保健室の女の子
目が覚めたのは、固いベットの上でした。
天井を見上げる私の瞳の端から、スッと零れていく涙に自分が泣いていたことを知らさせます。
夢。見てました?
零れる涙をぬぐいベットの上に身体を起こすと、何とも言えない不思議な感覚に、左の手のひらを見つめます。
夢の中で触れた、彼女の手の温かさが夢とは思えないほどリアルによみがえって……。
彼女を知っている気がします。
そんな私の視界に入る和服を着た小さなおかっぱ頭の女の子がほほ笑んでくれました。
???
視点が手のひらから女の子に移動すると、私の目の前でその子はスゥッと。
消え……た?
「え」
っとぉ。
「おばけぇ?」
目の前で起きたことが理解できません。
夏にテレビで見る怪奇特番みたいな怖さは全くなかったんですけど。
えええ?
「塚守さん。目が覚めた?」
ベットを囲む白いカーテンの外から女性の声がかりました。
「あ。はい」
開いたカーテンから保健教諭の岩本先生が顔を覗かせます。
「うん。顔色もいいわね。
あなた授業中に倒れたらしいわよ」
差し出された体温計を受け取り脇に挟むと、ひんやりと冷たい感覚。
授業中。
そうだ、桜の花びら。
あれに触れて……その後の記憶がないです。
部屋にノックの音が響いて、返事をした岩本先生の声に保健室の入り口が開きます。
「健康観察の書類、取りに来たんすけど」
開いたカーテンの隙間から男子生徒が入って来たのがわかりました。
「ああ、いつも悪いわね。
ちょっと待っててちょうだい」
そう言って踵を返した先生の足元を、さっきの和服の女の子が通り過ぎていきます。
やっぱりいる!
先生は気が付いてないんですか?
目で追うその子は、男子生徒の足元に立つと彼を見上げます。
ポン。
彼の手は、明らかに女の子の頭に優しく触れました。
嬉しそうに瞳を細めると、女の子はまた姿を消して。
そして彼は何もなかったように、戻ってきた先生の差し出す書類を受け取ると、一礼をして保健室を出て行きました。
この人、絶対見えてます!
小さな電子音に体温計を抜くと、ベットから抜けて急いで上履きを履いて。
平熱、大丈夫。
「ありがとうございました」
体温計を返して、先生の呼び止める声を無視した私は廊下に飛び出しました。
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