第33話 魔物の好敵手
やっぱり火曜日と金曜日の週二投稿に変更します。
今更ですが、週一投稿は少ないと感じました。
改めて、火曜日と金曜日を楽しみに待っていて下さい!
女は、生首を持って、握りつぶした。
その行動に心底怯えながらも、警戒を怠らない。
次は首の外れた胴体を掴み、地面に叩きつけた。
怖い、怖い、怖い。
俺の心が逃げろって叫んでる。
こいつだけは本当に相手にしてはいけない。
狂っている。
「ふぅ……あなた、逃げないのね」
「お前を逃がしたら、他の人達の幸せが無くなってしまう。それを俺は止めに来たからな」
「綺麗事ね。でも、そんなあなたが好きよ」
「俺はお断りだな」
時空刀を突きつける。
白い刀身が真っ直ぐに伸び、首に向ける。
そんな事をものともせず、女は言い放った。
「私は貴方を保存したいわ。綺麗な状態で、新品当然の未使用の貴方を、ね」
「下品極まりないな。俺はお前に保存は絶対にされたくないな」
「あらあら、保存はお気に召さなかったかしら?なら、サキュバスらしく食べてあげようかしら?」
「嫌だね。お前なんかに食われてたまるか」
「なら……実力行使で奪いにいくわね」
その言葉を聞き、すかさず俺は『時覇空閃』を使おうとした。
だが、それは不発に終わる。
何故なら──
「ごめんなさいね。私には『誘惑の恩恵』があるの。時間と空間を誘惑して、もう私の物よ」
絶句した。
こいつが俺のものを誘惑した?
何を、どうやって?
こいつは、本当にヤバい。
駄目だ、俺が勝てる相手じゃない!
「『時覇空閃』」
宇宙空間の様な場所に引きずり込まれた。
さっきまでいたのだ、分かるに決まっている。
だが、俺の技を使われた事を認めたくない。
時空刀の能力を、こいつが使った事を、俺は否定せざるを得なかった。
だが、俺は忘れていた。
ここは、発動した者が完全有利になると──
「グハッ!」
白い光が俺を切り裂いた。
そうだ、ここに引きずり込まれた時点で俺は敗北に近しいのだ。
あいつを殺すか、俺が死ぬか。
だが、ここではまだ俺の自由が許されている。
何とか、薄い勝ち筋を見つけないと。
「まだ、耐えるのね。タフな男は私好きよ」
「はっ、その余裕かき消してやるよ」
「もうボロボロの状態なのに、どうするのかしらね」
「『超速治癒』これで元通りだ」
「……私、本当に貴方の底が分からないわ」
「俺ですら、分かっていないからな」
「そう、なら研究し尽くしてあげるわ!」
笑顔のまま、魔法を乱射してきた。
サキュバスは多様な魔法を使う魔物だが、この量は桁違いだ。
近づくことさえままならない。
それにしても魔法の発動が早すぎる。
いや、その事には見当はついている。
恐らく、『発動の恩恵』だろう。
偽物と思わしき者が持っていたのは、所詮借り物にすぎなかったのかもしれない。
それを回収する為に、死者を冒涜する様な行動に出たのなら、分かる。
単純に腹が立つからという理由なら、本当に怖いが。
流石に無いだろう、あの様な行動に出たのは恩恵の回収だと信じたい。
「貴方、もう私の魔法の秘密に気づいたのかしら?」
「わざわざそれを言ってくれるのはありがたい!」
必死に避けながらも、応答する。
無効眼を使わないのは、誘惑されたら怖いからだ。
一生返してくれないかもしれないから、ここで使う訳にはいかなかった。
俺は、この女の底が分からない。
現在分かっている状態でも恩恵は二つ、能力は判明していない。
まずはこの『時覇空閃』から逃げる事を目的としないと。
「『発動の恩恵』──超魔法発動」
あの女が使った技か?
新しい技か?
どちらにしろ、発動するまでに潰しに行かないと。
だが、様々な魔法が邪魔して直接叩きに行けない。
こいつ、一体幾つ魔法を知っているんだ?
