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第134話 魔女戦争──その5

「チッ、魔物が増えてきたな」

「ただ、魔女は見当たらない。恐らく、さっきの三体以外はあの城にでも籠ってるんだろう」


魔女の城が近づくにつれ、強力な魔物が増えてきた。

当然、こちら側も消耗はする。

この戦いに早く決着を着けなければ、被害は増える一方だ。


「止まれ!魔女だ!」

「当時に四体だと!?」

「⋯⋯チッ、この数の魔物に加えてこれかよ」


この場に姿を表したのは、焔、霞、空、花の四体。

強力な魔物も増え続けている一方での魔女の参戦は、俺達が圧倒的に不利。

──俺はクリーナと戦わなければならない。

レジェンド、クーキリスの二人は死の魔女と夢の魔女を倒す、と言っている。

そうなれば、残りで魔女と戦わせるべきは──


「ブライア、あの魔女は僕とユフィスティアに任せろ」

「⋯⋯だが、四体だぞ?」

「なら俺も行く、魔物は他の者達にも任せよう」


フィアセルト、ユフィスティア、ファルド先輩。

──確かに、この三人なら任せられる。

この三人が負けるなんて考えるな、ただ信じろ。


「⋯⋯分かった。俺、レジェンド、クーキリス、シュヴァルツ、親父の五人で中に入る」

「お兄様、フレートさんも連れていってください」

「──シャルナ、来てくれたか」


シャルナも無事に勝利したみたいだ。

──となると、ノラスもこちら側に呼んでおきたい。


「安心してくださいお兄様、元よりそのつもりです」

「⋯⋯ならいい、聖巫女のことも頼んだ」


──聖巫女、この存在はかなり大きい。

『聖法典』により、『聖法』の癒しの力と破邪の力を使用できる。

魔物を退けつつ、常に回復をすることで、無限に戦える戦士が誕生するのだ。

まさにこの戦いにおいて必須級の人物。


「──よし、シュヴァルツ!」

「お、あれだな!分かったぜ!」


シュヴァルツの持つ『魔糸』で、城の上空を覆い、向こうだけ魔法を使えなくさせる。

この作戦が上手くいけば、俺達の勝ちは固い。

──だが、嫌な予感がする。


──その予感が的中するように、魔女の城の頂上から、魔法が放たれた。

いや──あれは果たして、魔法だったのか。

それすら怪しい、最凶の技術だった。



「──ッ!?」

「俺の『魔糸』が破壊された!?」

「やっぱり、クリーナ⋯⋯ッ!」


クリーナは、魔女の手に落ちていた。

──となれば、俺はそっちに集中するしかない。

だが、俺の勝利には【絶界】は必須。

完全に覚醒するには、時間が必要だ。


「作戦は失敗。俺達は自力で勝つしかなくなった」

「なんなんだアレ!俺も戦いてぇ!」

「やめとけ、本当に死ぬぞ」



──こうして、ブライア、レジェンド、シュヴァルツ、フレート、クーキリス、ノラス、クライアの七人は魔女の城に乗り込んだ。

そしてその下では、光と闇が入り交じる大戦が勃発している。


「──懲りずにまた、僕に倒されにきたのかい?」

「⋯⋯ふっ、まさか我々だけだと思っていたか?」

「──何?」


上空から闇と岩の魔女が出現し、状況は最悪になった。


「でもいいもんねー!こっちには最強の指揮官がいるもん!」


ユフィスティアは大斧を肩に担ぎながら、シャルナを見る。

シャルナは真顔で魔女を見つめ──口角を吊り上げた。


「ふっ、人の道から外れてまで力を求めるなんて──哀れで仕方ないですよ、全く」


その言葉に最初に怒りを見せたのは、焔と岩の魔女。

漆黒のティアラを手にし、黒いドレスを身にまとった。

その行動がキッカケとなり、他の四体もティアラを手にし、本気の状態となる。


「ちょっと指揮官さん!?」

「いえ、これでいいんです。後は私が指揮をします」


そう言うと、ユフィスティアを無理矢理動かし、斧を振るわせた。

自分の意思関係なく動く様に、ユフィスティアは驚きを隠せないまま、魔女と真っ向から戦う。


「フィアセルトさんは『聖霊』になり、固定砲台になってもらいます。私の合図で魔法を放ってください」

「ああ、分かった」

「ファルドさん、ユフィスティアさんと前線で戦ってください。勿論、厄災アーガイルも引っ張り出してもらいますよ」

「了解」


ファルドも魔女と正面衝突し、戦闘が激化する。

降り注ぐ魔法は全てが即死級のものであり、触れてしまえば一瞬で死の淵へと追いやられる危険性に、体が震える。

──しかし、そこで流れを変える詠唱が響いた。


「『眠れる氷の姫、麗しき冷徹の女王。今こそ我の力となり、この世界を凍て尽くせ』──『永久凍土』」


超短文詠唱から放たれた氷は、魔女の行動を阻害し、足を凍らせる。


「『勇猛滅賦閃』」

「『武煌煉華』」


その隙を逃さず、岩と焔の魔女を仕留める。

