第103話 親子同士の戦い──後編
「──ぁ、が⋯⋯⋯⋯」
瀕死の重体。
理由はただ一つ──親父の技。
親父が極めたとされる、五つの技型。
そして武の極地にある『心』の技型と、永遠に完成しない『魂』の技型。
全てが、俺を遥かに凌駕する。
「⋯⋯もう、終わりか?」
治療をする暇なんてない。
ヘルスやホーリーさん達も、倒された。
────数刻前
「──まずは、その女から」
最初に狙われたのは、ホーリーさん。
魂の共鳴を狙う俺を潰すように、中の四人を優先して潰してくるようだ。
一切油断はしない、ホーリーさんも頼みます。
《分かったわ、全力で援助する》
「──『魂捉』」
親父の手のひらが俺に向けられる。
恐らく、ホーリーさんを正確に潰そうとしているはずだ。
「見つけた──『魂絶制覇』」
俺が避ける暇もなかった。
ホーリーさんが援助する暇もなかった。
一瞬で俺の胸に手を当てられ──ホーリーさんの魂が重傷を負った。
《──ガハッ!?》
(ホーリーさん!?)
「次は獣」
親父は俺が動揺している間に、ヘルスを狙った。
避けようとした瞬間──ヘルスの魂が、重傷を負った。
《──アガッ!》
(ヘルス!)
「仲間の心配をしている暇か?──『心景武煌』」
俺と親父との距離を殺されたまま──俺は壁に吹き飛ばされる。
二人が、一気に使えなくなった。
《ブライア、今の攻撃でオニシエントも倒された!》
(一気に三人持っていかれたのか⋯⋯まずいな)
パラパラと壁の破片の中で、立ち上がる。
身体中から血が流れているだろうが、こんなもの、何度も経験してきた。
まだ、耐えられる。
「──『龍眼威圧』」
親父の眼に、足がすくんだ。
恐怖によって、立ち上がれなくなった。
肩は震え、息は荒くなる。
「『龍征爪牙』」
上空に投げ飛ばされてから、噛みつかれ、爪撃。
口から血を吹き出し、身体中に深い傷跡ができた。
「あがっ⋯⋯!」
「──『光尾龍威』」
龍の尾が生え、地面に叩き落とされた。
試合場の地面にクレーターが発生し、また血を吐く。
ダメだ、勝てない──ッ!
「⋯⋯ブライア、そんなものか?」
「く⋯⋯そ、ぉ⋯⋯っ!」
「──『閃駆雷動・龍爪痕』」
雷が俺を貫き──龍の爪痕を、俺の体に焼き付けた。
試合場の端まで吹き飛ばされ──瀕死の重体となる。
「──ぁ、が⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯もう、終わりか?」
まだ、終われない。
このままじゃ、俺は何も出来ない。
勝つんだ、親父に。
だが──現実は、残酷だ。
「──っ」
地に、倒れ伏した。
気絶寸前、敗北は誰の目から見ても明らか。
視界が徐々に、黒くなっていく。
「⋯⋯終わりだな」
待てよ、親父⋯⋯。
あんたにまだ、力を使わせてない。
全力のお前と戦いたいのに⋯⋯体が、動かない。
──嫌だ、負けたくない。
《⋯⋯⋯⋯ブライア?》
まだ、立ち上がれるはずだ。
己の『闘志』と共に。
《──貴様に問う、力とはなんだ?》
俺にとっての力は──希望と未来だ。
《何故、そう思う?》
どんなヤツでも圧倒する力で、皆に希望を与え、未来を切り開く──それこそが、力だ。
《その野望を持ってしても、お前は弱い。何故だ?》
俺の力の欠片が足りない。
俺に今欠けているものは──燃え滾る闘志と、勝利を熱望する情熱だ!
《──気に入った、お前に力をやる!》
──俺の魂と、誰かの魂が共鳴した。
さっきから俺に声をかけてるやつは⋯⋯誰だ?
《俺の名は【神智結晶『緑』】、生死を司る神の叡智と、お前の闘志の結晶だ》
俺の闘志の結晶⋯⋯そうだったのか。
じゃあ、この魂の波長は?
