第39話 ティル・レガルト
まずは報告も無しに予定の投稿日に投稿出来なかったこと、本当にすみません。
実は、最近忙しくて書く時間がありませんでした。
これからもっと忙しくなるので、週一で曜日は不定期に投稿することにします。
空いた時間で書くことになるのですが、偶に週二回投稿することがあるかもしれません。
これからも男子高校生の異世界転生を宜しくお願いします。
謝罪と御報告でした。
──僕には弟がいた。
可愛らしい純粋な弟だ。
だが、病気でずっと床に臥せていた。
僕はずっと御伽噺を聞かせていた。
英雄譚、冒険譚、そんな話を弟に聞かせていると、夢を見ていた。
大きな冒険をして、英雄になる夢を。
でも自分は病気だから無理なんだと。
だから僕に言った。
僕の思いを継いで英雄になって欲しいと。
夢見た楽しい冒険が出来ない僕の代わりに、お兄ちゃんの冒険の話を聞かせてと。
大好きな弟の為には危険なんて関係無かった。
ただ僕の冒険の話を聞かせてやりたかった。
そして、僕は冒険者軍で一番強くなった。
でも何故か、僕は満たされなかった。
幸せがあった筈なのに、どこか遠くに行ってしまったような。
僕が傷だらけで帰ってくると、心配する声が多かった。
でもこれは、僕の最愛の弟の為。
何だってしてもいい。
たとえそれが、僕を破滅に導いても──
ここは冒険者協会だ、周りの配慮も考えて戦わないとな。
ティルさんはどうせお構い無しだろうが、後処理の事を俺は考えないといけない。
本当に面倒だ。
「お前は得体の知れない化け物だ、だからお前が何をしてもいいよう対策を考えてある」
「なら、見せて下さいよ」
「その舐めた口、縫い付けてやるよォ!」
ティルは斬撃を放った。
今まで受けた斬撃の中で一番重く、強かった。
何とか防御に成功するが、ティルさんは止まらない。
「ハァッ!」
蹴りが放たれる。
俺はそれを蹴り返す。
だが、足がピクリとも動かなかった。
凄まじい力が込められているのだろう。
ティルさんは剣を俺の胸に突き刺そうとした。
足を振りほどき、剣を避ける。
それにしても、ここまで強いと思っていなかった。
冒険者軍の中でも一番強いことはある。
だが、俺の心には余裕が生まれていた。
レジェンドとの特訓のお陰だろう。
とりあえず、さっさと終わらせよう。
油断だけはしないようにな。
「『轟・太陽』」
轟炎の拳がティルさんを直撃する──かと思った。
だが、それは叶わなかった。
「赤の闘志!」
熱、温度関係を完全無効にする赤の闘志を使われた。
これではもう『太陽』は役に立たない。
「どうした、さっきの余裕は?」
「周りのことも考えているんですよ、派手なことはしないようにね」
「そんなことを考えている余裕まであるのか、ならその余裕ごと叩き斬ってやる!」
ティルさんが剣を振るうと、大きな斬撃が舞った。
椅子や机は粉々になったり、壁には大きな穴が空いたり。
幸いなのは、周りに冒険者がいなかったことだろう。
協会の受付嬢も既に避難していた。
ここには俺とティルさんだけが存在している。
「俺は今から悪役を殺すんだ、そうだ、俺の希望を潰した悪役だ、こいつは悪役だ、俺の敵だ」
自己暗示するように呟いた。
ダメだ、ティルさんを説得するのは無理だ。
この戦いを終わらせても、結局は俺に突っかかってくるだろう。
でも殺すのはもっとダメだ。
本当は良い人なんだ、絶対に殺してはいけない。
じゃあどうするのが正解なんだ……!
「……俺はお前を殺す。お前も俺を殺せ。じゃないと英雄になれねぇだろうが!」
英雄って何なんだ。
俺を殺しても英雄になんてなれやしない。
ティルは一体、何を言っているんだ……
「あなたは一体……何なんですか」
「ティル・レガルト。英雄を目指した冒険者軍最強の男」
英雄……この人にとっての英雄って、なんだ?
