第13話 二学期開幕!
七月、前世では三年生の俺達は部活動引退の時期だった。
だが、この世界では二ヶ月で一学期のため、六月で夏休み、七月から二学期だ。
九月で秋休み、十二月で冬休み、そして三月で春休みだ。
秋休みがあると初めて知ったときは困惑したもんだ。
何せ、前世とこっちではかなり文化が違っていたし、休みは一ヶ月もあったのだ。
とても嬉しい。
まあその代わり十年間学ばないといけないけど。
そして、夏休みが終わり、今日から二学期だ。
シュヴァルツの宿題は何とか終わり、安心して二学期を迎えられた……はずがないのだ。
あのシュヴァルツとの戦いから、俺達は有名人になったのだ。
それは、クラス内でも同じことだ。
登校した瞬間、一斉に話しかけられたのだから。
もう、驚愕しか無かったよね。
ここまでか、とか思っていると、ようやく先生が教室に入ってきた。
「えー、静かに。始業式も終わったが、二学期は重要な行事がある」
何か重要な行事があるのか?
中々楽しみだな。
どんな行事なのだろうか……
「平民学校に、一年生が出張に行ってもらう」
えっと、一年生が?
いやいや、普通二年生以上が行くもんだろ……
簡単に言えば、研修とかか?
それにしても、一年生でか?
難しそうに思えるな。
「じゃあ、各クラス四人だから、このクラスからも四人決めたいと思う。志願者は?」
と、聞かれるとクラス全体が静まった。
だが、その静かさを消し飛ばした奴がいる。
エアスだ。
「はい先生、俺とタオ、ターコール、ブライアが立候補します!」
──は?
おいお前、待てよおい。
「先生、ちょっと……」
「他に志願者がいなければ決定するぞ」
あ、俺の話は無視なんですね。
ああ、終わった……
「よし、決まりだな。じゃあ四人、頼んだぞ」
「はい!」
元気いい返事したのは、エアスだけだった。
──自分の寮では
面倒なことになったな……
平民から見た貴族って、上で偉そうにして豪華な服装してる奴っていう認識なんだよな、大体は。
まあ、イメージアップにはちょうどいいとは思うけど、まさかそうなるとは……
暇だし、シュヴァルツの部屋にでも行くか。
「ういしょっと……あれ、シュヴァルツ、どうしたんだ?」
「暇だから来たんだ、お前は?」
「暇だから行こうとしてた」
考えてたことは一緒のようだった。
シュヴァルツを俺の部屋に入れ、飲み物と食べ物を用意する。
飲み物はもちろん、ジャスミンティー。
食べ物は、適当に冷蔵庫から取ったお菓子だ。
シュヴァルツの前に置き、食べ始める。
「なあ、平民学校に出張に行くことになったんだけど、お前は?」
「ああ、それは俺も行くぞ。学校は違うらしいけどな」
シュヴァルツも行くのか。
でも学校が違うのか。
「そうか、シュヴァルツの行くのか」
「お前が自分から行くとは思わないんだが、どうしたんだ?」
「エアスに行こうって無──誘われてな、それで俺も行くことになったんだ」
あくまでもエアスを悪く思わせないように言い直す。
まあ、あれは無理矢理だったんだけどな。
タオもターコールも嫌そうだったし、エアスが仲良い子と行きたいだけだったんだろうな。
なら、俺の事を友達と思ってくれてるって解釈でいいのか?
