表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/135

第126話 前世の武術

「グ──ッ!」

「ねぇ、早く壊れてよ。いい加減にしてくれないかな」


あの獣人──『卯月』は、シンプルに身体能力が常人を遥かに凌駕する。

俺が想定するより強い、まさかここまで力を持っているとは。


「無事ですか?ブライア君」

「ああ、大丈夫。俺の援護を頼めるか?」

「前衛も引き受けれますが、いかがでしょう?」

「⋯⋯いや、後衛でいい。頼むぞ」


ドラグレイヴの魔法は、どれを取っても魔導士を凌駕する程の腕前だ。

人間なんかが到底扱えないような魔法を、当然のように繰り出す。

魔龍の力は凄まじい。


「──ッ!」

「⋯⋯っと、危ない。そろそろ慣れてきたな」


頭上からの強襲、蹴りを放たれたが足を掴み、そのまま投げる。

確かに『卯月』は素早く、力もある。

だが、慣れてしまえば対処は簡単だ。

俺だって、身体能力は群を抜いて高いのだから。


「──チッ、鬱陶しい」

「もっと手の込んだ攻撃をしてくれよ、手応えがないじゃないか」

「その程度で、良い気になるな──ッ!」


分かりやすい挑発だが、『卯月』に対しては有効。

⋯⋯しかし、『卯月』は一向に能力や奴らの持つ特権とやらを使ってこない。

俺のことをすぐにでも殺したいのなら、使うべきじゃないのか?


「──拝借します」


『卯月』がそう言うと、今まで見たことのない武術の構えをした。

──いや、正確にはこっちの世界で見たことがない。

俺が元いた世界では、見たことがある。


「──お前、それ⋯⋯!」

「やっぱり、見たことあるんだね。まぁ、それもそうか。元々君の一族の武術だもんね」


『卯月』が今使っているのは、俺が前世で元々使っていた『水下流武術』だ。

高い身体能力を誇る『卯月』には、確かに使いやすい武術だろう。

──誰が一体、『卯月』に教えたのか。

答えは恐らく──誉野宮傲だ。

俺が唯一『水下流武術』を直接教えた者であり、水下家以外で初めて免許皆伝された人物。

⋯⋯まさか、こんな風に使われるとは、屈辱だ。


《⋯⋯チッ、アイツ⋯⋯》

(『事件の魔本』?どうした?)

