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第105話 再開と十大魔導士

「皆さんおはようございます、今日は実践の方をやっていくので、三人一組を作って下さい」


魔法実践をする第三校舎の設備は、素晴らしいものだった。

貴族学校にないような、魔法使い専用のトレーニング器具であったり、魔法の精密射撃をする為の訓練場であったりと、かなり整っている。

三人一組と言われても、俺がシュヴァルツと組んだらすぐに終わってしまう、誰と組もうか⋯⋯。


「⋯⋯あの、ブライアくん⋯⋯だよね?」

「そうだけど、君は?」

「覚えてないかもしれないけど⋯⋯私、リーシャ。平民学校であなたと会ったの」

「⋯⋯もしかして、一年の時?」

「そう、覚えててくれたの!?」

「名前を聞いたら分かったよ」


確か、俺が執拗な嫌がらせを受けた平民学校で、仲良くしてくれた女の子だった。

⋯⋯あれ、なんでリーシャはこの学校にいるんだ?

どんなに早くても一年遅れで、六年生にはなれないはずだ。


「なあ、君って平民学校の子だろ?どうして六年生にいるんだ?」

「この学校には飛び級制度があってね、六年生まで飛び級したの」


成程、飛び級したのか。

ということは、かなり強くなったのだろう。


「俺と組まないか?丁度ペアがいなかったんだ」

「私でよかったらいいよ!」

「あと一人は⋯⋯って、もう全員作れているのか」


シュヴァルツも既に三人一組を作っていた。

このクラスは四十人、そこに俺とシュヴァルツが加わって四十二人⋯⋯てことは、一人休みがいるのだろう。


「多分いないのはフィアセルト君だと思うよ、彼のことは気にしないでいいと思う」

「フィアセルト⋯⋯どんなヤツなんだ?」

「そうだね⋯⋯この学校で一番強い子、だね」


この学校で一番強いヤツが、このクラスにいるのか。

フィアセルト⋯⋯一体、どんなヤツなのか、楽しみだ。


「そこはまあ二人でも大丈夫そうだな⋯⋯それじゃあ、シュヴァルツ君のチームとヨーメアのチームで戦ってくれ」


両チームが中央のコートに入り、俺達は二階に上がる。

シュヴァルツなら負けないだろう、特段気にしなくてもいい。


「あのヨーメアって奴は強いのか?」

「あの子はこの学校で五番目に強い子だね⋯⋯一応、この学校には『十大魔導士』っていう順位があってね、その順位に従って何番目に強いとかが分かるよ」

「そうなのか⋯⋯このクラスには他にもいるのか?」

「このクラスには一位、四位、五位、七位、九位、十位がいるよ⋯⋯ちなみに、私は九位」

「てことは、この学校で九番目に強いのか!」


この子、本当に強くなったな。

でも、この子は確かナイフを使って戦うはずだったけど、魔法を扱えるのだろうか。


「もうすぐ始まるよ」

「それでは──始め!」


コールと同時に、シュヴァルツと同じチームの桃髪の女が炎魔法を放った。


「『炎放照射』」

「あの子の名前はリフィア、十位の子だね」


シュヴァルツと組んだのが十位の子なのか。

確かに、炎魔法の制御も良いし、魔力の乱れが一切ない。

強いと言われるだけのことはある。


「──『水霞滴』」


ヨーメアが紺色の杖を取り出すと、水滴をいくつか生み出し、火炎にぶつける。

すると、その水滴は全方向に広がり、火炎から身を守った。

あの魔法、面白い仕組みでできている。

水面には入射角や屈折角といった原理で光を反射させるのだが、あの小さな水滴を水面と見なし、火炎を光と認識させ、全反射させているのだろう。

全反射は、光の入射角を大きくすることで全ての光が反射して水中に戻る仕組みだ。

