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第41話 お前にやる慈悲は無い

忙しかったですが、今回は割と早めに完成しました。

目指せ週二投稿!

あの残虐な事件から翌日。

俺は涙をグッと堪えながら記憶を見ていた。

結論から言うと、ティルさんを助けることは出来なかった。

レジェンド曰く、魂と精神が完全に粉砕されているらしい。

肉体はともかく、魂と精神を治す術なんて存在しない。

もう無理だ、とあの夜に言い放った。

涙が止まらなかった。

同時に、誰がこんなことを、と憤激もしていた。

叫び散らして泣き喚きたかった。

それが出来なかったのは、フィル君を思ってだった。

大事で大切な兄が無残に虐殺されていたのだ。

俺がフィル君の立場なら、病んで壊れていただろう。

今フィル君がどうなっているかは知らないが、俺はティルさんにこんなことをした奴がどんなに謝っても泣いても同情を乞うても許すつもりは無い。

ガルへの感情と同じだ。

絶対に許さないどころか、ティルさんより酷い目に合わせてやる。

絶対にだ。

俺の執念を舐めてもらっては困る。

怒りと殺意、悲しみだけが俺の中にある。

だが冷静に、だ。

落ち着かないと取れるチャンスも取れなくなってしまう。


「……あった、昨日の記憶だ」


ようやく見つけた。

ティルさんの記憶にまで細工をしているようなら、どんな手を使っても解いてやる。

さあ、俺にその記憶を見せろ。


「魂と精神を壊しはしたが、記憶までは無理だったようだな」


魂と精神を壊すのは、常人を超えた者なら簡単だ。

特に、あの時のティルさんは脆かった。

常人でも手順を知っている者なら簡単に壊せただろう。

だから記憶を読まないと特定が難しかった。

そして記憶を読んで、ようやく特定出来た。

こいつが、ティルさんのことを──


「──ウィクス・ストライト」


ああ、知っている。

忘れるものか。

ティルさんに言われて、俺に入団テストをした奴だ。

だが、俺はあの日に勝った筈だ。

それに、あいつがティルさんより強いとは思えない。

何かをしたのか?

