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第100話 親友同士の戦い──後編

──時は遡り、約五年前。

「『剣聖』に加え、特異体質の『轟炎真焔丸』を持ってるとは、流石俺の息子!」


十歳の誕生日。

シュヴァルツはその凄さをあまり理解はしていなかったが、褒められていることは分かっていた。

唯一無二の才能、天から与えられた能力。

これは、シュヴァルツに自信をつけるキッカケになった。


「いいかシュヴァルツ。剣は、全てを斬り裂くことができる」

「⋯⋯何でも?」

「ああ。魔法も、技術も、能力も、何だって斬れる。剣術ってのは、その為に編み出されたからな」


父であるエラディス・レッドドラゴンは、常日頃からシュヴァルツに剣の大切さを説いていた。

その子であるシュヴァルツもまた、剣を大切にしようと意識し始める。

──能力が判明した、その日の夜。

彼は寝ているにも関わらず、暗闇を歩いていた。

夢とも違う感覚に、恐ろしさも覚えたが、その足は止まらない。

やがて、一人の男と対面した。


「どこだよ、ここ」

「どこって言われても⋯⋯分かんない」

「まあ、こんなちっこいのが分かる訳ねぇか」


言葉遣いは荒く、見た目の柄も悪いが、その吸い込まれるような黄金の瞳に、シュヴァルツは目を奪われた。

まだ幼いシュヴァルツは、この男がカッコイイと思ったのだ。


「お前、名前は?」

「シュヴァルツ・レッドドラゴン⋯⋯お兄さんは?」

「俺?俺は音成奏だ」


──音成奏。

『音楽の天才』と呼ばれた、紛うことなき天賦の才を持つ男。

彼の奏でる音は素晴らしく、どんな者でも魅了してしまう。

彼も等しく、天才なのだ。


「ここ、マジでどこなんだ?」


そう奏が言うと、大きな足音が響く。

振り返ると、そこには赤龍がいた。


「アンタ誰だ?」

『こっちのセリフだ、俺達二人の場所に入り込みやがって』

「いや俺も出れるなら出たいんだわ」


自身より遥かに巨体である赤龍を相手にしても物怖じせず、対等に話す。

度胸という面では、確かに彼は凄いだろう。

桜庭勇気からは、ただの命知らずと称されているのだが。


『⋯⋯恐らく『剣聖』の能力だろう』

「『剣聖』?何だそりゃ」

『俺も詳しくは知らないが、あの能力は魂が関連している、だからお前もここに呼び起こされたのだろう』


『剣聖』の条件は、基本的には知られていない。

過去の文献を見ても、『剣聖』は受け継がれるとだけしか書かれていないからだ。

だから長い時を生きる龍族でさえ、詳しいことは何も知らない。

知るのは、『剣聖』を持つ本人のみ。


「チッ、まあいい。おいお前」

「⋯⋯俺?」

「気弱そうな顔つきしてるからな、舐められないようにしてやる」


シュヴァルツの性格は、奏に矯正されたのが大きい。

元々は、レッドドラゴン家に似合わない気弱で内向的な性格なのだ。

このままじゃダメだと判断し、自分を投影させた奏の手腕には、感服するしかない。

シュヴァルツも、奏のような人間に憧れていたからこそ、矯正できたのだろう。



──月日は経ち、シュヴァルツの入学式。

奏は、シュヴァルツの中から見ていたあの景色を、忘れない。

ブライア・グリーンドラゴンとの出会いを。


(アイツ⋯⋯俺と同じ匂いがする)


そう、奏はブライアが天才の領域にいると見抜いていた。

だが、何かが欠けている。

それさえ埋めてしまえば、自分なんかより遥かに遠い存在──水下太陽と同格の人間になれると、思っていた。


(アイツ、今どこにいるんだろうな)


また会えたら、という願望を胸に秘めていた。

その願望はもう既に叶っているのだが⋯⋯この時はまだ知らない。



──二年後、シュヴァルツの冒険者の旅。

彼は各地を放浪し、色々な人がいることを見て回った。

これは、奏の指示だ。

自身の目的は、少しでもこの世界のことを知る為に、シュヴァルツを通して観察する。

シュヴァルツを成長させる為にも、丁度いい。


(熱傷の砂漠、凍える氷界、全てを包み込む暖かな大海、雷を呼ぶ死の山、大地の裂け目、荒ぶる風食の地、暗黒の大森林、栄光の路⋯⋯面白い場所がこんなにもあるのか)


