りを見渡すが、何も見えない程に暗い。

何やら特別な空間らしく、探知網を張り巡らせても何も反応がない。

その時、長月の耳に声が聞こえた。


「ようやく起きたか」


その言葉と少し遅れて、パチンと指を鳴らしたような音がする。

真っ暗だった空間が、全く別の空間に変化した。

赤や黒が入り混じった岩や針山が不規則に設置されていて、平地が殆ど無い。

中央には他より少し大きく高い岩が設置されており、その中心にはこの雰囲気には場違いな金と赤を基調とした玉座に座っている黒いドレスを身に着けた魔女が堂々と座っている。

長月は圧倒的強者の雰囲気に気圧されることなく、平然と尋ねる。


「貴方は一体誰なのかしら?」

「我は始まりにして名も無き最強の魔女だ」

「そう……ここに連れてきたのも貴方かしら?」

「逆に、他に誰がいると?」

「それもそうね」


短い問答をして、長月は戦闘準備をする。

天才的な頭脳を働かせて、魔女に勝てる勝率を割り出す。

完全に憶測だが、五分五分の勝負になると踏み、魔女の方へ歩み寄る。

魔女は玉座から降りる気配は無い。

長月は舐められていることに不満を抱くが、油断してはいけないと思い、何とか抑える。


「その舐めた態度のまま、私に殺されなさい──『影殺・乱舞波』──ッ!」


魔女の力を確かめる為に、小手調べをする。

この魔法は長月オリジナルの魔法であり、無効化や相殺をするのは難しく、初見では突破不可能と踏んだのだ。

だがしかし、魔女は魔法の王のような存在。

この程度の魔法は、魔女にとって埃ですらない。


「『魔法消去』」


魔女がとった行動は、無効化や相殺ではなく、消去である。

指を鳴らし、魔法を完全に消去した。

これには、長月も驚きを隠せない。

魔法ごと消去するという無茶な行動は、常識を簡単に超えたからだ。

そもそも、魔女相手に常識など通用する筈もないのだが。

長月は小手調べをしていてはすぐに負けると分かり、今度はもう少し魔力を込める。


「『影殺・斬滅閃』」


さっきとは違い、鋭い斬撃を放つ。

殺傷力も高く、かなりお気に入りの魔法だ。

ただし──相手が悪すぎた。

魔女相手に魔法で勝とうなど、無謀である。

普通の人間やある程度の強者であれば、この魔法一発で殺害までもっていけただろう。

ブライアやシュヴァルツレベルになると厳しいが、最低でも四肢の一つは切り落とせる。

だが、今の相手は魔女。

加えて、ただの魔女ではなく、最強の魔女だ。

長月の憶測は、完全に崩れることになる。


「『魔法消去』」


また指を鳴らし、魔法を消す。

魔女はまだ玉座に座ったままだ。

長月の予想が完全に外れた。

魔法では駄目だと気付き、近接で戦おうとする。

一瞬で距離を詰め、殴りかかろうとした。

黒い魔女は動かない。

もらった──と思った頃には、壁に激突していた。

何が起きたか理解出来ない。

長月は意識が飛びそうになるのを必死で堪え、魔女を睨む。

もう一度、原理を理解する為に殴りかかる。

さっきとは速度も威力も桁違いだ。

対して魔女は、ため息をつく。

長月に目を向けることなく、指を鳴らし、先程使った魔法を声に出す。


「『万倍反射結界』」


その結界に触れた瞬間。

長月は、息も出来ない程の攻撃を受けた。

いや、正確には反射されてしまった。

それも、数万倍で。

服はあらゆる部分が破れ、髪は暴風を受けたように崩れている。

長月が苦しんでいるが、お構い無しに魔女は言い放つ。


「お前はこんなものなのか……もう少し楽しませてくれると思ったのだが」


完全に長月を下に見ている発言だ。

プライドの高い長月からすれば激怒ものだが、苦しすぎて何も聞こえていなかった。

ようやく息が出来た段階だ、このままでは遊び相手にすらならない。

長月は魔女を見くびっていたことを後悔し、自身の治療をする。

魔法も駄目、近距離も駄目。

残るは能力や特異体質だが……正直、長月の能力は魔女に劣る。

つまり、長月は詰んだのだ。

しかしこの長月は、ガル同様本体ではなく、分体だ。

ガルの分体よりも優れている点は、自身の思い通りに出来ることに加えて、勝手に動いてくれる。

それに、本体は痛みを受けない。

ただ、膨大な魔力を使用する為、一ヶ月に一体しか作成出来ない。

かなり貴重な分体という、そのデメリットに加えて本体の百分の一程度、もしくはそれ以下の力しか出せない仕組みになっている。

つまり……魔女からすればただの雑魚だ。

だがしかし、本体と比べて弱い分体にも出来ることはある。

それは──


「──私もろとも、消し飛びなさい──『消滅爆乱陣』──ッ!!」


最後の力を振り絞って、地に魔法陣を描いた。

どす黒い魔力が湧き上がり、魔法陣を巨大化させていく。

この魔法は強力な魔法で、しかも発動するまでが恐ろしく早い。

使用者は爆散し、跡形もなくなってしまうが、究極の破壊性能を秘めた魔法である。

長月は最後一矢報いてやったような気持ちで、魔法を発動させた。

──筈だった。


「どうした、消し飛ばすんじゃなかったのか?」


