第15話 幼馴染
武器の授業であいつらを片付けた後だが、その後はやっぱり大人しくなった。
まあ、勝てると思って挑んだ相手に大敗をしたのだから、当然っちゃ当然だった。
復讐などまるで考えていない様子で、ひっそりとしている。
まあ、あいつらのことはもういいとして、だ。
今、俺の目の前には信じられない光景が広がっている。
何故なら──
──俺の、前世の幼馴染が、目の前にいるのだから。
時は遡り、二時間前──
平民学校出張が今日で終わりなので、最後に一人で離れた商店街に行こうとした。
屋内にあるような商店街ではなく、外で露店を開いているような商店街だ。
しっかりと店もある。
そこでまず驚いたのが、この世界に炭酸があるのだ。
お酒があるのは知っていたが、まさか炭酸まであるとは思ってもいなかった。
肉まんであったり、炭酸であったり、驚かされてばっかりだ。
俺はとりあえずメロンソーダを買った。
この世界でもメロンソーダ、というらしい。
そして、目の前を見ると、果物も売っていたりした。
そこでアップリナ──リンゴを買い、歩きながら食べた。
いや、やっぱり前世と似ているものはやっぱり似ている。
魔法とか技なんて、欠片も残っていないけど。
リンゴを食べ終わったが、まだお腹が空く。
何かないか探していると、明らかにおかしいものを見つけた。
これで違和感を感じない方がおかしいくらいだった。
その店の看板に、大きく『饅頭屋』と書いてあったのだ。
おかしすぎる。
気になったので、当然店に入る。
受付嬢が席に案内してくれて、メニューを渡してくれた。
やっぱり、こしあんやつぶあんなどの饅頭が主体だった。
まさかの、フライドポテトもあったのだ。
フライドポテトと、つぶあん饅頭を頼む。
受付嬢が厨房にメニューを言うと、奥から声が聞こえた。
聞き慣れた声だった。
急いで席を立ち、厨房を覗き込む。
やっぱり、だった。
そこには、前世の幼馴染がいた。
名前は、涼岡時雨。
厨房に、「時雨!」と声を出す。
ビックリしてこちらを見てきて、首を傾げた。
そうだ、今の俺を知らないのか。
こっちに来い、と呼び寄せる。
──そして、現在に戻る。
「時雨、久しぶりだな」
「えっと、ごめん、誰?」
声もやっぱり変わっていない。
まあ知らない人に名前を知られているのだから、困惑するのも無理はない。
「聞いて驚くなよ……俺は、水下太陽だ!」
「──……え、まじ?」
「まじだよ、ほら、証拠に俺名前知ってたじゃん」
「え、まじか信じられない……なら、俺の二つ名とか知ってたりする?」
「もちろんだ。『弓道の天才』だろ?」
忘れるはずがない。
俺の友達で、幼馴染なのだから、忘れてはいけないのだ。
まあ、知ってた訳だから当然驚く。
「ええ!?ホントに太陽じゃん!え、転生したの?」
「どうやら、そうみたいなんだよな」
「凄いな……本当にあったんだな、転生って」
「俺なんて、今でも信じられないくらいだよ」
受付嬢が首を傾げてこちらを見るが、やがてすぐに仕事に戻った。
まあ、あの子がこの話に着いてこれるはずがない。
逆に、着いてこれたらそれはそれで驚く。
「あ、そうそう、お前に言わなきゃいけないんだった」
「え、何を?」
「実はな、お前が死んで五人帰ってる時にさ、白い光に包まれて、気づいたらこっちに来てたんだよ」
「え、俺以外の全員ってことか?」
「多分、そうなる」
え、なら他全員に会えるってことなのか?
時雨に会えただけでも幸運なのに、他の子にも会えるのか!?
「それで、会ったの?」
「いや、まだ会えていないんだ。憶測だけど、全員違う場所に飛ばされてる」
あ、そうなのか。
だとしても、異世界転移か。
白い光に包まれた……何か関係性がありそうだな。
「だけど、全員無事とは限らない」
「何でだ?」
「さっきも言った通り、全員違う場所に飛ばされてるんだ。だとしたら、戦争している地域に飛ばされたら……」
「巻き込まれるってことか?」
時雨も頷く。
考えたくは無いが、その可能性だって考慮するべきだ。
でも、戦争している地域なんてあったか?
