第14話 報復
──翌日
さて、今日はあいつらに目にものを言わせてやる。
散々嫌ってきた奴に叩きのめされたら、どんな気分だろうな。
まあ、俺も慢心しないで、慎重にいかないとな。
さて、布団畳んでっと。
確か、部屋で着替えてそのまま訓練場に行くんだっけか。
あ、エアス達起こさないと。
──訓練場では
「では、武器の授業を始めます。一学期の時に武器について習ったし、夏休みで練習もしたと思うから、ペアで戦ってもらいます。ここは不死場なので、安心して下さいね!」
と、説明をしていた。
武器も自由らしいし、どうしようか……
組もうと言われたら組む感じでいくか。
あ、エアス達3人はもう組んだのか。
えー、誰がいいだろうか……
「あ、あの、私と組んでくれませんか?」
あれ、この子って確か、隣の席の子だよな?
「うん、いいよ。あ、名前聞いてなかったね、教えてくれる?」
「あ、リーシャです、よろしく」
「よろしく、ちなみに武器は何使うの?」
「あ、ナイフです。もしかして、合わせてくれたりしますか?」
「うん、いいよ」
ナイフか。
軽量な装備だけど、持ち運びが便利だし、この子には合っている武器かもな。
金属ナイフだけど、特別性とかは無さそうか?
なら、俺も普通のナイフの方がいいよな。
『物質創成・金属ナイフ創成』
よし、これでおっけいと。
「じゃ、好きなように攻めてきていいよ」
この子の戦い方って一体どうなんだろうな。
どう考えてもパワー系じゃないし、繊細な動きで攻めてくるのかな。
──とか、呑気なことを考えていると。
「──ウリャァ!」
なっ!早い!
でも、この速度なら対応出来るな。
ナイフで斬りかかってきて、俺のナイフに直撃した瞬間──
「なっ!」
バコォン!という音が響き、さらに五回ダダダダダ!と音が鳴った。
しかも、衝撃まである。
何かしらの能力だ、これ!
「あら、油断してたんじゃない?ほら、まだまだいくわよ!」
まるで、さっきとは別人だった。
豹変しすぎて、二重人格を疑うレベルだった。
属性は多分風で、能力が判明していないな……
戦っている内に分かるか。
「ハァッ!」
次もさっきと同じが一回、さらに同じ攻撃がモーション無しで五回繰り返される。
これ、反復か?
いや、違う!
『重複』だ!
「成程、『重複』か。これは骨が折れるな」
「一発で見抜くなんて、凄い目ね。なら、先にその目潰しましょうか」
合っていたようだ。
だが、目を潰されるのは御免だな。
「『球・太陽』」
激突したナイフが溶ける。
持っている手も溶けるかと思ったが、一瞬の反応で後ろに引いた。
だが、これで武器は無くなった。
「さて、ナイフが無くなったが、どうする?」
「ふふ、私にはこのナイフがあるの」
そのナイフは、あまりにも黒かったが、キラリと光っている。
金属光沢も目立つが、風を象徴する紋章が1番目立つ。
そのナイフの名は──
「『黒き疾風のナイフ』……私が父に貰ったナイフよ」
その瞬間、俺に斬りかかってきた。
風速の速さだったが、俺は光速なのだ。
避けるなんて朝飯前だ。
「何故、この速度で攻撃しているのに避けれるの!?」
「簡単だ、俺の方が速いだけだ」
「あなたは、風速を超えるとでも?」
「ああ、余裕でな」
風速が光速に勝つなんて、天地がひっくり返っても無理な話なのだ。
だから、速さで俺に挑んでも、勝てるのは俺と同じ光速に達する人だけだろう。
俺はただ、この勝負は避けきればいいだけなのだ。
ただし、それじゃ面白くないので、光速は使わない。
「……速さで挑んでも勝てないなら、攻撃力で挑むわ。『攻撃重複』」
どうやら、さっきの攻撃はずっとこの能力を使用していたようだ。
まあ、それは属性でいくらでも出来る。
でも、あんなに大人しそうな子がここまで豹変するとはな……
人は見かけによらないって、こういうことなんだな。
そして、見ただけで分かる。