魔法陣が全て消え去った。

長月は信じられないものを見るかのように目を限界まで開いた。

確かに長月は魔法を発動させ、破壊寸前まで追い込んだ。

だがしかし、忘れてはならない。

ここは自陣地(ホーム)ではなく、相手陣地(アウェイ)であることを。

魔女に魔力が残っている限り、この空間は勝手に再生してしまう。

魔女が認めない限り、長月は死ねない。

魔女に戦う意思がある限り、長月は戦いを終われない。

魔女がこの空間に存在する限り、長月は救われない。

長月はこの瞬間、確かに心が折れた。

いくら天才で精神が強かろうと、圧倒的暴力を見せつけられ、体験させられては折れるしかない。

魔女は玉座に座ったまま意地悪な笑みを浮かべ、長月を見下す。

こうなっては長月に打つ手は無い。

魔法は消去され、近接も全て反射され、決死の自爆も無駄だったのだから。

魔女は笑みを消し、今度はゴミを見るような目で長月を見下した。

立ち上がる気が無いと知り、残念に思った魔女は、この空間ごと爆発させようとする。

手を天に上げ、本来は必要ではない詠唱を始める。


「『我が叡智よここに集え、魔を支配し法を司る我の権能を見せつけよ』」


この短文の詠唱だけで、とんでもない魔力が練り上げられる。

手よりも小さい球体型魔力だが、強烈な破壊力を秘めている魔力だ。

更に詠唱を続ける。


「『数多の生物を恐怖に陥れよ、世界を混沌に陥れよ、天を我が魔力に染め上げよ』」


この空間の天井が暗黒に染まっていく。

無限とも思わしき魔力がどんどん溢れていき、破裂しそうなまでに大きくなる。

先程の球体型魔力は見る姿もなく、世界を飲み込まんとする程に巨大化していく。


「『さあ、壊し崩し滅ぼせ、刮目せよ──魔天究極獄法』」


この世で最強の魔法が、牙を剥いた。

厄災の魔法など障害にすらならない、世界を震えさせた魔法が顕現したのである。

『魔法を超えた魔法』──魔女になる前の少女はそう言っていた。

しかし、これはその程度のものではない。

『新たに生まれた魔法』──言うなれば、この名称になるだろう。

神や魔龍ではなく、魔女とはいえ人間が魔法を生み出したのだ。

にわかには信じられるものではない。

そして魔女は、その魔法を使用する。


「『魔天究極獄法──真魔天爆』」


練り上げられた魔力が一気に爆発し、この空間を魔力の霧で埋め尽くされる。

黒い魔力の霧は数にしても一兆は簡単に超えているだろう。

そして、『魔天究極獄法』の恐ろしさはここから始まる。

この霧全てが、爆弾なのだ。

核兵器よりも恐ろしい爆弾が一兆個を超えているようなものである。

長月はカタカタと震え、怯えた。

見たことのない魔法だが、この見た目だけで恐ろしさを知ってしまったのだ。

そして、魔女の合図一つでこの霧は全て爆散するだろう。

これが常識を超えた強者である、最強の魔女だ。

威厳とその実力を見せつけ、圧倒する。

そして魔女は、指を鳴らそうと手を動かす。


「──爆ぜろ、この空間ごと」


無情に、パチンと指を鳴らした。

一斉に霧からシュウゥゥゥゥと音が鳴り──爆散する。

黒い光に包まれ、長月の体は形残らず消え去った。

魔女は既にこの空間を去っている。

誰もいない空間で、爆発の音だけが響いていたのであった──



──魔女の魔力の渦の中から生まれた、小さな正方形から光が漏れる。

光が大きくなり、黒いドレスを着た魔女が出現した。

力を使い果たしたように、黒い魔女が小さな少女へ変化する。

宙に浮いた黒いティアラを手に取り、下に落とす。

だが地面に到着することはなく、真っ黒な空間が開き、ティアラをその空間が収納する。

少女はため息をつき、目の前で救護をしているファルドへ話しかける。


「ファルドよ、手伝おうか?」

「……えと、どなたで?」

「まあ偉い人のようなものだ、治癒をするから見せてもらうぞ」


ファルドは困惑するが、目の前の少女を信用して倒れている人の容態を見てもらう。

少女は治癒魔法を使おうとするが、治癒魔法が使えないことに気付いた。

少女の魔力はまだ残っている。

少女は長い髪を見て、黒くなっているのを確認した。

少女はさっきと同じため息をつき、ファルドに手を差し出す。


「魔力と魔法を一時的に貸す、早く手を出せ」

「そ、そんなことが出来るのか……」


ファルドはまたも困惑しながら、手を少女に差し伸ばす。

少女はその手を取り、魔力と魔法を譲渡する。

ファルドは本当に譲渡出来ることに驚いたが、倒れている人達の治療を始める。

『魔天究極獄法』は、完璧ではない。

確かにこれを使えば敵はいなくなり、自分の思い通りに何でも出来るだろう。

だがしかし、何事にも反動というものがある。

使った魔法の規模にもよるが、『魔天究極獄法』を使うとしばらくの間、魔法を一切使えなくなるのだ。

黒髪の少女(クリーナ)は、これを完璧に制御し、デメリットを無くす為に研究するのを誓ったのであった──

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