俺の予想だと、無いはずだけど。
「てかさ、お前年とった?」
「それが、成長しないんだよ」
「マジでかよ。あ、それと能力とか持ってる?」
「持ってるぞ」
お、本当か。
なら、一体どんな能力を手に入れたんだ?
聞くのが楽しみだ。
「一体どんな能力なんだ?」
「それは──」
言おうとした瞬間、受付嬢が声をかけた。
「シグレ殿、任務の時間です」
「あ、もうそんな時間なのか。あ、なら太陽、着いてこいよ」
「いいけど、任務って一体……」
聞きたかったが、それを無視して準備を始めている。
てか、あれって──魔法陣?
何のために魔法陣を使うんだ?
「さて、じゃあ転移魔法陣も用意出来たし、移動しよっか」
「移動──?」
と言うと、またもや俺の言葉を無視して俺の腕を引っ張って魔法陣の上に乗った。
魔力が込められ──青い光に包まれて、どこかの場所に転移する。
そこは、森の中だった。
一体、何の用があるのか?
「なあ、任務って何だ?」
「ああ、それはな、暗殺だよ」
え?
あ、暗殺!?
「待て待て、暗殺ってどういうことだ?」
「俺、実はこの世界で暗殺者──というより、忍者やってんだ」
に、忍者?
あまりにも謎だ……
「見えたか?あれが盗賊団の拠点だ」
「と、盗賊団を暗殺するのか?周りの警備いっぱいだけど……」
というと、時雨が俺の手を掴んだ。
「絶対に、離れるなよ」
というと、時雨の周りに魔力が集中する。
紫色に光り、時雨の周りを覆う。
次に、俺の周りも覆った。
まるで、魔力に意思が宿っているようだった。
その次の瞬間、時雨はその魔力を解放する。
「『時間停止』」
言葉が響くと同時に、集まった魔力は霧散し、木々の揺れは止まり、盗賊団の警備が瞬き一つしなくなった。
音が消えたのかと思うほどに静かになると、時雨が話し出す。
「『時間』──それが俺の能力だ」
はぁっ!?と叫びそうになった。
嘘だ、と思いたいが、周りが動かなくなったのだ。
信じる他に無い。
「『時間停止』って、意外と使いにくいんだよな。無機物には触れるんだけど、生物とかには触れれないんだよな」
「そうだとしても、かなり強いじゃないか!」
そう、強いのだ。
だって、デメリットがそのくらいしか無いのだ。
俺でも対処不可能の能力だ。
「まあ、時間止めてるから時間制限とか無いから、その点で言えば使いやすいかもな」
「で、どうやって暗殺するんだ?」
「簡単だ、無機物とか、生物では無い物には触れれるんだ、だからコレを使う」
時雨が腰から、クナイを取り出した。
黒く光る光沢が凄く綺麗だ。
かなり磨かれたのだと思う。
リーシャのナイフよりも綺麗だ。
「クナイを首筋に当てると、このクナイも時が止まる。それを対象全員にしたら?」
「時が動き出した瞬間に、首にクナイが刺さるってことか?」
「そう、その通りだ」
だいぶヤバい。
完全に、俺よりも強かった。
本気で戦っても、俺が先に無効眼使わないと負けるだろう。
だが、魔力は一体どのくらい使うのだろうか?
「なあ、魔力ってどのくらい使うんだ?」
「まあ、ざっと二十万くらいじゃないか?」
量があまりにもケタ違いだった。
いや、まあ俺は魔力無限に出来るから人のこと言えないんだけど。
異世界から来た人間って、強いようにされるのか?
