第112話 栄冠──その1
『本日は『魔導祭』!実況を務めますは私、五年三組イナムニト・フグロス!それでは張り切っていきましょう!』
暗い森、そこでも実況の大きな声は届く。
ついに『魔導祭』──この日を、待ち望んでいた。
『今回の祭場は4つの異なる地域から成る、完全創作!では順番に紹介していきましょう、まずはこちら、大森林地帯!木々に囲まれ、光の届かない地を制する者が、勝敗を分けるでしょう!』
大森林は、今俺達がいるところだ。
少し遠くに他のチームもいるようだ、警戒しておこう。
『お次は砂漠地帯!砂に足を飲まれれば最後、魔法の餌食となるでしょう!』
砂漠地帯は大森林の隣、何があるかは後で把握しておこう。
『そしてそして、氷河地帯!ブルブル震えてる暇なんてありません!ここは常に大氷が水の上を移動する為、完全な対策は不可能!』
氷河地帯は恐らく、行くことはないはずだ。
俺は今回前衛という訳ではないから、移動歩数は少なくなると思う。
『最後は荒野地帯!高低差が激しく、入り組んだ土地の為、奇襲や不意打ちには気をつけなければなりません!』
俺が一番動きやすいのは、恐らく荒野地帯だろう。
高低差がある方が、俺個人は楽だからだ。
『そして、ご存知の通り今回の種目は『栄冠』!黄金の冠を最後に手にしたクラスが勝利です!』
できれば、俺達の所に王冠は来て欲しくない。
一応作戦は立ててきたが、俺達のところに来てしまえば少しプランが崩れる。
当然、それをカバーするようにはしているが⋯⋯まあ、最初の王冠は運に任せるしかない。
『ルールは単純!王冠を最後に手にしてください!殺しても不死場の為死にません!そして今回、もし死んでも30分で復活します!制限時間は8時間!』
午前9時に開始し、午後5時に終了する。
死んでも復活するというルールならかなり大きい、30分ならすぐ経過するはずだ。
『それでは、開始まで10分、選手は準備の方お願いします!』
「緊張、してないよな?」
「おう、当たり前だ!」
シュヴァルツがやる気満々だ。
今回、シュヴァルツには前衛として活躍してもらう。
コイツに王冠は持たせない、戦場を駆け回って邪魔者を排除する戦闘狂だ。
「僕ら三人も、君の指示に従おう」
「ああ、助かる。そうだな⋯⋯最初に、して欲しいことがあるんだが────ってのはどうだ?」
「へぇ、中々悪いことを考えるね──僕がやろう」
開始まで残り1分、俺には十分だ。
「──よし、いける」
「じゃあ、やろうか」
『それでは、開始──ッ!』
「『冴滅旋渚』」
試合開始と同時に、フィアセルトが魔法を放つ。
──すると、大森林が冷気に満ちた。
「試合開始と同時に、大森林にいる全ての選手を殺す──いい性格してるね」
「ああ、よく言われる」
「そりゃどーだか」
流石に全範囲は厳しそうだったから、大森林のみに絞った。
だが、これはかなりいい流れだろう。
「王冠は──大森林にはいないね」
「てことは、どこかの三地域──よし、リーシャとシュヴァルツ、頼んだ」
「行ってくるぜ!」
「頑張るね」
シュヴァルツは砂漠地帯に、リーシャが荒野地帯に駆け出していく。
序盤の二人のやることは、王冠を探すこと。
狙うタイミングも、誰が奪うかも、もう決めてある。
俺達はプラン通りに進めるだけだ。
「リーシャにはフィアセルト、シュヴァルツにはエニアスが着いていってくれ。近すぎず、遠すぎずの絶妙な距離で頼んだ」
「分かった、行ってくるよ」
「いい報告を楽しみにしててくれ」
フィアセルトとエニアスも、それぞれ駆け出していく。
大森林で今活動しているのは、俺一人。
その間、俺は──要塞を築く。
──荒野地帯にて
「⋯⋯荒野地帯も王冠持ちはいなさそうだね。じゃあ、とりあえず大森林に向かいそうなチームを潰そう」
リーシャはブライアの指示通りに、大森林に向かうチームを排除する。
しかし、いくらリーシャが強いとはいえ、多勢に無勢。
不意打ちを決めたとしても、この学校は優秀な生徒が多い。
リーシャとて、すぐに倒されてしまうだろう。
「──その為の、フィアセルト君だよね」
リーシャは両手にナイフを持って、一つのチームに近寄る。
そのチームは七人、役割や立ち位置もしっかりしている、本来なら攻める隙はない。
(まずは一人──首を掻っ切る)
ナイフを動かし、一人仕留めた。
バタリと倒れた音に反応し、残った六人が臨戦態勢に入る。
「動きが早いな⋯⋯!」
「落ち着け、相手は一人、倒せるぞ」
魔法使いの弱点は、近接戦闘。
しかし、この学校の生徒は近接戦闘ができる者も多い。
リーシャの得意である接近戦を仕掛けようにも、返り討ちに遭う可能性がある。
「さて──頼んだよ」
「──『凍霞』」
大粒の氷の礫が浮かび上がり、霞が辺り一帯を覆い尽くす。
それに多少なりとも動揺した相手に、リーシャが一閃した。
「二人目」
冷淡な戦闘スタイル、魔導士のような派手さはない。
しかし、それでいて美しい。
