ギャップ、萌え?
ドドドと疲れた身体を引きずるように、教室へ帰還です。
私と二宮さんを助けてくれた大きな声は、他の誰にも聞こえていなかったようで降り始めた雨に体育の授業は少し早めの終了となりました。
さっきの人体模型さん、理科室ですよね。
一人で行くのは気が引けるけど、お礼をしておきたいですし。
西棟に繋がる放課後の連絡通路で立ち往生です。
「見つけた」
最近聞きなれた声には、胸がホッと落ち着きます。
「ハルオが大声で叫んでただろう。
鏡子が君を心配してた」
むすっとした口元とため息のような小さな音。
振り返ったその先には、至先輩。
「あ。ごめんなさい。私校庭の夾竹桃に近づいちゃって」
「今はやめておこう」
話し出した私にストップをかけた先輩が連絡通路の奥に視線を移す。
「理科室?」
「はい。お礼がしたかったんですけど」
スっと先にたって歩き出す先輩がついてくるように私を振り返った。
■□■□
人気のない特別教室の廊下で、それでも少し辺りを気にした先輩が理科準備室の扉をノックする。
「ハルオ、ボン太。至だけど」
先輩の静かな声とは対照的な、室内のガシャガシャと騒がしい音が廊下に響きます。
「兄さぁん」
ガチャリと音を立てて内側から鍵が開くと、飛び出してくる人体模型さんと骨格標本さんに危うく叫びそうになり、口を押さえちゃいました。
だってぇ、普通動くものじゃないですもん。
「おや、さっきの姉さんやんけ」
お。大阪弁?
「人体模型がハルオ。骨格標本がボン太。
ちなみにエセ大阪弁だから」
「兄さんひどー」
「姉さんおおきにな。
ボーンのボン太でっせ」
至先輩の足元でちょろちょろしているお二人(?)はそこそこの大きさなのに、なんだか小さな男の子に見えてくるから不思議な気分です。
ハルオくんの頭に手をポンと乗せる至先輩の顔は、保健室で鏡子ちゃんに見せた顔と同じで。
優しくて柔らかい空気。
そういえば、態度は冷たい感じがしますけど、何かと気を使ってくれるのはいつも至先輩の方。
ギャップってヤツですか?
なんだか不思議な気分です。
「あー。兄さん、大腸もげてもたー」