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私の怖いもの

作者: 文月獅狼

私が小さかった頃の話です。といっても、実際に体験したことが部分的にあるという程度です。その時こうだったらおそらくこんな風に思っていただろう、というものを想像して書いたものです。今回の話に関しては今も昔も考え方が変わっていないので、おそらく想像通りになっていたと思います。


お隣にきれいなお姉さんがいました。実際は自分の思っていた以上に年上でしたが、私から見たらとても若く見えていました。その人は出張で家を空けることが多く、時々私と姉でその人の飼っている猫の世話をしに行くことがありました。だからその人は出張先でお土産を買ってくることがありました。

私は人見知りで、その人とはほとんど話したことはありませんでした。だから私が猫の世話をしていることは知らずに、姉だけがやっていると勘違いしていたようです。姉だけお土産を貰うのが悲しく妬ましいと思っていましたが、その頃の私はおもちゃや食べ物のほうが好きだったので、もらっていたものを冷静に考えてみると正直いらないものでした。それにわざわざ私もやってるんだからなんか買ってこい、とはさすがに言えません。しかし、その頃の私はおそらく何かを貰うということ自体がうらやましかったのでしょう。


 だからでしょうか。その人が姉だけでなく、私たち家族にお土産を買ってきたときはうれしく感じました。茶色の梱包紙に包まれた大きな箱を持ってお隣さんが訪ねてきました。どこへ行ったのか。どこで買ったのか。そんな話はもはや私の耳には届いていません。すべての意識が、目の前の中身の分からない宝箱に集中していたのです。

母とお隣さんの会話は長く続きました。途中でトイレに行きたくなった私は母の後ろから離れてトイレに行きました。それを見計らっていたかのように、二人の会話は終わりました。もしかしたら母は、いくら人見知りな私でもさよならを言うのがさみしいというのを知っていたのかもしれません。


トイレから出てみると、父と母が箱を開けていました。私は自分も中から物を取り出したくて近づこうとしました。しかし次の瞬間、足が動かなくなってしまいました。父が中から出したものを見たからです。

それは何の変哲もない、ただの着物を着た日本人形。市松人形というよりは衣裳人形、といった感じでした。他にもだるまや熊と金太郎が同じ板についた物などがありました。しかし初めに人形を見てしまった私からしたらそれらなどもう頭の中にありませんでした。

私は泣き出してしまいました。怖かった、というのは覚えています。しかしなぜ怖いと思ったのかは、その時はよくわかっていませんでした。もしかしたら、漫画日本昔話を見て何かあったのかもしれませんね。

とはいえ、ただ私一人が怖いからという理由だけで一度も飾ることなく物置にしまうというわけにはいきません。とりあえず一日は飾っておこうということになりました。明日になれば何か変わるだろうということで。

箱から取り出されては一緒に入っていたガラスの棚にしまわれていく人形たち。私は左側の金太郎たちしか見ていられませんでした。明日には彼や桃太郎が衣裳人形をどこかへやってくれていないか、なんて思っていました。


ご親切にも朝に渡されていたので、掃除おわりの昼になる少し前にはすべて並べられていました。その日私は、一日中そっちの方向は見ないようにしていました。たとえ最近知ったばかりのDSがそれの下の棚にあったとしても、私がそっちを見ることはありませんでした。


その日の夜。私はトイレのために起き上がりました。窓から見える月が明るいな~なんて思いながらトイレへと向かいました。

無事に用を足し、ドアを開けて廊下に出ました。寝る部屋は上にあり、左側に行けばリビング、右に行けば二階への階段があるという構造になっていました。私は何となく左側を向きました。リビングを、つまりあの人形たちがある方向を。ぼんやりとしていたせいでそんなことは忘れていました。

暗い中、だんだんといろんなものが見えるようになってきました。月明かりによって鮮明に。私は人形たちと目が合ってしまいました。別に動いたりしているわけではなく、本当に全く動いていません。人形も、自分も。じっとこっちを人形が見ています。私はその眼の中に吸い込まれていくような気がしました。


私は人に見られるのがあまり好きではありません。意味もなくじっとこちらを見られるのは特に嫌です。ヤクザたちのように、何眼飛ばしてんだと内心思っています。会話の時もあまり目を合わせるのが得意ではありません。見すぎては相手が私のように思っているかもと思い怖くなり、見なさ過ぎては印象が悪くなってしまう。上の人間との会話の時はなおさらです。

私は誰かに見られたり目を合わせたりすることに何故か恐怖を感じます。内心を見透かされているような気がするのかもしれません。

真実かどうかは君の眼を見ればわかるなんてドラマなどで言っていますが、私にはそれが分かりません。私からしたら眼なんてものは全部同じです。死んだ魚の眼を見たことがある人ならわかるかもしれません。それがただ人間にはまっているだけなのです。それなのにドラマであんなことを言っているのは、ただ犯人に鎌をかけるためだけです。


このように考えるようになったのがこの出来事の後か前かはわかりません。しかしもしも前ならば、おそらく動くことも逸らすこともなくずっとこっちを見ていた人形が怖かったのかもしれません。

ですがもしも後ならば、私がこう考えるようになったきっかけがこれだったのかもしれません。私は一生のトラウマを人形によって植え付けられたことになります。


皆さんも見てはいけなかったもの、見たくなかったものの一つや二つ、見たことがあるのではないでしょうか。


 どーも、文月獅狼です。

 まだまだ暑い日が続くようですが、夏もそろそろ終盤です(私からしたら9月に入るともう秋なのです!)。夏と言えば怪談というのがほとんどの人に共通しているのではないでしょうか。だから私はこの作品を書きました。

 はじめのうちはホラーを書くと自分が心霊体験をするのではと怖かった部分もありますが、駅のホラーに作品を出してからはハードが下がったような気がします。これからも何か書きたいですね。

 また、いつものことながら、私の他作品「ジャック・イン・東京」「公安機密:事情聴取ファイル」などもよろしかったら読んでみてください。おそらくホラーを読んでいる方なら好きになっていただけると思います。

 ポイント評価、ブクマ、感想等していただければ幸いです。

 長くなってしまい申し訳ありません。ではまた。

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