第131話 魔女戦争──その2
「──まさか、誰一人として命中しないとは」
「俺達の軍は指揮官が優秀だからな!」
シュヴァルツは魔女に近づき、剣を鞘から抜く。
対する魔女は──ティアラを手に持った。
「私は『光の魔女』──お前達を滅ぼす者だ」
「シュヴァルツ・レッドドラゴン!お前を斬ってやる!」
『光の魔女』がティアラを着けると──暗黒の魔力の渦が起こり、黒いドレスを身にまとった。
(まさか、魔女がここまでなんてな⋯⋯)
シュヴァルツは顔には出さないものの、内心焦っていた。
奏はシュヴァルツに話しかける。
《安心しろ、俺が中にいる。それに──最悪、秘密兵器を使えばいい》
(確かにそうだな!じゃ、思っきり戦ってくる!)
大胆不敵かつ、勇猛果敢。
シュヴァルツはまさにこの言葉を体現している。
そこに、援軍が到着した。
「シュヴァルツ君、僕達もいます」
「ええ、ここは共闘といきましょう」
フィル、ラッシュ、ロードヴァンの三名が加わる。
「私が指揮を執ります、指示通りに動いて下さい」
シャルナも転移し、戦闘準備は整った。
最初に動いたのは──シュヴァルツ。
「『焔威聖剣閃』──!」
「打ち消せ」
魔女は迫り来る斬撃に動揺することなく、光を衝突させる。
煙が晴れた瞬間──そこには、フィルがいた。
「『黒金天裂』」
「『光幻』」
大鎌で切り裂いたはずの魔女は、もやとなって霧散する。
そしてそのまま、フィルの背後に現れた。
「まずは一人」
「──『黒金閃伐』」
迫り来る光線を、鎌で弾く。
──この三年で、フィルは尋常ではない程強くなった。
当然レジェンドの鍛錬あってこその強さだが、それ以上にフィルには才能があった。
相手にもよるが、世界大会に出場していれば、恐らくベスト8は狙えただろう。
「チッ、強いなお前」
「そりゃどうも──『朔望の恩恵』」
『朔望の恩恵』──レジェンドから与えられた、フィルの恩恵の一つ。
フィルの首にはペンダントがぶら下がっており、このペンダントが黄金に輝いた時、フィルの全身体能力が大幅に上昇する。
「『黒金朔月』」
透明化し、魔女の背後から大鎌を振るう。
しかし、魔女はそれに気づき、光を当てた。
「──今です」
「『魔導極意・強拳狂閃凶連』」
フィルの『黒金朔月』の透明化は、自身以外にも付与できる。
魔女の懐に完全に入ったラッシュは、『ゾーン』に入り、魔女に叩き込む。
「グ──ッ!?」
「──『勇敢なる強狂凶拳士』」
魔女を吹き飛ばし、自強化魔法をかける。
そして、そのまま吹き飛ばした魔女に接近する。
「──『光華永莉麗』」
「『聖焔烈架』!」
魔女の放った魔法を、シュヴァルツが斬る。
そしてラッシュはまた、魔女の懐に入った。
「『魔導極意・強撃狂舞凶霹』」
「舐めるな──『光景熾爆』」
「──『姿よ、幻となれ』」
ロードヴァンの魔法により、ラッシュは無傷で済んだ。
──ロードヴァン・スターフェードはこの世界で随一の転移魔法の使い手である。
本来転移魔法は座標の把握や空間把握能力が必要となり、高度な技術。
ロードヴァンはその技術に長けており、高頻度かつ正確に目標をその場所に転移させることが可能。
他の人間がこの芸当をしようものなら、脳の思考回路がショートする。
唯一無二の技術でありながらも、支援に徹するだけでなく、自身も強い。
八魔導士序列第三位という立場が、それを物語っている。
「──チッ、厄介な連携だな」
魔女は、シャルナを見る。
あそこから一歩も動かず、魔法の一つも放たない。
魔女は、シャルナが指揮官であると見抜いた。
しかし──見抜いたところで、それは意味を成さない。
「──『光影刺憐』」
シャルナの影から、光を放つ。
四人からは離れた場所、シャルナは回避のしようがない。
──否、回避などしなくていいのだ。
「──ッ!?」
「──ビックリした、いきなり体が動いた⋯⋯?」
光が迫ってくる瞬間、シュヴァルツの体が瞬時に反応し、光を斬った。
シャルナは一切動揺せず、魔女を見詰める。
「⋯⋯はっ、軍師気取りか?お前」
「私にできることは二つ。策略によって敵を滅ぼすこと、敵味方を思いのままに操ること」
魔女はシャルナがまだ幼い子供だということを見抜いている。
しかし、シャルナのこの言葉を聞いて戦慄した。
この歳の少女が、これ程の覚悟と自信を持って戦場に立っていることに、恐れた。
──そして、シャルナがその隙を逃すはずがない。
「──『黒金滅閃烽』」
フィルの大鎌が魔女の首を切断する。
そして、霧散した。
「やっぱり分身体です」
「だと思いました。下がりますよ」
シャルナは先程の戦闘で、全員の脳内に指示を送り出していた。