くそ、駄目だ、超魔法を躱さないと!
「『天性の蓄積』」
大きな魔法陣が数個出現する。
魔法陣の中心で魔法がチャージされる。
有り得ないくらいの絶大な魔法だ、回避するのは難しい!
「『破魔砥絶』──ッ!」
「『天性の魔砲』」
我慢比べだ。
あの魔法陣が勝つか、俺の魔法が勝つか。
魔法が俺目掛けて放たれる。
レーザーの様な魔法が数本、破壊の意思を持っているかの様だ。
駄目だ、勝てない!
「『地龍耐久』──ッ!!」
胸糞悪いが、使うしかない。
今は手段を選んでいる場合では無いのだ。
使った瞬間、魔法が様々な方向に跳ね返った。
火花を散らし、俺を守る。
魔法はまだ終わらないのか、と思い前を向く。
『破魔砥絶』を使っているから、顔を上げる動作も遅い。
ようやく顔を上げれた時には、魔法は既に終わっていた。
『破魔砥絶』と『地龍耐久』を解除した。
女は驚いていた。
口を開けて、俺を見つめていた。
次の瞬間、女は笑った。
大きな声を上げて、大爆笑していた。
笑い声が止まると、ふふっと笑いながらも喋りかけてきた。
「貴方……本当に研究しがいがあるわね!いいわ、サキュバス何て、ヴァンパイア何て関係無いわ!この戦いで、貴方の全力を引き出して上げるわ!本当に面白いわね!」
魔法陣を大量に出現させた。
無限なのじゃないかと思うレベルで、驚愕する。
魔法陣が光り輝き、魔法発動準備が完了する。
「私の名はナスティー、さあ戦いを始めましょう!」
──ここから、俺の地獄が幕を上げる事になる。
──何時間経っただろうか。
俺にはそんな事を考える余裕なんて持ち合わせていなかった。
とにかく回避をしていた、それだけしか覚えていなかった。
ナスティーと名乗った女は、俺に向かって無限に魔法を放ってきた。
正確には無限じゃないとは思うが、そんなもの数えている余裕があるなら回避に頭を使う。
今なら分かる、誰かを連れて来たら良かったと。
誰でも良い、本当にだ。
「貴方、そろそろ限界じゃないの?」
『時覇空閃』の特性による白い光。
無限に放たれ続ける魔法を全て回避する事なんて出来なかった。
治癒魔法も連発出来なかった。
俺の姿は常人が見れば絶句するだろう。
一の事件で起こった俺の体よりも酷い状態だ。
体の部位全てが血で染め上がっていると言っても過言では無い。
「はぁ、はぁ……ウグゥッ!?」
白い光の発動のペースが上がってきた気がする。
時間が経てば経つほど攻撃速度が上がっていくのか。
これはいい発見だ。
だが、その前に俺はナスティーを倒さないと。
「貴方……そろそろ、諦めたら?私、貴方を殺したりはしないわ、ただ解放もしないけど」
「ふっ、それは……笑わせてくれるな……俺がその提案を、受けるとでも……?」
「そう、まあ分かっていた結果ね。なら無理矢理奪いに行くまでよ」
また、魔法陣を無限に出現させた。
実際は有限なのだろうが、俺にそんな余裕は無い。
駄目だ、無理だ。
諦めるしか、無いのか……?
『また会える日を楽しみにしていますね』
そうだ、オニシエントは言ってくれたじゃないか。
去り際に、俺と会いたい、と。
『お前はいつも俺の心にいる』
そうだ、俺はファルド先輩を勇気づけた。
それに、俺の心にも、ファルド先輩はいるんだ。
そうだ、俺は愛されているんだ。
ここで死んだら──男が廃るだろうがッ!!
「『腐恐悪音』──!」
魔法陣を恐怖に陥れる。
その瞬間、魔法陣全てが消え去った。
恐怖に陥れるだけで無く、腐らせたので、あれ程の魔法陣をもう出せないだろう。
今度こそ、出し惜しみは無しだ。
「世界『全てを創りし始まりの世界』」
『時覇空閃』の特殊世界が塗り替えられる。
『創成』の世界、初めて使う。
でも、何故か分かる。
いつの間にか、俺の苦痛は無くなっていた。
体を見ると、全ての傷が無くなっていた。
そうだ、俺は『創成者』だ。
全てを思い通りに出来るんだ!