アイツは水滴の角度を完全に調節して、入射角が大きくなるように設定してある。

あのヨーメアというやつ、かなり頭の良いヤツだな。


「『想念』──原理無視」


今度は氷を生み出して、射出した。

まだ火炎は残っているから溶けるはずだが、多分さっきの能力で溶けないようにしたのだろう。

炎は氷に弱いという原理を無視する、あの『想念』という能力はかなり厄介だ。

あの能力を使いこなされたら、相手取るのはかなり面倒だろう。


「──遅い」


シュヴァルツはそう言うと、氷を一閃した。

更に剣を振るい、粉々に粉砕し、地に落とす。

流石はシュヴァルツ、あの程度じゃまだやられない。


「世界三位の実力、試させて貰いましょう」

「望むところだ」

「『想念』──自立意思」


ヨーメアが氷のゴーレム、水の鳥、雷の虎を生み出し、能力で意志を宿らせた。

あれで大群を作られて意思を持たせたら、かなり強そうだ。

対複数戦には、無類の強さを誇るだろう。


「『想念』──不死再生」


シュヴァルツに壊されてもいいように、再生させる仕組みも作り上げた。

この一瞬での判断力は素晴らしい、ヨーメアは頭脳戦では最も強いだろう。


「人形ちゃんは任せとけ、お前ら二人は直接アイツらを叩け」


シュヴァルツのチームの一人が、人形全員を相手にする。

成程、自立意思を逆手に取って、注意を逸らしたのか。

意思がない創作生物は作成者に全て委ねられる、どこを狙うか誰を倒すかなどの選択が可能。

しかし、自立意思はその生物に全てを委ねる、危険と判断したものを全て倒す。

その性質を使って、シュヴァルツとリフィアをフリーにさせた、作戦としては上々。


「麗しき焔の民よ、我に焦熱の力を与えたまえ──『煌炎閃威』」

「チッ、煩わしい──『壁』」


本来なら長い詠唱が必要な炎の魔法を短文詠唱で済ませた。

更にヨーメアは、高火力の魔法を単純な防御魔法一つで守り抜く。

ハイレベルな魔法戦、研究のしがいがある。


「シュヴァルツ!」

「はいよ──『聖焔光刹』──ッ!」

「ヨーフェン!」

「分かってる──『斬壁』」


シュヴァルツが聖剣で斬撃を放つが、ヨーメアは完全に防ぎ切る。

驚いた、シュヴァルツの斬撃も防ぐとは。


「⋯⋯あれ、アイツの名前ってヨーメアじゃないのか?」

「彼の本名はヨーフェン・メルド・アリア、自分が強さを認めた人や心を許した人には愛称であるヨーメアって呼ばせてるの」


成程、そういうことか。

ということは、ヨーメアの周りにいるヤツは強さを認められていないのだろう。


「シュヴァルツ・レッドドラゴンも大したことありませんね、その程度ですか」

「⋯⋯はっ、言ってくれるじゃねえか」


アイツ、キレたな。

そりゃ自慢の剣技をその程度って言われたら怒ると思うが、実際防がれてる訳だ。

ただ、本気を出されるのも困る、加減しろと伝えよう。


「おいシュヴァルツ、本気出すなよ」

「本気なんで出さずとも、コイツはマジで泣かす」


多分本気は出さないと思うが、実力は見せつけるだろう。

まあシュヴァルツが舐められるのは俺も快く思わない、好きにしてくれればいい。


「かかってきなさい」

「舐めやがって──『魔糸』」


⋯⋯シュヴァルツ、それはズルじゃないか?

魔法使い相手に魔法禁止はダメだろ。


「ほら、お得意の魔法出してみろよ」

「⋯⋯それじゃ、お言葉に甘えて──『律廻水苑』」


ヨーメアが水の領域を作る魔法を放った。

⋯⋯あれ、魔法を放てたのか?

ということは、シュヴァルツは『魔糸』で一体何をしたんだ?


