第16話 黒幕の存在
どうやら、時雨の味方までも『時間停止』の巻き添えを食らったらしい。
まあ、俺としては数が少なるし、その方が助かるからいいんだけど。
時雨が俺の方にクナイを持って詰め寄ってくる。
最大まで引き付けろ……
「お前は、これで何も出来ない。お前は、俺の大親友で幼馴染の太陽の名を騙ったんだ、それ相応の報いは受けて貰わないとな」
そんなことを好き勝手に口にしていた。
どうやら、俺を捕まえて拷問するようだ。
たまったもんじゃないと思いつつ、時雨を俺の近くまで引き付けてから攻撃を仕掛けることにする。
「まずは、抵抗出来ないように四肢を削ぎ落とさないとな……」
クナイを、俺の手に刺そうとした瞬間、技を発動させる。
「『球・太陽』──ッ!」
「──なッ!?」
持っていたクナイが溶けたが、時雨の手はサッと引っ込めたためか、ダメージを受けなかった。
だが、時間が止まったのに動ける俺には、相当驚いている様子で──
「な、なんで、なんでお前はこの世界で行動が出来るんだ──ッ!?」
「さあな、どうしてだろうな!」
と言い、サリューズを二刀流にする。
けど、本物の時雨だから死なないように手加減をしなければならない。
「お前、まだ太陽を騙る気か?」
「俺の今の名前は、ブライア・グリーンドラゴンだ。俺を疑うなら、そっちの名前で呼んだらどうなんだ?」
「なら、言葉に甘えさせて貰おうか、ブライア!」
凄い迫力だ。
通常の人間なら、時雨の魔力を浴びた時点で気絶するだろう。
だが、この世界で力を得たのは、時雨だけじゃない。
俺だって、力をつけているんだ。
「『時間切断』」
クナイが、俺の前を通ろうとしたが、『球・太陽』により阻まれる。
どうやら、俺を時間の中に取り込む攻撃のようだ。
物理攻撃は俺の『球・太陽』で完封出来る。
というより、赤色の闘志を持つ者以外は俺の『球・太陽』をどうすることも出来ないだろう。
それに、『能力無効』も使っているのだ。
これで負けるなんて有り得ないだろう。
その時は、あの世で盛大に笑うとしよう。
笑えない冗談だけどな。
「クソ、何で、何で攻撃が当たらないんだ!」
やはり『弓道の天才』の名は伊達では無く、遠距離武器を使いこなし、『球・太陽』が無ければ全て俺に刺さっていただろう。
手裏剣、クナイ、短剣といった物を投げてくる。
しかし、全て溶ける。
太陽系惑星最強の温度がここにあるのだから、当然だ。
そろそろ、俺も反撃を開始する。
ただ、不死場だけは展開させてもらう。
不死場は、事前に複雑な魔法陣が必要で、発動させるにも条件が必要なかなり難しい魔法だ。
ただし、それは俺には関係無い。
何故なら俺には、『創成』があるからだ。
ただ、バレたら厄介なので、声には出さない。
『魔法創成・不死場魔法陣展開』
これで、死んでも復活出来るようになった。
「な、何だ!?」
「不死場だ、死んでも大丈夫だぞ」
「ふざけるな、俺はお前なんかに負けないぞ!」
相当混乱しているようだ。
負ける云々よりも、一瞬で不死場魔法陣を展開出来ていることに気付いていない。
そんな芸当が出来る魔導士なんて、殆どいないだろう。
さて、それじゃあ俺のお気に入り属性で終わらせますか。
ちなみに、雷だ。
「『属性剣術・雷波轟斬』」
光った瞬間、俺はすでに時雨の首を斬り落としていた。
後から、轟音が鳴り響く。
そして、時間を止めていた本人が死んだため、また時が動き出す。
その目の前の状況に、戸惑いを隠せない暗殺部隊達。
不死場は展開させてあるので、殺しても問題は無い。
「『属性剣術・雷光電斬』」
一気に全員の首を斬り落とし、剣を鞘に収める。
取り敢えず、誤解を解くまでは行動させたくないし、椅子にでも縛らせるか。
──数十分後
「これは、一体どういうことだ?」
時雨が復活して、そう聞いてきたが、ブーメランなのだ。
どういうことだと聞きたいのは、こっちなのだ。
「クソ、対象に捕縛されるとは、恥だ、早く殺せ!」
「そんなことする訳が無いだろ、それより、俺の質問に答えろ」
「嫌だね、太陽を騙るお前なんかに──」
あっそ、と思いつつ『心読眼』を開く。
まあ、本気で俺の事を信じてないらしい。
と思いつつ心を読もうとする。
「成程、誰かの命令で俺を殺しに来たのか、一体何のために……」
「お前、何をした!?」
「お前が話さないなら、お前の心を読むまでだ」
「な──」
絶句している様子だ。
俺もそう思うよ、時雨。
そんなことはどうでもよくて、誰の命令なんだ?
