プロローグ 死亡/第1話 異世界転生
初めまして、作者のサファイアです!
どうかこの作品を読んで貰えるよう、頑張ります!
居眠り運転のトラック、赤信号なのに突っ込んでくる、その横断歩道には男子高校生……絶望的な状況……
そして……トラックに轢かれ……即死。
呆気なく散ってしまった命に、呆然とする歩行者。
あまりにも酷すぎる事態に、唖然とする同級生の5人の男子高校生。
目の前で友達が轢かれ、現実を受け入れられない。
次の瞬間、悲鳴や絶叫がその場を埋め尽くす。
119番通報する者、腰が抜けて倒れる者、大声を出して助けを呼ぶ者、亡骸に泣きながら走る5人の男子高校生。
だが、全てが手遅れ……もう、戻ることは無い。
命も、時間も。この世界では、戻ることの無い終わり。
その死亡した男子高校生はというと……
異世界に転生していたのだった。
────有り得ない。
こんなことがあっていいはずが無い。
転生なんて、ファンタジーなんだ、ここは、天国の世界なんだ、きっとそうだ。そうに違いない。
……けど、現実は変わらない。
痛みもある、物に触れる、そして……顔が違う。
これはもう転生したに違いないはずだ。
しかも……どこに転生したんだ?
西洋っぽいところだけど……これ、明らかに違うよな。
だって……家があまりにも広い。
もしかして、ちょっとした可能性だが……ここ、もしかして異世界か?
いやいや、そんな訳が無い。
ここはきっと、俺が元いた世界のどこかに違いない。
望みはかなり薄いが。
自身の容姿について確認しよう。
髪の毛は緑、目も緑、服も緑が多めだ。
なんだ、この家は緑が好きなのか?
確かに鮮やかで目にもいいけど……多すぎる。
逆に目に悪くなってしまうレベルだ。
移動をする為、おそらく自室であろう部屋の扉を開ける。
周りを見渡すと、あるのはいくつかの部屋と長い廊下だけ。
まずは奥の方から片っ端に部屋の扉を開けていこう。
「──おお、我が愛しの息子ブライアよ!」
………恐らく、俺の父親なのだろう。
段々と飲み込みが早くなってきた。
で、ブライアはこの世界の俺の名前か?
一体どんな意味で付けられたのだろうか?
「えっと……父様?」
「おうそうだ、其方の父、クライアであるぞ!」
親父の名はクライア、覚えておこう。
今気がついたが、向こうの世界とこっちの世界の言葉は普通に通じるんだな。
文字は……その辺の本を見ている感じ、恐らく違うだろう。
この部屋は図書室……いや、図書館と言った方が正確だ。
あまりにも広い図書館だ、どこに何があるか近いうちに覚えておかないとな。
「よく書斎に来たな!何か探し物か?」
「いえ、この家を探索していただけで……」
「そうか、まだこの家を知らぬのか。なら私が案内しようか?」
「有難いです、父様。お願いしても宜しいですか?」
それはいい、この家が全く分からなかったところだ。
こっちの親父はかなり話しやすそうな雰囲気で良かった。
向こうの親父は厳しい訳ではなかったんだけど……話すのが苦手だったな。
「5歳にしては律儀な子だな。母さんの血を受け継いだのか?」
「いえ、父様の血も受け継いでいるかと。」
「はっはっは!面白いことを言う!そこは父さんに似ておるのだな!」
確かに、面白い親父だな。
だが、自画自賛も程々にな。
よし……てことで、案内してもらうか。
いや、本当に助かる。
「まずは、書斎だな。と言っても、面白味もない難しい本ばかりだがな」
「5歳の僕が読めるような本はあるのですか?」
「うーん……童話ぐらいではないのか?後は興味あれば英雄譚だな」
……英雄譚?
もしかすると、本当に異世界なのか?
まだ異世界と決まった訳ではない筈だけど……かなりワクワクしてきた。
「じゃ、まずは隣の部屋だな。部屋を出ようか」
「はい、父様」
次の部屋、どんな感じなんだろうか。
「ここはキッチンだな、メイドや執事が料理を振舞ってくれる」
「へぇー……って!あれば一体!?」
「そういえばブライアは見たこと無かったか?あれは魔法だ」
本当に異世界だった!
魔法があるとすれば……俺も使えたりするのか?
