第114話 栄冠──その3
皆様、新年あけましておめでとうございます!
今年一年も、この作品が愛されるように頑張りますので、応援の程よろしくお願いします!
「ああ、美しい──その姿、ボクの仕える主人に相応しいよ」
ユフィスティアは確か、俺と仲間になりたいって言ってたか。
コイツは強い、俺の味方にいれば安心だ。
まあ、それは後で考えよう──今はコイツを倒す。
「さて、お前に問う──この世界に、『絶対』はあると思うか?」
「⋯⋯あるかもしれないし、無いかもしれない──『絶対』は、曖昧だ」
「ああ、そうだ──だが、俺は違う」
──遡ること、二ヶ月前
「神智結晶、話ってなんだ?」
《お前の力も安定してきた、【絶界】三つ目の権能も、直に使えるようになるはずだ》
「三つ目⋯⋯どういう権能だ?」
《【絶対神王の覇道】──お前の往く道こそが『絶対』だと知らしめる権能だ》
──すると、俺の体が一瞬硬直し、黒い波動が流れ出す。
更には、突然『神魔眼』と『無効眼』が開眼し、何やら変な気分に陥った。
《ああ、美しい──その眼は『絶対眼』──二つの『特異体質』が混ざり、結合し、進化した、お前だけの眼だ》
この眼、全てが見通せるような力を感じる。
これが【絶界】──これこそが、絶対。
《お前はその力を解放している限り、この世界に囚われない唯一の存在になる──何でも、自由にできる》
「自由⋯⋯へぇ、面白そうだな」
《お前の全てを、世界は祝福する──その恩恵を受けて、自由に戦え》
「ああ、見てろ──全員、薙ぎ倒してやる」
──そして、現在
「⋯⋯ははっ、これは楽しめそうだね」
「──楽しめたらいいな」
一瞬でユフィスティアの懐に入り込み、一撃を入れる。
だが、その隙間に入っていたのは、一枚の翼。
「二枚目の翼──『守護』。まさか、こんなに早く使わされるとはね」
「余裕だな」
「まさか、今も冷や汗が止まらないさ。でも──楽しいんだ」
コイツの原動力は快楽──面白いか面白くないか。
認められた者にのみ、天使としての格を見せるのだろう。
俺としても、コイツと戦うのは面白い──圧倒してもいいが、少しは楽しもうか。
「──『義赫剣天』」
「──『絶対消滅』」
赤い斬撃が飛び交うが、そんなもの関係ない。
『絶対』により、全て消し去るのみ。
相手が存在しない天使なら、俺は存在しない『絶対』で対抗する。
それに──俺は、コイツをもっと知りたい。
コイツの持つ全てを、引き出したい。
「『勇猛たる我に力を』──『勇架醒斧』」
ユフィスティアが黄色の目に変わり、超短文詠唱を始め──輝く斧を手に入れた。
恐らく、今使った美徳は『勇気』だ。
──その勇気に応じて、真正面から戦おう。
「いつでもかかって来い」
「『勇気の喝采』──さぁ、戦おう!」
一瞬にしてユフィスティアの姿が消え、俺の背後で大斧が振るわれる。
頭が働くより先に、体が動いていた俺は──指一本で、その斧を止めた。
「──っは、まさかこれ程とは⋯⋯ッ!?」
「油断すんなよ」
驚いている最中に、右足の蹴りを入れる。
しかし、当然のように翼に阻まれた。
──厄介だな、引きちぎるか。
「──どこに──ッ!?」
ユフィスティアの前から姿を消し、空中からの強襲で、『守護』の翼を掴む。
そしてそのまま──翼を引きちぎる。
「案外、簡単にできるもんだな」
「──っ、まさか⋯⋯翼を、引きちぎられるとは──ッ!」
今、ユフィスティアは痛みに悶えている。
そりゃ当然だろう、こんな大きな翼をちぎられたら、痛いなんてもんで済まないはずだ。
まあ、何もかもこの翼が厄介なのが悪い。
翼は残り三枚──そのうち、二枚はまだ権能を明かされていない。
まあ、戦闘中の楽しみとして取っておくか。
「かかってこいよ、その勇気で」
「ああ、勿論──『英雄踏破』」
ユフィスティアの一歩、その重みが伝わってくる。
英雄のように、長く、困難な道を歩いてきた、その重みが。
『勇気』という徳の美しさを、象徴している。
「『勇気の美冠』──英雄の勇気を、賞賛せよ」
輝く黄の冠が、ユフィスティアに力を授けた。
正に、英雄のような一撃で──俺を仕留めにくるのだろう。
【絶界】のない俺では、絶対に耐えられなかった──だが、今の俺には『絶対』がある。
確実に耐えるという自信が、備わっている。
「最強に相応しいその力を、貫いてみせるよ」
「できるものなら、やってみるといい」
すると、ユフィスティアが斧を振るい、衝撃波が発生した。
手の甲でその衝撃波を弾くと、近くにあった氷山に衝突し、爆散する。
──とんでもないパワーだ。
あんな攻撃、受け切れるヤツなんてこの世界に殆どいない。
ユフィスティア──やっぱり、コイツは強い。
「凄いね、今のを片手で弾くかい?」
「俺だからできたが⋯⋯あれ、他のやつが食らったら跡形もないだろ」
「当然さ、完全に消し飛ばすつもりだったんだけど──効果はなかったようだね」
ユフィスティアに【絶界】を突破する手段は、恐らく存在しない。
最上位の天使すらも見下せる力──やはり、これは桁違いだ。
──っと、そろそろ時間だ。
「悪いなユフィスティア──もっとゆっくり戦っていたいが⋯⋯それはまた今度だ」
「──どんな技を、見せてくれるんだい?」
「【超越】──【攻撃超越】」
──俺が編み出した、『絶対』と【超越】による最適の攻撃。
圧倒的なまでの攻撃力と、それを繰り出す最短の道。
「『神攻』──『神踵鉄槌』」
──一瞬にして、至高の攻撃が、ユフィスティアの心臓を貫く。
ユフィスティアは吐血し、俺が足を引き抜くと、バタリと倒れた。
──親父の『無天無双』を越える。
その為には、どうすれば良いか?
