夾竹桃
こういう日に限って、体育が外なんですよね。
五月の空は青色のガラス細工みたいに綺麗に透き通って、吸い込まれそう。
校庭を見ると、走ってる二宮金次郎さんをつい視線が追っちゃいそうで何だか無駄にキョロキョロしちゃいます。
「どうしたの。探し物?」
あうー。これはこれで怪しいですよね。
「なんでもないの」
あわてて咲希ちゃんに答えるその奥。校庭を囲むように立ち並ぶ夾竹桃の木は、一本だけ他の木の半分の高さもない。
あれですね。駆先輩の言っていた木は。
言われるまでは、あんなにも不自然なのに木の存在すら気が付かなかったです。
何だかドキドキしてくる鼓動に、胸の前で左手をキュッと握りしめる。
見ない見ない。
咲希ちゃん達と並んで歩きながら振り切った視線は、西棟の特別教室の入る棟に。
大きく開いた二階の窓に並ぶ二人の影は、妙に細身のその影が肉付きのいいもう片方の胸元にパシンッとツッコミを入れる。
「なんでやねんっ」
びくぅっ。
校舎に反響する声の大きさもさることながら、その容姿。
骨格標本と人体模型のどつき漫才を横目に見ながら、私は午後の最後の授業に向かうのです。
「大腸もげてもおたー」
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トラックの直線を利用してタイムを計る100メートルに時折二宮さんが走り込んでくるものの、うまい具合にスタートの合図がずれたり、フライングがあったり。
皆さん見えている感じじゃないのに、無意識に感じている部分があるんでしょうか。
頬に触れる風が急に冷たさと鋭さを増して、体操着から出た腕を引き寄せました。
「なんだ、雨でも降りそうだな」
体育教諭の一言に、さっきまではあんなに透き通っていた空が、重い雲に覆われています。
背中にぞくっとした何かを感じた気がして振り返ると、あの夾竹桃。
そそそっと立ち位置をずらした私の視界で、吹いた風にバインダーに挟んでいた記録用紙が散っていく。
「あー。回収手伝ってくれ」
「は、はい」
先生に近寄っちゃったのが運の尽きです。
隣にいた咲希ちゃんに近くをまかせて、散っていく記録用紙を追いかけた私に正面から突風に煽られたような衝撃。
あ。
夢中で気が付かなかったけど、あの夾竹桃の目の前です。
近づいちゃだめって言われていたのに。
何かに睨まれているような恐怖感。
身体が硬直して声が出ない。
夾竹桃の根元から覗く鋭い視線に射抜かれる。
そんな私をかばうように飛び出してくれた影が、その何かに弾き飛ばされました。
「二宮さんっ」
音を立てて転がった二宮さんが体勢を起こして夾竹桃に走り出す。
「あかああぁぁぁぁんっっ」
ビリビリと空気を震わせて響き渡る大声に、身体の硬直が溶ける。
さっきの人体模型さん。
校舎を振り返った私は、再び視線を夾竹桃へ。
ドクドクと脈打つような左手の中に熱さを感じて、木を睨むような二宮さんの立ち姿の他に、怖さを感じる気配はなくなっていました。