それはそれで嬉しいから良しとするか。
もちろん、平民学校には行きたくないけど。
「んーじゃ、何する?」
「何でもいいけど……お前、準備終わったのか?出張は明日からだぞ?」
「──え?」
「話されなかったか?俺は準備終わったから暇なんだと思っていたんだが……」
「マジで言ってる?」
「大マジだ」
「俺準備やってねえ!今からするわ!」
「前の宿題の時から立場が逆転したな、まああの時は助かったし俺も手伝うぞ」
「助かる。何が必要なんだ?」
「教科本は全く同じだから持っていくらしいぞ」
「分かった、次は?」
うわ、ちゃんと話聞いといたらよかったな……
シュヴァルツが優しくて良かった……
──翌日
もうすぐ出発だ。
出張は、大体二週間程度。
服装は、学校の制服。
向こうとでは多少デザインが違うらしいし、目立つと思う。
目的は、貴族の文化等を教えたりすることらしいが、俺の目的は違う。
俺は、貴族に好感を持ってもらう、という目的だ。
かなり難しいと思うけど、頑張ってみるしかない。
武術系の授業の場合、かなり力を抑えないといけない。
そうしないと、不死場が無かった場合、勢いで大怪我をさせてしまいそうだからだ。
そして、今から出発だ。
転移魔法は高度とされているため、使える者に限りある。
だから歩いて行くしかないのだ。
ちなみに、俺は転移魔法を使える。
でも、ここでそう言ったら、プランが台無しになってしまう恐れがあった。
だから、あえて言わなかった。
まあ、こんなに早起きしたのに転移魔法使っても、時間の無駄というだけだけど。
ちなみに、現在朝の五時。
平気で起きれる人もいると思うけど、俺は絶対に無理だ。
シュヴァルツに叩き起されなかったら、終わってた。
ここでもシュヴァルツの親切に救われたため、とても感謝している。
かなりのお人好しなのだ。
ただ俺に甘いだけかもしれないけど。
「じゃ、出発だ。行くぞ」
時間になったから、出発する。
──道中では
市街地を通って、平野に出る。
俺達はかなり田舎の方に行かなければならない。
幸い、強い魔物とかは一切出現しなかった。
出てきたとしても、スライムやゴブリン程度だった。
オークを見かけたりしたが、手は出さなかった。
別に敵対しなければいい話だからな。
とか思っていると、一つの集落が見えてきた。
かなり大きい方で、学校も大きかった。
そこでは、かなりの子供達が登校している姿が見えた。
同じ十歳の子には見えないくらい可愛らしげがあった。
俺もあんな子だったんだな……とか思い出に浸っていたら、教師が話しかけに来た。
「今回は、わざわざありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ迎え入れて下さりありがとうございます。お世話になります」
と言うと、学校を案内してくれた。
俺達の紹介は二時間目らしい。
一時間目は授業している様子を観察したり、どんな部屋があったりと見ていた。
そして、二時間目開始のチャイムが鳴る。
俺達は廊下で、教師が合図をしてから入ることになった。
「では、入ってきて下さい」
合図がしたので、扉を開ける。
まさに、その瞬間。
水の入ったバケツを投げられそうになったため、慌てて『球・太陽』を発動させる。
もちろん、温度操作もキチンとしている。
笑いの渦が出来そうになった瞬間に阻止されたため、クラス内が静まり返る。
いきなり水だけでなく、バケツごと溶けたのだから、そりゃそうなるだろう。
俺は、投げてきた張本人を見る。
「これは、軽い挨拶かな?」
ニッコリと、俺は微笑んでいるが、内心ではかなり怒っている。
初対面の人間に対する態度か!って怒ってやりたいけど、イメージアップのためだ、飲み込もう。
「チッ……気持ちわりぃ」
「コラ!何をしているの!」
「うるせぇな……分かったからよ」
教師が怒り出すが、まるで無視の態度だった。
はは、俺が別目的で来ていてよかったな、ガキ。
そうじゃなかったら激怒していた。
軽くこの教室を潰すくらいには。
それくらい俺は力をつけたのだ。
まあ、まだこんなものでいいだろう。
本当にヤバい奴はナイフ突きつけてきそうだしな。
「コホン、では改めて、貴族の四人です、仲良くするように」
拍手の音が、あまりにも小さかった。
しかも、だ。
「なあ先生、こんなガキに気使う程の奴らか?あんたの方が年上なんだろ?」
こいつ、マジで捻ってやろうか。
お前らの方がガキだろ──と、内心で悪口を言っておく。
まあ、教師の方が年上ってことは否定しないけど。
そんなこいつらを見かねたのか、ターコールが。
「おい……」
「ターコール、やめとけ」
「だが……」
「まあ、この態度になるのが普通なんだろうさ」
なんとか引き下がってくれたため、安心した。