両者頭を狙い、斧と魔法を叩き込んだ。

岩の魔女は斬断され、焔の魔女は潰された。

しかし、その光景を見て怯む魔女じゃない。


「『魔天霞獄』」

「『魔天闇獄』」


『魔天獄法』が二人に襲いかかる。

回避は不可能──かに思われた。


「油断しない」


シャルナが二人を引っ張り、救出した。

恐らくここで助けていなければ、二人は間違いなく死んでいた。

それ程までに『魔天獄法』は恐ろしい存在である。


「危ないね!ホントに助かったよ!」

「⋯⋯だが、魔女が魔女を食ってるぞ」


花の魔女は崩れかかる二人の死体を逃さず、食らっていた。

これで花の魔女は強化されたことになる。


「うへぇ、厄介だねこれ」

「誰から狙ったとしても、これじゃ行き詰まるな」

「魔女を食わせなければいい話です。花を狙ってください」


──シャルナがそう言うと同時に。

霞、空、闇の魔女三体は、花の魔女に身を捧げた。


「──ッ!?」

「ちょっとちょっと、これヤバイんじゃ!?」

「──少々、舐めていました。この方々の、人への恨みを。まさか自己犠牲の精神があったとは」


花の魔女は三人を完全に吸収すると、優しく声をかける。


「ふふふっ、私はいいんですよ?降参すれば、あなた方も我々の傘下に入れてあげましょう」



──彼女の過去は、実に悲惨だった。


「──ちょっと、カレン!」

「あら、どうしました?」

「どうもこうもじゃないでしょ!王様に呼ばれてるんだから!」


『花の魔女』ブルーム──以前の名は、カレン。

彼女は美しく、それでいて強かった。

今は複数の国があるが、以前は統一されており、大国シュファーランドという国に住んでいた。

彼女の親友の名はリリー。

カレンと同じ強さを持ち、戦いでも戦果を挙げている。


「私、戦いは嫌ですわ」

「今回は戦いじゃないわ。紹介したい人がいるんだって」


リリーに手を引かれ、カレンも走らされる。

王室に着いた時にいたのは、美しい女性だった。


「初めまして。カレン様とリリー様で宜しいでしょうか?」

「ええ、そうよ。あなたの名前は?」

「私の名はロベリアでごさいます。以後、お見知り置きを」


一目惚れしてしまうような、甘い誘惑の女。

優しく、美しく、それでいて丁寧な女。

カレンもリリーも、その女のことを一目見た時から信用していた。

──否、信用させられていたのだ。


「ロベリアさん、次の戦いなのですが⋯⋯」

「そうですわね、この戦いはカレン様がいて頂ければ助かるのですが」

「心は痛みますが、幸せの為なら尽くさせて貰いましょう」


──この時代の三大美女と謳われたのが、カレン、リリー、そしてロベリアだ。

戦場に立って戦果を挙げ、世界にも名を馳せていた。

大国シュファーランドはこの時代、スティア王国やレジェンダ帝国、ソロミア皇国とも並んでいた。

──しかし、二年後。

歯車が狂い始めた。


「王国騎士団団長リリー、貴様は国家転覆の罪として死罪に処す」


リリーが、冤罪にかけられた。

カレンが必死に弁明しても、判決は覆らなかった。

国民は騙されたと、リリーに対して暴言や確証のない憶測を口にする。

カレンは絶望した。

涙を流し、失意のどん底に落ちていた時、目の前に咲いていたのは──一輪の黒百合だった。


そして、更に一年後。

今度はカレンが死罪に処す、との判決になった。

カレンは、それを受け入れた。

自身もリリーと同じ場所にいけるのならと、諦めた。

死罪に処される前、一人の女に話しかけられる。

──戦友、ロベリア・アルカロイド。

彼女は邪悪な笑みを浮かべながら、こう言った。


「私の『悪意』に気づかないでくれて、本当にどうもありがとう」


彼女は、毒だった。

国を根元から腐らせ、この国を滅ぼす為に生まれてきた存在だった。

カレンとリリーは、それに気づかなかった。

彼女の罠にまんまとかかり、ただ死を迎えていくだけの道化に成り下がった。

──カレンはこの時、初めて人間を心の底から憎んだ。

リリーを殺した張本人であるロベリア、何度訴えかけても誰も信じない民衆、そして──救えなかった、自分自身。

彼女は、地に咲いていた一輪の黒百合を踏み潰し──魔力が渦巻いた。


「──ッ!?何よ、これ!」


大国シュファーランドは何故存在しなくなったのか?

理由は至って単純──覚醒した『花の魔女』による、無差別攻撃が行われたからだ。

当然ロベリアも死亡し、民衆も虐殺され、最後には焦土と化した。

手に持ったキンセンカを燃やし、灰を大地に降り注ぐ。

彼女には失望も、絶望も、悲しみも、何一つない。



こうして『世界一優しい魔女』でありながら、『世界一人を殺した魔女』が、誕生した。

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