もしそうだとしたら、やりすぎだとは思う。
とか思っていると、テントの中に入っていった。
もちろん、外の護衛の首筋にクナイをつけてからだ。
中には、作戦会議でもしていたのだろうか、中央の机に集まっていた。
また、その計画も終わりなんだがな。
そして、時雨の作業が完了した。
単純な作業だったため、すぐに終わった。
そして、時雨が時を動かす。
「『時間停止解除』」
解除した瞬間、テントの中で血飛沫が舞った。
返り血がかかってきた。
だが、時雨は動じず。
やはり、手慣れていた。
俺は水魔法で洗浄し、風魔法で水気を飛ばした。
一応、時雨にもしておく。
「ありがとう、助かる」
「これくらいはお安い御用さ」
と言い、テントを出る。
やはり、外でも血が溢れていた。
だが、時雨はそれを気にすることなくその場を去る。
俺は、血を避けながら時雨を追いかけた。
「やっぱり、こういうことには慣れているのか?」
「ああ、最初はかなり抵抗があったが、平和になるのだと思えばいい事だ」
「確かに、正しいことをしているな」
俺とは違い、割り切った考えをしている。
俺も、そういうところは見習わないとな。
だからといって、感情を捨てていい理由にはならないけどな。
感情は人間にとって大事なことだし、それが無くなれば人間じゃなくなる。
言うなれば、人に似た何か、だな。
いきなり時雨が止まった。
時雨がしゃがみ、紙を広げる。
どうやら、帰りの転移魔法陣のようだ。
その上に立ち、一緒に転移する。
──転移した先は、店の中だった。
もちろん、時雨が経営する『饅頭屋』のだ。
「お帰りなさいませ、シグレ様」
声のした方に振り向くと、受付嬢とは違う女が立っていた。
「えっと、誰?」
「無粋な人間が、シグレ様の隣に立つな」
その瞬間、俺の首を斬ろうとしてきた。
だが、時雨が魔力を解放するだけで、動きが止まった。
どうやら、時雨には逆らえないようだ。
「これは俺の親友だ、手出しをしたら許さん」
「かしこまりました、親友様、失礼いたしました」
「え、ああ、大丈夫だよ」
問答無用って、やっぱり怖いな。
しかも、さっきとは態度が変わっている。
まあ、警戒心が無いよりかはマシか。
この女の子、時雨の配下的な存在か?
「で、この女の子は?」
「セレス、俺の配下筆頭だよ」
「配下……筆頭?」
「ええ、シグレ様は暗殺部隊の隊長です」
「え、そうなの?」
「本当だぞ」
だから忍者って言ってたのか。
暗殺部隊とか、物騒極まりないな。
どこに所属しているんだ?
「シグレ様は、王国直属の暗殺部隊の隊長ですよ」
「え、なんで分かったの?」
「顔に書いていますよ」
あ、表情に出ていたのか。
ってか、王国直属?
それって、だいぶ凄くないか?
「暗殺部隊は軍編成にするとだと目立つから、王国直属でも少数部隊編成になっているんだ」
「そ、そうなのか……凄いな……」
「俺はここに一時的に身を隠しているようなものだ」
確かに、堂々と行動したり、ヒソヒソと隠れたりするよりかは田舎で商売してたりする方がいいかもな。
目立ちすぎず、目立たなさすぎずってとこだな。
「なあ、王国直属っていくつあるんだ?」
「えっとな、俺達暗殺部隊、スティア国戦団、偵察・隠密隊、情報管理軍、魔法軍団、近代科学団、あとはよく分からないのが一つだな」
成程、強いのか強くないのか分からないな。
役割はなんとか分かるけど。
よく分からないのって一体何なんだ?
レインボードラゴンだけの部隊とかは普通にありそうだな。
だって、当主以外のレインボードラゴンの役割がイマイチ分からないしな。
だとしても、隠す必要性は感じられないけどな。
秘密の実験とかを行っていたりするのか?
「そうなのか、ありがとう」
「あ、お前の能力聞いてなかったな、何だ?」
不意打ちすぎる!
聞かれると予想してなかったし、どう答えるべきなんだろうか……
まあ、『紅蓮』って答えたらいいか。
「『紅蓮』だよ、じゃあ、また今度」
「また今度、じゃないな」
──目の前が突然、崩落した。
な、何だ!?
崩落した先は、地下のような場所になっていた。
そこには数人、俺を取り囲むように並んでいた。
これ、もしかしてだけど──
「あの世で、だな」
時雨が、俺を殺しにきたのか!?
「おい、どういうことだ?」
「そのまんま、お前はここで殺される。誰の入れ知恵かは知らないが、俺の名を知っているんだ。更に、お前は太陽の名を騙った。許されざる大罪だ」
「な、騙りなんてそんな──」
「弁明なんて、聞きたくないな。じゃあな、また地獄で会おう」
こ、これはヤバい!
『無効眼・能力無効』!
これで時間が止まっても俺は動ける。
「サヨナラだ──『時間停止』」