ガルが絡んでいる可能性も捨てきれない。

だが、特定はもうした。

そんなこと、俺にとっては今はどうでもいい。

許さない。

ぐちゃぐちゃにしてやる。

俺の全てを使って、嬲り殺しにしてやる。

そんな俺の怒りの波動を感じたのか、レジェンドがやってきた。


「早かったな、もう特定したのか」

「俺は今からそいつの所に行く。レジェンドは?」

「いやいいさ。俺は俺でやることがある」

「なら俺一人で行ってくる。しないと思うが、邪魔するなよ」

「──無茶はするな、そして最大限警戒しろ」

「当たり前だ」


俺は言葉を発さず、転移をした。



──ブライアが行った後

「お前の兄の為に、ブライアは怒ってくれている」

「……自分が、情けないです……僕に、力があれば……」


レジェンドはフィルと接触していた。

実を言うと、レジェンドはティルに才能を感じていた。

その器を認めていた。

だが、あれ程までに狂っていれば、才能があっても無駄だ。

故にレジェンドは、厳しい言葉を突きつけた。

ティルという人間は親切だ。

人としては脆いが、肉体は強かった。

その脆い部分を鍛えれば、ティルがフィルの為に目指していた英雄になれたかもしれない。

その矢先、無残にやられ、亡くなってしまった。

──レジェンドには、人の痛みを知ることが出来る呪いがある。

いや、必然的に知ってしまう呪いがある。

レジェンドが本気を出さないのは、常時帝国の民の肉体的苦痛、精神的苦痛を知ってしまうからだ。

何をしていても知ってしまう。

だが、どんなに痛みを経験していても、フィル程の痛みは知らない。

フィルは冷静で、いつも落ち着いている。

その裏には、隠された怨念がある。

今もそうだ。

ティルを殺された恨みと痛みは、レジェンドが経験した痛みの中で一番痛い。

立って喋るのでさえ、苦痛だ。

その痛みに堪えながら、レジェンドは言う。


「フィル・レガルトよ……お前はどうしたら自分を救えると思う?」

「……お兄ちゃんの無念を晴らすか……お兄ちゃんが、もう一度僕に喋りかけて、笑いかけてくれるか……です」


フィルは握り拳を作った。

目をギュッと瞑り、歯を食いしばった。

見ているだけで痛々しいその光景は、レジェンドにとっては地獄と変わらない。

だが、レジェンドはその痛みを悟られないように言う。


「フィル・レガルト……お前は、何をしたい?」


今のフィルは、ただ痛々しい光景を見せて、同情を乞うだけの人間だ。

悲しみを乗り越え、沢山の理不尽を超えたものが、英雄になる資格を持つ。

それを、レジェンドは気づかせてあげたい。

ティル同様、フィルにも才能を感じたからだ。

今度は死なせない。

それを胸に押し入れ、フィルに言い放つ。


「英雄になれなかった兄の無念を、晴らしたいんじゃないのか?」


フィルはその言葉にハッとする。

少し考えて、やはり帝様は素晴らしい、と思いながらフィルは、レジェンドに宣言する。


「僕は……お兄ちゃんをを追いかけます。いや、追い抜かします。今は病気も無い、僕がずっと願っていた英雄に──なってみせます!」

「いい答えだ……お前達兄弟は、素晴らしい」


レジェンドは賞賛する。

それに、少し痛みも和らいだ。

何とか余裕が生まれた。

危なかった、あれ以上この痛みを知っていれば、レジェンドは潰れていた。

ふぅ、と落ち着き、さっきまでブライアがいた場所を見つめ、呟く。


「待っているぞ、ブライア」



──何かが聞こえた気がした。

いや、気のせいだろう。

俺は目の前の敵に集中しなければ。


「気づいたか、早いな」


抜け抜けと言い放つ、半裸の男。

いや、正確には上の服は着ていたのだろう。

が、その服は今は床に投げ捨てられている。

俺と本気で戦う為に。


「知っているか?世の中には、嫌いな奴なんて数え切れない程いる。俺はその嫌いな奴を始末したまで」

「何故だ?」

「お前は知らないだろうが、俺はあいつには敵わなかった。そりゃそうだろう、冒険者軍の軍長だ」


悠々と語り出す。

まるで俺のことなんて眼中に無いみたいに。


「俺は他の人間に悟られないようにあいつを嫌っていた。いや、俺より強い奴はみんな嫌いだったさ」


暗に、自分が一番じゃないと気が済まない──と言っているようなものだ。

清々しいくらいに自己中心的で、自分勝手だ。


「無論俺はお前も嫌いだ。その内始末するつもりだった。餌がわざわざ俺のとこに来てくれて何よりだ」


殺したい。

憎い憎い憎い憎い。

だけど今俺が行動出来ないのは、こいつの秘密を暴く為だ。

千載一遇のチャンスだ、逃す訳にはいかない。


「お前、何をした?」

「知りたいか?ああもちろん知りたいだろうな。教えてやるよ、この世で一番慈悲深い、神様のような存在をな」


口を滑らせろ、と心の中で何度も繰り返す。

俺の中では予想はついている。

だが確証が欲しい。

記憶を覗いても、消去されてしまうかもしれない。

何故なら今、心読眼を全力で使っているが、妨害されているからだ。

本人から聞いた方が断然良い。


「ああ如月様、俺に慈悲を下さり感謝を──」


その言葉を聞いた瞬間。

俺は、ウィクスの顔面を殴り飛ばした。

ぐはぁ!という苦しみの声が上がった。

割と本気で殴ったつもりだ。

これで生きているなら、耐久も中々上がっているのだろう。

嬲りがいがあるというものだ。


「貴様、俺になんてことを──」


腹に本気の蹴りを入れた。

上空に飛ばし、それを追いかける。

地面が割れる程踏み込み、クレーターが出来る程の跳躍をした。

ウィクスに追いつくと、拳を握って叩き落とした。

常人なら原型が残らないだろう。

着地して、ウィクスの姿を確認する。

まだ原型を留めていた。

これで壊れないのなら、まだまだいける筈だ。

決めたんだ、徹底的に叩きのめすと。


「おま──」


その声をもう聞きたくない。

不快だ、気分が悪くなる。

だから俺は、頭を上から『轟・太陽』で殴った。

地面に大穴が出来る。

落とし穴という悪ふざけでは済まないレベルの大穴だ。

だが、手応え的にまだ死んでいない。

大穴に入り、底からウィクスの首を持ち上げ──上に投げた。

跳躍し、腹を貫く勢いで殴った。

分かっていたことだが、貫くことは出来なかった。

だが、ウィクスは吹き飛んだ。

抵抗なんて、俺が許さない。

逃亡なんて、俺が許さない。

懺悔なんて、俺が許さない。

全ては俺の思い通りになる。

何故なら俺は──『創成者』だから。


「まだ潰れないか、そのタフさは褒めよう。俺としても都合がいい」


ウィクスが何かを喋ろうとした。

だが、俺がそれを許す筈が無い。

顎を潰す勢いで蹴りを放った。

少し鈍い音がしたが、気にしない。

もう一度顎に蹴りを放つ。

不快な声を俺はもう二度と聞きたくない。

ガルや如月、というワードを聞いただけでこいつはもう用済みだ。

あとは嬲るだけ。


「なぁ、まだ本番だと思っていないよな?」


ウィクスの顔が青ざめた。

タフになったとはいえ、痛みはある筈だ。

いや、痛めつけているのだ。

まだ絶望は終わらせない。


「今の一連で、俺は能力を一度しか使っていない。その一度以外は全て俺の単純な物理の暴力だ」


人の心を折るには、恐怖と絶望が一番効果的だ。

俺はそれを何も考えない──つまり本能で知っている。

何も複雑なことは考えていない。

その場その場で適した絶望を与える。

人は脆いから、その程度で済む。

今こいつに適した絶望はつまり、あの程度本気では無いぞ、と言ってやることだ。

そして、存分に痛めつける。

ティルさんはこんなことを望まないかもしれないし、望むかもしれない。

でもこれは、俺が選択したことだ。

失礼だが、ティルさんの気持ちなんて考えるつもりは無い。

俺がしたいからする。

人のこと言えないレベルで、俺も自己中心的で自分勝手な人間だ。

だが、人間で自分一番に考えない奴は存在しないだろう。

だからこの世界は──人間は飽きないんだ。


「お前にくれてやる慈悲は存在しない。今お前にあるのは──俺に嬲られることだけだ」


さあ、絶望を知れ。

己の犯した罪の重大さを知りながら──乞うて乞うて、その無様な姿を俺に見せろ。

さあ、今から本番を始めよう。

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