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第24話 ブライアが眠る頃

シャイフォンが目を覚ました。

日時は分からない。

布団から出るシャイフォンに、救護室の担当は反応する。

おはよう、と声をシャイフォンにかける。

シャイフォンは、質問をする。


「何日たった?」

「君が眠ってから、五日くらいだね」


五日間も眠っていたのか、とシャイフォンは驚きつつ、五日前に起きたことを思い出す。

慌てて隣を見る。

ブライアがいたが、まだ眠ったままだった。

少し顔を歪めつつ、ふぅ、と落ち着く。

二人とも無事なのは不幸中の幸いだろう。

だが、ブライアだけが目を覚まさないのはシャイフォンの不安を煽る。

目を覚ますことを信じて待つのみだ。

救護室の担当から、五日間で起きたことを聞く。

簡単に要約すると、秋休みだが緊急全校集会が開かれ、伝説の地龍王が復活したこと、ガルが呼び起こしたこと、ブライアとシャイフォンが勇敢に戦ったこと、そして現状どちらも目を覚ましていないということだ。

シャイフォンは今目を覚ました。

学長が来るのは時間の問題だろう。

ちなみに、ガルは学校に来ていないが、退学扱いとなるそうだ。

そりゃあそうだろうと、当然のような顔で頷く。

地龍王を呼び起こし、あそこまで甚大な被害を及ぼしたのだ。

幸い、死人は出ていないが。

シャイフォンが一人になった時、あの人間を思い出す。


(あれは、やっぱり、グロウなのか……?)


シャイフォンはグロウと面識があったため、顔を覚えている。

何しろ、カーラの父親なのだから、当然だ。

そして、禍々しいオーラを放つ隣の男。

彼も、見知った顔だったが、種族はおろか、名前さえ覚えていない。

人間に化けた何かだろう、とシャイフォンは考えている。

そうでも考えないと、あそこまで禍々しいオーラを放つのは人間では不可能だからだ。

禍々しいオーラも、誰かに似ていた。

誰かも思い出すことが出来ず、シャイフォンの頭を悩ませるだけだった。

思い出すのを止めた頃、来客があった。

それは、シュヴァルツとファルド、ネルだった。

三人がカーテンを開けると、シャイフォンと目があった。

三人は用意された椅子に座ろうとしたが、シャイフォンが立ち上がった。

外に出ようとして、三人に声をかける。


「外の庭園で話そう、ここでは少々話しづらい」


苦々しい顔を浮かべながら、ドアを開ける。

三人も顔を見合って、ほぼ同時に席を立ち、シャイフォンの後に続く。


庭園にある藤棚のベンチに、向かい合わせになるように座る。

シャイフォンが一人で、三人が一緒に座るような形だった。

シャイフォンが、ゆっくりと語り出した。


「あの時……ブライアが、俺に『破魔砥絶(アス・ラルステン)』をかけたんだ。その後に、地龍王に『滅裂絶砕(ルガ・ベステッド)』を放ったんだが、地龍王は生きていたんだ……それで、助っ人が来て、ガルは逃げたが、地龍王は死んだ……完全にな」


