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第125話 才能と魂

「そいや!」


まるで子供のような掛け声。

しかし、その一言と同時に振り下ろされた大剣は、命を脅かす。

ユフィスティアとシュヴァルツが前衛にいても尚、攻め崩せない。


「なんだコイツ、隙がねぇ!」

「落ち着いて、絶対に崩すから」


しかし、そう言いながらも内心では少し焦っている。

あまりにも付け入る隙が無さすぎるのだ。

フィアセルトやノラスの援護があるにも関わらず、それをものともしない。

『弥生』は、まさに本物の化け物だ。


「ちょっといい加減にして──よッ!」


二度、三度と振り下ろされる大剣と真正面でやり合えば、先に自身の剣が折れてしまう。

あの大剣はそこら中にあるナマクラとは違い、徹底的に作り込まれた職人の武器であることが窺える。


(あんなデカイの振り回しててもボクらが隙を見出せないなんて、アイツほんとおかしい!)


内心悪態をつくユフィスティアだが、それでも分析を止めない。

叡智の蒼い眼が、ユフィスティアの思考を加速させていく。


(ほんと鬱陶しい、あの力は一体どこから来ているんだい?)


上位種族の持つ魂を見通す眼ですら、『弥生』の魂には何も見えない。

むしろ、妨害されているようにしか思えないのだ。


(コイツらの親玉、何者なんだ?)


