第22話 ガルの凶行、大波乱の事件
ったく、シャイフォン……荒い真似しやがって……
まあ、この時間に設定してくれるのはありがたかったけどさ。
第一試合はガルか。
少しおかしい感じがしたけど、大丈夫だったのか?
まあ、強いから別にいいんだけど。
お、もう始まるな。
『さあ、超期待の選手!ガル・ブルードラゴン選手の試合が始まります!対戦相手はカリィス・プラッティオ選手です!では、試合開始!』
さて、次はどんな試合をしてくれるんだろうか。
ワクワクが止まらないな。
ってあれ、全く動かないぞ?
お、カリィスが魔法を……って、効いてない?
もしかして、それが秘密兵器なのか?
感覚的には無効眼に近そうな感じだな。
「さてさて……そろそろ頃合いかね……」
お、もう攻撃が始まるのか。
一体どんな技を使うんだ?
「──さあ刮目せよ凡人共!全てを蹴散らせし最悪の龍がここに来たれり!全てを灰燼に帰す地の力が暴れたり!見るがいい、天災が、厄災が来る!いでよ『降臨魔法・地龍王』!」
──会場内が震え、地響きがする。
そんな事を思っていると──地が割れた。
異常事態だ!
今すぐガルを止めないと!
「待て、ガル、やめろぉぉ!!」
そんな思いも虚しく、空間がおかしな音を立てる。
破れて尽きてしまうような、そんな音が。
歪な闇が地の底から溢れ出て、その中から大きな龍が出てくる。
その大きさ、約六十メートル程。
四足歩行で甲羅を持つ、亀のような龍が現れる。
とんでもないような大きさに、会場はざわめき、悲鳴が響く。
これは、ガル・ブルードラゴンの──
──凶行だ。
第二の事件【地龍王復活事件】
「なっ……こ、これ程まで……なの、か……」
雰囲気だけで圧倒されてしまった俺は、足を止めてしまっていた。
逃げ出している観客の流れに逆らうように、もう一度足を進めて、ステージに入り込む。
その中には、シャイフォンがいた。
ただ一つ問題があるのだとすれば──
シャイフォンが、地に倒れ伏していることだろう。
「嘘だろ……シャイフォン……?」
だって、シャイフォンは亜天絶決も使えて、俺よりももっと強くて、こんな奴に負けないくらい、強いのに……
そんな、シャイフォン?
起きてくれ、起きて俺を安心させてくれ。
生きてくれ。
生きてくれ、立ってくれ。
声を出してくれ、動いてくれ、少しでも、いいんだ。
生きているって安心さえあれば……俺は、それで……
「うわああああああああああ!!!」
喚く、喚く。
泣き叫んで、声を荒らげる。
シャイフォンの近くに寄り、揺さぶる。
でも、起きない。
その先に考えたのは、昨日の言葉。
『……最悪、お前と俺、両方が死ぬんだ!』
まさか……嘘、だろ?
なあ、シャイフォン、俺はあんな別れは嫌だ。
お願いだお願いだお願いだ。
目を開けてくれ、目を、目を……
「その子は俺の友達だから殺すな、地龍王」
『そうか……この目の前のクソ緑龍だけを殺せばいいのだな、グルルルル……』
ふざ、けるなよ……
クソ緑龍だと?殺せばいいだと?
俺は、殺すなだと?
舐めた真似、してくれる!
殺す、俺の理性が無くなってでも、殺す。
目の前の亀だけは、許さん。
ガルも、許さん。
まとめて、殺してやる!
「殺す、何がなんでも、殺す、お前らは、許さん!!」
無言で合図をする。
何も無い空間からサリューズを取り出す。
一対二、圧倒的不利な状況。
俺の数十倍は強いだろう、この二人は。
ただ、それは俺が出し惜しみをしている時だ。
隠す必要も無い、どうせ地獄に落ちるのだから。
冥土の土産にでも持っていってもらおう。
「『殺・太陽』──!!」
渾身の、今までに無いくらいの声量と威力が二人を襲う。
だが、直撃しなかった。
それどころか、守られてしまった。
「そ、そんな……嘘だろ……」
そんな俺を嘲笑うかのように、ガルが俺に向かって話しかけてくる。
「ブライア、すまないな、これも──俺の忠誠を誓った人の計画なんだよ」
けい、かく……?
一体何の計画を立てていたんだ?
いや、それは明らかになっているだろう。
何故、地龍王を復活させたんだ?
分からない、脳が分からないで埋め尽くされている。
ダメだ、何度考えても、分からない。
狂人の言っていることが、何一つ分からない。
どこからか無限に溢れ出てくる困惑が、俺の脳を焼き切るように埋め尽くす。
その時だった。
「ブラ、イア…………?」
「シャ、シャイフォン!!」
起きたのだ、俺が知る中での最強龍が。
だが、シャイフォンは傷を負っている。
俺の攻撃も通らない。
向こうは圧倒的力を誇る、傍から見てもおかしいと言わんばかりの戦力差。
俺の脳で、分からないが通り過ぎて、今度は虐殺、惨殺といった不吉な言葉が脳裏に焼き付いてくる。
不安を通り越した不安が、俺の心を揺さぶる。
応援が無ければ、本当に俺達二人は死ぬだろう。
だが、俺達は少しでも傷を負わせて次に繋ぐ。
応援が来ないなんて事は無いはずだ。
「シャイフォン、立てるか?」
「……ああ、もちろんだ」
よし、これでいける。
俺が時間さえ稼げば、シャイフォンが大魔法を使える。
俺が身を粉にしてでも、シャイフォンの盾になるんだ。
「シャイフォン、俺が時間稼ぎをする。お前は魔法を──」
「無理だな、魔力が尽きた」
「──……は?」
「お前が来る前に、復活した瞬間全魔力を使って地龍王の力を封印させた」
そんな、封印してこれかよ……
絶望が、目の前にいるのが分かる。
抗いようのない、絶対が。
途轍もない恐怖が、俺を襲う。
負ける、死ぬ……?
