第四夢
「白鳥君」
「なんだ?梅重」
「あなた、能力、何?」
「…今?昼休みにして。転入早々、目ェつけられんの嫌だから」
「…。分かった」
4時間目のチャイムが鳴り、昼休みが開始した。
「白鳥君」
「ああ。…どこか人に見られないところで話そうか」
「分かったわ。じゃあ、屋上がいいかしら」
屋上は5階のさらに上にあるようだ。
「うおっ。寒ぃ」
「じゃあ、手短にするわ。あなたの能力は?」
「何故気になる?」
「それによってはAクラスに上がることも夢じゃなくなるわ」
「Aに固執するようだが、何故だ?まだここのこと、よく分かってないんだ」
「先に私の質問に答えて」
『あまり自分の能力を多言しない方が良い』
脳裡に生徒会長の言葉がよぎった。俺が生徒会室を出る直前に言われた事だ。
『それを言うと、学園内での生活が困難になるかもしれない』
「…。俺は別に特殊能力とかは無いよ」
俺がそう言った瞬間、梅重の黒い眼がさらに濃くなった気がした。
「…。ウソ。あなたは何か特殊能力を持っているわね」
(なぜ分かった?これも特殊能力の類か…?)
「バレちゃしょうがないな。生徒会長に言わないよう言われてたんだが。まあ、あれだ。未来が見える…とかそんなのだ」
また梅重の眼が濃くなった。
「はいウソ。さっさと言ったら?屋上、寒いでしょ?」
「……。あれだよ、夢をホントにすることが出来んだよ。俺は」
梅重が微笑んだ。
「やっと本当のことを言ってくれたね」
「なぜ俺の嘘が分かった」
「私の能力が『嘘を見抜く』っていうのだからよ」
「それは、嘘ではないのか?」
「自分が嘘を吐くと、強烈な不快感に襲われるのよ。だから、私は嘘を吐けない」
「副作用付きの特殊能力か…」
「大体みんな副作用はあるはずだわ。勿論、あなたにもね」
副作用…。まだ能力を使っていないからか、感じないな…
「まあ、私の知りたいことは知れたし、もういいわ。昼休み、あと40分あるけど。どう?私と一緒に食堂行かない?」
「『私と一緒に』…ね。まあ、そこの使い方教えてくれよ」
「決まりね。じゃ、早速行くわよ」
「ッ!」
1号館から、食堂までの間にある広場、つまり中央広場を歩いている時、突然、後ろから蹴りが飛んできた。
(既知だったから、避けることが出来たが、かなり危険な、鋭い蹴りだな)
「ハハッ!流石だなぁ、ローエングリン」
「あ?誰だ貴様は」
「俺は浅山帝男。Eクラスの支配者だ」
浅山と名乗った男は、見るからに不良そうだが、見る人によってはいい人に見えなくもなさそうな人だった。
「Eクラス…。アッハハ!雑魚じゃねぇか!」
「浅山くん。何の用かしら」
「あ?おお、梅重じゃねぇか。俺はローエングリンを試してこいって言われたんだ」
「ローエングリン?さっきからお前、そう言ってるけど、誰のことだ」
「お前だよ。ああ。そうか、我々の呼称だったな。すまないな。白鳥黒衛」
「試せって言われてんのかどうか知らんが、俺らは急いでんでな。また今度にしてくれねぇか?雑魚くん」
浅山が腹に向かって殴ってきた。
「ガハッ!」
「おい。二度と雑魚っつうんじゃねえぞ」
浅山は低くそう言った。
(なんだ?既知の外側だったのか?…いや。何かがおかしい。こいつと出会うことは予見していた。さっきの蹴りをかわしたのが証拠だ。なら何で?)
「ハッ。腹パンが通じたのが何でかって顔してんな。教えたろうか?俺ァ『気配を消せる』んだよ」
「気配を…?」
「そ。さらに俺はお前と違って自由に能力を使える。梅重もだな」
(自由に?俺が今、使っているやつは確かに自由に使えている訳じゃないが…)
「自由に使えるようにさせるためにフラージェレは俺をけしかけたのさ」
「フラージェレ…?誰だ?」
「生徒会長、と言えばわかるか?」
生徒会長が何か関わってんのか?だとしたら、なぜ自分で来ない…?
「あと、フラージェレがてめぇで来ない理由は、奴が『思考型』だからだ」
「何の話だ」
「『思考型』。私や生徒会長はそれなのよ」
「だから何の話だ!」
「能力が覚醒した場合の力の流出の形の事よ。あなたや浅山くんは『行動型』」
「何が違う」
「『思考型』は、覚醒した場合、IQが大幅に上昇し、頭がとても良くなるの。それに対し、『行動型』は、運動神経や力が強くなるの。現に、浅山くんはドーピング並の力でさっきあなたを殴ったり蹴ったりしてる」
「なのに俺は大怪我を負ってないのか?何で…?」
「そりゃあ、お前が既知で無意識にダメージを最小にしてるからだな。だから、自由に使えるようになりゃあかなり強くなれる」
「そりゃあいいな。だがな、俺は強くなりたいわけじゃないし、アンタらがなんでそうしたいのかも知りたくないんだ。ゆえに、俺はアンタらに関わりたくない。行くぞ、梅重。時間がもうない」
俺らが立ち去ろうとすると、
「後悔しねぇな?」
「ああ。しないだろうな」
「この先、俺らはこの学園で大量虐殺を行う可能性もあるんだぞ?」
ガンッ
気が付くと俺は浅山の胸倉を掴んでいた。
「ここには俺の妹がいる。そんなことをしたら…」
「許さねぇってか?…ハハハハハ!覚醒もしていないお前が?俺らを?カハハハハ!ふざけろよ」
そう言うと、俺の腕を握ってきた。
「ッ!」
かなり力が強い。本気を出せば折れてしまうだろう。
「この手も解けねぇだろ?」
「やめろ。エンペラー。お前がフラージェレから任されたのは彼の覚醒の手助けのみ。ここまでする必要は無い」
そう言って浅山のうでを握ったのは姫川副会長だった。
「ハッ!わぁーったよ。クイーン」
「白鳥君。あなたもこの腕を解きなさい。覚醒してないあなたでは私たちにまだ勝てないわ」
…。舐めやがって…?
「白鳥君!」
目の前が点滅する。血が頭に登り、頭が熱い。だが、思考は冴えている。
「ほう。お前自身で覚醒するとはな。驚いた」