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Prik Kee Noo  作者: ムトウ
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1.チリちゃん

 うわ。きれいだ。


 と、目が留まったのは、彼女の横顔だった。


 すっきりと潔いほどのショートカット。シャープな横顔の、額から頭骨の丸みへと続くカーブの美しさ。思わず見惚れてしまう。

 重め長めの前髪、トップとサイドはところどころつまんで動きを出していて、染めていない真っ黒な髪色がこのスタイルによく合う。大ぶりのピアスも絶妙なバランス。

 生成の麻のシャツは襟元を開き気味にざっくりと着こなし、細い首とうなじが覗いている。その露出は色気と言うよりも、潔さを感じさせて清々しい。

 メイクはあまり色を使わず、控えめなようだけれど、肌の質感を生かすシアーな光沢が清潔な印象。

 小さめにボリュームを抑えた髪型、細い首と大きめのピアス、ざっくりしたシャツ、と、トータルにバランスがとれていて、メリハリのきいた身なりが彼女のこだわりを思わせる。


 かっこいいなあ。

 きりっと凛々しくて、ちょっととんがってる。センスよくてさりげなく洒落てて、けど、可愛さもありつつ。

 うん。あーいうスタイル、俺、好きだな。


 そして何より、その目。視線。

 射し貫かれるんじゃないか、と思われるほど、まっすぐで、純粋で。

 彼女の存在そのものが視線になって対象に向かっているような、それほどに純度の高い視線。

 対象の事物をすべて自分のものにしたい、と、心から欲しているような。


 とはいっても、ここは料理教室で、視線を向けられている先は講師の指し示すモニター画面で、この場合はデモ映像でぐつぐつ煮える鍋の中身が対象なんだろうけれど。


 もし、あの視線が自分に向いたら、どんな感じだろう。

 ……ん? なんでそんなこと思いついたんだ俺?



 とうはるひこがそこまで考えたところで、彼女の視線がくるりと翻った。逸らす間もなく、ばちりと目が合ってしまう。

 ヤバ。

 と、内心の動揺を押し殺し、晴彦はにっこり笑ってみせた。こういう場合、うろたえると不審感が増す。

「すいません、しつけに見てしまって。オシャレな方だなあ、と思って、ついつい目が離せなかった」

 紛うことなき本音だったのだけれど、彼女はそうは受け取らなかったのだろう。警戒心もあらわにいぶかしむ表情を見せた。


 まーそりゃそうか。いきなりじろじろ見られたら警戒するよな。

 重ねて、すいません、と謝り、レシピと段取りを解説する講師のほうに向き直った。




 本日の教室の課題メニューはタイ料理。

 トムヤムクンとタイ風さつまあげ、ヤムウンセン、パッタイ。と、盛りだくさんのメニューをそれぞれ班に分かれてつくる。

 事前に指示されていた班分けに従って席を確かめていたら、講師が「よろしく」と口パクで伝えてきた。

 了解、と目で合図して作業台に移動すると、同じ班にさきほどの横顔美人がいた。

 襟元にクリップした名前入りパスによると、鈴木千里、というらしい。


 “ちさと”、か “せんり”かな。

 あの潔い雰囲気とか、キリッとした香気は“チリ”って呼びたくなる。小柄で華奢なのに、鮮烈な存在感。甘くない、手強そうな彼女。

 タイ料理に欠かせないトウガラシ、プリッキーヌ。あんな感じだな。小指の先ほどもない小ささで、爆発的な辛さと香りを放つ。


 チリちゃん。

 と、晴彦は脳内で勝手にあだ名をつけた。



 


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