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Prik Kee Noo  作者: ムトウ
14/23

14.何すんの

 胸のあたりで熱く湿った気配がして、ときおり、千里は嗚咽を堪えて身じろぎする。

 脆く壊れやすい、彼女の心そのものを抱いている心地で、晴彦はしばらく、その背を撫でて宥めていたけれど。


「……っ?!」

 突然、重心が傾き、腕の中の千里が寄りかかってきた。

「ちょっ、チリちゃん? 大丈夫?」

「……ごめん、なんか、急に」

 酔いがまわってきて。


 気が抜けたのか、倒れ込んでくずおれそうになる。

「えっ、待っ、待って、マジか、大丈夫? 気持ち悪い?」

 慌てて支えた。

 千里はしきりに「大丈夫」「ごめん」「大丈夫」と繰り返すけれど、どう見ても大丈夫ではない。


「タクシー拾うよ。向こうの通りまで歩ける? 家は? どっち? あーこら、落ちるな。起きて! チリちゃん!」

「……横になりたい」

 ひと言呟いて、晴彦の腕の中で完全に脱力してしまった。

「…………嘘だろ」

 勘弁してくれよ。俺いっつもこういう役だよな。


 そんな状態の千里を放っておけるはずもなく、どうにか彼女を背中におぶってタクシーの拾える通りまで歩き、3台くらいにスルーされた挙げ句、どうにか空車を拾い、行き先を指示しようにも彼女は完全に寝落ち。

 仕方なく、自分の部屋の住所を告げた。



「無防備過ぎる…………」

 独り暮らしの1Kの部屋にどうにか辿り着き、ベッドに寝かせて、やれやれ、と嘆息した。

 脱力した人間の重いことといったら。彼女は小柄で軽い方なのだろうけれど、晴彦は疲労困憊で床に座り込んだ。


「……暑っち。ヘンな汗かいたな」

 冷蔵庫からミネラルウォーターを出して直飲みし、千里の様子を窺う。

 ジャケット脱がせたほうがいいかな。しわになるかも。ていうか、仰向けより横向きのほうがいいんだっけか。


「チリちゃん」

 軽く肩を揺さぶり、声をかける。

 起きてくんないかな。水飲ましたほうがいいだろうしな。


「チリちゃん」

「ここ俺んちだから」

「起きて、水飲んで」

 何度か繰り返し、

「チリちゃん」


「……起きてる」

 唐突に応答があった。


 ホッとして、様子を見ようとベッドに屈みこむ。

「俺んち来たの、覚えてる? 水飲みなよ」

 声をかけると、横になったまま、彼女の細い手が伸びてきた。

「ハル」

 シャツの襟元と脇腹あたりを強引に掴まれ、引き寄せられ、

「うわっ」

 ベッドの上、彼女にのしかかるような姿勢になった。


「っと、ごめん」

 慌ててどけようとするも、肩と首に彼女の腕がするりと巻きついてくる。

「チリちゃん?」

 唇に、柔らかいものが押しつけられて。

 一瞬遅れて、それが千里の唇だということに気づく。

「………っ、えっ?!」


 絡みついてくる細い手首を掴んで引き剥がし、ベッドに押しつける。

「何すんの、チリちゃん」

 泣きそうな気持ちになった。



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