第21話 魔法大会予選、超えた常識と大喧嘩
『さあ、今年もこの時期がやってきました、スティア王国魔法大会だー!今回はまさかのまさかの優先出場権持ちの選手がいます!それは先日の剣術大会で第三位という初出場にして好成績を残した、ブライア・グリーンドラゴン選手です!』
大きな歓声が会場に響く。
今俺は観客席にいるから、少し恥ずかしい感じもする。
まあ予選する必要が無いのは楽だし、シャイフォン以外には情報を知られない利点もあるから、貰えるのは相当良いんだろうな。
ちなみに俺は本戦一戦目第八試合目になる。
だから予選十六ブロックが無くなる。
俺は十五ブロックの選手と戦うこととなる。
ちなみにシャイフォン達のブロックだが、シャイフォンは四、母さんは十、アリスは十四、ゲシュナが八だ。
俺が知っているので強いのはその四人だ。
前に聞いたが、時雨は出ないらしい。
まあそりゃあお忍びの部隊だから当然っちゃ当然だった。
少し本気で戦ってみたい感じもあったけど、仕方ないな。
まあこの国は他にも強い人はいくらでもいるだろうし、試合はしっかり観戦しておこう。
お、もうすぐ第一ブロックの試合だな。
誰が……って、あれもしかして、ガルじゃないか?
よくよく考えたら、ブルードラゴンとインジゴドラゴンとパープルドラゴンは魔法家系だったな。
ならその三家が出場している可能性が多いにあるな。
まあ楽しみにしておくか。
『では第一ブロック、始め!』
──その瞬間、ステージ内全てが氷に包まれ、砕けた。
破片が辺りに飛び散り、氷が肉を中にしまい込んでいる。
その肉の正体は言うまでも無いだろう。
観客席の声援が止まり、実況者を含めた全員が絶句した。
その氷を放った元凶の人間は──
『な、なんと……だ、第一ブロック勝者、ガル・ブルードラゴン……選手……』
実況がようやく動いたかと思えば、現実を受け入れることが出来ないと言うように、言葉が途切れ途切れになっていた。
その宣言を聞いた後でも、観客席は時が止まったように、音一つ立てない。
無論、俺もだ。
あれ程の力を持っているなんて、想像していなかったからだ。
ステージ内にいるガルが、声を放つ。
「聞いたことがあるでしょう?『武破氷雪』」
『武破氷雪』とは、広範囲殲滅魔法の一種で、氷天属性を持つ者しか使えないとされる魔法だ。
威力も高く、ほぼ不可能だが、範囲を狭めば対個人氷魔法最強に負けず劣らずだろうとまで言われている程だ。
その魔法の範囲を、狭めたのだ。
魔法協会が不可能とまで言っている魔法を、だ。
とんでもない人間だ。
いや、人間かどうか怪しい。
俺ですら不可能で、シャイフォンも使えるか分からない魔法を、たった十歳の人間がやってのけた。
この場で、覆したのだ。
広範囲殲滅魔法の範囲限定不可能の、常識を。
この場で、証明されたのだ。
ガル・ブルードラゴンという人間は、常識すら超えてしまう、この国随一の化け物だと。
この歳で、親父と同レベル、又はそれ以上。
『無天無双』を使ってギリギリ勝てるかどうかって所だろう。
それ程までに、この化け物は強いと、全員が理解した。
そして、優雅に去っていくガルの後ろ姿が、俺には妙に寂しく見えてしまった。
『さ、さあ気を取り直して、第二ブロック、始め!』
その後の二ブロック、三ブロックの試合なんて、記憶に残っていない。
『武破氷雪』──この技が脳の半分を占めたからだ。
何度分析眼と『記憶』で分析し直しても、不可能な理論だったからだ。
あまりにも無理矢理な理論だったからだ。
そして、俺に理解することは不可能だった。
無理、不可能、無謀……何度やり直して、何度計算して、何度も見直した。
けれど、それでも……駄目だった。
一体、どうやったのか……と考えていると、後ろから声がした。