「俺に魔法の影響は一切ない──『魔法干渉不可』」


糸を自身に纏わせて、魔法の影響をゼロにしているようだ。

成程、全員の魔法を禁止にしたら味方も使えないから、自分にかかる魔法の影響を全て消している。

シュヴァルツにしては、ちゃんと味方を考えた使い方だな。


「──『紅蜘蛛海月』」


シュヴァルツらしからぬ、流れるように美しい剣技。

水を敷かれた実践場で舞うように魔法を避け、そのまま剣技を放つ。


「『紅雲雅』」


美しい剣技で、一瞬の間に二人仕留めた。

残るはヨーメア一人、三対一の状況。


「その糸の攻略は無理でしょうが⋯⋯簡単に負ける程、私は甘くありません──『霧霞』」


実践場に霧が出現し、ヨーメアが行方をくらませる。

次の瞬間には、バタリと倒れる音がした。


「まずは一人」


恐らく、先程自立意思の持った魔法生物を相手にしていたヤツがやられたのだろう。


「クソ──『炎天霧払い』」


リフィアが霧を蒸発させ、ヨーメアの姿が露になる。

ヨーメアがいた場所は──リフィアの目の前。


「──なっ!」

「貫け──『氷雪の棘薔薇』」


リフィアの心臓を杖で突いた。

すると氷柱が心臓を貫き、綺麗な氷の薔薇が咲く。

リフィアは倒れ、残りはシュヴァルツだけになった。


「魔法が効かないのなら、物理戦闘をするまでです」


杖を収め、拳を構える。

シュヴァルツは水の上を走り、剣を振るった。


「『焔架鳳閃』──ッ!」


炎を纏った剣を、上空からヨーメアに向けて振るう。

ヨーメアは微動だにせず──圧倒的なまでの速度で、シュヴァルツに杖を突いた。


「──『氷雪の棘薔薇』」

「──ッ!?」


『魔糸』で自身を守っていたのにも関わらず、シュヴァルツが魔法を受けた。

心臓は回避したものの、腹に魔法が直撃してしまった。


「私の特異体質『氷の美眼』は、全てを見通す瞳──あなたが纏っていた糸の隙間を縫って、魔法を当てるつもりでしたが⋯⋯相手は世界三位、避けると思って心臓ではなく、腹を狙いました」


コイツ、全てを考慮した上でシュヴァルツの腹を狙っていたのか。

流石だ、コイツは強い。

だが⋯⋯シュヴァルツはまだ、負けていない。


「はっ、やるじゃねえか⋯⋯だが、一撃で仕留められなかったのは残念だったな」

「⋯⋯何?」

「こんな状態でもな、剣は折れてない。剣が折れない限り、俺は倒れない」


血を吐きながらも、シュヴァルツは立ち上がる。

シュヴァルツはタフだ、コイツも簡単に負けるような男ではない。


「いいぜ、認めてやる──褒美だ、受け取れ!」


シュヴァルツが『轟炎真焔丸』を呼び出し、目にも止まらぬ剣閃を放った。

あまりの速度にヨーメアも見切れず、クロス状の剣閃が直撃してしまい、実践場の壁に激突する。


「カハ──ッ!」

「お前は強い、ブライア以外に『魔糸』を突破されたのは初めてだぜ」

「そこまで、勝者シュヴァルツ君のチーム」


エラリアが勝者を宣言すると、全員が暖かな緑の光に包まれる。

するとヨーメアが立ち上がり、シュヴァルツに手を差し出した。


「認めよう、君は素晴らしい程強い」

「ありがとうな!えっと、名前は⋯⋯」

「ヨーメアでいい、シュヴァルツ」

「おう、分かったぜ!」


実践場の中心でそんなやり取りをしていると、扉が開いた。

入ってきたのは、水色の髪の美しい男。


「彼がフィアセルト・フレンテ・アイシクルローザ⋯⋯十大魔導士の一位」

「アイツが、生徒最強のヤツか」


フィアセルトは実践場の中心まで歩く。

彼が見ているのはただ一人、シュヴァルツだ。


「シュヴァルツ・レッドドラゴン⋯⋯この前の大会では、見事な剣技だった」

「お、おう⋯⋯ありがとな」

「是非戦いたいものだが⋯⋯生憎と、今日は別の人と戦いたくてね──ブライア・グリーンドラゴン」


フィアセルトの目が、俺の方へと向く。

生徒最強と戦えるんだ、俺も喜んで相手をしよう。


「僕と戦おう」

「望むところだ」

「はぁ⋯⋯全員、上に上がりなさい──できれば、五階まで」


実践場の中心で、俺達が対峙する。

コイツの実力は一体どんなものなのか、楽しみだ。

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