この子は、今のままじゃ俺には絶対勝てない。
だから、今回の戦いはこの子の育成を主にする。
攻撃パターンを増やさせて、育成するのだ。
それで強くなったらこの村を守る女騎士にもなれるだろう。
「もっと速くだ、攻撃が遅くて見切れるぞ」
「限界まで、限界までッ──!」
衝撃波が俺の横を通る。
ナイフで切り刻む様な動き方だ。
だが、全くと言っていい程当たらない。
当てずっぽうなのか、それとも別の目的があるのか。
後者なら、その後の行動に気をつけなければならない。
「今だ、『風乱衝撃波』──ッ!」
ナイフで切り刻む様な動き方は、魔法陣を描いていた。
どうやら、それが狙いのようだ。
俺も同じ技を打つ。
「『風乱衝撃波』」
相殺され、煙が舞う。
あの魔法はかなり高威力で、調節も難しかった。
まあ、そんなことを口にしたら舐めてるのかと言われるだろう。
まだ攻撃は続く。
だが、もうほとんど出尽くしたようだ。
この子は、育成したらかなり強くなりそうだ。
それこそ、俺が勝つのに手こずるような戦士になるだろう。
魔法も使えて、近接戦闘も出来る両刀型は非常に戦いづらいのだ。
遠距離、近距離どちらで攻めても対抗出来るからだ。
魔法だと、近接用も遠距離用もあるので、魔法を極めていれば困らない感じだ。
ちなみに、魔法には三種類の使い方がある。
安定の、詠唱魔法。
事前に準備をしないといけない、魔法陣。
そして、あらゆる攻撃に対処出来る、無詠唱魔法。
魔法は、詠唱すると魔法のイメージがつきやすく、成功しやすくなる。
ただし、詠唱する時間が場合がない時は、発動するのがかなり難しいだろう。
そこが詠唱魔法のデメリットでもある。
魔法陣は、事前に何かに魔法陣を描かなけれぼならない。
だが、魔力を込めるだけで発動出来るし、詠唱も必要ない。
リーシャは、空間に魔法陣を描いているが、あれはかなりの高等技術だ。
褒めるところしかない子だ。
そして、無詠唱魔法。
出来る人間は重宝される。
無詠唱だと、魔法のイメージがつきにくいのだ。
失敗すると、魔力だけが込められた魔力弾が放たれる。
しかも、その魔力弾は威力も弱いし、精度も悪い。
スピードを出すことは出来るが、鍛えても全く意味が無い。
失敗と分かりやすい。
マグレで無詠唱魔法を成功させるのではなく、成功率が百パーセントになれば、一人前の魔導士として認められるそう。
魔法使いは詠唱魔法が百パーセントで成功出来る人のことを指すそうだ。
だから、今の俺の立場は魔導士になる。
「なんで、なんで無詠唱魔法が使えるのよ──ッ!」
「ん?ああ、それは特訓の成果だよ」
とか俺は言うが、嘘である。
だって、魔法放ったら勝手に成功するんだもん。
意図せずに俺は無詠唱を使っているのだ。
無意識に無詠唱が使えるとか、努力している人を無下にしているみたいになるから、基本口には出さない。
例えどうマウント取られてもな。
てか、さっきから俺達の戦いが注目されている。
他のグループが手を止めるくらいの激しい戦いなのだろうか。
俺は避け続けているだけだから、俺だけ激しいと感じていないのかもな。
リーシャが立て続けにさらに連撃を仕掛ける。
『重複』も巧みに使用して、隙を狙いにきた。
「ウガァ──ッ!」
リーシャが気合いの入った声を張り上げて、一撃に集中させた。
ナイフは風を纏い、切れ味が増す。
その風はリーシャの周りで荒れ狂い、リーシャが意図せずとも俺を攻撃してくる。
ただ、俺に攻撃が当たらなかった。
無効眼を使っている訳では無い。
単純に避けているのだ。
それに苛立ったのか、風魔法を乱打してくる。
「風切、風切、風切──ッ!」
だが、怒りで攻撃が単調になってしまったため、これ以上は無駄だ。
早く終わらせよう。
殺さないようにしないとな。
殺したら、その苦しみで死にたくないと思ってしまうからだ。
「『光・太陽』」
光速の速さで距離を詰め、喉元にナイフを突き立てる。