まあ、俺もかなり怒っているんだけど。
教師がどんな反応するかなんだけど……
「はぁ……ごめんなさいね、あの子達、どうも貴族の事が苦手で……」
「こうなることは予想出来てましたし、大丈夫ですよ。すみません、気を使わせてしまって……」
出来るだけ穏便に済ませたいんだろうな、この人。
苦手というより、嫌いの方が合ってるからな。
おそらく、俺達に気を使ったんだろう。
「じゃ、席はあそこね、座ってくれるかしら?」
「ええ、分かりました」
俺はいつもの左後ろの隅で、隣は温厚そうな女の子だった。
あんな奴じゃなくて良かった、と思いつつ授業の準備をする。
授業準備していると、前の子が話しかけてきた。
「ごめんね、あんなガキ共に気を使って怒らないであげてくれて」
と言ってきた。
まあ、そりゃ目的があるからな。
「いえ、大丈夫ですよ。あなたは貴族が嫌いではないんですか?」
「嫌いじゃないかな、一学期で貴族は政治関連とかの問題を解決してくれてるそうだと習ったしね」
お、この子かなり良い子じゃないか。
優しくて嬉しいな。
「いえ、そんなことはありませんよ。今でも問題は山積みだと父さんから聞きますし……」
「そうなの?まあ、困ったことがあればあたしを頼りな。この隣の子も優しいしね」
本当に嬉しいな。
ありがたい、と思いつつ返答する。
「助かります、ぜひそうさせて貰いますね」
とか話していると、チャイムが鳴り、休憩時間になった。
そこからは地獄だった。
「なあ、お前調子乗ってんじゃねえぞ、ガキ」
なんと、俺の方に詰め寄って来たのだ。
まあ、そいつらのことは無視して立ち上がろうとした時、椅子を上に上げられた。
『速動』で避けれたが、危なかった。
机と椅子に挟まるところだった。
くすくすと笑いながら、俺の席から去っていく。
本当に、腹立たしい奴らだ。
授業が始まった。
今回の授業は算術で、簡単なところだった。
足し算とか引き算だった。
一年生レベルじゃないか、と思いながら聞いているとだ、やっぱり突っかかってきた。
「はいはーい、この緑の髪の子が答えてくれるそうですよ」
強制的に答えさせられたのだ。
まあ、簡単すぎたし、余裕で答えたけど。
あいつら、嫌がらせが執拗なのだ。
授業でも、休憩時間でもだ。
鬱陶しいため、武術系授業でシメてやろうと考えた。
まあ、今日は無いようだったけど。
この学校には、給食という制度があった。
貴族の学校では、寮で自分達で作って持ってくるか、購買で買うとかしかなかった。
だから、懐かしの給食の味が楽しめる。
……そんなはずもなかったのである。
給食を見てみると、何やら髪の毛が入っていた。
一本だったため、偶然かわざとなのか分かりにくかった。
髪を避けて、給食を食べる。
あまりにも塩が強すぎた。
パッ、とあいつらの方を見ると、塩の瓶を手に持って俺に向かってフリフリしていた。
せっかくの給食が……と思ったが、食べるしかない。
あいつらはどうやら、俺に狙いを決めているようだ。
他の三人は、みんなで楽しく食べていた。
早く明日にならないかな……
このままじゃ、塩分過多になってしまう。
時間割を確認すると、明日の一時間目に武器を使う授業があった。
一時間目からは面倒だと思ったが、俺は逆にチャンスだと思った。
しかも武器だから、あいつらに目にものを言わせてやる。
で、一日が終わった。
今日は学校開始二日目だったため、短縮授業だったのだ。
俺達だが、学校の空き部屋を貸してもらえることになった。
掃除をして床のゴミを掃いて、布団を敷き、荷物を並べた。
明日の授業をして、少し村に遊びに行く。
何か食べ物もあるのかな、とか思ったりもして、外に出る。
イライラした時は、何か食べるに限るのだ。
ふと、そこで美味しそうなイラストが見えた。
入ってみると、店内は綺麗だった。
メニューを見てみると、どうやら肉まんのようなものを食べれるようだ。
それを人数分、四つ頼んだ。
まさか、こっちでも肉まんを食べれるとは思いもしなかった。
ちなみに、この世界では肉まんのことをミーラトンと言うらしい。
やっぱり原型が無いなと思いつつ、来た肉まんを食べる。
味は普通の肉まんだった。
持ち帰りもして、学校に戻る。
その肉まんを食べつつ、俺は考えた。
どうやったら仲良く出来るのかを。
結論は、あいつらとは無理だが、他の子なら出来る。
あいつらとはどう頑張っても無理だ。
なら、他の子と絡んだ方が結果的には良くなるのだ。
放置して無視を決め込んだら諦めて……くれなさそうだな。
「なあ、今から遊ぼうぜ!校庭使えるらしいし!」
「お、それはいいな、何する?」
「んー、その場のノリ!」
エアスらしいな。
確かにその場のノリの方が楽しいのは分かるけど。
じゃ、エアス達に着いて行くか。
──その後、遊んで、ご飯を食べて、寝た。