第10話 シュヴァルツVSバーグル
続く二回戦、いわゆるベスト八が出揃った。
アルバートとファルド先輩の相手は知らないけど、シュヴァルツの相手はバーグル、そして俺の相手はネル先輩である。
つまり、俺とシュヴァルツは大ピンチなのだ。
2人とも負ける可能性があるということだ。
まあ俺は少し剣術かじった位でここまでこれたんだから、俺としては別に良いんだけど、シュヴァルツとの約束も守らなきゃだしな。
お互い準決勝で戦う、これは守らないと。
最悪、無効眼使うか。
シュヴァルツがバーグルに負けたらネル先輩との戦いで使わない、勝ったらシュヴァルツ戦でピンチになった時には使う、このスタイルだな。
ネル先輩の警戒点として、まずは破壊の一撃、次に剣術無効結界。
この二つは特に気をつけないといけない。
破壊の一撃はタメがあると思ったら大間違い、一瞬で放ってくるから要注意。
しかも次の攻撃までのモーションが有り得ないくらい早い。
多分、速流剣術の応用なのかな?
なら、モーションを用意させるまでに攻撃を叩き込めばいい。
だけど、自分が攻撃モーションする時にはネル先輩も準備完了しているんだよな。
その隙を付けても結界張られるし、とんでもないくらいやりにくい相手だ。
ほとんど不死なんじゃと思うくらいに生存能力がある。
ゴ──いや、やめておこう。
あんな野郎と、綺麗で美しいネル先輩を比べてはならない。
普通に考えて失礼。
この世界には黒いGはいないから安心だな。
まあそんなことはどうでもよくて。
今はネル先輩の対策だ。
正直、勝てる気がしない相手だ。
だけど、勝率を上げる可能性がある切り札がある。
そう、『太陽』だ。
だが、一切使い方を知らない。
暴走の可能性も否めないため、あまり使わない。
ピンチの時は許して欲しいかな。
とりあえず、向こうは戦力を温存しながら戦うと思うから、手の内を全て引っ張り出せるような立ち回り方をすれば自分が楽になると思うから、その立ち回りでいこう。
大事件である。
お腹が空いた。
いや、このような事態になると思っていなかったからお弁当持ってきていないんだよな。
『腹が減っては戦は出来ぬ』って言うし、俺次負けるのかなぁ……
『創成』で創るか?
いや、ここで能力に頼るのは違うな。
俺がとる選択肢は、我慢である!
まあそんな下りがあった訳だが、母さんが気を利かせてくれてサンドイッチの様なもの──この世界ではサルドウイッチと言うらしい、を持ってきてくれたので、なんとか腹の減りは抑えられた。
やっぱり、この大会に俺が出ていることを母さんも驚いていた。
まあ、武闘派のグリーンドラゴンがこの大会に、しかも二人も出ているなんて異常のようなものだしな。
ちなみに、俺の可愛い双子の妹を連れてきてくれた。
シャルナとミルナという名前で、可愛らしい。
母さんの血を濃く受け継いでいるんだな、とも思った。
その双子に、『兄様、頑張って下さい!』と言われたので、負ける訳にはいかないのである。
元から負けるつもりは無かったけど。
で、もうすぐファルド先輩の試合も終わるころで、次はシュヴァルツの試合。
一体どこまで強くなったのか、気になる所だった。
ついでに、バーグルの底も見ておきたかった。
そこで、実況の声が会場いっぱいに響く。
『さあ、二回戦もいよいよ後半戦となって参りました!次はスティア国戦団団長、バーグル・レッドドラゴン選手!対するは、期待のルーキー、シュヴァルツ・レッドドラゴン選手です!さあ、一体どのような試合展開になるのか、実に見物で御座います!さあ、もうすぐ選手の入場!大きな拍手でお出迎えください!では!選手入場!』
お、シュヴァルツが来たな。
流石の風格……と言いたい所だが、ガチガチに緊張しているのが見て取れる。
親族との試合ってのは分かるけど、そこまで緊張するものなのか。
俺も親父と戦えば分かるのかな。
『では、両選手定位置に!では、初め!』
試合が始まった。
先手をとったのはバーグルで、初撃でシュヴァルツを吹き飛ばした。
だが、シュヴァルツも剣で受け止めていたから、そこまで影響は無かった。
その攻撃でシュヴァルツも気合いを入れにかかったのか、剣を構え直す。