的確に急所を潰すリーシャの動きは、素晴らしい手際だ。
「おい!」
「──『楓鷹閃瀑』」
──再びナイフを振るう。
心臓、脳、首といった生命活動の急所を潰し、瞬く間に三人を仕留めた。
残るは二人。
「そこだ──ッ!」
「『射よ、氷の礫』」
その言葉と同時に、残った二人が空中に浮かんでいた礫に貫かれる。
そのまま倒れ、霞は霧散した。
「流石フィアセルト君、援護が上手いね」
リーシャは、まだフィアセルトが本気でないことは分かっている。
だが、それでも魔法の精度や強さを、褒めずにはいられない。
「じゃ、まだまだ続けよっか」
──砂漠地帯にて
「早速接敵、試す時がきたな」
「シュヴァルツ・レッドドラゴン⋯⋯!」
シュヴァルツの相手は十二人程。
しかし、シュヴァルツは一切焦っていない。
それどころか、楽しみにしている程だ。
──六日前
「ブライア、話って?」
「⋯⋯今からお前に凄い酷いことを言う、でも俺の事を嫌いにならないでくれよ」
「なる訳ないだろ、友達じゃねぇか!」
ブライアはそう保険をかけるが、シュヴァルツは気にしない。
酷いことなど、ノラスから散々言われているからだ。
「──お前は馬鹿だから、二つのことを同時にはできない。だから二刀流はやめた方がいい」
──ブライアのその言葉は、シュヴァルツの心に物凄く刺さった。
今までの戦闘スタイルを否定され、傷つかない者はいない。
特にシュヴァルツにとって、二刀流はカッコイイの象徴。
それをブライアに否定されたことで、物凄く落ち込んだ。
「だからこうすればいい──『轟炎真焔丸』に『聖剣』を重ねればいいんだ」
シュヴァルツはずっと『轟炎真焔丸』と『聖剣』の二刀流で戦ってきた。
しかし、そこでブライアの提案。
『轟炎真焔丸』に『聖剣』を上乗せする──確かにこれなら、シュヴァルツを最大限活かせる。
だが、シュヴァルツはあまり気乗りしなかった。
──そこに、ブライアから更なる助言。
「一つの剣に二つの能力がついてんのって、すっげえカッコよくないか?」
ブライアのその言葉で、シュヴァルツは完全に生き返った。
確かに、そうだ。
燃え盛る焔の剣に、聖なる斬撃を付与する。
シュヴァルツはそんな想像をした。
──カッコイイ!
シュヴァルツの頭の中には、それしかなかった。
「ブライア、いいなそれ!やってみる!」
──そうして完成した、新たな剣術。
シュヴァルツとブライア二人で共同制作した、剣技。
「やるぞ──『聖焔一心流──聖架紅焉』」
──一太刀、振るう。
その一太刀で、砂の海が割れた。
その斬撃に、相手十二人全員が斬り裂かれた。
「すげぇ、この剣術──強いし面白い!」
シュヴァルツが、また更に剣への興味と理解を深めた。
『聖焔一心流』──シュヴァルツだけの剣術流派であり、どんなものにも染まらない、至高の剣技。
二刀流とは違い、一つの剣、一つの技に心を込め、斬る──戦闘中に集中力があまり切れることのないシュヴァルツにとっては、最も扱いやすい剣術だ。
「今は特に援護も必要ないな──なら、荒らし回るぜ!」
エニアスに王冠探しを任せ、自分は選手を斬り尽くす。
最低でも30分は行動できないことが保証されている、なら少しでも斬って斬って斬りまくって、妨害すればいい。
単純明快だが、これはシュヴァルツにしか成せない戦法だ。
「ブライアも暴れていいって言ってたよな!」
シュヴァルツは、戦闘のことになったら誰も止められない。
だからブライアは、基本シュヴァルツを放し飼いしている。
無理に抑え込むと、ストレスが溜まり、動きが鈍くなってしまう。
シュヴァルツを放し飼いすることで、最高のパフォーマンスを演出できるのだ。
「滅茶苦茶だな、アイツ⋯⋯とりあえず、砂漠地帯に王冠はない──おっと、荒野地帯にも王冠は無しか」
全員には銀色の指輪を渡されている。
連絡を取ったり、味方の危機を察知することが可能。
遠く離れた味方との連携も必要になるこの『魔導祭』では必需品だろうと、ブライアが人数分創ったのだ。
「王冠は氷河地帯⋯⋯まだバケモン達の姿も見れてない、どこにいるんだ⋯⋯?」
周囲を警戒しながら、有り得ない速度で砂漠を駆け回るシュヴァルツを追いかける。
未だ強者の影は見えない、だからこそより怖い。
どこで何をしているかが、不透明だからだ。
──突如、どこかから轟音が鳴り響いた。
「──この音、氷河地帯からか!?」
──氷河地帯にて
「見つけたぞ、王冠!」
「命に変えても掴み取れ!」
「突撃だ!魔法を放て!」
20チーム程の乱戦が巻き起こる。
総人数は250人を超えており、まさに地獄絵図だった。
「美しくないわね」
「⋯⋯フィナ、何をするつもりだ?」
「見てなさい──『青砲・龍煌の息吹』」
上空に青龍が出現し、物凄い勢いの砲撃が乱戦の場所へと落ちる。
その砲撃で乱戦に参加していた殆どの選手が倒され、残った者達も重症のみ。
「さて、ここからは作戦通り動くわよ」
『魔導祭』──初めに動き出したのは、フィナ・ブルードラゴンだった。