能力とか武器とかも気になる。
「氷魔法で冷却保存や、炎魔法で炙ったり焼いたり。魔法は沢山のことが出来るから便利だぞ。ま、父さんはあまり使わないのだが」
「何故ですか?」
「我が家名はグリーンドラゴンと言ってな、遺伝子的に魔法や剣より、武術を得意とする人間が沢山排出される家系だ。あ、お前の母さんは武術より魔法が得意だ。出身が違うからな」
「へぇ、ならいずれ僕も武術が得意に?」
「なるだろうな。ま、あの子みたいに例外はいるが……大抵は武術を好んで使う」
例外のあの子って一体どんな子なんだろ?
その子もグリーンドラゴン家みたいだし、会えるのが楽しみだ。
でも武術か、楽しいんだけど俺は剣や魔法が使いたかったな。
前世でも得意だったし、できないことはないんだが。
あいつが俺の立場なら、もっと喜んでただろうな。
でも剣とか魔法の才能が必ずしも無いって訳でもないし、物は試しと言う。
また今度使ってみよう。
「じゃあ次に行こうか。」
「ええ!早く見て回りましょう!」
「はっはっは!元気ある子供だ!」
次の部屋までは距離があるし、長い廊下を移動するか。
「そうだブライア、お前にこの長い廊下を快適に渡る方法を教えよう──『動け廊下』」
バランスを崩しそうになったが、親父が受け止めてくれたようだ。
だがそれはどうでもいい。
廊下がまるでベルトコンベアのように動き出したのだ。
「す、凄い!一体どうやって!?」
「これは一種の魔法のようなものでな、この廊下は魔力を込めた物体、『魔道具』という。『動け廊下』と言うだけで動き出す。止める時は、『止まれ廊下』だ。お前にも扱えるが、これで遊ばないように。危ないからな」
「は、はい!使ってもいいですか?」
「勿論だ、試してみろ」
「なら──『止まれ廊下』」
いや、本当に止まった!
こ、これは凄い!
ってあれ、なんかフラフラする……。
「これが今のお前への危ない、だ。これの原動力は『魔力』といってな、今のお前は『魔力』の総量である『魔力量』があまりにも少ないから、1回使うだけでこうなる。2回目も耐えれるとは思うが、3回目を使うと動いている廊下で倒れることになる。そうなれば、壁にぶつかってしまえば危ないだろう?だからできるだけ使わないでおけ。いいな?」
「ひゃ、ひゃーい。」
「いい返事だ、手を離してやろう。」
ほっぺたをつまむな!
ま、自分でもびっくりするくらいぷにぷになんだが。
……魔道具に、魔力か。
これは本格的に異世界っぽいな。
「着いたぞ、ここは食堂だ」
「へぇー……あ」
「はっはっは!お腹の虫が鳴いているぞ!」
「そういえば、何も食べていませんでした」
「そうだな、お昼までまだまだ時間がある。お昼まで待つか?それとも買いに行くか?」
どうしようか。
ここでご飯食べたいのだが、夜になれば食べれる。
それにこの家の外がどうなっているか見てみたい。
なら、俺の答えは1つだ!
「買いに行きたいです!僕外に出たことないですし!」
「そうか、なら準備しないとな!部屋に行くぞ!」
「やったぁ!」
よーし、ようやく外に出れる!
準備だ準備!早く行こう!
「む?この気配……」
「どうかされましたか?」
「まさか……ブライア、外に出るのは後でだ」
「え?は、はい」
なんだ?急に親父の顔が……
《グアアアアアアアア!!!!》
え、なんだこれ!?
この鳴き声、なんか大きい動物か!?
「チッ、ここで待っておけブライア、誰かいるか!」
「はい、ここに」
「今すぐエルナを呼べ、場所は貴族街東門だ。」
「かしこまりました。ご武運を」
あの人いきなり出てきたな。
って、呑気に考えてる暇は無い!
親父を追いかけた方がいいのか?
「あの人も人使いが荒いわね……あらブライア、こんなところでどうしたの?」
「あ、えっと……父様がどこか行ってしまって……」
「あら、そうなの。あなたが走ってもあの人には追いつけないだろうし……窓から行くわよ、しっかり母さんに掴まってなさい」
ど、どういうことだ?
「『飛行』」
そ、空を飛んでる!
魔力があればこんなこともできるのか。
「見えてきたわ……成程、この程度ならあの人1人で充分ね」
「……え?ド、ドラゴン?」
「あら、博識なこと。正解よ」
真っ黒の体に大きな翼……なんか強そう!
あれ、親父は──ドラゴンの目の前にいる!
「なるほど、お前か。良かったな、慈悲深い私で。他の奴らだったら問答無用で木っ端微塵だな」
な、なんか言ってる……他の奴らって誰だよ。
《グルアアアアアア!!ガアアアアア!》
ッ!なんだ、耳が!?