嫌だ、せっかく貰った命だ、無駄にはしたくない。
そうだ!『無限』があるじゃないか!
「シャイフォン、俺の魔力を貸し出すから、手を貸せ」
「それも無理だ……俺の体に触れると、『呪印』が埋め込まれるぞ」
「『呪印』って?」
「呪いだな。俺に被害は無いが、人間にはとんでもない苦痛だろうな」
くそ、これもダメなのかよ。
何をしたらいいんだ……
どうすれば、コイツらに勝てる?
「ブライア……俺が盾になろう、お前が大魔法を使え」
「何を言って……魔力もない状態で、盾になるだと!?」
「俺には、魔力を使わない魔法が存在するからな……」
「なら、それで……」
「地龍王には、ただの時間稼ぎにしか使えないだろうな……その間に、お前が『亜天絶決』みたいな極天魔法を使え」
「俺に、使えるのか……?」
「『創成』があるじゃないか……じゃあな、ブライア」
──ありがとう、シャイフォン。
『創成』頼む。
俺に、今までで最大の力をくれ。
俺の仲間が、誰一人傷つかない、絶対を。
絶望に抗え、ブライア──いや、太陽。
目の前のアイツが絶望なら、俺は希望だ。
『魔法創成・極天魔法』
シャイフォンが、頑張ってくれてる。
なら、俺はその頑張りに答えるべきだろ!
立ち上がれ、希望を持て!
詠唱は、いらない。
「ハッ、老けたな、地龍王」
『よく言う口だ……その存在ごと消してやろう』
「やれるもんならな!『三の刻み・緑爪鮮烈』!」
なあ、シャイフォン……
この戦いが終わったらさ、仲直りしような。
シャイフォン……絶対、だぞ?
涙が溢れる。
ようやく、お前が分かったよ。
俺を、気遣ってくれたんだよな。
俺の事が、好きだから。
好きまではいかなくても、俺の相棒だもんな。
危険に晒したくなかったんだよな。
これでもう、終わりだぞ。
魔力の制御が出来た。
いける、シャイフォンを守るために使え。
「『破魔砥絶』」
「な──ブライア!?」
「お前には、生きてて欲しいから──少し、固まっておけ」
『破魔砥絶』は、動きが遅くなる代わりに、一定時間絶対防御が出来る。
これで、俺の魔法が出来る。
シャイフォンを、死なせないために。
また、会うために。
ごめんな、こんな不出来な相棒で。
でも、お前だけは守るからな。
さあ、全てを使おう。
今度こそ、出し惜しみは無しだ。
「──『滅裂絶砕』」
大きな黒き波動が、地龍王とガルを飲み込む。
やがて球体になって、持ち上げられる。
放出された黒い渦が辺りを飲み込む勢いで吹き荒れる。
地を抉りとり、空を黒く染める。
俺が立っている場所以外は暗黒だった。
全てを蹴散らす最大魔法、それが『滅裂絶砕』だ。
その威力は計り知れないものだが、反動が半端ない。
俺が使うと倒れるレベルだ。
まさに、一撃必殺。
これで倒せないようなら、俺はコイツに勝つことは不可能だろう。
放出された、黒いエネルギーが超爆発を起こす。
天空にて、波動が吹き荒れる。
だが──その巨体がまだ存在していた。
傷だらけで、半身を黒く染めながら崩壊していく。
まだ、半身残っていた。
地に降り立った瞬間、ある事に気づいた。
ガルが、まだ生き残っている。
地龍王でさえ半身を失ったのに、ガルは身体中に擦り傷を残すのみだった。
そんな事実を目の当たりにしながら、吐血する。
「がハ──ッ!」
反動に耐えられず、身体中が軋む。
内臓が潰れかけているのが分かる。
骨は頭蓋骨以外はすでに折れているだろう。
だが、まだ生きている。
俺も、地龍王も。
シャイフォンはもちろん、無傷で生き残っている。
ここに居る全員が、生きていた。
顔を上げると、地龍王が変化していた。
『人体変化』
シャイフォンが使っている、一種の魔法だ。
地龍王がそれを行使した。
鮮やかな茶髪だが、先は黒く染まっている。
整った顔も、黒い部分が少し残っている。
身長は高く、大体二メートル程。
服はラフな格好で、左肩を出していた。
一見すると格好良く見えるが、その殺意を隠しきれていなかった。
目を見開き、俺に近づく。
「貴様……我にこのような傷を付けるなど……殺してやる!」
コツコツと、音が近づいてくる。
顔を上げる力さえ残っていなくて、完全にうつ伏せになる。
意識を保つので精一杯だ。
右耳の鼓膜が破れている。
左耳だけで聞いている状態だ。
激痛が俺を襲いながら、絶望を近づけさせる。
コツコツと、俺に引導を渡しに来た死神が、俺の頭を踏み付ける。
屈辱で怒りを覚えるが、力が、出せない。
こんな死に方をするのは恥だ。
次転生したら、真っ先にお前を殺す。
そんな奇跡が起きるかは分からないが、地龍王だけは俺の一生の敵になるだろう。
「とびっきりの激痛が走っているだろう、だが、そんなものじゃ生温い。我がここまでされたのは屈辱だ。ただの人間に、このような仕打ちをされるなど……拷問よりも恐ろしい殺し方をしてやろう」
やばい、早く意識を切れ。
眠りに着けば、死ねるだろう。
くそ、お前は許さないからな、地龍王……
──次の瞬間、轟音が飛び交った。