次に、バーグルが接近しようとした所にシュヴァルツが懐に潜り込み、剣撃を繰り出すが、バーグルの咄嗟の反応で後ろに引いた。
近づこうとするバーグルに、追い返そうとするシュヴァルツである。
バーグル優勢で、シュヴァルツは後手に回ってしまっている。
どこかでシュヴァルツが仕掛ける場面があれば、状況が変わるかもしれない。
と、そこでシュヴァルツが接近、バーグルも接近。
一気に斬り合いに持っていった。
だが、バーグルの剛腕のせいで、シュヴァルツが押し負けそうになっている。
こうなれば引くしかないのだが、バーグルがそれを許さない。
シュヴァルツの腕に斬撃を入れ込む。
ただし、シュヴァルツも腕を引いたため、その斬撃は浅かった。
しかも、剣を持つ逆の手の左で、そこまで影響も無かったため、バーグルが舌打ちする。
そして、シュヴァルツが自分の服の裾の一部を引きちぎり、くるりときつく巻いて止血を一瞬で終わらせる。
そして、バーグルを睨みつけるような眼差しで、剣を構える。
対するバーグルも、剣に力を込めて戦う意思をハッキリと見せた。
そして、また剣撃が始まった。
斬撃、切り裂き、刺突、そして剣の鋼の澄んだ音。
演舞にも見えるような剣撃だった。
豪快かつ美しい剣撃で、力強い音ばかりが響いている。
だがしかし、経験の差はやはり出てくるものだった。
あらゆる攻撃に対応して反撃してきたバーグルに対して、受け止めるので精一杯だったシュヴァルツ、というこの二人の歴然たる埋まることない経験の差がこの戦いで物語っていた。
もう終わりか──と思われたが、シュヴァルツが自身の切り札を惜しげも無く出す。
剣聖奥義『聖閃轟刃乱』
この技は、シュヴァルツが現在出せる本気の技の一つだ。
だが、バーグルはいとも簡単にその技を受け流す。
洗礼されたその動きは、素人にも常人の技ではないと分かる。
シュヴァルツは顔を顰める。
(ったく、この技受け流すなんて、バカなんじゃないかよ。奥の手をまだまだ残しているけど、通用するか分かんねぇな。最悪、特異体質使うしかないんだけど、反動強いからやりたくないな)
シュヴァルツらしくなく、冷静に分析していた。
奥の手を幾つか残しているが、頼れるのは特異体質だけだろう。
ただし、反動が強いからやりたくなさそうだが。
何度か斬撃を飛ばし、様子見をするが、全て斬り捨てられる。
接近戦もダメ、遠距離戦もダメ、頼みの能力は全て受け流される。
状況は最悪に近かった。
特異体質には準備が必要だから、少し会話をする。
「ちょっと、強すぎないか?面白くないんだけど」
「ハッ、時間稼ぎのつもりか?まあ付き合ってやろう」
心の中でホッとするシュヴァルツ。
ここで無理だったら本格的に負けていた。
シュヴァルツは、準備と会話を並行して行う。
「あの技、自分の能力の奥義なんだけどさ、一体どういうことだよ?ホント、ふざけんなよ」
「あれで奥義か。まだまだ研鑽が必要だな。どうせなら、この大会が終わったら特訓してやろう」
それは本格的にヤバすぎる──と思ったが、準備が完了した。
後は、剣を変化させるだけ。
「それは、今からの俺に勝ってからでいいか?」
「──どういうことだ?まだタネがあるなら見てやるぞ」
「舐めてかかって、後悔しない事だな!『聖剣化』!」
剣を【七将剣】の1つ、聖剣に変化させる。
そう、これが『剣聖』の最後の奥の手。
あまりにも強い気配がして、バーグルも警戒心を高める。
だが、時間稼ぎに付き合った時点で遅かったのだ。
「特異体質『轟炎真焔丸』」
特異体質を発動すると、とてつもなく強い炎に包まれた剣がシュヴァルツの左手に出現する。
そして、シュヴァルツの髪が元々の赤より、もっと真紅に染まる。
右手に聖剣に変化させた剣、左手に轟炎真焔丸を持つ、二刀流スタイル。
これが、シュヴァルツ本来の戦い方。
このシュヴァルツを見たからには、バーグルも本気を出さざるを得ない。
「お前、強くなったな。」
「……会話するだけで疲れるんだ、この状態。だから、さっさと終わらせて寝たい。」
「なら、本気でいこう『剛剣』」
バーグルの手に、大きな剣が出現する。
バーグルには特異体質が無いため、能力である『剛剣』を使うしかないのだ。