俺に英雄なんて分かりやしない。
でも、ティルさんは何かを追いかけている。
ただ周りに気づかず、盲目になって、貪欲になって何かを目指している。
それが悪いとは一概には言えない。
だけど、何かが欠けている。
英雄になる為の部品が。
この人は、一体──
「それだけかい?なら、遊びはもう終わりだよ」
ティルさんの何かが急激に高まっていく。
剣が黄金に光り、燃え上がらせる。
あれは俺でも完全に防ぎ切れるか分からない。
反撃出来るかも分からない。
ダメだ、あれを使うしかない!
「『剣波斬消』──ッ!!」
「『地龍耐久』!!」
まさかまたこれを使うとは思わなかった。
気分は最悪だが、この技はかなり強いのだ。
何度も使える代物ではない分、強くないと困る。
そう易々と突破させはしない。
「なんだこれ、硬すぎる──ッ!」
当たり前だ、俺が死を賭けた地龍王の耐久を持っている。
これで弱ければ激怒ものだ。
──ようやく轟音が収まった。
かなり長かったが、その分向こうも疲弊しているだろう。
ティルさんをすぐに正気に戻すのは難しい。
だけど、時間をかけてゆっくり戻すことは出来る。
早くこの戦いを終わらせないと、事は進まない。
「ティルさん、もう終わりましょう」
「……何?」
「こんな無駄な戦いをしたって、意味が無いです。仮に僕を倒したからって、あなたが言う英雄にはなれません。ゆっくりでいいんです、あなたはまだ戻れる」
そうだ、これでいい。
何だって話し合いが重要なんだ。
武力行使は一時の解決にしかならないんだ。
不毛すぎる争いはしたって一切意味を成さない。
それどころか、マイナスが生まれてしまう。
ティルさんは本当に良い人なんだ。
初めて来た時に俺に一番に声を掛けてくれた。
少ししか喋ってないし、少ししか分からないけど、その少しだけで分かる。
この人がどれだけ人を思う気持ちが強いか。
親切で、優秀で、強靭で。
早く終わらせないと、ティルさんは周りに気づかない。
ティルさんだって、こんなこと──
「黙れ!お前は俺の話を何も聞かないんだな!お前にこの戦いの意味が無くったって、俺には意味がある!お前という悪がいなくなれば、俺は英雄になれる!」
この人には俺の言葉は届かなかった。
分からない。
この人の言っているとこが分からない。
「まだ戻れる?俺に上からもの言うんじゃねぇ!お前は俺の悪で敵だ!」
俺はこの人を勘違いしていたかもしれない。
この人は心折していた。
この人は憂愁しているはずだ。
なのに、なのに。
この人は英雄しか眼中にない、狂人だ。
「なんで……なんで……」
「まだ分からないか!お前は、俺の希望を潰したという事実が!」
「希望を潰した……俺が……?」
「ああ!お前がどんな理由があっても、俺はあそこで強くなりたかった!英雄になれるチャンスだと思った!なのにお前が、お前が冒険者軍に入ってきたせいで潰れた!俺達の夢と希望が!」
そんなの俺の知ったことじゃない。
あんな地獄から抜け出したかっただけなのに。
なんで俺が責められなきゃいけないんだ。
親友を売る訳ではないが、レジェンドが俺を加入させたんだ。
いや、いい。
何を言ったって無駄ということが分かった。
何を言ったって響かないということが分かった。
それならもういっそ、この人を──
「何をしている、ブライア」
「レ、レジェンド!?何でここに!」
「お前の帰りが遅いからここに来てみれば……ティル・レガルトか」
「──……帝様、その者からお離れ下さい」
「何故俺がお前程度に指図されないといけない。それに、こいつは俺の友達だ」
直接言ってくれるのは少し恥ずかしいな。
でも、これで一気に戦況が変わった。
レジェンドがいればもうこの戦いも終わるだろう。
ティルもレジェンドには勝てない筈だ。
いや、レジェンドに頼ったら駄目だ。
俺の力で何とかしないと。
