19.なんだったんだ
さすがに「うわあ……」みたいな顔をする晴彦に、千里は慌てて言い訳した。
「もちろん断ったから! ハルは無理、って断ったよ。他の友だちに聞いてみるし、もしくは私ひとりでやるよ。ハルは関わらなくて大丈夫だから」
「ああ、うん。それはまあともかく。二次会の幹事、って、チリちゃんは大丈夫なの?」
婚約者に会うだけであの動揺ぶりだったのに、この上二人の仲を見せつけられまくるイベントの仕切りを任されるとは、なかなかの地獄。
「幼なじみだから、断りづらいんだよね。親御さんとか弟くんともつきあいがあるし、千里以外に誰がやるんだよ。くらいのノリで持ってこられてて。でも大丈夫、できるよ。やるよ」
ホントかよ。
つい、疑わしい目で見てしまう。
「大丈夫だってば」
千里は重ねて言い張るが、晴彦相手には説得力皆無なことはわかっているらしい。
「自分でも不思議なんだけど。なんだか吹っ切れたみたいでホントに」
大して広くもない晴彦の部屋で、何故か千里は、促したクッションにも座らずに壁際を往復したり本棚の棚板をなぞったりそわそわと忙しない。
「その、幹事を頼まれた話って、つい昨日のことでね。洋輔の実家でみんな集まってるときに呼ばれたの。久美さんも来てて、洋輔のご両親もいっしょに夕食を囲んでて、千里ちゃんもおいで、って、おばちゃんから連絡あって。そのときも、なんなら彼氏さんも連れといで、って言われた。ていうか、ハル、気に入られすぎ。上手いことやりすぎたんだよ」
「……そんなこと言われても」
ソファ代わりのベッドに片胡座で腰掛けた姿勢で、理不尽極まりない苦情に閉口する。
「ん、ごめん。そんなことどうでもいいんだった。そうじゃなくて。その、呼ばれたとき、まだキッツいなー、って思ったんだけど。でも、いつまでも避けられる訳ないでしょ。仕方ないから、覚悟決めて、夕食いただきに行ったわけ」
「そうしたらね」
困った顔で晴彦を見る。
「全然ヘーキだったの」
「…………よかったじゃん?」
困り顔の理由がわからず、怪訝に返すと、
「うん。よかった。よかったんだよね」
千里も肯定して何度も頷いた。
「全然。ホントに全然平気で、普通に話せた。びっくりするくらい平静で、洋輔と久美さんのこと、心からよかったなあ、って思えて、もちろん、二次会の幹事だって、喜んで引き受けられる。それくらい、吹っ切れてた」
「…………それで、なんでそんな困った顔してんの?」
「だって。おかしいじゃない。あんなに好きだったのに。あんなに泣いて、めちゃくちゃ悲しくて苦しかったのに。あれはなんだったの、っていうくらいにあっさり消え失せてて、自分がバカバカしくなるよ」
千里は呆れ半分苛立ち半分に訴える。
なんだったんだ。
と言いたいのはむしろ俺のほうなんだけどな。と、晴彦は思ったけれど、賢明にも黙っていた。




