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第117話 栄冠──その6

一体、いつからだったっけな。

アイツに勝ちたいって、思うようになったのは。

一体、いつからだったっけな。

アイツの役に立ちたいって、思うようになったのは。

一体、いつからだったっけな。

アイツと一緒に、学校を卒業したいって思うようになったのは。


数えるとキリがない、アイツとの思い出。

挙げ出すとキリがない、アイツとの勝負。

こんな感情は、一個人に向ける友情とは、また違うのだろうか?

愛?執着?それもまた違う気がする。

永遠の友達ってのが、今まで一番しっくりきていた。

でも、それすら違う気がしてきた。

因縁?定められた運命?なんだか分からない。

でも、この剣技を編み出して、理解した。

ああ、これが──好敵手(ライバル)だって。


奏が言ったように、アイツとは仲良くした。

正直、こんな関係になるとは思いもしなかった。

だから──『馬鹿』を演じた。

アイツが俺よりも『賢者』だったからだ。

俺とは思考回路が全く違う、まさに天才とはアイツのことを言うんだろう。

でも──俺は、アイツとは別の次元で『天才』だ。

その自覚も、自信も、持ち合わせている。


ああ、そういえば、俺の近くにも『弱者』を演じてたヤツがいたっけな。

俺と同じく演じる者でありながら、その才覚を見事に隠している。

ヤツと俺が同じ人種だって知った時、それはまあ心が舞い踊った。

ヤツは一体、長い長いこれから先の人生で、どこまで力を見せる気なんだろうな?


今、力において俺とアイツが同じ土俵に並んでいる気は、一切ない。

だが──『才能』だけは、俺もその次元にいる。

才能を開花させろ、なんて世の人間は色々言うけどさ。

そんなもん、簡単じゃねぇから潜在的素質で留まる奴らが多いんだろ。

でも、俺は掴んだ。

キッカケさえ掴めれば──あとは、成り行きに任せるだけ。


単純なことじゃないか。

俺の目の前で邪魔する者がいる?

俺の目の前に立ちはだかり、戦う者がいる?

俺の目の前で必死にしがみつき、離れない者がいる?

関係ない────全員、斬れば済む話だ。

俺の前にいるのなら──迷わず、俺は剣を振るう。

今目の前にいるのは、邪魔な天使。

この俺の剣技で──葬ってやる。




「──さて、そろそろ天使を殺すか」

「⋯⋯はっ、殺す?君に、できるのかい?」

「その態度も今だけだな。勝手に侮っとけよ」


シュヴァルツは剣を振り回し、チャキ、と音を立てて構えた。

フィアセルトは、その姿を見て一目で理解する。

──確実に、この世のものとは思えない剣技が炸裂する、と。

歴代『剣聖』の技術を使っていた先程とは空気が一変し、まさに本気でユフィスティアに挑もうとしている。


「さぁて、一発どでかいのかましてやるか!」


──誰が見ても、圧倒的なシュヴァルツの強者の風格。

それを裏付けるのが、『剣聖』か?

それとも、『轟炎真焔丸』か?

否、それとは別にある。

──シュヴァルツの剣技は、正しく世界を『超越』するのだ。


「────【一刀万界】」


横一閃、振り抜く。

その一閃は何を斬ったのか?