少しだけ見えた。
だが、暗くてよく分からない。
うお、いきなりノイズがかかった!
どうやら、そこまでして正体がバレたくないらしい。
……いや、待てよ。
そもそも、人の心にノイズをかけれる存在なんて、限られていないか?
よっぽどの強者か、暗躍している黒幕か、だな。
どちらにせよ、黒幕の存在は確定したな。
ここまで強い時雨より強い存在がいるとは信じたくも無い事実だけどな。
《俺が、その時雨よりも強い存在だぞ》
お前、いきなり出てきたな。
何の用だ?
《どうやら、その黒幕の大体の出身地が判明したぞ》
本当か?
それは助かる。
《一瞬見えたんだがあれは、多分だが加護だな》
……えっと、加護って?
《スティア国で言う特異体質のように、ソロミア皇国には加護というものが存在するんだ。あの力を解析すると、加護と一致したんだ》
成程、なら加護を使って時雨を俺にぶつけた、ということになるのか。
ソロミア皇国、か。
一体どんな国なんだろうか……
《ソロミア女皇が支配する国だな。『最大三ヶ国』の1つでな、最東端の国だな》
さ、『最大三ヶ国』か……
あれ、あと残り2つは?
《スティア王国と、レジェンダ帝国だな。レジェンダ帝国はレジェンドという帝が支配する国だ》
ほうほう……って、スティア王国も入ってるのか!?
初耳でビックリしたぞ……
んまあ、レジェンダ帝国のことは今は放置だな。
ソロミア皇国に行ってみるのも一つの手だな。
《いや、それはどうかと思うぞ。時雨を支配している存在が明らかになっていないのに、お前が行ったらお前も支配されるぞ》
ああ、そうか。
なら行かない方が得策か。
でも、時雨を支配するなんて、限られているとは思わないか?
《それは一理ある。だが、スティア王国とソロミア皇国は仲が悪いんだ、国がお前を行かせることに許可するはずがないだろう》
あれ、仲が悪いのか?
なら、きっかけさえ出来てしまえば戦争だって起きてしまうのか。
うーん、まだ不透明だし、警戒だけはしとくか。
《そうだな、それが良いだろう。あ、寮に帰ったら俺から話があるんだ》
ああ、分かった。
時雨達の問題を早く解決させるよ。
「よし、分かった」
「な、何がだ?」
「お前は、やっぱり俺の事を分かっていないんだ。俺が本物の太陽だったら、他の情報を全て知っている。違うか?」
「まあ、確かにそうだな……」
「だから、お前が聞くこと全てに答えたら、俺の事を信じてくれるか?」
「……まあ、いいだろう」
よし、乗ってくれた。
これで確定で信じてくれるはずだ。
さて、何を聞かれるのやら。
「俺以外の、太陽を含めた五人の二つ名を教えろ。まずは、剣光」
「『剣道の天才』」
「……正解だ、次は音成奏」
「『音楽の天才』」
「正解だ、次は黒淵深人」
「『勉強の天才』」
「正解だ、次は桜庭勇気」
「『武闘の天才』」
「正解だ……最後に、水下太陽」
「『運動の天才』」
「…………全問正解だ、信じよう」
「とか言って落とすのはナシだからな」
「約束しよう、ここまで完璧に答えられたんだ」
よし!
まあ、忘れるはずも無いからな。
前世が懐かしく思えてくる。
まあ、あれから十年も経ってるから、そりゃあそうなるのか。
あれ、もう十年も経っているのか?
時が経つのって凄く早いんだな……
さて、そろそろ拘束を解いてあげますか。
「ほら、立ちな」
「助かる。その、さっきは……」
「まあ、いきなり転生って言われて信じろなんて言われても、信じれる訳がないからな、大丈夫だ」
俺だって無理な話なのだ。
転生した、とか言われてもバカなのかお前、で返すと思うからな。
攻撃はしないと思うけど。
「王国直属なんだろ?なら、治安を守るためなら仕方ないだろ」
「ああ、すまなかった、太陽」
「分かってくれたらいいんだよ」
と言い、握手をする。
これで騙されたら笑い者だ。
とか言ってる時は大体騙されないんだけどな。
俺の経験的にな。
「上で、詳しい話をしたい」
「ああ、俺が話せる限りなら、な」
同意してくれた為、俺と時雨は上の店の方に行く。
他のメンバーは、別の仕事があるそうなので、仕事に戻るそうだ。
上の店のカウンターに座る。
隣に時雨がいる。
「時雨、お前は一体どこに転移したんだ?」
「え?そりゃスティア王国だけど……」
成程、記憶まで改竄されているのか。
これは骨が折れそうだ。
この記憶を元に戻すって可能なのかな?