「やあ、ブライア」
「……ガルじゃないか、試合お疲れ様」
「はは、ありがとう……君、顔色が良くないよ、何かあったのかい?」
そんなもの、一目瞭然だろう。
元凶に言われて少し腹が立ったが、同時に我に返る事が出来た。
少し落ち着いたため、質問をする。
「『武破氷雪』──どうやった?」
「……やっぱり、それを聞くか……」
「質問に答えてもらおうか、ガル」
逃がしはしない。
俺が何度やっても理解出来ないのなら、聞くしかないのだ。
その質問にガルは、顔を暗くする。
「そうだね、それは僕が君と対戦する時……決勝で教えてあげるよ」
「それは、無理なんじゃないか」
「その理由は?もしかして、ゲシュナさんのことかい?」
「いいや、違うな……次の第四ブロック、見てろ」
次の第四ブロック……即ち、シャイフォンのブロックだ。
あれもこいつと同じ、化け物だ。
どんな試合をするか、楽しみだ。
ガルが、無言で俺の隣に座る。
そこで、実況の声が会場に響く。
『さあ、次は第四ブロックです!では、始め!』
──また、とんでもない光景が、俺の前に現れた。
その元凶は言うまでもなく分かるだろう……
シャイフォンだ。
かつて見たことも無いような超威力魔法を、放った。
地面が抉れ、観客席の結界が割れ、会場の天井が跡形もなく粉砕する。
その魔法は、御伽噺級の──言わゆる、伝説級魔法だ。
その魔法の名前を、俺は知っている。
その名は──『亜天絶決』
会場内が混乱する。
「そ、そんな……何でシャイフォンが、『亜天絶決』を……使えるんだ……」
人外……というより、本当に人じゃないんだが、事情を知らない人間はとんでもない焦りと驚愕を覚えただろう。
スタッフは狼狽えて、どうすればいいのか困っている。
隣のガルはと言うと……
「……君の言うことが、よく分かったよ。確かに、僕では勝てないようだね、悔しいことに……」
歯噛みして、その圧倒的までの実力差を目の当たりにして、畏怖している。
その当の本人はと言うと……
「──高く気高き理想を持つ人間達よ、我が怒りに巻き込んですまない……だが、あれだけは、絶対に許さない、始末する」
何に怒っているかは分からないが、少なくともガルが関係していることが分かった。
何の力を使っているのか……と思って横を見ると、ガルが笑っていた。
一体何を思って笑っていたのか……俺には生涯ガルを理解することが出来ないだろう。
その笑顔は狂気に歪み、新しい玩具を見つけたかのように口角を吊り上げ、嘲笑しているかのよう。
さっきまではそうじゃなかったのに、だ。
二人の関係には、大きな秘密を抱えているのだろう。
と思っていると、ガルが席を立った。
「ふふっ、いい事を教えてくれてありがとう、ブライア」
「い、いい事……?」
「さあて、それは何だろうね……」
小さな微笑みを返し、階段を登るガル。
何が何だか分かっていない俺は、一体どういうことだと考えたまま、その日を終わらせてしまった……
──翌日、大会休暇にて
今日は休みとなった。
会場が壊れてしまったため、修復をするそうだ。
シャイフォンが試合からずっと沈黙を保っている。
何を聞いても、教えてくれない。
嫌だ、と言って俺の言葉を一蹴し、俺に背を向けてスタスタと歩いて行くのだ。
だが、もう何も知らないのは嫌だ。
シャイフォンの力になる為にも、今日はシャイフォンから何が何だろうと聞き出す。
「おはよう、シャイフォン……聞きたい事があるんだけど……」
「嫌だ、教えたくない」
「……話せよ、シャイフォン」
「嫌だと、何度言えば分かる……俺がお前に教えることは、何も無い」
シャイフォンが顔を暗くして言う。
その一言で、俺は大激怒することになる。
「──いい加減にしろ、シャイフォン!」
