回想
『01!12!早く所定の席につけ!』
全身白装束の男に注意された。
…観察者だ。
俺はある研究所に研究対象として所属していた。
研究対象は観察者に対し、口をきくことができない。つまり、研究対象には人権が無いということだ。
その日は定期的に行われる、試験の日だった。
6歳にして高校生がするような学習をしている俺たちは、人智を超えていると言っても過言ではないだろう。
『やめ。これから回収に移る。その場で座って待機していろ』
この試験で高得点をマークしなければ、この場から「不要」とみなられ、研究所から追い出される。一般人と違う生活を│行ってきた俺たちが外の世界で生き延びられる確率はほぼ0に等しい。
『回収が完了した。これより10分間の自由時間とする』
自由時間と言っても、外に出れない。この部屋の設備を壊しでもしたら「処分」される。といったように、自由がほとんどないのだ。
『ツヴェルフ』
話しかけてきたのは│白髪で、肌が白い女の子…アインスであった。
俺は自由時間はいつも彼女といた。まあ、友情や恋愛を知らない俺たちにはそういった感情も何も無く、ただ一緒の空間にいる人間としか考えていなかったのだが…。
『試験、どうだった?僕は普通だったよ』
『可もなく不可もなく』
『じゃあ、二人とも19のように処分されることは無い訳だ』
今まで処分された人間は12名。いずれも、試験の点数が悪いことによるものだったらしい。
『時間だ。席につけ』
その後も高度な授業、または試験が続いた…。
『終了だ。各自自室に戻り、本日の復習をしろ。解散』
ぞろぞろと室内にいた30人ほどが出ていく。
『21。一緒に戻ろう』
『わかった。行こうアインス』
戻る途中…
『ちょっとトイレに行ってくる。先戻っててくれ』
『分かった。すぐ戻れよー』
『ああ』
用を済ませ、廊下に出ると少し熱を感じた。
『暑いな…。なんだ?』
太陽熱とは違う暑さだった。
『?燃えてる?』
学習室と反対側にある調理室から光が見えた。
『…!』
――――あっちにはアインスの部屋がある。
死というものはその時には教わっていなかったが、本能的に走り出していた。
『アインス!』
部屋に入ると、木柱の下でうつ伏せに倒れているアインスがいた。根元が燃焼し、焼け崩れたのだろう。
(肩甲骨あたりにある木が圧迫しているのか…!)
持ち上げようとするが、しかしそれは動かない。肉体が強化されているとはいえ、9歳の力。巨大な木材を動かすことは容易ではない。
『ツヴェルフ』
後ろを振り向くと、そこには白装束がいた。
『アインスが…!』
『分かっている。少し離れていろ』
そう白装束が言うと、
『くっ…!』
肩甲骨あたりの木を持ち上げ始めた。
『ツヴェルフ…!アインスを引き出せ…!』
『ダメだ!足が木に潰されてる!』
『クソ!』
白装束は持ち上げた木を投げた。
『仕方が無い!すまないが、お前はアインスの救出するのには足手まといになる。少しの間眠ってもらう』
そう言い、白装束は人差し指と中指をツヴェルフの額に当てた。
―――目が覚めると、外だった。
『ああ。色音支局が全焼した。生存者?観察者は私1人。研究対象は2人だ』
白装束にアインスと一緒に抱き抱えられていた。
『研究継続…か…。アインスの方は足が圧迫により多分使えない。後遺症も残るだろう。ツヴェルフは軽い火傷だ。…アインスは明生支局にて継続。ツヴェルフは一般家庭にいれ継続する。一般家庭のアテはあるのかって?私の家に迎入れる。…ああ。こいつらは私の息子と娘だからな』
『なん…だと…』
枯れた声でそう言った。
『なんだ起きてたのか。…ああ。そういう事で手配しておけ。よろしく頼む。…は?ツヴェルフが継続じゃないのかって?…アインスの方が研究所的にもいいだろう。身体の一部に障害がある者が同じように発達するのか…という研究になるだろうからな…。ああ。頼んだぞ』
『僕と…アインスが…お前の…子ども…だと…?』
『そうだ。研究対象にして悪かった』
(なぜ…謝る?)
人間の感情を学ぶ場すらなかったため、白装束…父が謝っている理由が分からなかった。
『そうだ。お前らに名前をつけてやろう。………黒衛。黒衛にしよう。そして、私の名は白鳥灰燼だ。ゆえに、お前の苗字は白鳥になる』
『白鳥…黒衛…』
『アインスは私の旧姓の春芽を苗字とし、名前を花音としよう』
『そんな…事より…早くアインス…いや、花音を然るべきところに移動させろ…』
『然るべきところ…?…ああ、病院か…。そうだな…ここからだと本拠地跡の学校の方が近いな…』
そう言って走り出した。