第128話 祭りの悲劇
「なぁブライア、あっちの店はどうだ!?」
「俺に的当てで勝負するつもりか?」
「ああ!絶対勝ってやるぜ!」
リーシャに誘われて祭りにやってきた。
クラスにいる十大魔導士の六人と、シュヴァルツ、ノラス、アルプ、俺の四人。
計十人でやって来た。
「ノラス、ちょっと持っててくれ!」
「あんたがバカスカ食べ物買うからでしょ、絶対持たないから」
シュヴァルツは色々な食べ物を手にもっていて、的当てで遊ぶなんて到底できない。
ノラスに拒否された為しょげていたが、優しいアルプが荷物を持ってくれた。
「そんなに気を遣わなくていいんだぞ」
「あんなにしょげてるシュヴァルツ君見たら、ちょっと可哀想に思えちゃって⋯⋯」
ノラスは俺達のことなんて気にも留めず、一人で屋台に向かっていた。
まあ、アイツは一通り見たら戻ってくるはずだ。
何だかんだ、俺達のことを放っておけない性格だからな。
「よっしゃ!どうだブライア!」
「あそこを狙えばいいんだな──フッ!」
俺が投げたボールは見事最高点の場所へ命中。
シュヴァルツは唖然としていた。
「俺の勝ちだな」
「なんでお前はそんなに上手いんだ!」
「狙ったところに当てるだけなんて、簡単だろ」
嫌味ったらしく煽りを含めて言う。
悔しかったシュヴァルツは、俺に勝てる屋台を探しに行った。
持たされたままのアルプは、困った顔をしつつノラスを探している。
「アイツ、負けず嫌いすぎるな」
シュヴァルツがどんなゲームを持ってこようと、俺は負けない自身がある。
アイツの気が済むまで付き合ってやるとするか。
「ブライア君、花火が上がるよ!」
「もうそんな時間か、じゃあ行こう」
アルプとノラスは二人で大丈夫だろう、シュヴァルツは⋯⋯まあいいか。
フィアセルトやヨーメア達も別のところにいるようだし、先に花火の場所取りでもしておこう。
「ブライア君、魔法学校はどう?」
「俺の知らなかった魔法が知れて、すごい楽しいよ」
「それは良かったよ。私も平民学校より、こっちの方が楽しい」
「リーシャって、今は何の魔法を使うんだ?」
「風属性の魔法が一番得意だね。後は偶に氷属性か水属性を使うくらいかな」
リーシャは能力も持っているし、近接戦闘もできる。
更に魔法も使える、逸材だ。
このまま成長すれば、世界大会にも出れるかもしれない。
そうなった時のリーシャを見るのが楽しみだ。
勿論、他の生徒が強くなるのを見るのも楽しみではある。
「⋯⋯ブライア君、聞いて欲しいんだけど」
「何だ?」
「あのね、私⋯⋯ブライア君のことが────」
リーシャの言葉。
それを聞こうと彼女の方へ向くと。
──胸に剣が刺さり、口から血が流れていた。
「──ッ!?」
「か、は⋯⋯っ!」
「こんにちは、あなたはだぁれ?」
女、それも──強い。
コイツは一体、何者だ⋯⋯?
いや、考えるな!
コイツを攻撃する!
「──『轟・太陽』ッ!」
「おっと、そりゃまずい」
俺の拳を、片手で止められた。
あまりにも危険すぎる、少し距離を置こう。
「⋯⋯?あなた、見たことあるわぁ」
「──お前、誰だ?」
「あたし?あたしは魔女なのー。えっとねぇ⋯⋯『霞の魔女』だったかなぁ?」
コイツ、魔女⋯⋯!?
いや、それよりリーシャの治療だ。
今やれば、まだ間に合う!
「えー、だめだよぉ?そんなことしちゃあ」
魔女は水滴を浮かばせ──その水滴を、倒れているリーシャに放った。
身体中に小さな穴が空いたリーシャは、痛みに悶えている。
──コイツ、絶対許さない!
「──おい、使わせろ」
《承認しよう──【絶界】》
「【絶対神王の覇道】──【神眼の道標】」
俺の眼は、対象の情報と対象を倒す方法の全てが看破できる。
これが俺の【神器】であるとアーガイルから聞いたが、確かにこれは使いやすい。
昨日シュヴァルツと少しだけ手合わせしたが、これを使えばシュヴァルツを一瞬のうちに仕留めることが出来た。
「──フッ!」
「あっれー、もしかしてバレちゃってましたぁ?」
コイツは体自体が霞で出来ている。
つまり、どれだけ斬ろうと、傷は負わせられない。
先程の『太陽』で蒸発させられなかったのは、実体と霞の体を自由に切り替えることが可能だからだ。
「んっふふー、あなたほんとに強いのねぇ」
「⋯⋯お前、何が目的だ?」
「あたし?あたしの目的はあなたの足止めだけかなぁ、それ以外何も言われてないからねぇ」
俺の足止め⋯⋯?
なら、コイツから何か情報が聞き出せるかもしれない。
「仲間は、ここにいるのか?」
「いるよぉ?だってぇ、今日は回収しに来たもぉん」
恐らく、仲間は魔女。
それに、回収⋯⋯?