その言葉を聞いて、三人は絶句した。

今言った二つの魔法は、極天魔法に分類されるからだ。

極天魔法とは、使える者は僅かなため、人々から忘れられつつも、知る人にとっては伝説級の魔法とも言われているからだ。

ブライアが、その魔法を行使したことへの驚愕と、自分を犠牲にしてまでシャイフォンを守る行動の勇猛さが混ざり合い、よく分からない感情に変化していた。

故に、三人は絶句した。

シュヴァルツが顔を下げつつも、重々しく口を開く。


「ブライアが目覚めるのは、いつになるんだ……?」


シャイフォンの答えは、すでに決まっていた。


「分からない。永遠に目覚めないかもしれないし、数ヶ月、数年で目覚める可能性もある」


呪印を刻まれた瞬間を脳裏で再生されるが、意識を切り離そうとする。

そんな曖昧な返事に、シュヴァルツは唇を強く噛む。

血が流れ出る程までに強く噛んだ唇は、血が付着していた。

唇から垂れてきた血を拭い、席を立つ。

どこに行くのかと尋ねると──


「特訓だ。ブライアがいない今、俺がここを守らなきゃいけねえ」


ブライアに差をつけられていることを、シュヴァルツは自覚していた。

剣術大会でシュヴァルツが勝ったものの、ブライアは基本的に何の武器でも扱えることをシュヴァルツは本能で理解していた。

だから、特訓という道を選んだ。

もう何も失いたくないから。

自分の手から、幸せが零れ落ちないように。

ブライアがいない今、シュヴァルツの心に火がついた。

闘志が、赤に輝く。

眩しいくらいに、正義が胸に秘められていることを、シャイフォンは理解した。

シャイフォンは、シュヴァルツに心を動かされた。

四の五の言っている暇なんて無い。

ブライアがいなくて不安になっている自分が恥ずかしく思う、とでも言うかのようにシャイフォンも席を立つ。

無言で、シュヴァルツの肩に手を当てる。

それだけで、意思疎通が出来ているかのように。

間もなく二人は、不死場に向かった。

取り残されたファルドとネルは、見舞いの品を持って、ブライアの所に向かうことにした。



──不死場にて

道中、言葉は交わさなかった。

不要だったからだ。

どちらも、集中力を高めていた。

至高を目指すために。


不死場に着いた瞬間に、剣と剣がぶつかり合い、澄んだ音が鳴り響く。

二人は飛び退くように距離を取った。

シュヴァルツは上段の構えを、シャイフォンは居合の構えをそれぞれした。

先に動いたのはシュヴァルツだった。

切り裂くように上から振り下ろそうとした剣は、居合の太刀によって、防御をすることとなった。

腹を両断しようとしたシャイフォンは、蹴りを左腹に入れようとするが、それを許すシュヴァルツでは無かった。

上に跳び、その足を踏み台にして大ジャンプをする。

剣先を下にして、落下攻撃を仕掛けるが、落下した瞬間、剣が縦に分かたれていた。

シャイフォンが弧を描くように斬撃を飛ばしたからだ。

綺麗に分かたれていた剣を見て、二刀流の構えに変えた。

まるで、刀のように端麗な剣だった。

ハサミのように首を刈り取ろうとするシュヴァルツの攻撃を避け、反撃と言わんばかりにシャイフォンは頭に剣を突き刺そうとする。

だが、頭を反り、バク転でシュヴァルツは退いていく。

シュヴァルツはこの状態だと剣を扱いにくいと思ったのか、修復する。


「『剣復回帰』」


『剣聖』には、剣を元に戻す技がある。

手から光が溢れ、切断面が綺麗に修復される。

もう一度構え直し、速攻を仕掛ける。

地を滑り、斬り上げる。

その剣は空間を斬り裂く。

『空聖の義勇』

シャイフォンは巻き込まれなかったが、シュヴァルツは立て続けに攻撃する。


「──ラァァァ!!」


『時聖の義勇』

時を越える。

いや、時を呼ぶ。

シュヴァルツが瞬間的に無数に現れる。

全員が、声を揃えて放つ。


「「「『聖戦斬華』──ッ!!」」


全ての剣が光り輝く。

光がシャイフォンを包み込む。

だが、シャイフォンは動せず。

腕を組んで仁王立ちをするのみ。

シュヴァルツが疑問に思うが、そんなことを関係無くシャイフォンに斬撃を見舞う。

光の華が舞う。

純粋な剣撃も炸裂する。

大爆発が生じ、煙幕が辺りに広がる。


「──強いな、お前は」


煙の中から声が聞こえる。

完全に決めにいった攻撃を耐えられて、驚愕するシュヴァルツ。

それと同時に、混乱もした。

シャイフォンが何かをした様子が無かったからだ。

ツカツカ、と歩く音がする。

シュヴァルツの方に向かっている。

剣を構え、警戒する。


次の瞬間──シュヴァルツが、圧死した。



──救護室では

見舞いの品を持って来たファルドとネルは、椅子に座り、ブライアを見つめる。

こんな幼い子が、という思いを抱き、尊敬する。

自分達でも無理だろうと思う行動を、難なくやってのけたのだ。

目を覚ましたら、たくさん褒めたい。

そんな想像をしているネルに対して、ファルドが席を立つ。


「どこに行くの?」

「不死場。俺だって、負けたくないからな」


ファルドの真剣な眼差しに、少し間を空けて、ネルは頷いた。

スタスタと歩いていくファルドの後ろ姿に、ある日の自分の父を重ねた。

災厄が目覚めた時の、あの日の父を。

ネルもその後ろに、吸い付くようについて行く。



──その頃、不死場では

何も無かったかのように、シュヴァルツが元に戻った。

近くのベンチに座り、休憩している。

シャイフォンは、隣で瞑想している。

シュヴァルツが話しかける。


「俺の技……どうやって耐えやがった?」


純粋に気になっていたことだ。

何もせずに耐えたとは有り得ない。

能力や特異体質ても使ったのだろうか、と考えている。

シャイフォンは、その質問に答えた。


「『破魔砥絶(アス・ラルステン)』だ」


話しただろう──と続けた。

シュヴァルツは、心底シャイフォンという存在に恐怖した。

魔力操作無しで、極天魔法を使った、その行動に。


「凄いな、お前……」

「まだまだだ……ブライアも、守れなかったから」


声のトーンを落としたシャイフォン。

拳を作り、握り締める。

シュヴァルツは、そっと手を重ねた。

安心しろ、と言わんばかりに。

目を開き、シュヴァルツを見つめる。

やがて、シュヴァルツが話し始める。


「…………俺だって、他人を優先しすぎたんだ。いや、それは正しい事なんだろうけど……自分の思いを、俺は優先すべきだったんだ」


それは、シュヴァルツの心意。

心の底から本気で思っているのだろう。

ブライアの、親友として。

ブライアの全てを肯定する、一人の人間として。

シュヴァルツは、己の全てをブライアに捧げることを、無言で誓った。

例え何があろうと、ブライアを最優先に。

二度と同じ過ちを繰り返すことないように。

ブライアが目覚めると信じて、前へ。

シャイフォンも、それに呼応する。


「確かに、他人ばかりを優先する者は、自分の大切な何かを見失うだろう」


これは、シャイフォンの経験。

カーラとの出会いで蓄えた、知識。

ブライアが眠りについて、分かった。

自分の求める『希望』が、その人間は持っていると。

シャイフォンは今、何を欲しているか。

過去に見誤ってしまった、『希望』?

違う。


──ブライア・グリーンドラゴンという、たった一人の転生者だ。

『希望』を求める為に、何が必要か。

シャイフォンは、ようやく分かった。

シャイフォンが立ち上がる。

目を瞑り、思いを浮かべる。

ただ一つの、闇に呑まれた光を浮かべる。

光は笑っていた。

だが、それ以上の闇が、覆い被さろうとする。

手を伸ばす。

ただそれだけの行動だけで、光に届くような気がした。


光を掴むために──シャイフォンは、『希望』を持った。

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