シュヴァルツを動かし、全てを見に行った。

その道中で国も経由し、『終末の八地点』とも呼べるその場所は、実に面白かった。

シュヴァルツは何度も危機に瀕し、どうしようも無い時だけ奏が助ける。

各地には祭壇もあり、ここがただならぬ場所であることも理解した。

そして、帝国の危機。

奏は一切助けないという決まりを出し、成長したシュヴァルツの実力を見せつけた。

その伸ばした実力に、シャイフォンも認めた程。

──そして現在、ブライアとの戦い。

シュヴァルツはブライアに執着した。

そして奏もまた、イランの試合を見た為、水下太陽に執着した。

ブライアこそが、水下太陽だと。

最後はシュヴァルツに譲るつもりだが──途中までは、自分が圧倒する。

それだけの思いで、今ブライアと戦っているのだ。




「そんなとこで寝てねぇで、かかってこいよ」

「──『陽光・光焔の太刀』」


刀を一本、手に取る。

そして試合場全体に魔法陣を生成し、そこから光焔の刀を出した。


「『光焔の陣・刀の演舞』」


ありとあらゆる魔法陣から光焔の刀が飛び出し、ミューに襲いかかる。

その刀に紛れ、俺も同時に突進。

これだけ多ければ対処も難しいはず、全ては捌き切れない。


「──『相対音感』」


一本、ミューの腕に刀が突き刺さる。

しかし、次の瞬間全ての刀と魔法陣が消え去った。


「特異体質『相対音感』──一度攻撃を食らうのを前提に、その攻撃の脅威度を比較し、それより高い脅威度を持つ物全てを消し去る。『絶対音感』じゃ間に合わねぇ時はこっちだな」