「──ッ!」
「何で俺を頼らない?何で俺に何も教えない?俺が頼りないのは分かる、自分でも自覚あるさ!でも、俺はお前と契約した仲だ、何で身近な俺を頼らないんだ!何で一人で抱え込むんだ!そんなことしたって辛いだけだろ!お前が暗く辛いとこなんて見たくないんだ!俺はお前に、幸せであって欲しいんだ!だから、俺に何があったか教えろよ!」
「……せぇ……」
「何だよ、大きな声で話せよ!」
「うるせぇんだよさっきから!俺はこの事にお前を巻き込みたくないだけだ!これ以上首を突っ込むな!」
「試合で一般人を巻き込んどいて言うことじゃねえだろ!何なんだよさっきから!」
「……最悪、お前と俺、両方が死ぬんだ!」
「──ッ、死……」
「ああそうさ、本当ならお前に相談したいことなんて山程あるさ!でもそれは俺が解決することであって、お前まで巻き込んだらお終いだ!」
「だから、一般人巻き込んで言うセリフじゃねえだろそれは!お前はどうかしてるぞ!」
「ああどうかしてるさ!足の先から頭のてっぺんまで狂気に染まっているさ!だが、どうでもいい一般人より俺はお前の方が大切なんだ、だから巻き込みたくないだけだ!」
「どうでもいいってどういうことだよ!俺一人の命より沢山の命を優先しろよ!どうでもいいなんて事は無いだろ!そして、俺とお前が死ぬなら俺にも手伝わせろ!力になってやるから!」
「……龍族は、死んだら自分がいた場所に戻る。俺で言えば、緑龍界に戻るんだ。でも、お前が死んだら、元に戻ることは出来ない。だから、俺が死んでもお前を死なせたくない、それが理由だ」
「──話さないなら、読心眼を使うぞ」
脅しじゃない、俺は本当に使うつもりだ。
俺だって、シャイフォンの力になりたいだけ、なん、だ……
だから、俺は……読心眼……を……つ、か……
「明日の大会時間までには起きるように設定してある……俺はここを出ていくとしよう、じゃあな、ブライア……今まで、ありがとな」
「ふざ、けん……な……待て、逃げん……じゃ……ねえ、ぞ……」
床に倒れ伏し、意識が混雑する中で最後に話した言葉が、これだった。
こんなことなら、もっと喋っておけばと、眠る最後に思ったのだった……
──???では
「…………目覚めてしまう、か」
その男は、胡座をかいて瞑想していた。
目を開けると、前には一人の男が立っていた。
だが、その気配は人間とは異なり、禍々しいオーラだった。
凡人からしても分かるだろう、人間では無い、と。
その禍々しい男が、口を開く。
「ようやく目を覚ましたか……もう千年以上立っているぞ」
「そうか……だが、ようやくこの時が来た」
瞑想していた男は、老人よりもシワがあり、髪も髭も長くなっていた。
軽く十メートルは超えているだろう。
暗い洞窟の中、ポツポツと瞑想していた男の頭に水が滴り落ちる。
そんなことを気にしないように、瞑想していた男は禍々しい男に言う。
「そろそろ、若返らせてくれ、立てなくなっている」
「それだけ老化してりゃ、立てなくなるのも当然だろうなぁ」
クスクスと笑った後、その禍々しい男はその技を放つ。
「邪法『若返りの邪術』」
その後、瞑想していた男がみるみる若返る。
最初あった髭やシワも今はとっくに無くなっていた。
髪も鮮やかで短髪の緑色に変わっている。
そう、緑色だ。
その特徴を持つ人間達は、この世で一つの家系しかない。
「さて、行くぞイビル」
「やれやれ、グロウはせっかちだな」
グロウ・グリーンドラゴン。
当主以外の人間の認識は、正体不明の人間。
当主の人間としての認識は──
「これも、可愛い子孫達の想いなんだよ」
──初代グリーンドラゴン家当主。
カーラ・グリーンドラゴンと共に、歴史上から消され、人々から忘れられた──大偉人の一人だ。