「何よ、ここ……」
「俺の世界だ。特別だよ、あなたが初めてなんだから」
「まさか、力をまだ隠していたの……!?」
頷く必要も無いだろう。
この世界が証明しているんだから。
俺はついつい本気を出さない。
世界だって、今まで一度だって使わなかった。
だが、俺の頭の常識はこの戦いで崩れた。
常人?知らないな。
俺はもう、戦いに狂った獣だ。
「なんだ、この力……溢れ出てくる……」
何かが俺の中で高まってきた。
やがて最高潮に達して、気分が高揚した。
限界突破した時よりも、強くなった気がした。
これも、知っている。
知っている気がする。
「これが……限界の先……」
常識を捨てないと分からないこの感じ。
この戦いをして、本当に良かったと思う。
戦闘狂が体験する、この強さ。
前のままの俺には一生分からなかっただろう。
「……そうか、極限、か」
そうだ、極限だ。
限界を超えた先、それが極限。
これなら、俺は何もかもを出来る。
極限を体験出来た、これは良い事だ。
じゃあそろそろ、相手してやるか。
「待ったか?」
「いいえ、貴方を見学する事が出来て嬉しいわ。もう始める?」
「ああ、じゃあ……終わりの力を見せてやる。限界を超えた、その先の場所を、だ」
そう言うと、俺は極限に至った肉体で殴りかかった。
ナスティーの頬に一発で痣が出来た。
それだけで無く、衝撃波がナスティーを吹き飛ばした。
だが、ナスティーの後ろにゴム製の柔らかい壁を創り、跳ね返させる。
更にアッパーを決め、上空に叩き上げる。
飛び上がった先にも壁を創り、跳ね返させる。
猛スピードで落下し、地面に叩きつけられる。
ヒビなんて次元じゃなかった。
出来上がったのはクレーターだ。
これが極限、凄まじい。
極限の権能も使いたくなった。
使わせてもらおう。
「極限大罪──『極限攻撃』」
その瞬間、俺の体から攻撃の欲求が迸った。
赤光りする拳で殴り、殴り、殴りまくる。
最後に蹴りを鳩尾に入れる。
今の攻撃で内蔵全てが傷ついただろう。
全身が複雑骨折し、痛みが消えないだろう。
立場逆転だ。
「さあ、限界の先を冥土の土産にしたんだ、これで充分か?」
「……ふふっ、貴方、私に対しても優しいのね」
「優しくなんかはしているつもりは無い。死に行く者への礼儀のつもりだ」
「それが、優しいと言っているのよ……」
ナスティーは立ち上がり、構えた。
極限に立ち向かえる筈も無いのに、命乞いも何もしなかった。
その姿が、魔物ながらも格好良く感じた。
人のあるべき姿を、この女は持っている。
それだけで、俺は満たされた。
ここで起きた全てを終わらせる覚悟を持ち、立ち向かう。
『創成』の世界が蒼く光り輝く。
最後の戦いを見届ける様に。
俺の世界が、俺の思いに応えた。
なら、俺のやる事はただ一つ。
第三の事件を、終わらせる。
「……さようなら、私の好敵手」
「じゃあな、俺の尊敬する魔物」
拳がぶつかり合い、鈍い音が響いた。
骨が砕けた、腕が悲鳴を上げている。
ただしそれは俺の腕では無く、ナスティーの腕だ。
顔を引き攣らせ、痛みに耐えている。
だが容赦はしない、心に決めたんだ。
最後の礼儀だ、受け取れ。
「『極限之武閃』」
ナスティーは散った。
儚く散ったのでは無い、確固たる意志を持って、散っていった。
彼女が生まれ変われるとしたら、人間が良い。
記憶を受け継いだ人間に生まれ変わって、また俺と巡り逢いたい。
また、会える日まで。
その時まで、永遠にさようならだ。




