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Prik Kee Noo  作者: ムトウ
2/23

2.アヤシい者ではありません

 料理教室というのはほぼほぼ女性受講者で席が埋められ、ましてやタイ料理となるとさらに女性率が上がる。

 18時から開講されるクラスなので、昼間働いている女性も多く、20代~30代半ばくらいの比較的若い女性集団。

 その中で、男性は佐藤晴彦と壮年の紳士のふたりだけで、アウェイ感ハンパない。


 とはいっても、晴彦はわりと女性の集団に物怖じしないほうだ。普通に礼儀正しくしていれば受け入れてもらえる、と信じている。

 その物怖じなさがどことなく愛嬌と受け取られ、“皆さんの愛玩動物”的に親しまれたりもする。本人もわりとその扱いが嫌いではない。


「えー、じゃあハルちゃんタイ行ったことないんだ?」

「そーなんですよ。行きたいんすけどねー、やっぱ本場で味わってみたいですよー」

「ハルちゃんきっとハマるタイプよね。帰ってきたくなくなるよ」

「わかる。タイ以外にもあちこち行きたいでしょ、さすらっちゃうヒトだ」

「そうかも。でも日本メシ食いたくて帰ってきちゃうかな。明太子食いてー!とかさ。あ、すんませんフクロタケこれでいいですか?」

「うん、OKOK。上手いねハルちゃん」

「上手いも何も、半分に切るだけですよコレ。甘やかされてんなー俺」

「はいはい、んじゃ次、ピーナッツ刻むの頼んでいい? こっちはエビの背わた処理するから」

「パッタイのトッピングでしたっけ。はーい、ハルいきまーす」


 あっという間に“ハルちゃん”呼称が定着する。

 もとから人懐こい晴彦だけでなく、食材を洗ったり下ごしらえしたり作業しながらの会話は親しみやすく、他の受講者もわりと早々に馴染んでいる。

 そんな中で“チリちゃん”こと鈴木千里はあまり打ち解けないタイプらしく、無言で手を動かしていた。まったく無愛想という訳ではないけれど、態度が硬い。


 ひょっとして、警戒されてるかもな。さっきうっかり凝視しちゃったからなあ。しくった。

 と、反省しつつも、晴彦は気づけばまた、彼女に視線が行く。


 きれいな手だ。確か、さっきは大ぶりのシルバーのリングを着けてたけど、調理のときは外してる。

 細いけど骨がしっかりしてそうな、長い指。あの指に、銀の質感がとても似合っていた。

 タイ風さつま揚げに合わせるつけだれの薬味に紫タマネギを刻む、サクサクと快いリズムのストローク。鮮やかな紫タマネギの色、白い指、淡いナチュラルピンクの爪。

 まな板に視線を落とす俯き気味の姿勢が、落ちかかる前髪越しに白い首と鎖骨の窪みを覗かせる。


 やっぱりこの人、きれいだな。モデルさんかな。いや、モデルにしてはもう少し身長が欲しいか。でもこの雰囲気、ハイセンスでハイ素材なキレイめのハイファッションもがっつり着こなせそうな品位があるんだよな。



「ハルちゃん? ナッツ終わった?」

 怪訝そうに声をかけられて、あ、と気づいた。


 ヤバい。またれていた。

 しかも、彼女にも気づかれてしまった。

 顔を上げ、訝しそうな、というには険しすぎる表情で晴彦を睨んでくる。

 この場合、晴彦の懐っこい言動が裏目に出まくり、完全に「チャラい」不真面目ナンパ野郎と判断され、有り体に言うならただの不審者だよ………orz

 情けないことに、まったく言い訳できない。


 この上は、これ以上彼女に不安や警戒心を与えないように大人しくしよう、と強く心に決める晴彦なのだった。



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