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第48話 激闘〜その五〜

(アーガイル、分析出来るか?)

《……この女、不気味だ。分析しても底が読めん。お前の中から分析した結果だから正確ではないが》

(分かった、お前の力貸してくれよ)

《……嫌だと言ったら?》

(知るか、お前に拒否権は無い)


ファルドは一方的に会話を打ち切った。

アーガイルの三分の一程度の力は、ファルド自身で勝手に使える契約がある。

アーガイルには本当に拒否権が無いのだ。

それ以上の力は許可が必要だが、使わなければならない状況がなかった為、使ったことは無い。

それに、アーガイルが許可を出すことはまず有り得ないだろう。

ファルドが死ねば、アーガイルは外に出て自由に暴れられる。

アーガイルがするのは、契約上の最低限の協力のみ。

それはファルドが誰よりも理解している。

だから、実力を確かめる為にファルドは今使えるアーガイルの力全てを用いて、長月を潰そうとする。

その前に──


「──ブライア、帝様を頼む」


それだけを言って、ファルドは剣を抜く。

長月と対面するが、長月はブライアだけを見ている。

それに気づいたファルドは、苛立ちながらも冷静に攻撃準備を始めていく。

幸い、なのか分からないが、長月はブライアしか眼中にないようで、ファルドの戦闘準備に気づいていない。

実は、長月には思考が出来ていない状態にある。

支配というよりも、決められた動きをする人形になってしまったのだ。

だから人間味を失っていき、機械的な雰囲気へと変貌してしまう。

そんな長月を見て、ブライアは協力を申し出る。


「ファルド先輩、一人じゃ駄目です!俺も手伝って──」

「──待て、静かに」


ブライアの言葉を遮る。

辺りが静まり返ったと思った瞬間。

──詠唱が、黒い空に響き渡る。


「『空を駆け巡る流星よ、星々の輝きを纏いて星降る夜を描け』」


心地良い声音の詠唱が、静かなこの場所に降りかかる。

上を見ると、金髪の少女が宙に浮いていた。

少女は神秘的な金色の輝きを纏っている。

ファルドも、ブライアも、長月ですらも目を奪われた。

目を逸らすことが出来なくなり、少女に視線が集まる。

やがて、少女は圧倒的なまでの超越した暴力(・・)を放つ。


「『大地を焼け焦がせ、空を引き裂け、天より来たる真の魔法をこの場に見せつけよ』──では、始めようか──『星夜金輝麗(せいやきんきれい)』」


──金髪の少女(クリーナ)は、星を降らせた。

つまり、隕石のことだ。

一歩間違えれば帝国ごと吹き飛ばす威力のそれを、完璧に制御して長月のみを狙い撃ちする。

ブライアとファルドはクリーナのすぐ側に避難済み。

圧倒的な魔法に驚愕する二人だが、まだまだ終わらない。


「我が名はクリーナ、世界最古の魔女にして、最高峰の魔女である」


──魔女。

世界から褒め称えられる魔導士とは真逆に、世界各地で忌み嫌われている。

世界に破滅をもたらす、悪魔的な存在。

ブライアが事件で遭遇した、ナスティーも魔女の域に達している。

だが、ナスティーや他の魔女とは比にならないレベルの魔女が大昔存在していた。

それがクリーナ。

魔女にとっては憧れで手の届かない存在。

魔女以外の種族の共通認識としては──魔王と同等の存在。

何故、クリーナが魔女と呼ばれ、自分から言ったのか。

それは、何千年も前まで遡る必要がある……。



──今となっては記録こそ残っていない、歴史がある。

とある村に、名前のない少女がいた。

その村では、成人するまでは名前を付けない習慣がある。

少女も例に漏れず、名前が無かった一人だ。

その村は決して繁栄していたとは言えない村であった。

衛兵も少なく、村民も五十名程度。

ある日、そんな村に魔物の襲撃が起こった。

昔の魔物は今よりも強大で、強力と言われている。

