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第119話 栄冠──その8

──ブライアと青龍の戦いが始まった頃


「フィナ、僕と真正面から戦うつもりか?」

「ええ。当然、勝つつもりよ」


堂々と言い放ったフィナに、フィアセルトはくだらないと言うような目で返す。

フィナは青龍を現世に解き放ち、魔力にも余裕はない。

その状態で、ほぼ万全とも言えるフィアセルトに勝てる訳がないのだ。


「⋯⋯どうやって勝つつもりなのか、教えてもらおうか」

「私はただ時間稼ぎをするだけ、そうすれば青龍がブライアを倒し、あなたも倒す」


フィアセルトは、納得してしまった。

フィナは強い、例え魔力に余裕がなかろうと、フィアセルト相手に時間稼ぎ程度はこなせる。

しかし、唯一誤算があるとすれば。


「残念だが、あの青龍はブライアを倒せないだろうな」


──その言葉が真実となるように。

遙か上空で陽熱の獅子が、青龍にダメージを与えた。

青龍の『種族特権』を知っているフィナは、驚愕を隠せない。


「ブライア・グリーンドラゴン──一体、何者なの⋯⋯!?」

「それは僕にも分からない。彼、明らかにこの世ならざる力を得ているからね」


理解不能だと言わんばかりに、フィアセルトはそう返した。

しかし、こうなってしまうと不利なのは当然フィナだ。

何か使えるものはないかと、辺りを見回す。

そして──その光景を目にした。


「あの黄髪、イエロードラゴン家の女──龍の分身三体を相手に、圧倒している⋯⋯!?」


無表情で、淡々と戦うノラスを目にした。

大地を抉る砲撃であろうと、荒ぶる雷であろうと、遙か彼方に吹き飛ばす暴風であろうと、全て剣で斬っている。

その異様な光景には、フィアセルトも驚いた。


(ノラスだっけ、あんなに強かったんだ⋯⋯)


フィアセルトですら、その実力は見破れなかった。

──否、認めたくなかったのだ。

『魂を見通す美眼』は、見て見ぬふりをしてしまった。


(彼女、何かおかしい⋯⋯あの異質さは、一体何なんだ?)


そう思考をしていると──突如、砂漠に猛吹雪が襲いかかる。

恐らくは青龍の仕業だろうと考え、フィアセルトは視界不良の中、上を見上げる。

陽熱が一閃した直後──緑の大地が、砂漠に広がった。



──俺がこの世界に気づいたのは、つい最近のこと。

まさか、『世界』が進化するとは思っていなかった。

『創成』にある『世界創成の神話』の効果によって、俺が創る『世界』は新たな効果を得たようだ。


『これは、緑龍の世界⋯⋯?』

「ああ、そうだ。俺だけが持つ、特別な『世界』へようこそ」


そう言いながら、俺は『紋眼』を解放する。

緑龍を宿す『紋眼』も、以前より強力なものへと変化しているようだ。


「手始めに──『緑光真慧』」


輝く緑龍を、人化している青龍へと放った。

青龍は龍状態へと戻り、その巨躯で緑龍を蹴散らす。

やはり生半可な緑龍では、青龍には通用しない。

だが、この青龍もあまり位は高くないようだ。


《むしろ、この青龍は生まれたてだろうな。魔法の使用や魔力の制御がまだまだだ》


この青龍でもかなり精密な魔力操作をしているのだが、シャイフォンから厳しい言葉が飛んできた。

成程、この青龍は生まれたてなのか。


『舐めるなよ──青凛凍気』


青龍は凍える大気をばら撒き、恵みの大地を氷の世界に染めようとする。

しかし、そんなことは当然許さない。


「ここは俺の世界だ──消去」


俺の世界では、俺が絶対だ。

許可していない魔法など、使用はさせない。

世界に対抗する術はただ一つ、同じ世界のみ。

──しかし、俺の『真なる世界』はそれを上回る。

『世界創成の神話』により、俺の創り出す世界は『真なる世界』へと進化した。

これこそが真実を反映し、理想を叶える世界だ。

他の奴らが持つ世界では、俺に対抗するなど到底できない。


『チッ──フィナ!』


青龍がフィナの名を呼び、とある行動を促した。

当然、俺は把握している。

──青龍の世界で、俺の世界を上塗りしようとするつもりだ。


「──世界『麗しく舞う青き龍の世界』」


予想通り、フィナは世界を出した。

『真なる世界』が牙を剥く──かと思われたが、どこかの戦いの余波で、フィナの世界が消え去った。


『──どういうことだ!?』

「まさか⋯⋯シュヴァルツか?」


今、シュヴァルツはユフィスティアと戦っているはずだ。

まさかとは思うが、ここから一番遠い荒野地帯の戦闘の余波が、ここまで飛んできたのか?

──いや、それしか有り得ない。

アイツら、一体どんな戦いをしているんだ?

