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車騎将軍
その日の夕刻、部屋に来客があった。
車騎将軍ことこの屋敷の主、董承の様だ。
やや小太りの男性であった。
部屋に入ってくると、家人を下がらせ、私と二人きりになった。
すると、とたんに跪き礼をとった。
「あっ、あの……」
私が立ち上がり、顔をあげてもらおうしたが、
「天女様…、あぁ…天は我らに遣わして下さった。」
目の前の将軍は歓喜に震えている。
「…どうか、帝の悲願をお聞き届けください…。」
そうしてしばらくして、将軍は部屋から出て行った。
歴史書には董承はやや残忍な面やずる賢い側面も見受けられる。
しかし、
「……帝を思う忠臣なのね。」
その夜、少し欠けた満月を望みながら物思いにふける。
私がどうして此処の時代に来てしまったか分からなければ、元への戻り方も分からない。
董承のあの様子だと計画を中止することはまずないだろう。自身の命や一族よりも帝の密命であろう。
そんな事件まであと数日もないであろう、現在。
私もここで人知れず処刑されるのか、それともうまく逃亡出来るのか…。
「…良くて…曹操の前に引き出される…くらいかしら…。」
そう呟いて寝台へ入った。