17.Interlude
幕間。ハルと珠美さんの会話。
「佐藤さん」
「佐藤さん?」
「……え、…は? ああ、前園さん」
「ボーッとしてるね。大丈夫?」
「ああ、いや。まあね、うん、大丈夫」
「大丈夫? って聞かれたら、つい大丈夫、って応えちゃうよね(笑)」
「佐藤さん、これ、よかったらどうぞ。唐辛子煎餅」
「お。あ、これ東京の、神田の! 有名なやつだ。俺好きだよこれ、くれるの? ありがとう」
「すっごいビジュアルだよね。こんな真っ赤なお煎餅、初めて見た。八重樫さんが贈答用にそこのお煎餅注文したんだけど、そのときに見つけて、これは絶対ハルが好きなやつでしょ、っておもしろがって注文したの」
「へーそうなんだ。ガッシーにもよろしくお礼言っといて」
「で、前園さん、最近はどうなの。ガッシーとうまくいってる?」
「おかげさまで」
「ちぇ。相変わらずガード固いよな。ちょっとくらい惚けたっていいんじゃないの?」
「職場でそういう話好きじゃないって知ってるでしょ」
「昼休みくらいいいじゃん」
「昼休みじゃなくたってしてるよね、佐藤さんは」
「さては、午前中に独り言マシンになり果ててた俺って、社内の噂になってる?」
「しりとりのお題メーカーになってたって聞いたけど?」
「ていうか、俺にも何がなんだか。ひたすら、あーあ、とか、ヒドいよなぁ、とか言ってるだけだから、訳わかんないよな」
「うん。でもそれ、訳がわかるように喋ったりはしないでしょ。チャラく思われてても、実は口堅いよね、佐藤さん」
「……なに、急に」
「そういうところ、かなり信頼してる。私が困ってたとき、話を聞いてくれてすごく助かったから」
「……ひょっとして、“話聞くよ”って言ってくれてんのかな?」
「うん。そうね。もし佐藤さんが話したいなら。聞くよ?」
「…………そっか。うん、ありがと」
「あのね、佐藤さん。実はね、」
「ん? 何改まって」
「実は、……私、水野さんとつきあってたの」
「…………はあ?!」
「しっ。声大きい」
「あ、ごめん」
「って、営業の?」
「ああ、あーあーあー、そっか、そうだ、なるほどあいつ結婚したよな。そういや、あれ送別会の日だった」
「えーーー、あいつそうなの? そーいうやつだったの。ひっでえな」
「あ、でもその後、弁護士がどうとか言ってたよね。いろいろあったんだなーーー」
「そうだったのか…………」
「ていうか前園さん、いきなりどしたの。何故に今ぶっちゃけタイム。しかも昼休みとはいえ会社で」
「……別に、もう前の話だし。今となってはどうでもいいんだけど、なかなか悲惨でしょ? あのときは結構キツかったのよ」
「そりゃ、まあそうだね。目の前に元凶がいるんだもんな」
「元凶って(笑)」
「あれ。もしかして、俺を励まそうとしてくれたの?」
「………………」
「うわ。前園さんかわいい。そのまま箱詰めしてガッシーに届けたい」
「…………何言ってるの」
「励まし、っていうか。悲惨なわりにアホらしい話だから、ちょっと笑えるかな、と思ったのよ」
「ははっ、確かに。びっくりして、なんか気が紛れた」
「ありがとね。ガッシーも、心配してくれてんのかな。お礼言っといて」
「自分で言えばいいでしょ」
「そこでツンツンされるのかー。やっぱいいよなー前園さん。ガッシーと別れたら俺とつきあわない?」
「……You’re so silly」
「さんきゅー!」
「褒めてないから」
前園珠美さんと水野さんの話は「Ginger」に出てきます。