コイツ、『絶対音感』と『相対音感』の使い分けが上手い。

戦闘に関しての頭が良いのだろう、一筋縄ではいかない相手だ。


「⋯⋯っと、そろそろ時間だ」


シュヴァルツが戻ってくる。

コイツは強かった、また戦いたい。


「機会があればまたな──」


プツリと、電源が切れたように項垂れる。

──よし、俺も一撃をシュヴァルツに叩き込む。

その一撃で、シュヴァルツを倒す。


「──『遥かなる生命の流動、いつか絶える運命にあることを知らず、その血は燃え続ける──連唱』」


陽光の大剣を構え、白熱する炎を纏わせる。

詠唱を始めた時、シュヴァルツが戻ってきた。


「『剣聖装甲』──『聖棺の守護者』」


シュヴァルツは白い鎧を纏い、聖剣を手にした。

今までのシュヴァルツの軽装からは考えられない重厚感で、速度は落ちているだろうが、防御力は遥かに上昇しているだろう。

──いや、この装甲も貫く。

詠唱を止めるな。


「『遠く果てなき心の底よ、幾億年の時を経て開け、魂はその声に答えるだろう──連唱』」


シュヴァルツは未だ動かず。

俺もシュヴァルツも、次の一撃で終わらせるつもりだ。

だからこそシュヴァルツは一歩も動じず、俺との勝負に決着をつけようとしているのだろう。


「『空へと届け、我が想い。天へと昇れ、友の魂。いつかの喜びといつかの悲しみを胸に、戦い続ける──連唱』」


──詠唱には、その時の自分の心象がよく現れる。

俺は、特にその傾向があるとよく言われた。



──数ヶ月前

「ブライア、お前の詠唱は即席で作ったのか?」

「あーそうだな、その時、その場所、その場合によって詠唱の内容は変えてるな」

「それなら、お前には『心象顕現』を勧める」

「『心象顕現』?」


レジェンドとの特訓時、詠唱について聞かれた。

『心象顕現』──己の心の内を魔法へと変え、現実に顕現させる、言わば『世界』のようなもの。

『心象顕現』は使用者の心によって、遥かに強さが変わってくる。

俺は詠唱に自分の心象を乗せているから、効果はより強くなってくるのだろう。


「『連唱』している時と同時に『心象顕現』をやってみろ、威力は遥かに増すが、難易度も遥かに高くなる」

「そうだな⋯⋯機会があればやってみる」




──今が、その時だ。


「『抱くは友の亡骸、穿つは敵の剣、戦の幕開けは近い──連唱』」


『連唱』と同時に魔力を別の意識に割くと、暴発してしまいそうな程魔力が荒れ狂う。

だが、制御するしかない。

『魔力・圧迫眼』──『魔力完全制御』。


「『越えよ試練の壁、目覚める力の祠、今こそ真の力を見せつける時──連唱』──『連結・心象顕現』──『花開く才・魔宝の権威』」


──できた。

『連唱』と無理矢理連結し、『心象顕現』ができた。

『連唱』を使った後の疲労感はない、むしろ楽になった気分だ。

今、魔法を使うことが物凄く楽しい──


「『新たなる希望を胸に、剣を振るえ──魂よ、世界を震わせろ!』」


『心象顕現』が、光り輝く。

青い草原に風が吹き、太陽が煌めいた。

俺の声に、応えたのだろう。


「──いくぞ」

「──最後の一撃だ」


短い問答。

今はそれで十分。

──コイツを、本気で倒す。


「『聖焔滅閃──剣の天鋳』──ッ!」

「『聖陽白光・溶炉壊天』──ッ!」


聖剣と陽光の剣が、交わった。

バチバチと火花を散らし、甲高い音を鳴らし続ける。


「ガァァァァァ──ッ!」

「ハァァァァァ──ッ!」


お互いの咆哮。

一歩も譲らないという、勝ちへの拘り。

絶対に負けないという、強い思い。

兜に隠れたシュヴァルツの目と、俺の目が合う。

お互いフッと笑い──歯を食いしばった。

ここが正念場、もうシュヴァルツには負けられない。



「ブライア、勝て──勝って俺と決勝で戦おう」

「シュヴァルツ、負けるな!俺の息子だろう!」

「いけブライア、お前はここで負ける男じゃない」

「儂の予想を遥かに超えたな⋯⋯勝て、ブライア」

「「二人とも、頑張って!」」

「バカ二人、どっちが勝ってもおかしくはないわね」


クライア、エラディス、レジェンド、クリーナ、トーナ、アルプ、ノラス⋯⋯他にも各所から、声援が届く。

聞こえる、皆の声が。

『勝て』という、希望の力が──聞こえる!


「『背負いし希望、皆を照らす光となれ』」


皆の声援に応えたのだろう──『最後の希望(ラストホープ)』が、起動した。

俺への応援を、希望の力へと変える!


「──『希望の刃』」


剣の交わり。

その片方から、希望の粒子が出現し、刃を象る。


「貫け!」


シュヴァルツの聖なる鎧に、希望の刃が襲いかかる。

俺と剣を交えているシュヴァルツは抵抗できず──鎧を砕かれ、刃が腹に突き刺さった。


「グハ──ッ!」


一瞬、体勢を崩した。

この超近距離で体勢を崩すのは、致命的。

──シュヴァルツを斬断する!


「ハァァァァァァァァ──ッ!!」


すぐに剣を構え直すが、もう遅い。

聖剣を叩き斬り──シュヴァルツの纏う鎧ごと、シュヴァルツを斬った。


「⋯⋯⋯⋯はぁっ、はぁっ、はぁっ⋯⋯」


シュヴァルツの目は、少しの間光り輝き──すぐに闇へと葬り去られた。

──勝った、俺の勝ちだ。


『準決勝第二試合勝者、ブライア・グリーンドラゴン選手!!』


観客席のあちこちから、拍手と歓声が響き渡る。

俺はどさりと地面に座り込み、剣を落とした。


「疲れた⋯⋯⋯⋯でも、楽しかった」


シュヴァルツを圧倒したとは言わない。

でも、それでも俺は⋯⋯勝てた。

『剣聖』であるシュヴァルツに、勝ったんだ。


「⋯⋯俺、負けたのか」


暖かな緑の光がシュヴァルツを包み、シュヴァルツが蘇る。

俺と同じく地面に座り、俺と目を合わせた。


「完敗だった、誇りも全ても投げ捨てたのに、負けた」

「あの『魔糸』を前の試合に見てなかったら、多分あそこで詰んでた、俺も危ない試合運びだった」


『魔糸』に関しては、本気で詰みかねない要素だった。

俺とヘルスが編み出した『矛盾の天秤』がなければ、対策も難しかっただろう。


「⋯⋯決勝、お前の父さんとだな」

「親父にも勝って、俺が世界最強だと証明する──『無天無双』にも、勝ってみせる」

「ああ、頑張れよ!」


シュヴァルツは俺に背を向け、退場していく。

俺も立ち上がり、試合場を去った。

親父──世界最強の男、クライア・グリーンドラゴンに勝つには、様々な策を弄する必要がある。

その中には、不確定な俺の力の覚醒も含まれてしまう。

だが、主導権は握らねばならない。


「──絶対に、勝つ」


世界最強の境地まで、あと一歩だ。

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