本来なら少し苦戦する技術を、シャルナは12歳にして会得している。
「──転移」
この場にいる全員を転移させる。
次なる戦いに備える為に、束の間の休息だ。
──進路方向にて
「──『焔の輝き』」
「『灼熱』──燃やし尽くせ」
炎を炎で掻き消し、接近して蹴りを放つ。
しかし、魔女は焔の障壁を作り、距離を取る。
「厄介な相手だな」
「それ、私からも言わせてもらうぞ」
『焔の魔女』と『灼熱』を持つクライア。
両者共に相性が良いとは言えず、状況は拮抗している。
「⋯⋯何やってんだお前」
「だってぇ、あの天使強いんだもぉん」
『霞の魔女』が『焔の魔女』の足元に吹き飛ぶ。
『焔の魔女』は気に留めなかったが、違和感に気づく。
「──おい、お前霧化は?」
「あははっ、やっぱり気づくよね」
『焔の魔女』の問いかけに、ユフィスティアは笑う。
ユフィスティアが手にしているのは赤い剣。
「ボクの斬撃は君の霞一つ一つを切り刻むことができる。君はそれを察知してずっと実体で戦っている。そうだろう?」
ユフィスティアの剣は原子どころか、素粒子すら斬る。
『霞の魔女』は直感でそれを悟り、迂闊に霧化することができなくなっているのだ。
「⋯⋯チッ、引くしかないか」
「そうだねぇ。じゃあ、ばいばぁい」
『焔の魔女』と『霞の魔女』は転移し、その場から消えた。
「ボクらも戻ろっか。多分ヤバイのが来て、全兵撤退してるっぽいね」
「そうみたいだな。戻るか」
クライアとユフィスティアも本部に転移した。
──別の戦場にて
「君は何の魔女だい?」
「私は『闇の魔女』だ。お前は確か⋯⋯フレートだったか」
「やっぱり知っているんだね」
『闇の魔女』が呼んだ魔物の増援を、殆ど消耗することなく殲滅した。
それも、一度も剣を抜くことなく。
「⋯⋯お前、強いな」
「そういう君こそ、あの量の魔物は大変だったよ」
「にしては、あまり消耗していないみたいだが?」
「そりゃ、僕は強いからね」
そう言って、フレートは剣を抜く。
『闇の魔女』はその純白の剣に目を見開く。
その剣は、あまりにも美しかった。
魔の存在である魔女を照らす程に美しく、純白の剣は──瞬きをした瞬間に、消えていた。
「──ッ!?」
「へぇ、反応するんだ。絶対遅れたと思ったのに」
フレートは首を斬ろうとしたが、魔力の壁に阻まれる。
「でも、所詮致命傷を避けただけ」
フレートがそう言うと、魔女の至るところに斬られた痕ができる。
そして白く輝き──爆ぜた。
「──ッ、な!?」
「ま、この攻撃を防いだところで、なんだよね」
フレートは魔女が瞬きした瞬間に、百を超える程剣を振るっていた。
まさに神技である。
「その傷があったら、魔力を維持するのも辛いんじゃない?」
魔女の魔力防壁の出力が、弱まっていく。
この白銀の剣閃を与えられた者は、自身の放つ魔法の制御が難しくなり、出力が低下する、魔導士殺しの剣だ。
「チッ──『闇ノ淵閃』」
暗黒の闇を周囲に生成し、闇の魔力がフレートに襲い掛かる。
しかし──フレートは笑った。
「──『白銀の賦静』」
魔女の首に迫ろうとしている剣を動かすことなく、左手の手刀で全ての魔法を斬る。
「な──ッ!?」
「君みたいな魔女は何をしてくるか分からないからね、手を魔力で覆って守らせてもらったよ」
『闇の魔女』の放つ魔法を素手で触ってしまえば、特質的な魔力の効果により敗北する。
フレートはそれに直感で気づき、手を魔力で防御した。
分析型に見えて、実は本能的かつ野性的な男なのだ。
「その魔力防壁、もういいかな?破らせてもらうよ」
パリン、と音が鳴り、魔力防壁が崩れた。
そのまま首を切断し──もやとなって消滅する。
「⋯⋯っと、分身体か」
フレートも、魔女の異様な弱さには気づいていた。
──魔女が本気を出せば、フレートですら危うい。
強い魔女というのは、それ程までに恐ろしいのだ。
「今回出てきたのは四体の魔女⋯⋯やれやれ、一体魔女はどれだけいるんだい?」
人々があずかり知らぬこと──それは、魔女の生息数。
どこにいるのか、どれ程強いのか、何年生きているのか。
人々を憎むということ以外、全てが謎に包まれている存在。
世界のイレギュラーであり、魔王と同格の存在。
「もうすぐ『大地の裂け目』は抜ける。このまま進めば、『凍える氷界』に行くことになるだろうね」
『凍える氷界』──全てを凍結させる『終末八地点』の一つ。
生き物が生息できず、あまりにも広い面積を誇る。
近くには『聖巫女』のいるグラシイデ聖国がある。
「ま、とりあえず僕は秘匿任務をこなさないとね」
フレートは別行動となり、ブライアに下された命令を実行する。
──果たして戦争は、どちらの勝利で終わるのか。