その瞬間、リーシャが持っていたナイフがカラン、という音を立てて落ちた。
驚愕した顔で、俺を見つめる。
「はい、これでお終い、俺の勝ちだな」
「……強いのね、あなた」
「そりゃそうだ、貴族なんだからな」
周りから拍手が送られてくる。
一部の方からは拍手が聞こえてこないが、まあいい。
拍手が鳴り止んだ後、やっぱりあいつらが突っかかってきた。
「なあなあ、次は俺とやれよ。あの程度の雑魚に苦戦してんだろ?なら、俺なら勝てるんだよ!」
「はいはい、分かりましたよ」
気だるげに返事した。
教師が慌てて止めに来ようとするが、それを制止する。
「まあまあ、ここは僕が強さを見せつけますから」
と言ったら、向こうがブーイングしてきた。
死ねであったり、バカであったり、やっぱりガキだった。
そうされたなら、俺はこう言う。
「そんなに文句言うなら、お前達も俺に勝負しに来たらいいじゃないか。俺は多対一でも構わないぞ?」
と言うと、向こうがぞろぞろとやってきた。
ということで、ルールを決める。
「ルールはどうする?」
「簡単だ、死んだら負け、殺さなかったら勝ちにはならねえぞ」
明らかに自分達が殺されない、と考えないようだ。
俺は剣を『創成』で創り出し、準備する。
教師が開始の合図をしてくれるそうだ。
「で、では、始め!」
明らかに単調な動きで斬りかかってきた。
こんなの、技を使うまでもない。
「うりゃあ!」
と、まあ声も弱そうな声で攻撃してくる。
リーシャの方がよっぽど強かった。
俺は躊躇いもなく、一人の首を斬り捨てる。
その瞬間、全員の動きが止まった。
目の前で人が死んだのだから、慣れてない人からしたら当然だろう。
俺は何度も死んでいるので、こんなのは慣れっこだ。
慣れてはいけないんだけどな。
「こないのか?なら、今度は俺が攻撃する番だな」
まあ、属性は使わさせてもらう。
『属性剣術・雷鳴の響き』
──轟音が鳴り響き、紫電が放出される。
放出された先では、あいつらの仲間がこんがり焼けていた。
これでざっと六人は片付けた。
あと四人だ。
だが、足がガタガタと震え、戦える状況に無かった。
だが、俺は容赦はしない。
何故なら、向こうが先にやってきたし、ルールもそう決めたのだから。
因果応報とは、まさにこの事である。
「はぁ……雑魚が調子に乗ると、こういう目に合うんだ、分かったか?」
俺の言葉は最早届いてなかった。
目の前で友達が殺されたのだから、当たり前だろう。
さて、主犯格だけ残して、他三人をさっさと片付けるか。
「『属性剣術・雷光斬り』」
その剣は雷の如き速さで斬り捨てた。
断面は焼けていて、血は流れなかった。
主犯格は、尻を地につけていた。
涙目になって、恐怖で喋れない様子だった。
足もガタガタ震えて、失禁していた。
まあ、この恐怖に一般人が耐えろって言っても、無理な話なのだ。
剣を突きつける。
「お前の負けだ」
言葉なんて口に出来なくなっていたが、答える仕草は見えた。
最後くらいは、技でトドメをさしてやろう。
とびっきりのオーバーキルの技で、だ。
「さて、俺はこの技を使うのは初めてだ。しっかり、死ねよ──『殺・太陽』」
俺が剣を腹に突き刺すと、その瞬間体中から血が吹き出した。
成程、こんな効果なのか、と思いつつ剣を抜き、剣を鞘にしまう。
実験出来て良かった。
これで『殺・太陽』の効果も知れたことだし、全部とは言わないけど、大体の技は知ることが出来た。
死体を蹴ろうとしたが、流石に怒られそうなのでやめておく。
後ろに振り返ると、やっぱり震えて見ていたようだ。
こんなもの、公開処刑と何ら変わりはしないのだ。
当然と言えば、当然なんだろうな。
俺もあの環境で育っているため、普通の感覚が分からなくなってしまった。
やっぱり、この世界──というより、この世界の貴族はイメージと違って、やっぱりおかしいのだと再認識したのだった。