《いえ、何でもありません。勝利をお祈りしております》


一瞬『事件の魔本』の自我が出た気がするが、気のせいだろう。

そういえば、最初の頃に比べれば、コイツへの不快感は殆ど無くなっている。

それどころか、親しい関係と思える感覚だ。

まあ、今はそんなことどうでもいい。


「その武術は俺が一番知っている。そんな俺に、その武術で挑むのか?」

「この武術であなたを倒す、それ以上に屈辱的なことはないでしょう」

「ハッ、確かにな」


『卯月』が考えていることはただ一つ。

俺を陥れることのみだろう。

ならば、俺は水下流ではなく──こっちを使おう。


「じゃあ、俺も借りよう」

「──ッ、それは⋯⋯!」

「やっぱり知ってたか。『桜庭流武術』を」


桜庭勇気──天才の一人、『武闘の天才』と呼ばれた男。

恐らくコイツが知っている理由は、拒灯凪乃花が原因だろう。

俺と傲のように、勇気が直接教え、『桜庭流武術』の免許皆伝をされた人物。

傲よりもほんの少しだけ強かった記憶がある。

⋯⋯そう考えたら、『暦』で頂点に君臨する狼牙はどれだけ強いんだって話だな。

傲と凪乃花も『神無月』と『霜月』だから上位層なのは間違いない。

しかし、それでも『師走』は別格なのだろう。


「水下流は攻撃を意識する武術だ。かかってこいよ」

「──じゃあ、遠慮なく」


一瞬で接近してから、体勢を崩して腹に決めるつもりだろう。

──この感じだと、桜庭流をあまり知らないみたいだな。


「──ッ!?」

「桜庭流は返しの技で相手を崩し、圧倒する武術だ。まぁ当然ながら、水下流との相性は良い」


力を入れた右足を蹴り、転がす。

そのまま顔を一発殴るつもりが、避けられた。

──どれだけ攻撃しようとも、それを守られ、反撃をされてしまえば、当然負ける。

だから水下流は桜庭流と相性が悪い。

まあ、そんなの関係なく俺は勇気と戦っていたが。


「ドラクレイヴ、空に向かってくれ」

「⋯⋯ふむ、成程。第二校舎も第三校舎も、生徒を操っている張本人ではないと?」

「ああ。恐らく上で観察している、頼んだぞ」

「ええ、承りました」


そう言うと、ドラグレイヴは転移する。

ずっと気になっていた、生徒を操っている正体。

第二校舎の状況をノラスから仕入れていたが、明らかに生徒を操っている様子はない。

目の前にいる『卯月』も同じだ。

つまり、学校を一望できる空にいると睨んだ。

そして俺の予想が正しければ、『皐月』がいるはず。

『弥生』『卯月』と、来た順番的に予想しただけだが。


「⋯⋯君、賢いんだね」

「これくらいは誰でも思いつくはずだろ。まだ天才としての本領発揮はしてない」

「ふーん、それ自分で言うんだね」

「当たり前だろ。俺は天才だって自負してる」


これは自信であり、他人からの評価であり、揺るがない絶対的才能。

俺は特別な人間だと、確信している。


「じゃあ、お手並み拝見だね──『碧』」


『碧』──攻めの型であり、基本の一つ。

前世と違うのはただ一つ、魔力だ。

魔力が練られた武術は脅威であり、破壊力のある武技となる。

しかし、それは俺も同じ。


「──『枝垂れ桜』」


『枝垂れ桜』──反撃の型であり、桜庭流でも名の知れた技。

迫り来る拳を足で蹴り上げ、そのまま踵落としを食らわせる。

しかし、間一髪で躱され、命中しなかった。


「⋯⋯やはり、強い」


俺がこの世界で武術をあまり使わなかった理由は二つある。

一つは、武術よりも剣や魔法を使いたかった。

折角の異世界なのだから、向こうでできないことをやりたいという思いが強かった。

もう一つは、緑龍武術が俺の体に馴染まなかったから。

水下流を今まで使ってきた俺にとって、緑龍武術はあまり合わなかった。

しかし、世界大会のあの時に前世の完全な才能と肉体を取り戻したお陰で、向こうで覚えた技を完全に扱えるようになった。


「流石は俺、って感じだな」

「その自信、打ち砕く」


『卯月』がそう言った瞬間──空で轟音が響く。


「──何だ!?」

「まさか、アイツ⋯⋯!」


『卯月』は状況を察知した様子で、空に向かった。

俺も『卯月』の後を追って空へと向かう。

そこには、ドラグレイヴともう一人の男がいた。


「──ブライア・グリーンドラゴンか」


血だらけになりながらも、俺の方を見て名を呼んだ。

コイツ、ドラグレイヴとまともにやり合ってこの重症なのか⋯⋯?


「俺の名は『皐月』だ。今日のところは手を引く、また会おう」

「──逃がすとでも?」

「ユフィスティア、フィアセルト、シュヴァルツの三人は瀕死の重症だぞ」

「──何?」


その三人が瀕死の重症⋯⋯?

アイツらが戦った相手は、それ程までに強かったのか?

──まあ、そっちの方が都合が良い。

ノラスが周りを気にせず本気になった方が強いからな、相手も気の毒だ。


「安心しろ、生徒の支配は解いた。俺はこの『卯月』とは違って、お前とは友好的でありたいからな」

「⋯⋯へぇ、俺の敵にしては良いこと言うじゃないか」

「敵だなんてやめろよ。せめて味方って呼んでくれ」

「ハッ、どの口が言うか」


──恐らく、コイツのこの発言は本心であり、嘘でもある。

俺とは仲良くしたいが、組織が許さない。

だから冗談めかしてこういう風に言うしかない、といった感じだろうか。


「では、俺達は去ろう。さようなら」

「次は、お前を殺す」


『皐月』と『卯月』が去った。

空には俺とドラグレイヴの二人が残っている。

とりあえず、第二校舎の様子を見に行こう。


「ノラス、無事か」

「当たり前でしょ」


ノラスは傷一つない、至って普通の状態。

──だが、俺は見逃さない。

恐らく、ノラスは闘志を使って『宝剣』を呼び出した。

まさか、ノラスがそこまでするとは。


「ノラス、相手の名は?」

「確か『弥生』だったかしら。どれくらい強いの?」

「多分、下から三番目だろうな」

「へぇ、あれで下から三番目なのね」


この言い方だと、本当に化け物だったのだろう。

この三人は血だらけで眠ったまま治療を受けている、よっぽど叩きのめされたみたいだ。

──シュヴァルツは、二度目の挫折になるのか。

『魔導祭』で戦ったユフィスティアの時からそれ程時間は経っていない、こうも短期間で二度の挫折となると──恐らく、成長が止まる。

それに、今のシュヴァルツは奏に矯正されたもの。

元の性格を知らないが、今そっちに戻るのはまずいだろう。


「⋯⋯おい奏、生きてるか」

「──あー、何とか生きてる。あと、お前の言いたいことは何となくわかる」

「──シュヴァルツを頼むぞ」

「はいはい」


奏も天才の一人だ。

それどころか、俺が唯一コイツの専門分野で勝利ができなかった相手でもある。

音成奏は、正真正銘の天才。

コイツを上回る天才を、俺を除いて他に知らない。


「⋯⋯そういえばあんた、シュヴァルツの中にいるやつと友達って言ってたわね」

「まあ、気づいたのは最近だけどな。コイツの精神は俺の友人によって保たれてる、本当に重要な存在だ」

「ふーん、そうなのね。私にも今度紹介しなさいよ」

「お前はちゃんと手綱握れって一発殴るだろ」

「なんで見透かしてんのよ」


軽口を叩きながら、三人を運びながら校長室へ向かう。

『暦』──コイツらを潰さなければ、この世界に未来はやってこない。

手加減は絶対にしない、完膚なきまでにコイツらを叩き潰す。



【第七の事件・魔法学校襲撃事件】──解決

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