リン メイリン
頭上の男のぽかんとした顔。
私としては必死に睨みつけているつもりである。
そんなに私の顔はおかしいだろうか。
それとも、私の言ったことがおかしいのだろうか…。
董承にも言われたが、この時代の人から見ると、私は天女になってしまうのだろうな…。
それは、これからの未来を知っている事にもなるし、この時代の人が知らない知識も持っている。
下手に未来の事を話せば歴史が変わってしまうかもしれないし、生きるべき人が死んで、死ぬべき人が死なないかもしれない。
歴史を大幅に狂わせて、どんな未来になるのか気にもなるが、私は私が生まれ育った時代が好きだ。
だから、無事にあの時代がやってくるように私はある程度おとなしくしておいて、帰れるようにしないといけない。
どうやって帰るのかは全く分からないんだけども。
身の危険を感じて、言ってしまったが…
この時代に来る前の私は、あんな切り返しなんてできなかったのだが…
うん、これも天女スキルの一つだろう!と自分で納得してしまった。
思考に意識を馳せていると、組み敷いている曹操はいきなり大声で笑い始めてしまった。
「…!」
「ははは!いいだろう、天の女も人間と同じかと思い、妾にしようかと思ったが、客分として迎えてやろうではないか。天女様よ?」
意味のある含み笑いをしながら曹操は言う。
そういうと私の上、寝台の上から降り戸口へ向かった。
私がほっと、息を付いて、寝台の上に起き上がる。
「そなた、名はなんという?」
天下を手中に収めつつあるだけの事はある鋭い眼力で、すべてを見通すかのような瞳がこちらを射抜く。
「…林明凛。」
こうして、この時代で私は林明凛と名乗る事とした。