その案を限界まで考え、練り、実践した末の技術が『神攻』。
この攻撃一発で、全ての生き物を殺せる。
ユフィスティアにも、例外では無かったみたいだ。
対抗策は──同じ【絶界】のみだろう。
「ア、ガッ──カハ⋯⋯ッ!」
「これで終わりだ、ユフィスティア──復活した時、また相対する時があれば、相手になろう」
そのまま、ユフィスティアを上空に蹴り飛ばす。
──絶命も確認した、来るとしても30分後であるのは間違いない。
「⋯⋯ぁ、痛ぇ⋯⋯カハ⋯⋯ッ!」
目から血が流れ、その直後に口から血を吐いた。
【絶界】三つ目の権能である【絶対神王の覇道】は、あまりにも強大な力すぎる。
俺が普段使う二割の【絶界】では、体が耐えきれないのだ。
だから戦いを早く終わらせないといけなかった──本来なら、もっとユフィスティアと戦いたかったのが本音だ。
体が壊れてユフィスティアに負けたなんて、俺たちのクラスの勝敗にも関わってくる。
「そろそろ切るか──ッ!?」
殺気が、俺の方へと寄せられる。
一人や二人なんかじゃない──恐らく、俺一人に百人、二百人程が狙いを定めている。
──もしかして、あの乱闘から30分が経過していたのか?
──少し離れた、荒野の高台。
「ブライア・グリーンドラゴンを殺さねば、我々に勝利はない」
『十大魔導士』元第二位──ドラグルト・エルネア・シーグロスは、氷河地帯を見ながら、そう言った。
入学早々のユフィスティアに敗れ、地位返上の為に、目立たぬよう隠れて策を練っているのだ。
有象無象をブライアと戦わせ、少しでも消耗させ、その隙をドラグルトが撃ち抜く──その戦法で、ブライアを倒そうとしていた。
──そうでもしなければ、ブライアを倒せないのだ。
ユフィスティアも、フィアセルトも彼に敗北した──ならば、真っ向から戦って、自分が勝てるはずもない。
確かに、その判断は正解だった。
しかし──ブライアの魔の手が、そこに忍び寄る。
──氷河地帯の中心にて
「もうすぐ、魔法が全て放たれるな」
このまま【絶界】を切っていなくてよかった、お陰で楽に対処できる。
──今大会で、俺は【絶界】の使用回数を三回まで、と設定した。
ユフィスティアとの戦いで使ったのは至って単純──俺の力を、見せつけるため。
しかし、コイツらには逆効果のようだ。
あの力を見て、よりここで仕留めなければならない、という思いが強まったのだろう。
なら、直で体験させてあげようか。
「──来る」
その次の瞬間──様々な属性や、能力が使われた魔法が、俺一人を目掛けて強襲してきた。
──だが、そんなものは無意味だ。
「【超越】──【防御超越】」
──先程とは真逆、俺が編み出した『絶対』と【超越】による最適の防御。
圧倒的なまでの防御力と、要塞のごとき肉の鎧。
「『神防』──『神鎧堅固』」
特に、俺の見た目は変わらない。
しかし、どんな攻撃すらも、どんな魔法すらも、俺には効果がない。
それが、俺の肉の鎧なのだ。
──『無天無双』並の攻撃を耐える為に、開発した技術──それこそが『神防』である。
「さて、そこまで俺を歓迎してくれてるなら──俺も、お前達を歓迎しよう」
未だ、一つの技しか作れていない技術。
しかし、それだけで十分だ。
「【超越】──反撃超越」
俺が編み出した、『絶対』と【超越】による最適の反撃。
二つと比較しても、圧倒的なまでの権能。
それを、神のように、自由に振るえるのだ。
「『神反』──『神権強行』」
人という位の低い種族を、神が審判する。
その為の神権であり、その為にその権能を勝手に扱う。
「俺に敵意を向けた者よ──全員、死滅しろ」
──その瞬間、何百もの命が、この氷河地帯から失われた。
別の地域にいる数名も命を落とし、30分は復活できないルールに囚われる。
「エニアスもあと数分で復活、王冠はまだ取らなくていい──まあ、ここまでは想定通りだ」
計画に狂いはない──俺達のクラスが、頂点に立つ。