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夏を感じるもの

作者: 沙霧

「今日の最高気温は昨日に引き続き20℃を下回り―」

「7月になっても肌寒さが続くと―」

「日照不足のため夏野菜の価格が高騰し家計を直撃-」


テレビや新聞では連日、今年の夏の気温の低さについて取り上げている。

確かに今年の夏は肌寒い。空はどんよりした灰色が続き、太陽と青空が見えない。風も冷たく体の体温を奪い、汗ではなく鳥肌を与える。

昨年は6月の頭からエアコンなしでは眠れなかったから、今年は珍しく5月にはエアコンと扇風機の掃除を終えたのに、まだ活躍の機会がない。お陰様で未だに毛布を被って眠る日々だ。慣れないことをすると想定外のことが起きる。まったくもって不本意である。


「今年の海はどうしようか」

毎年欠かさず夏には海に行っていた。サーフィンや海釣りといった定番もやるにはやるが、それらが目的ではなかった。もちろんそういったことも好きだが、ただ浜辺に寝転んで過ごすだけでも十分満たされていた。きっと海水や潮風、日差し、砂浜などを感じることが出来れば気が済むのだろう。

潮風の礒の匂いや、海水のべたつき、日焼け、砂のざらつきなど海では刺激となるものが多い。それを苦手としている人も多い。だが自分はそういった街では感じることができない自然を感じることが好きだった。だからこの質問には即答した。


ザアァァーー・・・・・

これだよ。せっかく人が珍しく1週間前から準備をしているときに限って大雨。しかも目的地には大雨警報まで発令されている。テレビのニュースでは海の家も雨に濡れないようにするためかビニールシートで覆われている様子が映し出されている。慣れないことはするものではない。本当に。


仕方ない。今日は家で過ごすことにしよう。そのためには娯楽が必要である。最近ハマっている海外ドラマのDVDレンタルが近所の店で始まったから借りてくるか。

新緑を連想させる雨傘は最近のお気に入りである。普段ならこういった色ではなく無難な色を選ぶのに。慣れないことをしたが、今年は活躍の機会が多いため、これは嬉しい誤算である。


ザァー・・・

先ほどに比べて雨が少し弱まってきた。店まであと5分ほどの距離である。風は相変わらず冷たい。


「ありがとうございましたー」

希望通り3巻から借りることができた。この3巻は常に借りられていたのでとてもラッキーである。

早く帰って堪能しなければ。


店と自宅までの間に保育園がある。道路側から大きな笹が見える。

そうか七夕か。こうも寒い日が続くとどうしても今が夏であることをついつい忘れてしまう。

隣に彼がいれば、今日海に行く予定だったお前が言うセリフか!、とツッコミが入ったことだろう。


空を見上げると、まだどんよりとした黒い雲が立ち込めている。織姫と彦星は出会えるのだろうか。一年に一回しか会えないとはどんな罰なのだろうか。いっそのこと牢屋に入れるとかした方が諦めもつくから親切なのでは。あ、罰だから親切ではないのか。全く、おとぎ話のくせに中々えげつないことをするものだ。


「あ。晴れた」

久しぶりに見た晴れた空。まだ早い時間のため濃い青色が視界一面に広がっている。

急に晴れて気温が上がり湿度がぐっと上がる。外出のために羽織ったパーカーが不快感を助長する。


「あっつ・・・・」

久しぶりに声に出した台詞は、近づいてくる夏の気配を感じ取っていた。




風そよぐ ならの小川の 夕暮れは 禊ぞ夏の しるしなりける


百人一首 98歌 十二位 家隆

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