バーグル本来のパワーと、『剛剣』の能力内容に含まれる『筋力増大』を使う。
それが、バーグルの本気。
誰にも止められないような剣が、シュヴァルツに襲いかかる。
足も筋力増大しているので、瞬発力もさっきの比では無いのだ。
ただし、相手が悪かった。
「──ガアッ!」
バーグルの両腕が、肘から先が無くなっていた。
そう、斬られたのだ。
シュヴァルツの、有り得ない速度の剣撃で。
剣も握ることが出来ないバーグルに、容赦無く剣を突きつける。
もう、聖剣も轟炎真焔丸も無い。
シュヴァルツの状態変化も戻っており、たった1本の剣を握っていた。
シュヴァルツは、降参を要求する。
「これで、終わりだな。さあ、降参するんだ」
その言葉に、フッと笑って返すバーグル。
「──ああ、完敗だ。だが、次は勝つ」
と言い、降参の態度を表す。
これには実況も驚きの結果だった。
『な、なんと!バーグル選手降参!これにより、準決勝進出者は、シュヴァルツ選手です!』
会場はシンと静まり、やがて大きな歓声を呼ぶ。
祝いの言葉が、会場内を埋め尽くす。
シュヴァルツは、何とも言えぬ高揚感を抱いていた。
そして、ブライアの方に向かって、剣を突きつけた。
次は、お前の番だ──とも言っている様に聞こえるのは、幻聴だろうか、それとも本当に言っているのだろうか。
その剣を仕舞い、バーグルを運ぶシュヴァルツ。
控え室で、救護班が待っていた。
救護班にバーグルを引き取って貰うと、すぐさま会場を飛び出た。
自身の力の反動は、少しの時間しか使わなかったためか、あまり気にしていなかった。
そして、小高い丘で、シュヴァルツは叫ぶ。
「──俺は、憧れの人に、勝ったぞ!!」
シュヴァルツにとって、バーグルは憧れであり、目標であり、英雄だった。
その男に勝った、という高揚感がシュヴァルツの体全体を埋めつくしていく。
自分の力、己の研鑽、そして、自身の強力な能力と特異体質。
恵まれた。
恵まれたおかげだった。
バーグルが更に恵まれていたら、負けていただろう。
だが、約束したのだ。
本気の、ブライアと戦うと。
シュヴァルツは、そろそろ戻ろうかと、丘を後にする。
そして、会場まで向かった。
──視点変更・ブライア視点
いや……まじかよ。
まさか、シュヴァルツがあんなに強いなんて、な。
『轟炎真焔丸』だったか?
あれ、グーニャで止めれるのか?
分からないけど、まずはネル先輩だよな。
よし、そろそろ気合い入れるか。
次の試合、本気でやらないと負ける。
グーニャの形だけど、どうすればいいんだろうか。
あの二刀流かっこよかったし、俺も真似してみるか。
グーニャとサリューズを取り出さないとか。
形は、巨剣か、普通の剣か、だよな。
まあ巨剣に関しては『増減眼』使わないといけないから、まあ普通の剣よな。
ネル先輩相手には『視認眼』を使いたいし、自然とそうなるよな。
アルバートの弟子なんだし、速流剣術使うだろうし。
じゃあ、控え室に行くか。
──控え室
「来たか、ブライア」
「あれ、父さん?」
なんで親父がいるんだ?
「……そうだな、何て言えばいいんだろうな。お前がここまで来るとは思ってなかってな。能力だけに頼ってると思ったんだが、自身の実力で戦っていてな……ええと、何て言えばいいんだろうか……」
俺に向けての言葉を見失っている感じか。
簡単なことじゃないか。
「おめでとう、そして頑張れ、って言えばいいんじゃないんですか?」
「──そ、そうだな。おめでとう、そして頑張れ!」
「ええ、分かりました。期待に答えられるよう、頑張ります」
「その意気だ、じゃあな!」
少し、心が落ち着いたな。
親父と喋っていると、心が安らぐんだよな。
だけど、これで緊張がなくなった。
俺は、頑張れる。
やれる男だ、いくぞ!
『両選手、入場!』
入場の時間になった。
前に進むと、目の前に大きなフィールドが広がっていた。
前にはネル先輩。
ようやくだ、この戦いでネル先輩を超える。
こい、グーニャとサリューズ。
変形、片手剣。
準備完了。
覚悟は、もう出来ている。
『では、試合開始です!』
実況の声が響いた。
構えた瞬間──ネル先輩の斬撃が飛んできた。