《俺が合わせてやってる、お前にこの力の名を教えよう》
負傷したままでも、立ち上がった。
俺の髪と目は暗黒に染まり、漆黒の魔力を立ち登らせている。
《お前のその力を──【絶界】と呼ぶ》
──【絶界】──。
この力、未知数だ。
俺のどの力をとっても──いや、親父の持つ『無天無双』すらも遥かに凌駕する力だ。
《使えば分かる──ある程度は教えてやるよ》
「──ブライアッ!?」
親父が驚いたように、すぐさま振り向く。
圧倒的なまでの力の奔流、今までにない程、俺は親父相手に勝利を確信している。
「クソ──『無天無双』──ッ!」
『無天の一撃』──避けることも、防御することも不可能。
どんな小細工であろうと、この絶対的な一撃必殺からは逃れられない。
だが──俺は違った。
【絶界】は、『無天の一撃』すらも受け付けなかった。
「──⋯⋯⋯⋯は?」
あの『無天の一撃』を、片手で受け止めた。
圧倒的なまでの白龍とフレートさんを一撃で仕留めた技を、片手で。
俺も、親父も、全観客も、目を疑った。
「──ッ!?」
親父はすぐに距離を取った。
恐らく、今は『無双状態』──どんな能力の効果も寄せ付けない、最強の状態。
だけど──俺には関係ない。
《そうだ、圧倒しろ──【絶界】一つ目の能力──》
「【絶界】──【超越】」
俺は、全てを超越する。
例えどんな能力だろうと、魔法だろうと、特異体質だろうと、俺は更にその上をいく。
──『無天無双』が世界最強の日も終わった。
「『世界超越』──放て」
《他を寄せ付けるな──【絶界】二つ目の能力──》
「【星の漫遊戯曲門】」
俺の手から暗黒の魔力が放たれ、俺の後方に門が開く。
その門は光り輝き、燃え盛るように俺に共鳴していた。
「──『熱夏炎焔陽星』」
全てを焼き尽くす焔の星が、顕現した。
紅き魔力が上空で爆散し、隕石が試合場に降り掛かる。
「何なんだ、これは──ッ!」
親父が混乱している最中、更に畳み掛ける。
「──『天廻源爆巨星』」
青色の光がアンタレスの隕石より遥か上空に出現し、この会場周辺一帯全てを灰燼に帰す程の星が降り注ぐ。
手加減しているからまだ無事だが、本気でやれば恐らく、この世界を十秒もかからず壊滅できるだろう。
それ程までに、【絶界】は脅威的な力だ。
「クソォォォォォォォ────ッ!」
親父は為す術なし。
これ程までに圧倒的な力を見せつけてしまえば、戦意も削がれるだろう。
「──ッ!!」
焔の星が、試合場に降り注ぐ。
一つ一つが世界を焼燼させる星が、小さくなって親父に襲いかかった。
「──グァ──ッ!」
親父の持つ特別属性『灼熱』なんかよりも、俺の持つ『太陽』なんかよりも、余っ程熱く、大きい星だ。
「クソ──焼き尽くせ、焔の罪人──ッ!」
「無駄だ──『牡牛紅輝後星』」
【星の漫遊戯曲門】より、いくつもの紅色に輝く流れ星が親父に襲いかかる。
凶暴で全てを焼き尽くす赤色巨星の星団が、親父の体を打ち砕いた。
「──ッ!?」
「トドメだ──落ちろ」
頭上より強襲する『天廻源爆巨星』が、少し小さくなって親父を押し潰す。
両手で星を食いとどめるが、もう終わりだ。
「──クソ──ッ!」
星が試合場に着陸し、熱波が会場全体を襲う。
常人なら焼け焦げる程の熱だが、俺には一切影響がない。
──やがて星が消え、仰向けに倒れる親父の姿が見えた。
未だ『無双状態』に入ったままだが、恐らくもう戦うつもりもないだろう。
「⋯⋯終わりだ」
「──強く、なったんだな」
「ああ、あんたの『無天無双』すらも超えた、俺が世界最強だ」
「⋯⋯⋯⋯認めよう、完敗だ」
『な、なんと──勝者は若き天才、ブライア・グリーンドラゴン選手です!皆様、万雷の拍手を!』
様々な喝采が、俺に向けて送られる。
親父に勝ったんだ⋯⋯優勝したんだ、俺。
ついに『世界最強』の場所へと、辿り着いたんだ。
《素晴らしい、あの力をこうも使いこなすとは》
(神智結晶、お前がいなかったら勝てなかった。感謝している)
《いい、あれは紛れもなくお前の才能だ、誇れ》
【絶界】──恐らく、あの強力な力は発生条件がかなり厳しいはずだ。
じゃないと、世界を滅ぼす危険のある力を、何度も何度も使えるわけが無い。
「⋯⋯アーガイル、見たか?」
《ああ、俺はあの力を知っている──小僧め、そこまで辿り着いたか》
元神であるアーガイルは、【絶界】と深く関わりがある。
魂との共鳴を経たブライアは更に強くなると、そう見込んだ。
「やるな、ブライア⋯⋯あの力は、儂の『魔天究極獄法』すらも上回るぞ」
最強の魔法であるクリーナの『魔天究極獄法』──それを上回ると、断言した。
長き時を生きる彼女だからこそ、自身より上と断言したのには、説得力がある。
「⋯⋯面白い、あの小僧は脅威だな」
女皇ソロミアですら、ブライアのあの力は恐れる。
長い時を生きれば生きる程、ブライアの使った力の恐ろしさを感じてしまうのだ。
「お前ならあそこまで届くぞ、ブライア──我が兄の所へと」
レジェンドは一人、ブライアの力を見て、兄を彷彿とさせていた。
最強の男、クロス・オーブ──彼の持つ力は、一体どんなものなのだろうか。
『それでは、表彰に移りたいと思います!準優勝のトロフィーとメダルを、クライア・グリーンドラゴン選手に!』
開催国であるスティア王国の国王、ユーザルト・スティア・ホワイトドラゴンから渡される。
ユーザルトは薄い笑みを浮かべつつ、クライアを称えた。
「おめでとう、クライア⋯⋯良い息子を持ったな」
「ああ、俺がいなくてももう心配ない」
トロフィーとメダルを受け取ったクライアは下がり、今度はブライアが国王の前に現れる。
『優勝者であるブライア・グリーンドラゴン選手に、トロフィーとメダルをお渡し下さい!』
全観客からの拍手と共に、トロフィーを受け取った。
メダルを首にかけられ、国王から話しかけられる。
「おめでとう、ブライア・グリーンドラゴン⋯⋯正真正銘、君が世界で一番強い」
「お褒めの言葉、感謝いたします」
トロフィーを盛大に掲げ、満面の笑みを浮かべる。
全員倒して、俺は世界の頂きに立った──。
【第五章・世界総合武闘大会編】────終