Roar
プロローグ
血塗られた日本刀、煩いほどの雨。
…これでよかった……
それでも心のどこかで思ってしまう…
あの時の選択は…………本当に間違っていなかったのか………………
―その日は土曜日だった。高校も今日は休みなので家で暇を持て余していた。ふと、スマホの画面を見たら【今日の予定】とあった。
「そういえば今日は付き合った記念日か…」
その日は六月五日、付き合った日だった。と、言ってもつい最近別れたばかりだった。カレンダーの予定から消すのを忘れていたみたいだ。
「朝から嫌な始まりだな…」
そんなことを言っても変わらないのは分かっているが言ってみたくもなるものだ。
フったのは俺からだし、今更未練もない。雲海 翼(うんかい つばさ)。俺に初めてできた彼女ではあったが、それゆえに気にし過ぎだったのかどうも彼女から俺のことをを好きな言動が見当たらなかった。彼女は他に好きな人がいるんだと自分に言い聞かせてフった。「自分から告っておいて情けない」「なんであんな可愛い子フったの?」なんていう言葉は毎日になった。自分で言うのもなんだが自分は割と心が広い方だと思う。無論、そんな言葉にいちいち反応しないが、何より彼女の話をされるのが癪に障る。お前らに一体何が分かるのかと言いたくなる。まあこんなことを考えていてもそいつらには届かないし、言うつもりもない。で、そんな色々な感情が混ざってでる言葉はやはりこれなんだと思う。
「…面倒臭い…………」
―その日の夜七時、親に頼まれ買い物に出かけた。母も、父も毎日基本夜勤で夜は何か買って食べるのが基本なのだが今日は買い忘れたらしくメールがきて買ってこいとの内容だった。店の近くには元カノの塾が近いのであまり乗り気ではなかったが、大体夜は暇でやることがないので行った。買い物を済ませ店を出ようとすると、案の定元カノがいた。相手からはバレていないのを確認すると同時くらいにその場にあった電柱の影に身を潜めた。なんでこんな行動をとったのかはよく分からなかったが多分、単純な気まずさだったんだと思う。そこには他の男がいた。これは俺が隠れた電柱にという意味ではない。元カノの隣にという意味だ。……まあ元カノだし関係ない、それにただの友達と話しているだけだろう…と、明らかに飛躍した考えが浮かんだ。隠れているので男の顔までは分からなかった。ただ聴覚は良い方なので何を話してるのか盗み聞きしてしまった。元カノなのになんでここまでするのかは分からなかった。男の方の声は聞こえなかったが、元カノの方はよく聞こえた。元々テンションが高いキャラなので尚更だった。
「じゃああとで十時にここね!」
…………………………今日、やることが決まった。
―九時。夕ご飯も済ませ、いつもならまた暇な時間が続くのだが今日は違った。…………いや、なんで別れた元カノにここまで執着するのか、客観的に見たらただのストーカーだろう。でも、それにはある理由があった。
と、その前に誰に見られてるわけでもないしこんなことをしても意味はないと思うが、一応そろそろ自己紹介をしておきたい。これが小説なら読者は頭がパンクしてる頃だろう。俺は、普通の高校二年生 神風 煉(しんぷう れん)。
運動は学年トップ、まあ勉強は大したことないしそれ以外には誇れることはないのだが…
俺は五年前、つまり小学校六年生の時に祖父が亡くなった。祖父は無口な人であまり喋っているのを見たことがなかった。しかし、亡くなる直前、病室にいる時にその場にいた俺以外の家族を全員病室から追い出し俺にだけ言った。
「お前は家族の中で一番現実を見てる、だからお前が一番最初に【それ】に身を委ねるだろう。私の部屋の押し入れの中に桐の箱がある。それはお前が人を恨みすぎた時、他にどうしようもなくなった時にだけ開けなさい。そして、このことは他の人には誰にも言わないでおきなさい。」
その言葉を残して家族をもう一度病室にいれ数分後に亡くなった。母に何を話したのかと聞かれたが俺が言う前に祖父が墓をどこに建てるのか話していたと言った。母はそういう飛躍した話が嫌いなので(ましてや、命に関わることだからだったのもあると思う)家族に話さなかったことについては誰も不審がる人はいなかった。俺は見つからないようにその箱を探し、自分の部屋に隠しておいた。といっても、【そんな時】はなかったので開けたことは今までなかった。
今がその時なんだと思う。「人を恨みすぎた時、他にどうしようもなくなった時」…………時計の針はもう九時半を過ぎていた。
……………………………………。
―言うまでもないがそこに行った。まあ正確には近くのその場所が見える歩道橋にいた。やたら時計を確認した。まるで彼女とのデートの日、早めに着きすぎて集合時間を待ついつかの気分だった。ただ違うのはこの高ぶる気持ちが【喜び】や、【楽しみ】ではないことだ。