この国にいた魔女は確か棘の魔女であるホーン・マジック。
アイツは世界大会でカース・マジックと戦って、両方死んだはずだ。
「んーん?何考えてんのぉ?」
「──とりあえず、その女の子を返せ」
「えー、だってもう死んでるよぉ?君に渡しても、治療するだけでしょー?」
────死んだ?
コイツ今、リーシャが死んだと言ったのか?
そんなはずはない、致命傷とはいえ、まだ助けられる。
「あー、あたしの魔力質知らないんだぁ?」
「⋯⋯どういうことだ?」
「あたしの魔力質ってぇ、すっごい異常でねぇ?あたしの水滴を食らった人はぁ、あたしに寿命ぜーんぶ奪われるのぉ。その眼でこの子見てみたらぁ?」
──俺の眼は、嘘をつかない。
確実な情報を手に入れ、相手の全てを看破できる。
だから、分かった。
リーシャの生命は既に──なかった。
「──お前──ッ!」
「怒りってぇ、愚かだと思わなぁい?正常な判断ができなくなるからねぇ」
魔女が放った水滴を全て蒸発させる。
俺はコイツを殺さなければならない。
魔女はやはり──人に害をなす化け物だ。
「おいミスト、何してんだ」
「んー?あー、帰ってきたのねぇ」
コイツも、女──魔女だ。
だが、迂闊に攻めてはならない。
この魔女も、何か異質な気配がする。
「ドリームのやることも終わった。足止めももういい」
「えぇー?もうちょっとだけ遊ばせてよぉ」
「お前のその癖やめろ。お前はもう帰れ」
「──待てよ」
「あ?何だお前」
「⋯⋯その子だけは返せ」
「だってよミスト。返してやれ」
「はぁーい」
リーシャが丁寧に地面に置かれる。
そのまま『霞の魔女』は霧のように消えた。
「──おい」
「あん?まだ何かあんのか?」
「お前らの目的は、一体何なんだ?」
「チッ──アイツ、何も話してねぇのかよ」
「⋯⋯どういうことだ?」
「私らの目的は二つ。そのうちの一つが──お前に協力を要請すること」
「──それを、受けるとでも思っているのか?」
「受けないならそれでいいさ。仲間がどうなっても知らないけどな」
コイツ、脅しのつもりか?
ここにはシュヴァルツやノラス、フィアセルトがいる。
アイツらが負けるなんて、ありえない。
「その目、私らと全面戦争でもするつもりか?」
「だったら、何だ?俺達じゃ勝てないとでも?」
「──この世界に、魔女が何体存在するか知らないようだな」
「⋯⋯何?」
「勝つつもりなら、それでいいさ。だが──魔女がどれ程強いか、どれ程この世界に憎しみを持っているかを、お前はまだ知らない」
魔女⋯⋯確かに、俺はあまり知らない。
だが、こんなことをされて平気でいられる訳がない。
俺がやることはただ一つ。
魔女を、殲滅してやる。
「はっ、やる気みたいだな。いいぜ、計画は少し早まるが──世界との全面戦争、やろうぜ」
そう言うと、あの魔女は消えた。
リーシャの体は、既に冷たかった。
俺は、友達一人守れない⋯⋯未熟な男だ。
だが──仇は絶対に取ってやる。
「あら、ここにいるかと思いましたが⋯⋯いらっしゃらないのですね」
「──次は誰だ?」
「私は『花の魔女』ですわ。あなたがブライア様でしょうか」
「そうだ。お前は何をしに来た?」
「目的の片方を、あなた様に告げなければならなくて──貴族学校の校長、クリーナ様を誘拐させて頂きましたわ」
──クリーナが誘拐された?
そんな馬鹿なことがあるはずがない。
いや、だが⋯⋯さっき来たアイツらは回収すると言った。
コイツら──クリーナが始まりの魔女だと、知っているのか!?
「あら、お気づきになられましたか?」
「お前ら──どういうつもりだ!?」
「どうもこうもございませんわ。あの方を超えるのが、我々の使命なのですから」
コイツら、やっぱり知ってる!
クリーナが奪われたとなるとまずい──だが、クリーナは抵抗しなかったのか?
可能性は低いとは思うが──最悪の場合、クリーナは敵になった、と考えるべきだろう。
だが、コイツは誘拐と言った。
「あら、もう始まるみたいですわ。それでは、クリーナ様を助けたいのであれば、私達を倒して頂きましょうか」
『花の魔女』は、そう言うと消えた。
──一体、何が始まる⋯⋯?
『世界よ、私の声が聞こえるだろうか』
──空に、人が映し出された。
あれは一体、誰だ⋯⋯?
『私は『夢の魔女』だ。我々魔女の軍勢は──世界を憎んでいる。滅ぼしたい程に』
『夢の魔女』⋯⋯?
一体、魔女は何体存在しているんだ⋯⋯?
『これは我々の正義であり、必要なこと──1ヶ月後、我々は世界を滅ぼす為の戦争を仕掛ける。降参も認めない、屈服も認めない──全ての人間を殺す戦争だ』
──宣戦布告⋯⋯?
魔女は本気で、俺達を全滅させるつもりなのか?
『では世界よ。戦場で会おう』
────希望と絶望が入り混じり、世界を根本から覆す戦争。
『魔女戦争』の開幕でもあり──事件の開幕だ。
【第八の事件・魔女戦争事件】──開幕