「なんだよ……帝様もグルなのかよ……ならまとめて始末するのみだ……」
ティルさんは大胆に構えた。
まるで自分が負けないと言っているかの様だ。
でも、ティルさんがレジェンドに勝てる筈も無い。
対するレジェンドは、興味無さそうに後ろを向いた。
ティルさんはそのタイミングを逃さず、レジェンドの背中に一撃を入れようとした。
その時だった。
──ティルさんの体から、無数の黒金双槍が出現したのは。
ティルさんは血を吐いて倒れた。
呆然としていると、レジェンドが口を開いた。
「英雄……悪役……ふん、お前如きがそんな妄言を口に出すな」
まるで罵倒するかのように。
いや、実際罵倒しているのだろう。
レジェンドはティルさんの前に立ち、見下した。
更に言葉を続ける。
「お前が真の英雄になることは有り得ない。なれるとしても、せいぜい冒険者で強い方に入るところだろう」
レジェンドは苛立ちながら言った。
レジェンドは英雄が何かを知っている筈だ。
いや、レジェンドは英雄だ。
ティルさんは無理だ、諦めろと。
ティルさんにとっては、死刑宣告に近いものだろう。
この帝国の王にそう言われたのだから。
真の英雄と成った人間に、そこまで言われたのだから。
帝は絶対の象徴。
それを理解している帝国民だからこそ、逆らおうとしない。
ティルさんは、俺から見ても愚か者だ。
英雄に成れず、全てを英雄に否定され、悪役に打ちのめされた。
──それでも、俺は。
たとえ救いを差し伸べられた手が愚か者の手であっても、助けたい。
俺を認めてくれて、優しい親切にしてくれて。
本当に短く少ない時間だったけど、この人の優しさは知っている。
たとえ無駄になっても、やるだけやりたい。
その人が罪を犯していなければ。
ガルの様に、俺が憎いと思った人間以外なら。
助けたい。
ティルさんを、元に戻したい。
自分勝手で自己中心的な考えだ。
知っている。
だが、何を言われようと俺という人間の定義からは外れたくない。
俺が俺でなくなる前に、多くの命を。
さあ、ティルさんを救おう。
根は優しい人なんだ。
終われば、この人のこと全てを聞こう。
まだ息はある筈だ。
「ティルさん……元に戻しますからね──『超効果治癒』」
みるみると傷が塞がっていく。
レジェンドも気配りの出来る男で、致命傷は避けていた。
流石の技量だ、本当に助かった。
俺は専門的な治癒師じゃないから、手順なんて全く分からない。
助けたい一心だ。
目を覚ましてと祈りながら、治癒魔法をかける。
一応俺が今出来る最上級の治癒魔法だ。
流石に蘇生とかは出来ない。
緑の光がティルさんを暖かく包み込む。
優しい光が、ティルさんの傷を癒す。
黒金双槍は既に無くなっていた。
レジェンドがすぐに消したのだろう。
やがて、黒金双槍の傷が全て無くなった。
ティルさんはまだ地に伏したままだ。
ティルさんが起きるのを待つしかないだろう。
「お前、悪役だと罵られて、命を狙われたんだぞ」
「ああ」
「何故助ける?」
「……本当は、良い人だから。根は優しい人間だって知っているから」
「その根は優しい人に、殺されそうになったのにか」
「ああ、そうだ。俺が助けたいと思ったなら、俺は全力で助ける。それが俺、ブライア・グリーンドラゴンだからな」
「──……はっ、とんでもない貴族がいたものだ」
鼻で笑われた。
誰が何と言おうと、俺は俺がやりたいことをする。
常識に囚われないって、もう決めたからな。
「お前こそが、真の英雄に最も近いのだろうな」
「……そうか」
英雄になんてなるつもりは無い。
俺は二回目の人生を楽しみたいだけだ。
友達を作って、色んな事を経験して、大人になる。
前世では出来なかった事だ。
やっぱり、余計なお世話なんかじゃなかった。
神様、俺に二度目の生を授けてくれてありがとう。
今度こそ、しっかり生きて、しっかり死んでやる。