と、そこに一人の影が現れた。言うまでもなく元カノだった。どこか意気揚々としていた。もう自分でも分かるくらい取り乱していた。こんなことをしていいのだろうか。………いや、それでもしなくてはならない。仕方ないのだ。そんなことを考えてる間に男が現れた。ここで、この場所を持ち場にしたのが失敗だと気付いた。今度は歩道橋から見ていたためやはり男の顔を確認することができなかった。ましてや、夜なのだからもっと近くにすればよかった…
と、今更考えていても仕方がない。ふと、元カノ達のところに目をやった。
手を繋いでいた。
何となく分かっていたが現実を見せ付けられてはもう耐えることができなかった。気付けば彼らの方へ走っていた。そして、見た。見てしまった。男の正体は知人だった。
「……流牙?」
―神木 流牙(かみき りゅうが)。同じ高校で同級生かつ親友。運動が得意な俺とは対なる勉強のトップだ。互いに互いの苦手なところを埋め合う完璧な相性と、同じ【神】という漢字が名前に入ってるからことから【神コンビ】なんて呼ばれている。(どこの誰が付けたのかは知らないが。)そんな流牙が今、目の前にいる。俺の元カノと手を繋いでいる。もう壊れてしまう。必死に喋って隠そうとした。
しかし、その必要はなかった。先に対応してきたのは元カノ…いや、もうこの呼び方はやめよう。雲海の方だったからだ。
「………なんで…ここに煉がいるの?」
「………別に。ただ通りかかっただけだよ。」
もう………いや、まだだ。壊れる前に聞いておきたい。
「お前ら付き合ってんの?」
「………………………………」
「別に怒ったりなんてしないよ。もう、関係ない人だし。ただ普通に恋愛として気になっただけ。学生は普通だろ?そういうの。まあもう手を繋いでいる以上嘘なんて―」
「あぁ、そうだよ。」
俺の言葉に割って入ってきたのは流牙の方だった。
「僕達は、付き合ってる。」
「………………………」
「でも、煉の言う通り煉にそれを止める権利も、意義もないよな?なら、僕らの勝手だろ?」
………あぁそうだよ。だから、証明してみせろ。お前らの【絆】を。
「なあ流牙。ならお前は、雲海のことを好きなんだよな?」
「……………………あぁ。」
「なら、【どんなことがあっても】雲海を守れるんだよな?」
「…………………………………あぁ。」
「…………そうか、なら【試させてもらうよ。】」
もう………どうにでもなれ。俺はリュックから取り出した。桐の箱に入っていた【鬼の面】を。
使い方など分からない。ただ、普通に考えてこれを使えと言われたら自分が被るということだろう。俺は、鬼の面を被った。その瞬間、自分の周りの次元に穴が開いたような状態になり、そこから武士の鎧のようなものが現れた。鎧は体に自然と装着された。重みは感じなかった。同じく次元の裂け目から今度は日本刀が現れた。あぁ、そういうことか。
「………………………ッ!!!?」
俺が日本刀を一振すると流牙の胴体はあっけなく二つに分かれた。
「ひっ………………!?」
「オイオイ、ナニガマモルダヨ。ケッキョクヤラレテンジャネェカ。」
……少しずつ雲海に近づく。
「ひっ………………!!?ね、ねぇ!私達はまだやれると思うの。お互いの意見を共有しあえば分かり合えると思うの!」
少しずつ近づく。
「やめて……私、まだ死にたくないっ!なんで!!?もう別れたじゃない!!!?なんでまだ絡んでくるの!!?もう、やめて!!!」
近づく―
「動くなっ!!!」
背後から人の声がした。振り返るとそこには警察がいた。騒ぎすぎたみたいだ。
銃声。動体視力もよくなったのか、すかさず刀で対応した。つまり、銃弾を日本刀で弾き返した。
「くっ…………!!?」
ここで殺してしまおうか悩んだが、まずは雲海だと思った。しかし、後ろにいた雲海はもういなかった。
「…………ニゲタカ。」
………………雨が降ってきた。
とりあえずこの場を離れることにした。全体的に運動能力が上がっていたので本気で跳べば、家の屋根を伝って逃げることができた。
―しばらく離れたところで面をはずした。同時に刀も、鎧も次元の裂け目に消えた。
「……………………………」
あの桐の箱にはこの面ともう一つ、紙があった。そこにはこの面の名前らしき単語が書かれていた。そこに書かれていたのは―
【命名 轟鬼】
初めまして!銀狐という者です!!!初投稿となりましたが、いかがでしたでしょうか?「生成りの戦」はシリーズ物として書くつもりなのでご要望があればまた第2話を書きたいなと思っています。まずはここまで読んでくれてありがとうございました!!!!次回作にご期待ください!!!!!!