当然周りのことなんか一つも考えずに戦ってるのだろうが、流石に酷すぎる。


「⋯⋯まあいい。俺の力全部を見せる訳にはいかなかったからな、シュヴァルツには感謝しておこう」


戦闘は、自分の持つ情報が鍵を握る。

ここで俺の『真なる世界』が誰かにバレてしまえば、当然対策を立てられる。

しかし、こうして俺の持つ能力が温存できるのなら、それに超したことは無い。


「さて、ここは俺の世界でもあるが──同時に、俺と契約する緑龍の世界でもある。その意味が分かるな?」

『──貴様、まさか──ッ!?』


巨大な緑の魔法陣が天に描かれ、そこから緑の龍が降臨した。

まさに龍を現すような美しい容姿で、巨大な翼を広げて咆哮する。

──緑龍シャイフォンが、ここに顕現した。


『久々に龍状態へとなったが、やはりこちらの方がしっくりくる』


そう言いながら、真正面にいる青龍を見据えた。

圧倒的強者の威圧感は、上位種族である青龍ですら竦む程。

これが本当に同格種族かと疑ってしまう。


『緑龍シャイフォン⋯⋯あの、緑龍なのか⋯⋯?』

『まさか、お前のような生まれたてですら知っているとはな』


シャイフォンには何か深い事情があるのは知っている。

俺はそれに興味も無いし、シャイフォン自身あまり話したがらない。

だが、青龍はそれを知っているみたいだ。


『──さて、そろそろ終わらせよう』


シャイフォンがそう言った瞬間──緑の魔力が、辺りに降り注ぐ。

キラキラと宝石のように輝く魔力はやがてシャイフォンの周囲に集まり、魔法陣を形成する。

この魔法が、ただならぬ魔法であるというのは見た瞬間分かった。

しかし──次の瞬間、その理解すらも上回る光景が、目に広がる。


『──翠深蝕裂』


緑色の魔力砲撃が青龍に襲い掛かり──そのまま、消滅した。

まるで最初からいなかったかのように、消え去ってしまった。


『これで終わりだな』


俺が強くなれば、緑龍も強くなる──能力である『緑龍』が持つ契約は、まさに今効果を成した。

想像を絶する程の強さ、これがシャイフォンの、真の力なのだろう。


『世界を切るといい、俺達の勝ちは決まった』

「ああ、そうだな。ありがとう、シャイフォン」


世界を解除し、広大な砂漠へと変貌する。

下を見ると、驚愕に顔を染めたフィナがいた。

王冠を所持しているのはフィナだ、ここで青龍を打ち破った時点で、俺達の勝ちは決まったようなものだ。

俺は地上に降りて、フィナに話しかける。


「さて、フィナ・ブルードラゴン⋯⋯まだ戦うか?」

「⋯⋯⋯⋯いいわ、降参よ」


王冠を俺に投げた。

俺に渡された王冠をフィアセルトに手渡しし、ノラスに近づく。


「お前、よくあの分身三体を同時に相手して、その上圧倒できてたよな」

「⋯⋯ねぇ、それって嫌味?」

「ああ嫌味さ。三体すぐに始末して、俺の手助けできただろ?」

「あら残念、サボってたのにバレるなんてね」


まあ、それについては咎めるつもりもない。

俺が単独だったからこそ、俺の『真なる世界』が使えた。

そもそも、ノラスがここまで強いこと自体が計算外だった、と言わざるを得ない。


「──ねぇ、気づいてるんでしょう?」

「ああ、気づいているさ」


先程から、激しい戦いの気配がこちらに近寄ってくる。

ノラスは言わなくても分かってるみたいだ。

後ろを振り向くと、フィアセルトも察した顔をしている。


「まあ⋯⋯十中八九、アイツらだろうな」


突風が巻き起こり、砂が舞い上がる。

俺達の真上にいたのは、天使と剣聖。

ユフィスティアと、シュヴァルツだ。


「ははっ、まさか青龍を倒すなんてね!」


ユフィスティアは俺の方を向いてそう言った。

その余所見を、シュヴァルツが見逃すはずもない。


「──【一刀万界】」


縦一線、砂の大海が割れ、ユフィスティアの身体が縦に斬り裂かれた。

そのままユフィスティアはどさりと地面に落ち、シュヴァルツが安全に着地する。


「おい、シュヴァルツ」

「なんだ?勝ったからいいだろ!」

「いや、違うが⋯⋯まあいい」


先程までの雰囲気──明らかに、シュヴァルツではなかった。

そして、あの剣技──俺の【絶界】を彷彿とさせるような、無駄のない、それでいて非常に強力な一太刀。

こいつの技には、今まで以上に警戒が必要になるだろう。


「⋯⋯日が、沈む」


フィアセルトが、太陽を見てそう言った。

──決着だ。



「『魔導祭』──『栄冠』の勝者は、六年四組!」


フィアセルトが、大きなトロフィーを受け取る。

俺達は、勝ったんだ。

今回は波乱の戦いだった、決して楽な戦いなど一度もなかった。

ユフィスティアの強襲、団体での襲撃、そして青龍。

今回の大会は、非常に良い経験となった。

今少しだけは、勝利の余韻に浸ってもいいだろう。




「⋯⋯彼、勝ちましたか」


ドラグレイヴ・ハイマード──魔龍は、『魔導祭』の結果を見て、少し高揚していた。

ブライア・グリーンドラゴンの力は本物だと、その証明になったのだから。

そしてまた、邪悪に嗤う。


「彼に、あの『迷宮』を踏破させましょうか⋯⋯」



──また一つ、『事件』が動き出す──

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