ユフィスティアの眼ですら見通せない、異次元な程の強者。

そんな者に勝てる存在など、いるはずがない。

ブライアですら、もう一段階覚醒が必要だ。


「はい考えすぎー」

「──ッ!?」


ユフィスティアの肩に、剣が刺さる。

そのまま上空から、大剣が振りかざされた。


「んな──クソがぁ!」


シュヴァルツが援護に入り、ユフィスティアを守る。

しかし──剣が、折れた。


「な──!?」


『聖剣』と『轟炎真焔丸』の重ねがけが折れたのは、初めてである。

ただの剣の振りで折れるとは、想定外だった。


「はいそれ油断ね」


シュヴァルツが壁に吹き飛ばされ、肩と足首に四本剣が刺される。

剣が深く刺さっていて、抜け出そうにも抜け出せない。

そしてユフィスティアは、肩に刺された剣の重心が変化し、うつ伏せに倒れ込んで、シュヴァルツと同じように四本剣が刺された。

この時点で、シュヴァルツとユフィスティアは戦闘不可能となってしまったのである。


「シュヴァルツ君!ユフィスティア!」

「君にそんな暇はないよ」


『弥生』がフィアセルトの後ろに回り込み、両手と腹、両足首の計五本剣が壁と共に刺される。

──一斉に、三人が意識を失った。

残るは一人、ノラスのみ。


「⋯⋯はぁ、私一人なのね」

「──油断大敵」

「そっちがね」


剣を刺そうとした瞬間、物凄い勢いでノラスが剣を振った。

斬撃は『弥生』の持つ剣を斬り、大剣へと持ち変える。


「──ったく、私になんでここまでさせるかな」


誰一人見ていない、という絶好の機会。

『弥生』を叩くなら今しかないと、ノラスは考えた。


「──『黄龍斬界』」


ネルが世界大会で使った、擬似的な世界展開。

しかし、規模はそれの比ではない。

建物を壊さず、ただ敵だけに照準を定める斬界。

範囲は──魔法学校第三校舎以外の全て。

まさに桁違いであり、並外れた力量。


「へぇ、僕だけを狙う斬撃かい?面白いね!」

「まだあるわよ──『黄龍閃界』」


斬界に重ねて、閃界を繰り出す。

目眩しとしての要素が強く、光を放つことで視界を少しでも遮り、こちら側の優位を得る。


「眩しいね、小癪じゃないか」

「──『黄龍停界』」


閃界の光を認識した者を、数秒間停止させる疑似世界である。

視界から情報を得れば得る程、光を認識し、動きが停滞してしまう、必中の連携技だ。


「チッ、こんなもので僕を殺せると?」

「当たり前でしょ。私は強いんだから」


そう言うとノラスは、『黄の闘志』を解放する。

効果は、相手の攻撃の調和と自動反撃。


「──闘志よ、黄に染まれ。精神を強固に、魂の穢れを落とせ──肉体は全てを砕く──『黄龍闘剣』」


ノラスの目の前に、黄龍から授けられた剣が現れる。

煌々と輝くそれを手にした瞬間──黄金の風が、巻き起こった。

風の中から出てきたのは──黄金と白銀、二つの宝玉を浮かべ、剣を手にするノラス。

『弥生』は、その宝玉を見て驚愕する。


「それは、まさか──『宝剣』!?」

「正解。ま、こっちの剣は黄龍の剣だけどね」


──世界に四本存在する、神々の剣。

その一つが『宝剣』──今は宝玉の形をしているが、力を解放すれば、剣となる。


「初代黄龍家当主が持っていたとされるそれを、何故君が持っているんだい?」

「さぁ?受け継がれでもしたんじゃないかしら?」


ノラスが力を隠すことに拘りを持つのは、これを隠蔽する為でもある。

『宝剣』は初代黄龍家当主が保持して以来、行方不明だったからだ。

当時、黄龍家総出で探したが見つからず、今でも黄龍家は少人数で世界を捜索している。


「ま、誰も見てないしいいでしょ。あんたもここで殺すし」

「⋯⋯随分、舐められたものだね」


『弥生』は最初、この三人は圧倒的強者だと察知していた。

ノラスは特に、強い気配も感じなかったし、警戒も特段していなかった。

だが、それは大きな間違いだったのだ。


「まさか君が、一番強かったとはね」


──仮に、才能の限界値が10だとしよう。

潜在能力やら、秘めたる覚醒やらで、才能は開花されていく。

ブライアや太陽は、生まれた時から上限だった。

しかし、ノラスはどうか。

生まれた時から今も変わらず、ノラスは2だった。

──ノラスは、紛れもなくレインボードラゴンの歴代で一番才能のない女である。


「こんな才能のない私に、こんな祝福があるなんてね」


では、何故『弥生』の脅威となるのか?

今のノラスの才能値は──62である。

限界が10であるに対して、62なのだ。

原理は分からない、理解もできない。

その不気味さと圧倒的な才能が、『弥生』の脅威となっている。


「なんだよ、その魂」

「⋯⋯へぇ、見えるのね」

「そこまで気配してたら見えるも何も、分かるんだ」


ノラスの武器は、魂が穢れのない才能の塊であることだ。

魂は人格と才能の二つに分かれており、能力や特異体質といったものは、才能に付随される。

ソロミア女皇が吸収しているのは、人格の部分。

ノラスが持っているのは、才能の部分。

強者となると、それを分離して渡すことができる。


「心の底から安堵したわ。私、このままじゃこの世界で生きていけなったところよ」


レインボードラゴンでも、最も才能がなくて、恐らく数値的には5程度。

ノラスの2は、圧倒的なまでの弱さを示している。


「ま、お喋りはここまでにしておきましょうか」


ノラスがそう言った瞬間──斬界が猛威を振るった。

閃界は『弥生』の目に閃界を写し、停界は『弥生』を永遠にその場に留め続ける。

今まで無傷だった『弥生』が、斬撃による傷を増やしていく。


「⋯⋯使いたくは、なかったんだけどね」


魔力が『弥生』に集まり、霧となって周囲に漂う。

異質さを感じ取ったノラスは、魔力障壁で防御の態勢を敷く。


「──弥生特権『春の息吹』」


──霧が花を咲かし、爆発する。

桃色の魔力が爆発の連鎖を起こしていき、第二校舎全体が揺れた。


「⋯⋯なんで、生きてるんだい?」

「私の魔力障壁の方が強かった、それだけよ」


『弥生』は、疑問を持つ。

『春の息吹』は、防御魔法を無視して相手に攻撃を与える爆発だ。

防御なんて意味がない。


「それも、『宝剣』のお陰かい?」

「⋯⋯そんなに『宝剣』が見たいのかしら」


ノラスが指を弾く。

すると、宝玉が崩れ、小さな剣を無数に作り出していく。

まさに一つ一つが『宝剣』であり、威力は計り知れない。


「あんた、受け切ってみな」

「勿論」


放たれた無数の短剣を、大剣で防御していく『弥生』。

全方位防御結界を張りながら守っているが、結界をすり抜けて攻撃される。

『宝剣』の前では、防御魔法は意味を成さない。


「──ッ!?」

「私も混ぜて」


ノラス本人が近づき、剣を振るう。

短剣は今にも迫ってきているのに、ノラスが来て乱されると、貫かれる。


「じゃあ、先に君を叩こう!」


大剣を振り、ノラスの剣を折る──かと思われた。

ノラスの片手で持った剣で、大剣が打ち返される。


「な──!?」


そして──光を認識した。


「な、に──ッ!!」


動きが停滞し、無数の短剣が体に突き刺さる。

そして、『弥生』の体が霧散した。


「やっぱり分身、本体は別にいるわね」


ノラスは通常状態に戻り、空を見上げる。


「学校をこうしたのはアイツじゃなくて、別の奴がいるって訳ね」


生徒を支配したのは、『弥生』ではなかった。

第三校舎にいる別の者か?

それとも──別の仲間なのか。


「⋯⋯にしても、『黄龍停界』はズルね。まあ、今回は斬界と閃界と停界の『半世界』のお陰かしら」


ネルは、世界の疑似展開だった。

しかし、ノラスは疑似展開ではなく、半分『世界』の領域へと突っ込んでいた。


「ネル姉の見様見真似だけど、まさかここまで上達するなんてね⋯⋯さて、バカ三人の回復でもするか」


何はともあれ。

ノラスは、『弥生』に勝利した。

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