六話
子犬を逃がした愛香が走り出す。
カミナリサマと呼んだ怪獣が、雷を纏った拳で愛香に殴りかかる。
ばかでかい大きさなのに、拳を振り下ろす速度はまるで隕石のようだった。
「当たらないよ!リサ、芽々をお願いね!」
愛香が拳を避けた。
カミナリサマの拳は地面に直撃し、私達の立つ大地に大きな地割れが出来た。
「何してるのよ!早く変身しなさい!」
「でも、変身する方法は──」
その時、私の頭の中に何かが流れ込んで来た。
それは、怪獣結晶の力を纏うやり方だった。
「──いや、分かったよ!リサ!私に任せて!」
私は心の奥に呼び掛けた。
ツヴァイフェニックスの怪獣結晶が、私の中で鼓動し続ける様子が、一瞬眼前に映った。
「ハアアアァァァッ!!」
その瞬間、私の周りが謎の光る空間へと変わる。
そして、私のビキニを着た身体に炎の触手と氷の結晶が取り憑いた。
触手は私の胸を優しく包み、太ももも包み込んでいく。
不快感は無い。
氷の結晶は膝や肘、額、耳、手の甲、そして背中へと集まっていく
そして、胸元と太ももを包む炎は、炎が彩られたシャツとタイツへ変わる。
両手両足には氷で出来た手袋と靴が装着される。
額には氷で出来た鳥のような頭部の兜に、炎で出来た鶏冠が生えてきた。
軈て背中には、二枚の翼が型どられた。
片方は炎で出来ており、もう片方は氷で出来ている。
生えているのではなく、背中にくっつかない距離で浮いている。
そして、私は両腕両足を縮めて、大きく左右に広げた。
私を中心に炎と冷気が放たれて、足元には炎の円と氷の円が出来上がる。
そして、周りの空間が元の景色に戻る。
カミナリサマも愛香も、リサも私が変身する前の位置から殆ど動いてない。
あの空間での変身は体感で二分も掛かったけど、どうやら現実世界の時間では一秒しか経過してないんだね。
「っ!やるじゃない!」
私は背中の炎と氷の翼をはためかせる。
私はリサと、愛香が逃がした子犬を抱えて空を飛ぶ。
飛び方が何となくで理解出来た。
それに、なんだか今までの身体よりも軽い。
そして、空を飛ぶ鳥の気持ちよさを理解出来た。
此が、怪獣の力なんだね!
「よし、私は子犬を安全な場所に避難させるね。リサはどうするの?」
「私を愛香の元まで投げて!大丈夫よ!私は平気!」
「分かった!いっけええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
私は片手でリサを掴んで、そのまま投げ飛ばした。
物凄く軽く感じる。
私の力と思えない。
私に投げ飛ばされたリサが、カミナリサマの頭に蹴りを食らわせた。
カミナリサマが背中から町に向かって転んでしまい、町があっという間に押し潰された。
地面がカミナリサマが倒れた衝撃で割れて、割れた事で分かれた一つ一つの大地が浮き上がった。
言葉足らずで悪いけど、地面が町ごと浮き上がったんだよ。
「・・・じゃあ子犬ちゃん。安全な場所まで案内するね」
子犬が私に吠えた。
敵意は感じられない吠え方だった。
私は背中の翼をはためかせて方向を変えて、空を再び飛ぶ。
子犬は火で包んでる為、飛んでいる間に受ける冷気は当たらない。
空を飛んでいる間に避難所を見つけた。私は其処に降りて、扉を叩く。
人が出てきた。
「あの、この子をお願いします」
「っ!私の子犬が!?ありがとうございました!」
「はい。では、失礼します」
私は翼をはためかせて、再び上空へ飛び立った。
愛香とリサの元へ戻らないと。
上空を高速で飛んで、私は愛香とリサの元へすぐに戻ってこれた。
カミナリサマが起き上がって、太鼓を手にした棒で叩いて天空から雷を落とす。
雷を受けてしまった愛香は、地面に叩き付けられた。
でも、リサは走りながら雷を避けている。
普通避けられない筈なのに、凄い。
そして、頭に生えた触手を伸ばして、カミナリサマの足を掴み、そのまま投げ飛ばす。
カミナリサマはうつ伏せの状態で大地に叩き付けられて、周囲に大規模な亀裂と地震を発生させた。
「私も援護を・・・っ!?何か、熱い物が此方に来る!?」
私が感じたのは、強い熱気だった。
氷や冷気を操れる為か、熱も敏感に感じられるようになった。
それに懐かしく、忌々しい気配でもあった。
それは、私の日常を容易く破壊し、この私を殺しかけた因縁の相手。
『グギャオオオオオオオッ!!』
ボルケノスだった。
地面から爆発を起こして、私を吹き飛ばしながら現れた。
モグラみたいな見た目だけど、マグマのような色の皮膚をし、至る所にある穴からマグマのような液体を垂れ流している。
カミナリサマより小さいけど、それでも大きい。
それに、あの爆発を受けたのに、私の身体は全くダメージが無い。というより、爆発の熱を全身で吸収した感じだ。
「さて、此処でリベンジさせてもらうかな」
こいつは此処で倒さなきゃ。
私を殺しかけた借りを、返させてもらうからね。
『グギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
ボルケノスが今までに無い位吠えた。
私を覚えてたのか、それとも邪魔だから鬱陶しいのか、分からない。
分かるのは、コイツは私を敵として見ている。
初戦闘だしつらい所はあるけど、関係ない。
コイツを此処で倒して、私は新しい一歩を踏み出してみせる!