スライムですら、現在のオークの長に匹敵していたという伝説がある程だ。

純粋な人間は最弱種族という、今では考えられない時代なのである。

その村に襲撃した魔物は、スライムやゴブリンでは無かった。

スケルトン12体、ゾンビ20体の大軍だ。

衛兵は即座に殺され、村民も瞬く間に殲滅されていく。

少女は、家の中で隠れながら一人怯えていた。

少女の母と父が家の中に侵入した魔物と奮闘している。

即座に魔物の加勢が侵入し、父と母を傷つけていく。

少女は絶望した。

少女は隠れていながら、涙を流し、狂いそうになる。

その少女の母は、隠れている子に向けて今にも消えそうな声で話しかける。


「逃げ…………なさい…………クリー……ナ……」


少女の母は、生まれた時から旦那と決めていた名を明かした。

その声が少女の耳に届いた時。

既に変貌した父と母の姿が物の隙間から見えた。

その瞬間──魔物に怯えていた少女はいなくなった。

ただ、そこに残っていたのは襲ってきた魔物を全て蹴散らした魔女のみが。

そして、魔女は無感情という牢獄に囚われた。

この時──確かに、理性を無くし本能のみで動く最悪の魔女が生まれた。

その魔女は、目に付いた村や町を滅ぼして、満たしたくても満たせない満足感を満たそうとする。

彼女は、人間にとっても魔物にとっても脅威と成りうる存在になった。

『空飛ぶ人間がいれば、それは魔女である』という教訓が出来る程にまで。

人に、魔物に、植物に、動物に、そして神々にすら恐怖を植え付けた。

そんな恐怖の存在となっていた魔女がいる時代に。

『神童』が生まれた。

神の子と呼ばれ、人間族にとっての英雄である。

まるで、魔女に対抗するかのように。

魔女は、どこからかその話を耳に入れるとすぐさまその人間の場所へ向かった。

場所はすぐに分かった。

いや、分かってしまうのだ。

遠くから見ても分かる圧倒的な覇気、この時代には珍しい目立つ白髪。

魔女は、白髪の人間に火の魔法を仕掛けた。

その瞬間。

白髪は、まだ到達していない魔法を斬り刻んだ。

魔女は目を疑った。

そして、隙を見せた。

白髪は、既に魔女の後ろにいる。

圧倒的存在感、人間とは思えない身体能力。

いや、それ以前に──


「──魔女、もうお前の好き勝手はさせない」


後ろを振り向く余裕など無かった。

もう既に、地に伏していたのだから。

瞬きをすると、次は雲の上だ。

もう一度瞬きをすると、今度は崖に向かって投げられている。

魔女は、本当に人間か疑った。

いや、疑うしか出来なかった。

疑い始めた時には、もう魔女は瀕死だから。

神の子と言われるのに、魔女は納得した。

その納得で。

魔女の満たせない満足感が、満たされた。

黒いドレスとティアラを身にまとった魔女は、少女に変わった。

金髪で、質素な服で、名も無き少女に。

ああ、やっと開放される──少女は、求めていたものをようやく探し当てた。

そして意識を失った──



──クリーナの過去が、流れ込んできた。

ファルド先輩が来たかと思えば、今度はクリーナが魔法を落とした。

魔法使いは勿論、魔導士ですら届かないクリーナの魔法。

これが、魔女の力。


「ここは我に任せよ。長月とやら、我を楽しませてくれるのだろう?」


クリーナは黒いドレスを身にまとい、真っ黒なティアラを頭につけた。

すると、膨大な魔力の渦が出来上がり、長月を飲み込んだ。

やがて渦は小さくなっていき、小さな正方形の物体が空から落ちてくる。

この中に長月とクリーナがいるのだろう。

クリーナが負けるのは想像出来ないし、あれ程強いのだから任せて大丈夫なようだ。

となると、俺のすべきことは、だ。


「レジェンドはどこに……?」


帝宮の崩壊に巻き込まれたのか?

いや、あのレジェンドだ、どこかにいる筈。

一歩、進んだ瞬間。

大地が揺れた。

勿論俺の一歩のせいじゃない、何かが暴れている?