至って単純────世界を斬った。


「⋯⋯ははっ、嘘だろ?」

「チッ、まさかお前に効いてないなんてな」


四つの地帯で、最も高低差の激しい荒野地帯。

その高低差が、全て消え去った。

正確には──高さのある場所が、全て消え落ちたのである。

これでは、見晴らしのいい平野と何ら変わらない。


「手加減ってのも、難しいもんだな」


シュヴァルツが手加減しなければ、今の一太刀で、この試合全てが崩れてしまう。

それ程までに、シュヴァルツの剣技は凄まじいのだ。

歴代の『剣聖』で、ここに至った者は存在しない──まさに、最強と呼ぶに相応しい。


「おいおい、ビビってんのか?かかってこいよ」

「ははっ、面白い──『義赫剣天』」


シュヴァルツに接近し、左手から赤い斬撃を繰り出す。

シュヴァルツは動じず、ユフィスティアは上空に飛び上がった。


「──『勇頼断照』」


前方から赤い斬撃が、上空からは黄に輝く剣が降りかかる。

以前のシュヴァルツなら、確実に焦っていたであろう威力と、速度。

しかし──シュヴァルツは、二度剣を振った。


「──【双紅颯聖】」


あまりにも素早い二振りの斬撃が、ユフィスティアの斬撃を斬り裂いた。

赤い斬撃は霧散し、上空から迫る黄の輝きは、剣を折られることで、消え去ってしまう。


「あははっ!君も、『そこ』にいるんだね!やっぱり、彼に魅せられ、引っ張られたかい!?」

「喧しい口を閉じろ──【惨彗越剱】」


光り輝く三つの斬撃が、ユフィスティアに襲いかかる。

剣の折れたユフィスティアに、対抗する術はない──そう思われた。


「──『悲壮』」


一言、そう呟いたユフィスティアは、シュヴァルツの斬撃を受けても、無傷で立っていた。

その様子を見て、シュヴァルツは頃合だと判断し、フィアセルトに話しかける。


「フィアセルト、ブライアの方に向かえ」

「──何故だい?君なら単独で、ユフィスティアを抑えられると?」

「それもあるが、ブライアの指示だ。頃合だと思ったら、お前をブライアのところに向かわせろ、ってな」


シュヴァルツが、ユフィスティアに勝つ為の伝授をされたついでに、ブライアに頼まれたこと。

それは、フィアセルトをブライアのところに寄越せ、との指示。

ブライアは、シュヴァルツが『馬鹿』を演じていることにはとっくに気づいている。

だからこそ、シュヴァルツに判断を委ねた。

それが今、ユフィスティアがシュヴァルツの斬撃を無傷で耐え抜いた瞬間。


「⋯⋯成程、本当なのだろうね。分かった、ブライア君の方に向かうよ」


そう言って、フィアセルトは飛んで行った。

転移しない理由としては、ブライアの戦いに、不意に巻き込まれることを危惧してのことだ。

それに、フィアセルトは砂漠地帯の現時点の状況を知らない、ならば安全択を取って、転移しないという考えに至るのはまさに正しい。


「⋯⋯さて、ユフィスティア。俺とここで、ずっと遊んでてもらおうか」

「殺すんじゃないのかい?あれだけ意気込んでいたのに」

「お前を殺したら、30分後には復活するだろ。お前を一発で探し抜くのは難しい、その間に砂漠地帯に向かわれたら面倒だからな。今は、殺さない」

「──へぇ、小さい脳みそで、よく考えたね」

「気づいてんだろ?俺が『馬鹿』じゃないことに」


そう言うと、ユフィスティアは目を細める。

確かに、ユフィスティアはシュヴァルツが演技をしていることに気づいていた。

シュヴァルツを煽り、激情に支配させることなんて、もうできない。

ユフィスティアは、危機に陥った。


「そもそも、なんでブライアを狙ってやがる?」

「ボクの目的かい?それは単純さ──彼を倒して、ボクの配下、もしくは仲間にする、ただそれだけさ」


ユフィスティアは、強大な力を持つブライアを、支配したいと考えていた。

それさえできれば、正真正銘の最強となれるからだ。

しかし、ブライアに至るには、邪魔者がいる。

それが、シュヴァルツとフィアセルトだ。

荒野地帯を、一度剣を振るだけで更地にする程の『剣聖』と、魔法技能がズバ抜け、頭も切れる『聖霊』──どちらも、強者。

だからこそ、ユフィスティアは二人纏めて始末し、力を見せつけるつもりだった。


「でもさ、君たち強すぎるんだよね」


シュヴァルツは想定より強く、フィアセルトには今まで一度も勝ったことがない。

本気を出せば何とかなると考えていたが、シュヴァルツ一人にすら足止めされている。

それに、シュヴァルツもまだ本気ではない。


「ブライア君の、世界を超越した力にも勝てやしない。計画なんか、とっくに瓦解しているんだ」

「⋯⋯で、諦めるのか?」

「諦めたいけどね──『悲壮』が、離してくれないんだ」


『悲壮』──たとえどんなに悲惨な状況に置かれても、強く、美しく、戦い続ける美徳──それが、ユフィスティアを離さない。

諦められるのなら、とっくに諦めている。

しかし、ユフィスティアは『美徳』に逆らえない。

ならば、最後まで抗い続けて敗北する。

それこそが、ユフィスティアの信念であり、司る美徳なのだ。


「シュヴァルツ君、正直に言うと、君を舐めていた。謝罪しよう」

「だろうな。お前、ブライアしか眼中になかっただろ」

「ああ、そうさ。シュヴァルツ君やフィアセルト君は、副産物程度にしか考えてなかった──その認識を改める」


真剣な眼差しで、シュヴァルツを見つめる。

対するシュヴァルツも、剣を強く握り、ユフィスティアを見つめた。


「君を、ここで倒してみせる」

「──できるものなら、やってみろ」


──ここに、天使と剣聖の、誰も介入することのできない戦場が、展開された。



────荒野地帯での戦闘が始まる前にて

「ここが、今の砂漠地帯か」


天に描かれている、大きな魔法陣を除けば、対して先程までとは変わらない。

だが、魔法陣が圧倒的存在感を示している。

目の前に立っているのは──王冠を持った、フィナ・ブルードラゴン。


「来たわね、ブライア・グリーンドラゴン」

「こんな異変を感じりゃ、そりゃ来るさ」


フィナの魔力は、今でも天に昇り続けている。

それも、空に描かれている魔法陣に吸われているのだろう。


「私のこの大掛かりな魔法の意味はもう、理解しているのよね」

「ああ──龍の、完全なる顕現、そうだろ?」

「正解──私はここに、青龍を召喚する」


圧倒的上位存在の、龍族。

末端の雑魚と呼ばれるような存在ですら、勝つことなど到底無謀な種族。

あまりに強すぎる故か、現世に顕現する為には、大掛かりな儀式と膨大な量の魔力が必要となる。

それが、ここに召喚されるのだ。


「──来なさい、青龍」


──突如、魔法陣は爆散し、雷が砂漠地帯に降り注ぐ。

そして、青い魔力砲撃が、俺に向けて放たれた。

──しかし、その砲撃が俺に到達することはなかった。


「あんた、人使いが荒いわね」

「協力しろ、お前シュヴァルツより強いだろ」

「──なんでバレてんのよ」


────ノラス・イエロードラゴンが、この場に到着した。

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