《それなら、『記憶』をもう一度創ってみろ》
あ、確かそんな能力があったな。
じゃ、もう一度創ってみるか。
『能力創成・記憶』
これで出来たな。
シャイフォン、能力内容確認出来るか?
《その程度、朝飯前だ。どれどれ……よし、説明しよう》
お、助かる。
《『記憶』の能力内容だが、完全記憶、記憶閲覧、記憶改竄、記憶消去、記憶復元だな》
分かった。
じゃあ、『記憶復元』を使えばいい訳か?
《いや、どうやら発動条件が厳しいようでな、視線を合わせないといけないらしい》
それだけでいいのか。
戦闘中には使えなさそうだけど、便利だな。
「よし時雨、俺と視線を合わせてくれ」
「え、何でだ?」
「いいからいいから」
「ああ、分かった……こうでいいか?」
「よし、『記憶復元』!」
よし、これで元に戻ったはずだな。
さて、改めて聞いてみるか。
「お前、転移先はどこだった?」
「ああ、ソロミア皇国だな」
よし、変わってる!
やっぱり、ソロミア皇国が関係していたのか!
さて、ソロミア皇国は許さないとして、だ。
他の質問もしないとな。
「お前、記憶改竄されてたんだよ」
「ほ、本当か!?」
「ああ、本当だ。今記憶を戻したんだが、誰がやったか心当たりはあるか?」
「ええとな……剣を持っていて、騎士のような服装で……確か、城に連れて来られたんだ。怪しいからって」
「成程、有難う」
これできっかけが出来たな。
父さんに報告して、王様に言っといて貰わないと。
でも、今の特徴だとどこにでもいるんだよな。
流石に分からないな。
でも、城だけは分かるな。
よし、これでいいかな。
「ありがとう、時雨。またこの店に食べに来るよ」
「ああ、俺としても助かった。毎日来てくれてもいいんだぞ」
「学校から離れているから、それは難しいかもな」
「それは残念だ。まあ、寄り道することがあったら来てくれよな。次は美味しい料理食わせてやるから」
「楽しみにしとくよ、時雨。あ、来てもまた俺を暗殺しようとすることが無いように」
「はは、次からは気をつけて行動するよ」
手を振り、時雨と別れる。
おし、後は貴族学校の寮に帰るだけだな。
最後に、メロンソーダを買って帰るか。
いくつ買おうかな……
お土産とか、自分で飲みたい分もあるし、結構買わないとな……
──ブライアが去った後
「ようやく記憶が戻ったか」
「誰だ──ッ!」
「俺だ、光だ」
「な──」
「ずっと、見てた。まさか、お前が不覚を取るとは思わなかったぞ」
やれやれ、と言わんばかりに手を振り、時雨に近づく。
その行動に、苛立ちを隠せない時雨。
「うるせえ、誰だってミスするだろ。それより、ずっと見てたってどういうことだ?今、俺と会ったばっかりなのにか?」
「俺の能力だ」
と言うと、光の粒子が出現した。
その粒子は意思を持っているようで、時雨の周りを飛び回る。
「どうだ?これでずっと監視していた」
「なら、俺の記憶を改竄した張本人が分かるんじゃないか?」
「ああ、もちろんだ。教えようか?」
「当たり前だ、早く教えろ!」
答えを急かす時雨に、落ち着いた表情の光。
そこに、光の爆弾発言が投下される。
「──アーシル・リーバルブ。リーバルブ家出身で、当代の聖剣保持者だ」
その言葉に、時雨は絶句する。
アーシル・リーバルブ。
ソロミア皇国に属する剣の名家、リーバルブ家の人間で、『聖剣』に認められた、トップクラスの実力を持つ人間。
シュヴァルツの『剣聖』とは違い、真の『聖剣』の能力を持った騎士。
シュヴァルツが変化させた聖剣とは比べ物にならない程強い効果を持つ『七将剣』の一つ。
だが、絶望はまだ終わりではない。
「どうやら、女皇のソロミアまでもが関係しているようだ。よく無事だったな、お前」
「な、何だよ、それ……絶対に勝てない相手じゃないか……」
「だから、教えたくないんだ。さっきのブライア──いや、太陽に絶対に教えるな。分かったか?」
「ああ、分かった」
首を縦に振る時雨。
そして、光は別の場所に行こうとする。
また、親友達を探す旅に出るのだろう。
呆れたように、光を見る時雨。
「お前、相当暇なんだな」
「そうでもないぞ、まあお前には関係無いが」
「──全員見つけたら、また皆で集まろうな」
「当たり前だ、じゃあな」
振り向くことなく、光はシュン、という音を立ててその場を去る。
時雨も、店の仕事に手をつける。
ブライアの五人の親友が集まる日は、来るのだろうか──