この雰囲気……レジェンドでもない。

だが、何か感じた覚えのある雰囲気だ。


《この雰囲気は、ガルでしょう。奴の分体は全て始末した筈なのですが……》


分体全て始末するって、中々だな……。

本体っていうことはないのか?


《それはまず無いでしょう。奴は慎重で臆病な人間です、万が一にも自分が倒される可能性がある限り、本体は姿を見せない筈です》


成程ね、なら……ごめんオニシエント、少し頼みがあるんだけど。


《なんでしょう?》


俺の中から出て、ガルらしい奴を倒せたりする?


《可能ですよ、分析もついでに行います》


本当か、助かる!

じゃ、俺はレジェンドに集中するよ。


《そのレジェンドですが……この場所には反応がありません》


ん?どういうことだ?

帝宮にいたんじゃなかったのか?


《確かにそうですが……ほんの少しだけ待ってて下さい──『全知』発動》


俺の中で熱湯が流れているような感覚だ。

俺の身体に影響は無いが、精神が少し削られているような気がする。

これが、全知なのか……。


《──ッ!ブライア様、暴れているのはレジェンドです!詳細説明は戦っている途中にしますから、急いで向かって下さい!》


何!?

今すぐにでも説明してもらいたいが、それどころじゃないのかよ。

分かった、場所を教えてくれ!


《分かりました、私の指示に従って下さい!》


「ファルド先輩はここに倒れている人の安全確保を頼みます!」

「ちょっと待て、どういうことだ?」

「説明している暇はありません!俺はもう行くので、後は頼みましたよ!」


オニシエントも頼むよ!


《はい、勿論!》


何が起きているか全く分からないが、俺はオニシエントのナビに従ってレジェンドの所まで向かった。



──ブライアがいなくなった頃

「ったく、俺は治癒魔法は苦手だぞ……」


何も説明されないまま、勝手に頼まれて置いていかれたファルドは一人で呟く。

安全確保をするか、と思い倒れている人の方へ向かう。

国王から帝国にいる人物は既に聞いている。

レインボードラゴン当主全員、貴族学校の校長、帝国で冒険者をしているブライア、それにシュヴァルツと国王の息子であるフレートの計11名。

ユーザルトがファルドを送り出した理由は──アーガイルとは別の厄災が、産声を上げる可能性があると思ったからだ。

帝国に眠る厄災、その名は──


「──アルフィスト・バスィーラ、か」

《アイツは俺より弱いが……暴れたら手を付けられなくなる。お前が死ぬのはどうでもいいが、この世界が滅ぶのは俺とて不本意だ、その場合俺が俺の全力の許可を出すから、頼むぞ》

「途中のは聞き流してやるが……暴れる?一体どういうことだ?」

《俺の肉を分けたアイツだがな、その肉には俺の暴走心を大量に含んだ成分が混じっていてな……残念だが、暴走を抑えようとしても無駄だろう。その場合、殺すしか方法は無い。今はまだ眠っているようだな》

「そうか……お前みたいな理不尽で出鱈目な力を持っていたりするのか?」

《持っている、これは断言出来るさ》

「戦いたくないな……」

《俺の力の全てを貸してやると言っているだろうに》

「お前が戦えよ、そんな奴と血で血を洗うような戦いはお前だけで──ッ!?」


ファルドは、震えた。

アーガイルは、ファルドを通して見ている自分の目を疑った。

この世のものとは思えない力が、どこからか溢れだしている。

理解が出来ない。

本能が逃げろと訴えている。


《何故……先程まで、落ち着いていただろうに……》


この戦いに共鳴したのか。

少し遅い参戦となる。

さっきまでファルドとアーガイルが話していた、厄災が。


《ファルド、俺の全てをお前に貸す。絶対に耐えろよ》

「当たり前だ──お前みたいな奴に、力を注がれただけで死んでたまるか!」


厄災が、産声を上げた。

こうして、第一ラウンドが終わった。

これから始まるのは、絶望の第二ラウンド。

やがて3つの戦いの渦は、最高潮を迎えようとしている──。

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