「大丈夫よ、安心しなさい」
「あ、ありがとうございます、母様」
ドラゴンの咆哮って、こんなに凄いものなのか。
見た目は親父より強そうだけど、どうするんだ?
「……さっきからギャーギャーうるさい、我が息子の腹の虫でもそこまで鳴かないぞ」
うるせえ、さっきのことは忘れろ!
なんでそれとドラゴンの咆哮を一緒にして比べるんだ!
「もういいか?我が息子と妻が見ているのでな」
《グルアアア!グラァァァァァァ!》
つ、爪で引き裂かれるっ!
「そうか、戦うつもりか。なら、その命を絶えさせよう──『鋼鉄の刃拳』」
《ゴ、ゴァァァァ!?》
ドラゴンの爪がバラバラに!?
あんな一撃で硬そうな爪があんなことに!?
「言っただろう?その命を絶えさせよう、と──『鋼鉄の緑武・乱』」
大きな真っ黒の肉体に物理攻撃が通る程に強烈な攻撃だ。
これがグリーンドラゴン家の武術、なのか。
凄まじい、前世でもこのレベルはいなかった。
「……まだ耐えるか。もう終わりにしてもよいか?」
《グ、グラァァァ、ガアアアア!》
まずい、不意打ちだ。
流石に攻撃を食らってしまう!
「そこまで死にたかったのか。良かった、殺した後に罪悪感を抱くところだったぞ──『反射緑鋼鉄』」
《グアアアアアアアアアアアアアア!!!!》
え?今、何したんだ?
ま、全く見えなかった……。
これが俺の親父、クライア・グリーンドラゴンなのか。
ってヤバい、ドラゴン倒れてここら一帯が潰れる!
「か、母様!」
「安心して、あの人がやってくれるから」
え?親父、また何かするのか?
「全く……人任せなことだ、『鉄塊撲滅拳』」
え?ドラゴンが、消えた?
ど、どこにいったんだ?
「ふふ、その困惑の様子、可愛いわね」
「ごめんなブライア、買い物に行くと言ったのに」
「えっと……ドラゴンは、どこに?」
「消した、物理的にな」
──は?
え、はあああああ!?
いやいやいやいや、強すぎるだろ!
「こら、5歳の子供には刺激が強すぎるでしょ。」
「いや、どうしても見てもらいたくてな。こんなチャンス滅多にないだろ?しかも、エルナがここら一体に結界張っていただろうし」
「もう、ブライア怖がってたのよ?でも、結界張っていたのは間違ってないわね」
異世界人にも刺激強すぎるよ!
一体どういう原理なんだよ!
「だ、大丈夫ですか!?って、グリーンドラゴン家当主様?」
「ああ、衛兵だな。王にこう報告しといてくれ。『グリーンドラゴン家当主は劇的な勝利を収めた』とな」
「ハッ!かしこまりました!」
かしこまってんじゃねえよ!
何か聞く事ぐらいあるだろ!
てか、親父グリーンドラゴン家の当主なのかよ!
それ、早く言って欲しかったな。
「流石、最上級貴族なだけありますね」
「褒めても何も出ないぞ」
…………え?なんて言った?
さ、最上級貴族?
字面で分かるけど、もしかして──
「驚いたか?ブライア。我がグリーンドラゴン家は、七つの最上級貴族、レインボードラゴンの一つなのさ」
レインボードラゴン?
「レッドドラゴン、オレンジドラゴン、イエロードラゴン、グリーンドラゴン、ブルードラゴン、インジゴドラゴン、パープルドラゴン、この七家から成る貴族を七つの最上級貴族、レインボードラゴンというのよ。私達はその一つ、グリーンドラゴン家にあたるのよ」
いや、もう何も言えない。
驚き呆れるっていうのはこういうことなのか。
まあ困惑していても先に進まない。
今はとにかくこの状況を受け入れよう。
「お腹空いただろう、ブライア。何を食べに行きたい?」
「なら、私もついて行くわ」
「何があるか見に行きたいです!」
「なら商店街に行こうか!あ、報告頼んだぞ!」
「ええ、お任せを」
これが俺の転生した家、親、世界。
何が起きるか分からない、イレギュラーな世界であり、俺をワクワクさせるような世界である。
月日は面白いように早く流れ、双子の妹が産まれた。
更に稽古をつけて貰ったり、勉強したりする日々を送っていった。
沢山のことをこの家で学んだ。
──そうして迎えた十歳の誕生日。
大きなパーティーが開かれ、盛大に祝われる日だ。
そして、俺の運命を大きく変えることになった日でもある。