囚われの王子
ある国で革命が起こり、王は殺され、王子は捕らえられた。
王子は、捕らえられたのだから殺されるだろうと思った。
しかしいつまで経っても牢屋に閉じ込められ、来る日も来る日も粗末なご飯を与えられた。
明け方の海のように澄んでいた瞳は、不安で濁り、桃のように生き生きとして赤みのあった顔も、蝋人形のように青くなった。
僕がここに捕らえられている理由は分かる。
父が、国を顧みず悪徳政治をしていたからだ。
父を殺しても、僕が生きていたら革命が成功したことにはならない。
だから僕もいつか殺されるだろう。
しかし閉じ込めるだけで、一向にその様子は無い。
飼い殺しにするつもりなのか?
王子はご飯を運びに来たおっさんにすがるように言った。
「なぜ僕はすぐに処刑されないのか、教えてくれ。」
「新しい王子が、殺さず生かしておくようご命令なさっているのです。」
「どうしてそんなことを?」
「王子は、あなたを政治に利用すると言っている。しかし私にはそれが建前のようにしか思えんのです。」
おっさんは空になった皿を持って帰るとき、元王子の方を向いて言った。
「じきに新しい王子が、あなたに会いに来ます。その時、ご自分で理由を聞いてごらんなさい。」
三日月が夜空を頼りなく照らすころ、新しい王子が独りで忍んでやって来た。
新しい王子は僕と同い年に見える。
しゃがんで僕の顔をじっと見てくる。
あまりにも無垢な表情だ。
「どうして僕を生かしておくの。」
新王子は純粋な目で言った。
「君は何も悪いことしてないでしょ。ただ血が繋がっているだけで殺すなんておかしいよ。君を閉じ込めるのも嫌だったんだけど、僕も父上には逆らえないんだ。」
新王子はお山座りして、僕と向かい合った。
「そんなきれいごと言って、僕を政治に利用する気なんだろ。」
「そうでも言わないと、父上は君を生かしておかないから。」
新王子はポケットからキャンディを取り出した。
そして柵の隙間から、僕に渡した。
「あげる。ご飯だけじゃ、お腹空くでしょ。」
僕がキャンディを受け取ったのを見て、新王子はふんわり笑った。
チリチリ音をさせながら銀色の包みを取ると、オレンジ色の飴玉が出てきた。
・・・もしや新王子は、僕に毒入りの飴を渡したんじゃないか。
直感的にそう思った。
もし毒入りだったとして、死んだとしても、ずっとここで飼い殺しにされるよりはいい。
僕は死ぬつもりで、飴を口に含み転がした。
「よかった。君は、僕を信じてくれているんだね。僕のことを疑っているなら食べないもの。」
新王子の顔を見ると、目が潤んでいた。
「いつか、ここから出してあげるから。絶対に。」
僕は信じていいのだろうか?
新王子が去ってから、僕はしんみりと考えた。
今まで立派な王になるために、生きてきた。生かされてきた。
それなのに、いきなり捕まって、ここにいる。
今までの、王になるための努力が無駄になってしまった。
今、僕に出来るのは新王子の言葉を信じることだけだ。
新王子は僕を信じてくれている。僕も彼を信じよう。
信じると決めてから、なぜか牢屋にいても苦しくなくなった。